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番外編1
ミサモエス・ラーダ23
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「お父様、私に手紙が届いたりしていませんか」
「いや、届いていないが?」
「そうですか…」
「姉たちにでも手紙を書いたのか?」
「いえ、来ていないかなと思ったのです」
「そうか、残念だが来ていないよ」
母は夫からその話を聞き、手紙を頼んだ使用人にも出してくれたのよねと詰め寄ったそうで、返事が来ないことで、このまま諦めればいいが、注意深く見守らなくてはいけないと思った。
既に何人かの友人への手紙があり、少し王都を離れていた、また前の様に話がしたいから、お茶会に誘って欲しいと書いてある。
自身に似て不憫な思いをしてはと甘やかし、夫も同じように接していたために、気付いた時には我儘な子になってしまっていた。それでも自分に自信がないよりはいいかと考えていたが、妃殿下に暴言まで吐いていたとは思わなかった。
文字で見せられただけではあったが、こんなことを言う娘に育てたのかと思うと、立っていられず、食事も摂っても戻してしまい、眠ることも出来ず、このまま消えてしまいたいと思ってしまっていた。
だがマリスアルとソースルとユアラノンが離縁すると聞いて、申し訳ないと言う気持ちで奮い立つことが出来た。夫はミサモエスが可哀想だとまだ思えているようだったが、私には全く思えなかった。
妃殿下の慈悲で更生施設に入ることにはなったが、子どもたちと一緒で更生出来るとは思えなかった。夫だけは辛い思いをしているのではないかと気を揉んでいたが、それだけのことをしたのだと取り合わなかった。
再び一緒に暮らすようになり、夫は前と同じように接していたが、私は態度を改めた。ミサモエスも感じ取ったのか、甘えるのは夫にだけである。
手紙の方はいくら経っても返事が来ないことを父に話すも、父にはどうすることも出来ず、忙しいんだろうと言うしかなく、諦めたようであった。
ある日、食事中に思い出したかのようにミサモエスは話し始めた。
「お父様、エールトに会うことは出来ないかしら」
「それは難しい、あのような形で離縁になったんだ。迷惑を掛けるわけにはいかないんだ。エールトのためにも我慢しなさい」
「でも、あれから一度も会っていないのよ」
「それは分かっている、私だって会いたいが、そのようなことは出来ない」
「母親なのに…」
母はミサモエスがようやく息子のことを口にしたと思ったが、あまりに説得力がなかった。母性はないのだと思っていたが、息子ですら何か自身のきっかけのひとつくらいしか思っていないのだ。
そして一年が経つ頃、ミサモエスはとんでもないことを言い出した。
「お父様、縁談の話はないのでしょうか」
「ん?」
「そろそろ、一年が経つでしょう?あってもいいかと思うのですが」
ミサモエスは既に三十を過ぎており、父も縁談など考えてもいなかった。
「結婚したいのか?」
「ええ、求められれば受けた方がいいかと思うのです」
「ああ、そうは言ってもな…貴族と関わりがあるような者は難しいから、裕福な嫁ぎ先はないぞ」
「え?高位貴族は難しいってこと?」
「いや、それ以前の問題だ」
父にとっては可愛い娘だが、若い娘がいるのに、離縁された若くない娘を娶ってくれる可能性が低いことは分かっている。貴族なら後妻でもということはあり得るが、平民ではまずなかなかないことだろう。
「でも…反省して、あんなところにも入ったのよ。結婚したいと思うことも許されないっていうの!」
「探してはみるが、難しいと思って欲しい」
「そんな…」
母は夫からその話を聞いて、子どもたちに手紙を書くと、事情を知っている人を集めて、茶会で現実を見て貰うからクオス伯爵家に寄こして欲しいと返事を貰うことになった。何も知らない夫、そしてミサモエスはお茶会なんて久し振りだとはしゃいでおり、ミサモエスは五年振りにクオス伯爵家に行くことになった。
「ドレスを用意しなくちゃ」
「ドレスは向こうで用意するそうだ」
「ええ!似合わないドレスだったらどうするの!」
「ドレスを買えば予算を削られてしまうんだ、分かってくれ」
