上 下
128 / 203
番外編1

ミサモエス・ラーダ21

しおりを挟む
 ミサモエスはまだ自身が子どもの立場が強く、息子よりも夫に愛して貰いたい気持ちも大きく、エールトは可愛いが、自身の方がもっと可愛かっただけで、境遇を考えるばかりですっかりエールトへの意識は失われていた。

「申し訳ございません」
「いえ、今となってはこれで良かったと思います」
「万が一にも母親のことが足枷になることがないようにと思っておりますが、何かあればご連絡をください」
「エールトには機会を見て、きちんと話をします」

 ソースルは申し訳ございませんでした、よろしくお願いいたしますと、ただただ頭を下げることしか出来なかった。

 リビアナ・ゾーイが言ったように、ミサモエスのことは聞かれたが、王家からお咎めもなければ、嫌がらせのようなことも一切なかった。

 ソースルも全てを片付けてから、家族を呼び戻し、第二子も無事生まれ、一度は諦めた家族に喜びは涙が出るほどであった。

 マリスアルもユアラノンも嫁ぎ先に戻り、家族とこれまで通り、暮らしているが、罪を忘れたことは一日もなかった。驕ることなく、気を引き締めて生きていた。

 そして、ミサモエスが更生施設に入って、三年が経っていた。

 始めは周りとも関わりたくないと思っていたが、洗濯を教えて貰ったりする内に、互いの境遇を話すようになり、ミサモエスは相手は伏せて、不敬でこちらに入れられたと話していた。

 よく話すのは不貞を犯したリナ、婚約者がいるのに他の相手を好きになったリリ、素行が悪くて入れられたプラン、ミサモエスが一番年上だった。訳ありだから、それぞれ身分は明かさないでおこうと、渾名で呼び合っている。

「卒業出来たら、皆はどうなるか決まっているの?」

 言い出したのは不貞を犯したリナだった、政略結婚で夫に相手にされないことから、不貞を犯していた。

「私は縁談があれば嫁がされるか、修道院かしら」

 婚約者がいるのに他の相手を好きになったリリである、婚約自体は白紙になったのだが、両親にここへ入れられたそうだ。

「私は縁も切られているから、出られたらひとりで生きて行かなきゃいけない」

 素行の悪いプランは男性の友人が多く、誤解を招き、令嬢の立ち振る舞いも苦手だったそうだ。既に縁は切られているが、学び直してからひとりで生きて行けということで、ここに入って来たのだ。

「ミサさんは?」
「私はまずは更生施設に入れと言われて、その後は聞いていないわ。リナさんは?」
「私は子どもを産む道具にさせられるか、どこかの後妻にでもされるんじゃないかしら?絶対、碌な相手ではないわ」
「子ども…」

 ミサモエスはひとりになってようやく、エールトのことを思い出して、会いたいと思った。ジースト伯爵はもう愛してくれないことは理解したが、エールトは唯一の家族だと思い、酷く悲しい気持ちになった。

「ああ、ミサさんはお子さんがいらっしゃったのよね。会いたいわよね?」
「でも憶えていないでしょうね…」
「でも、私みたいに不貞を犯したわけではないんだから、裏切りよりかマシなんじゃないかしら」
「お得意の自虐ね」

 リナはミサモエスとは違って、説得力のある美しさと豊満な身体を持っている。だからこそ誘われることも多く、不貞を犯してしまったのだ。

「だってもう散々、阿婆擦れだの、股の緩い女だの、ありとあらゆる罵詈雑言を聞いたもの。いくら相手に不満があっても、不貞はした方が悪い。人殺しと一緒よ、恨んでも殺したらお終い」
「経験者が言うと説得力があります」
「リリは不貞ではないものね?」
「心の不貞だそうですけどね。どの道、上手くいかなかったと思うので、私はこれで良かったと思っています」
「ここへ来たって、未来は明るいわけではないものね」
「私は今後生活していくのに役立ちそうだから、まあ良かったかな」
「プランは性に合ってそうよね。どれがいいかなんて、生きてみないと分からないわよね…」

