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番外編1
カリー・カイサック10
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取引のあった王妃の実家に頼んでミンアを、クリコットに頼んでカリーを囲った商家を追い込んだ。カリーに関しては一夜とはいえ自身にも過ちがあったため、男爵家に責任は問うことはしなかった。ロイル子爵家も同様であった。
サリーならば、こんな手は使わないだろう、やり方であった。
「カリー・カイサック、いえ、カリーはフアラ王国に行ったようです」
「迷惑を掛けなければいいけどな」
「追い出したかったのではないのですか」
「居場所をなくしてやりたかっただけだよ」
一夜の関係に丁度いい相手。それがカリー・カイサックであった。ルアンナとは最後までは行っていなかった欲があったこともあり、つい誘いに乗ってしまった。ただその一回で何の関係もないサリーを不快な目に遭わせたのだ。
クリコットはいまだに年齢詐称を疑っている。
そして、カリーは娼婦を続けたが、三十を過ぎ、見受けしてくれる者はおらず、客が付かなくなって引退した。無駄遣いはしていなかったので、小さな部屋を借りることが出来た。
娼婦になってから掃除や洗濯もしていたので、生きていくことは出来る。
カリーはキイスとの話し合いの際は反省していたが、カックスに囲われていた時も、隣国に来てからも、何か咎められたわけではない。唯一、コーエンが忠告したくらいだが、何かあったわけでもなかった。
ゆえに、どこで間違えたのか、こんなことなら大人しく愛人になって、子どもでも産んでいれば良かったと思っているくらいであった。
そんな折、差出人のない文が届いた。住まいを知らせたのは後輩の娼婦や、あの娼館を紹介しくれた女性くらいであった。
『尊き方を侮辱した罪を忘れるな、いつまでも見ている』
そして暴言が書かれた紙があった。全て憶えているわけではなかったが、妃殿下に言ったような言葉が並べられていた。
「っひいい!何よこれ…どういうこと…誰かに聞かれていた?あっ、王族には護衛が付くって…全部、聞かれていたということ…あああ。王族、やっぱり妃殿下だったっていうの…ペルガメント侯爵家も動かして、ずっと恨んでいて、私が結婚するのを待って、罰を下したのね…きっとそうだったんだ…」
偶然だったのだが、カリーはそう思い込み、これは所在確認だけしていたリール殿下の最後の警告だった。
自分の暴言を読んで反省し、静かに暮らしていたある日、カックスがやって来た。年を取ったのもあるが、目が淀んでおり、頬も窪んでいる。
「本当にいたとはな」
「どうして…」
「見掛けたって奴がいてな」
「本当にごめんなさい。私のせいで迷惑を掛けたって、合わせる顔がなかったの」
「そうだよ!お前のせいで、親にも言いに行ったが、娘はいないと言われたよ。縁を切られていたんだな。俺はさ、正直、自分がやばい相手に手を出したんじゃないかと思っていたんだよ。それがお前だったとはな。賠償してくれよ、なあ!」
「でも持ち直したって…」
「持ち直したって、信用商売だ、潰れていないだけだ。俺はあれから表に出るなとずっと下働きだよ」
カリーに優しくしてくれた印象しかなかったが、こんな風にしてしまったのか。でもお金もこれから一生生きていくほどのお金はない。渡したい気持ちはあるが、私は生きていけない。どうしたらいいの。
「お金は、」
「娼婦だったんだろ、あるだろ金」
「売れっ子じゃなかったもの、そんなにお金なんてないわ」
「まあそうだろうな、あるだけ出せよ!」
とりあえず、いくらか渡そうと財布を出そうとしていると、急かすカックスに服を掴まれ、足を滑らせたカリーは机で頭を強打し、倒れて意識を失い、辺りは血だまりとなった。慌てたカックスは財布を奪って、そのまま飛び出して行ってしまった。
訪ねて来る人もいないカリーを助けてくれる人はいなかった。
異臭で気付いた時には亡くなって、数日経った状態で、娼館に連絡が入って、埋葬された。部屋が荒れ、物取りであったこと、カリーは一度目を覚ましたようで、乱れた字でカックス・チセという名と、ごめんなさいと書かれた紙が置いてあった。
近所の人も男が訪ねて来ていたのを見ており、おそらくトワイ語を話していたと言い、カックスは母国に戻ったが、すぐに捕まった。いくら平民同士でも他国で人を殺し、金を奪って逃げた罪は重いとされて、終身刑となった。
リール殿下はここまで考えてはいなかった、だがカックスも遊んでいたと言ったが、強姦まがいのことも行っていた。商家も落ち目になった際に、怖くて言い出せなかった女性が訴え出ていた。おかげでさらに厳しい状況となった。だが、カックスは反省することもなく、すべてカリーのせいだと押し付けただけである。
商家はついに廃業した。
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お読みいただきありがとうございます。
