【完結】愛とは呼ばせない

番外編１

ミサモエス・ラーダ１４

「妃殿下にか？何と言われたというのだ？」
「殿下とのことを陛下に伝えてみればいいって、簡単に会える方ではないのに」
「どこが酷いのだ？ああ、だから陛下に会いたいなどと言ったのか…妃殿下はこんな者によく言葉を返してくれたものだ。無視すればいいのに。父上は引退することになった。これ以上、愚かな真似はするな。ジースト伯爵、離縁状はすぐ用意します」
「承知しました」
「え、離縁って何よ。私はしないわ」
「事前に決めた離縁の理由に不敬がある。これ以上の理由があるか？」
「そっ、それは…」

　結婚前に不適格の理由の中にあったかもしれない。でも王太子殿下へだと思っていた。あれから誘いたい気持ちはあったけど、近付いてもいない。

「ジースト伯爵、離縁状は後で届けます。この者の話を聞くだけ無駄です。もう帰って貰って構いません。そして、殿下とのことは聞かなかったことにしてください。ジースト伯爵家に迷惑が掛からないように処理します、申し訳ございませんでした」
「ええ、では、そうさせてもらいましょう。ミサモエス嬢、エールトを不幸にしたくないなら、静かに過ごしなさい」
「あなた、待って」

　振り返ることなく、ディールズは部屋から出て行った。ソースルは今日こうなることを、覚悟していたのだと思った。

「エールトに会えないの？どうして」
「どうしてって、お前がやったことだろう？」
「妃殿下に文句を言っただけじゃない」
「だけだと！ふざけるな、お前のせいでクオス伯爵家は終わるかもしれない」
「どうして…」

　たかが文句を言っただけで、終わるなんてことがあるはずない。そんなの権力の横暴じゃない。そんな王家なんて嫌われてしまえばいい。

「お前は妃殿下のことをライバル令嬢くらいにしか思っていなかったんだろう？六歳から王太子殿下の婚約者で、そもそも侯爵家の令嬢だ。どう転んでもお前より立場が上だ。それを横入りしようとしたのお前だ！五歳も年上の女が恥ずかしげもなく、よくここに書かれているようなことが言えたものだな？気持ち悪いと思わないのか？逆の立場でものを考えられないのか」
「逆？」
「ありもしないが、お前に婚約者がいて、唆して関係を持った令嬢が、私の方が若くて可愛くて相応しいと言いに来たら、どうだ？嬉しいか？」
「嬉しくはないわ…でも」

　私にそんなことを言う人はいない、関係のないことだから、想像出来ない。

「でもじゃない！お前がやったことはそういうことだ」
「離縁は、王家の催しに出なけばいいだけでしょう？社交界も我慢出来るわ」
「じゃあ、お前はジースト伯爵に奥様は？と聞かれたら、何と答えさせるつもりだ？妃殿下への不敬で招待から外されましたと言わせるつもりか？」
「病気だと言えばいいじゃない」
「じゃあ、ずっとベットで寝ているのだな？」
「邸の中までは分からないわ」
「そのせいでジースト伯爵は嘘を付き続けなければならない」
「そのくらい」

　そのくらいどうってことないだろう、たまたま出られないと言えば済む話だ。お兄様はちょっと大袈裟なのよ。

「そのくらいだと？ジースト伯爵は友人も呼べない、エールトだって友人を呼ぶことも出来ないぞ？」
「その時はベットにいればいいじゃない、そのくらい出来るわ」
「はあ…公にされるかは分からないが、招待客から外されていることを知っている者もいる。そうなれば、エールトの友人も出来ないかもしれない。お前のせいでいじめられるかもしれない、分からないのか？」
「そんな…でもそうなったら、王家に訴えるわ」
「はあ？訴えて、お前の暴言を公にされたら、お前は非難され、狂っている女として徹底的に晒され、病気も嘘だったと分かって、招待されなくて当然だと思われて、終わりだろう。誰も助けない」
「酷い、私が可愛いからって…」

　ソースルは性根は直らなかったのだと実感せずにはいられなかった。子どもを産んだくらいでは変わらない。

「まだ信じていたのか…やはり修道院に入れるべきだったな、ジースト伯爵に迷惑を掛け、妃殿下にさらに不快な思いをさせるだけだった。お前のせいで我々は責任を取らなくてはならない」