ミサモエスはドレスを強請ることは分かっていたので、ドレスを強請っても絶対に買わないように、買うようなことがあれば予算を削ると先に手を打たれていた。
「いや、届いていないが?」
「そうですか…」
「姉たちにでも手紙を書いたのか?」
「いえ、来ていないかなと思ったのです」
「そうか、残念だが来ていないよ」
母は夫からその話を聞き、手紙を頼んだ使用人にも出してくれたのよねと詰め寄ったそうで、返事が来ないことで、このまま諦めればいいが、注意深く見守らなくてはいけないと思った。
既に何人かの友人への手紙があり、少し王都を離れていた、また前の様に話がしたいから、お茶会に誘って欲しいと書いてある。
自身に似て不憫な思いをしてはと甘やかし、夫も同じように接していたために、気付いた時には我儘な子になってしまっていた。それでも自分に自信がないよりはいいかと考えていたが、妃殿下に暴言まで吐いていたとは思わなかった。
文字で見せられただけではあったが、こんなことを言う娘に育てたのかと思うと、立っていられず、食事も摂っても戻してしまい、眠ることも出来ず、このまま消えてしまいたいと思ってしまっていた。
だがマリスアルとソースルとユアラノンが離縁すると聞いて、申し訳ないと言う気持ちで奮い立つことが出来た。夫はミサモエスが可哀想だとまだ思えているようだったが、私には全く思えなかった。
妃殿下の慈悲で更生施設に入ることにはなったが、子どもたちと一緒で更生出来るとは思えなかった。夫だけは辛い思いをしているのではないかと気を揉んでいたが、それだけのことをしたのだと取り合わなかった。
再び一緒に暮らすようになり、夫は前と同じように接していたが、私は態度を改めた。ミサモエスも感じ取ったのか、甘えるのは夫にだけである。
手紙の方はいくら経っても返事が来ないことを父に話すも、父にはどうすることも出来ず、忙しいんだろうと言うしかなく、諦めたようであった。
ある日、食事中に思い出したかのようにミサモエスは話し始めた。
「お父様、エールトに会うことは出来ないかしら」
「それは難しい、あのような形で離縁になったんだ。迷惑を掛けるわけにはいかないんだ。エールトのためにも我慢しなさい」
「でも、あれから一度も会っていないのよ」
「それは分かっている、私だって会いたいが、そのようなことは出来ない」
「母親なのに…」
母はミサモエスがようやく息子のことを口にしたと思ったが、あまりに説得力がなかった。母性はないのだと思っていたが、息子ですら何か自身のきっかけのひとつくらいしか思っていないのだ。
そして一年が経つ頃、ミサモエスはとんでもないことを言い出した。
「お父様、縁談の話はないのでしょうか」
「ん?」
「そろそろ、一年が経つでしょう?あってもいいかと思うのですが」
ミサモエスは既に三十を過ぎており、父も縁談など考えてもいなかった。
「結婚したいのか?」
「ええ、求められれば受けた方がいいかと思うのです」
「ああ、そうは言ってもな…貴族と関わりがあるような者は難しいから、裕福な嫁ぎ先はないぞ」
「え?高位貴族は難しいってこと?」
「いや、それ以前の問題だ」
父にとっては可愛い娘だが、若い娘がいるのに、離縁された若くない娘を娶ってくれる可能性が低いことは分かっている。貴族なら後妻でもということはあり得るが、平民ではまずなかなかないことだろう。
「でも…反省して、あんなところにも入ったのよ。結婚したいと思うことも許されないっていうの!」
「探してはみるが、難しいと思って欲しい」
「そんな…」
母は夫からその話を聞いて、子どもたちに手紙を書くと、事情を知っている人を集めて、茶会で現実を見て貰うからクオス伯爵家に寄こして欲しいと返事を貰うことになった。何も知らない夫、そしてミサモエスはお茶会なんて久し振りだとはしゃいでおり、ミサモエスは五年振りにクオス伯爵家に行くことになった。
「ドレスを用意しなくちゃ」
「ドレスは向こうで用意するそうだ」
「ええ!似合わないドレスだったらどうするの!」
「ドレスを買えば予算を削られてしまうんだ、分かってくれ」
ミサモエスはドレスを強請ることは分かっていたので、ドレスを強請っても絶対に買わないように、買うようなことがあれば予算を削ると先に手を打たれていた。
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