これにてカリー編、終了です。
後味悪く、また長くなって申し訳ありません。
明日からは少々狂ったミサモエス・ラーダを書いていきます。
よろしくお願いいたします。
サリーならば、こんな手は使わないだろう、やり方であった。
「カリー・カイサック、いえ、カリーはフアラ王国に行ったようです」
「迷惑を掛けなければいいけどな」
「追い出したかったのではないのですか」
「居場所をなくしてやりたかっただけだよ」
一夜の関係に丁度いい相手。それがカリー・カイサックであった。ルアンナとは最後までは行っていなかった欲があったこともあり、つい誘いに乗ってしまった。ただその一回で何の関係もないサリーを不快な目に遭わせたのだ。
クリコットはいまだに年齢詐称を疑っている。
そして、カリーは娼婦を続けたが、三十を過ぎ、見受けしてくれる者はおらず、客が付かなくなって引退した。無駄遣いはしていなかったので、小さな部屋を借りることが出来た。
娼婦になってから掃除や洗濯もしていたので、生きていくことは出来る。
カリーはキイスとの話し合いの際は反省していたが、カックスに囲われていた時も、隣国に来てからも、何か咎められたわけではない。唯一、コーエンが忠告したくらいだが、何かあったわけでもなかった。
ゆえに、どこで間違えたのか、こんなことなら大人しく愛人になって、子どもでも産んでいれば良かったと思っているくらいであった。
そんな折、差出人のない文が届いた。住まいを知らせたのは後輩の娼婦や、あの娼館を紹介しくれた女性くらいであった。
『尊き方を侮辱した罪を忘れるな、いつまでも見ている』
そして暴言が書かれた紙があった。全て憶えているわけではなかったが、妃殿下に言ったような言葉が並べられていた。
「っひいい!何よこれ…どういうこと…誰かに聞かれていた?あっ、王族には護衛が付くって…全部、聞かれていたということ…あああ。王族、やっぱり妃殿下だったっていうの…ペルガメント侯爵家も動かして、ずっと恨んでいて、私が結婚するのを待って、罰を下したのね…きっとそうだったんだ…」
偶然だったのだが、カリーはそう思い込み、これは所在確認だけしていたリール殿下の最後の警告だった。
自分の暴言を読んで反省し、静かに暮らしていたある日、カックスがやって来た。年を取ったのもあるが、目が淀んでおり、頬も窪んでいる。
「本当にいたとはな」
「どうして…」
「見掛けたって奴がいてな」
「本当にごめんなさい。私のせいで迷惑を掛けたって、合わせる顔がなかったの」
「そうだよ!お前のせいで、親にも言いに行ったが、娘はいないと言われたよ。縁を切られていたんだな。俺はさ、正直、自分がやばい相手に手を出したんじゃないかと思っていたんだよ。それがお前だったとはな。賠償してくれよ、なあ!」
「でも持ち直したって…」
「持ち直したって、信用商売だ、潰れていないだけだ。俺はあれから表に出るなとずっと下働きだよ」
カリーに優しくしてくれた印象しかなかったが、こんな風にしてしまったのか。でもお金もこれから一生生きていくほどのお金はない。渡したい気持ちはあるが、私は生きていけない。どうしたらいいの。
「お金は、」
「娼婦だったんだろ、あるだろ金」
「売れっ子じゃなかったもの、そんなにお金なんてないわ」
「まあそうだろうな、あるだけ出せよ!」
とりあえず、いくらか渡そうと財布を出そうとしていると、急かすカックスに服を掴まれ、足を滑らせたカリーは机で頭を強打し、倒れて意識を失い、辺りは血だまりとなった。慌てたカックスは財布を奪って、そのまま飛び出して行ってしまった。
訪ねて来る人もいないカリーを助けてくれる人はいなかった。
異臭で気付いた時には亡くなって、数日経った状態で、娼館に連絡が入って、埋葬された。部屋が荒れ、物取りであったこと、カリーは一度目を覚ましたようで、乱れた字でカックス・チセという名と、ごめんなさいと書かれた紙が置いてあった。
近所の人も男が訪ねて来ていたのを見ており、おそらくトワイ語を話していたと言い、カックスは母国に戻ったが、すぐに捕まった。いくら平民同士でも他国で人を殺し、金を奪って逃げた罪は重いとされて、終身刑となった。
リール殿下はここまで考えてはいなかった、だがカックスも遊んでいたと言ったが、強姦まがいのことも行っていた。商家も落ち目になった際に、怖くて言い出せなかった女性が訴え出ていた。おかげでさらに厳しい状況となった。だが、カックスは反省することもなく、すべてカリーのせいだと押し付けただけである。
商家はついに廃業した。
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お読みいただきありがとうございます。
これにてカリー編、終了です。
後味悪く、また長くなって申し訳ありません。
明日からは少々狂ったミサモエス・ラーダを書いていきます。
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