 ミサモエスは三人の話を聞かず、初めてここを出てからのことを考えるようになっていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

【完結】もう誰にも恋なんてしないと誓った

Mimi
恋愛
 声を出すこともなく、ふたりを見つめていた。  わたしにとって、恋人と親友だったふたりだ。    今日まで身近だったふたりは。  今日から一番遠いふたりになった。    *****  伯爵家の後継者シンシアは、友人アイリスから交際相手としてお薦めだと、幼馴染みの侯爵令息キャメロンを紹介された。  徐々に親しくなっていくシンシアとキャメロンに婚約の話がまとまり掛ける。  シンシアの誕生日の婚約披露パーティーが近付いた夏休み前のある日、シンシアは急ぐキャメロンを見掛けて彼の後を追い、そして見てしまった。  お互いにただの幼馴染みだと口にしていた恋人と親友の口づけを……  * 無自覚の上から目線  * 幼馴染みという特別感  * 失くしてからの後悔   幼馴染みカップルの当て馬にされてしまった伯爵令嬢、してしまった親友視点のお話です。 中盤は略奪した親友側の視点が続きますが、当て馬令嬢がヒロインです。 本編完結後に、力量不足故の幕間を書き加えており、最終話と重複しています。 ご了承下さいませ。 他サイトにも公開中です

私の愛した婚約者は死にました〜過去は捨てましたので自由に生きます〜

みおな
恋愛
 大好きだった人。 一目惚れだった。だから、あの人が婚約者になって、本当に嬉しかった。  なのに、私の友人と愛を交わしていたなんて。  もう誰も信じられない。

【完結】今世も裏切られるのはごめんなので、最愛のあなたはもう要らない

曽根原ツタ
恋愛
隣国との戦時中に国王が病死し、王位継承権を持つ男子がひとりもいなかったため、若い王女エトワールは女王となった。だが── 「俺は彼女を愛している。彼女は俺の子を身篭った」 戦場から帰還した愛する夫の隣には、別の女性が立っていた。さらに彼は、王座を奪うために女王暗殺を企てる。 そして。夫に剣で胸を貫かれて死んだエトワールが次に目が覚めたとき、彼と出会った日に戻っていて……? ──二度目の人生、私を裏切ったあなたを絶対に愛しません。 ★小説家になろうさまでも公開中

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

愛しの婚約者は王女様に付きっきりですので、私は私で好きにさせてもらいます。

梅雨の人
恋愛
私にはイザックという愛しの婚約者様がいる。 ある日イザックは、隣国の王女が私たちの学園へ通う間のお世話係を任されることになった。 え?イザックの婚約者って私でした。よね…? 二人の仲睦まじい様子を見聞きするたびに、私の心は折れてしまいました。 ええ、バッキバキに。 もういいですよね。あとは好きにさせていただきます。

【完結】側妃は愛されるのをやめました

なか
恋愛
「君ではなく、彼女を正妃とする」  私は、貴方のためにこの国へと貢献してきた自負がある。  なのに……彼は。 「だが僕は、ラテシアを見捨てはしない。これから君には側妃になってもらうよ」  私のため。  そんな建前で……側妃へと下げる宣言をするのだ。    このような侮辱、恥を受けてなお……正妃を求めて抗議するか?  否。  そのような恥を晒す気は無い。 「承知いたしました。セリム陛下……私は側妃を受け入れます」  側妃を受けいれた私は、呼吸を挟まずに言葉を続ける。  今しがた決めた、たった一つの決意を込めて。 「ですが陛下。私はもう貴方を支える気はありません」  これから私は、『捨てられた妃』という汚名でなく、彼を『捨てた妃』となるために。  華々しく、私の人生を謳歌しよう。  全ては、廃妃となるために。    ◇◇◇  設定はゆるめです。  読んでくださると嬉しいです!

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

処理中です...