【完結】愛とは呼ばせない

野村にれ

文字の大きさ
上 下
95 / 203
番外編1

ルアンナ・アズラー11

しおりを挟む
「ティファナ先生にもいつか顔を見せて欲しいとお伝えください」
「ですが、私もですが、妻に怒りはないのですか」
「初めて言われた時は、ティファナ先生もさすがに同意見かと思っておりましたよ。でも授業を受ければ分かります。真剣に取り組んでおられましたから、娘と取り替えようと思っている態度ではなかったですから」
「妻も一度も考えたことはなかったと思います」
「一度も?」

 一度くらいは考えただろうと思われていたのか、不思議そうな顔をしている。ティファナは誇りを持って教育に当たっていた、私欲などあり得ない。

「はい、妻も妻の両親には期待されていましたが、妃殿下は妻の欠点に気付いてらっしゃるのではないでしょうか」
「…ええ、会話、ですね」

 酷く言いにくい様子で、誰もわざわざ欠点を指摘したくはないだろう。いや、ルアンナだったら、武器のように指摘するかもしれない。

「はい、何度も両親にも話したそうですが、書いたりや基本的なことは話せたので、理解できなかったそうです。妻もおそらく妃殿下は私の欠点に気付いているけど、指摘することはしないと、本来なら教える立場で情けないことだけど、自分の出来ることを妃殿下にお伝えしたいと。何も分かっていないのは娘だけでした」
「ティファナ先生は良き先生でしたよ、それだけは確かです」
「勿体ない言葉です…申し訳ございませんでした…これからのことで償いとさせてください。よろしくお願いいたします」
「はい」

 ルトアスはノーリスと無事結婚し、アズラー公爵夫妻は領地を行き来しながら、手応えのないままルアンナと対話を続けた。

 そして、数十年後、妃殿下が体調を悪くしているということが耳に入るも、ティファナは会いに行くことはせず、教会に祈りに行くようになった。私も一緒に行ける時は一緒に行き、息子夫妻と孫と、力いっぱい祈り続けた。

 しかし、無情にも弔いの鐘が鳴り響くと、ティファナは今まで声を上げて泣くようなところは一度も見たことがなかったが、立った姿勢のまま、勢いよく膝をついて、床を叩きながら、泣き叫んだ。

「さりーさまあああああああああああああああ!ああああああああああ!」

 ローサムはただただその姿を涙を拭いながら、見守ることしか出来なかった。ティファナは世界中の誰よりも、サリーの幸せと安寧を願い続けていた。

 葬儀には静かに参列した、見渡す限りの人が悲しみの表情を浮かべ、涙を流している者も多く、早過ぎる死を嘆いていた。

 しばらくして、ティファナがようやく落ち着いた頃、スーミラからすぐに来て欲しいと言われ、領地に駆け付けた。

「切り捨てる時が来たわ」
「何があったのですか」
「あれは人間じゃないわ。妃殿下が亡くなったことを知って、何て言ったと思う?『死んだのね、じゃあ私への罰も終わりね。早く死んでくれて、良かった。王都に戻れるかしら』そう言ったの」
「何だと!」

 ティファナは目を見開き、すぐさま立ち上がって、ルアンナの部屋を開けると、ベットに横になっていたルアンナの襟を持って、バチンと引っ叩いた。ルアンナは自身はサリーに暴力を振るっていたのに、人に叩かれたのは初めてあった。

「痛っ!何するの」
「もう娘じゃない。修道院に行ってもらいます」
「はあ?」
「北の修道院に行ってもらう。そこで人生を終えなさい」
「何を言ってるのよ」
「決定だ、もう娘だとは思わない。消えてくれ」
「じゃあ、出て行くわよ」
「ならば籍を抜くから、好きにしたらいい。今すぐ出て行ってくれ」
「待って、落ち着いてよ。どうしたの?妃殿下も死んだんだから、私の罰が終わりなのは分かるけど、修道院、籍を抜くって、親としての責任はどうしたのよ」

 親の責任だからと対話を続けていた。それも無意味だったのだろう。

「どうするんだ、修道院か、このまま放り出されるか、どちらかだ」
「っな、何よ冗談は止めてよ」
「冗談じゃないわ、どちらか選びなさい」
「じゃあ、シュリアのところに行くわ。そこまで連れて行って」
「クリジアン公爵令嬢には、二度と会いたくないと言われている。平民がのこのこ行けば、牢に入れられるだろうが、我々はもう関係ない。行きたければ、自分の力で行きなさい」

 クリジアン公爵家には先に連絡をして、警備を厳重にし、通報してもらって構わないと伝えればいい。

「そんなはずないわ、もう孫に会わせてあげないんだから、後悔しても遅いわよ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

さよなら、皆さん。今宵、私はここを出ていきます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【復讐の為、今夜私は偽の家族と婚約者に別れを告げる―】 私は伯爵令嬢フィーネ・アドラー。優しい両親と18歳になったら結婚する予定の婚約者がいた。しかし、幸せな生活は両親の突然の死により、もろくも崩れ去る。私の後見人になると言って城に上がり込んできた叔父夫婦とその娘。私は彼らによって全てを奪われてしまった。愛する婚約者までも。 もうこれ以上は限界だった。復讐する為、私は今夜皆に別れを告げる決意をした―。 ※マークは残酷シーン有り ※(他サイトでも投稿中)

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

魔法のせいだから許して?

ましろ
恋愛
リーゼロッテの婚約者であるジークハルト王子の突然の心変わり。嫌悪を顕にした眼差し、口を開けば暴言、身に覚えの無い出来事までリーゼのせいにされる。リーゼは学園で孤立し、ジークハルトは美しい女性の手を取り愛おしそうに見つめながら愛を囁く。 どうしてこんなことに?それでもきっと今だけ……そう、自分に言い聞かせて耐えた。でも、そろそろ一年。もう終わらせたい、そう思っていたある日、リーゼは殿下に罵倒され頬を張られ怪我をした。 ──もう無理。王妃様に頼み、なんとか婚約解消することができた。 しかしその後、彼の心変わりは魅了魔法のせいだと分かり…… 魔法のせいなら許せる? 基本ご都合主義。ゆるゆる設定です。

【完結】婿入り予定の婚約者は恋人と結婚したいらしい 〜そのひと爵位継げなくなるけどそんなに欲しいなら譲ります〜

早奈恵
恋愛
【完結】ざまぁ展開あります⚫︎幼なじみで婚約者のデニスが恋人を作り、破談となってしまう。困ったステファニーは急遽婿探しをする事になる。⚫︎新しい相手と婚約発表直前『やっぱりステファニーと結婚する』とデニスが言い出した。⚫︎辺境伯になるにはステファニーと結婚が必要と気が付いたデニスと辺境伯夫人になりたかった恋人ブリトニーを前に、ステファニーは新しい婚約者ブラッドリーと共に対抗する。⚫︎デニスの恋人ブリトニーが不公平だと言い、デニスにもチャンスをくれと縋り出す。⚫︎そしてデニスとブラッドが言い合いになり、決闘することに……。

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

思い出してしまったのです

月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。 妹のルルだけが特別なのはどうして? 婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの? でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。 愛されないのは当然です。 だって私は…。

婚約解消したら後悔しました

せいめ
恋愛
 別に好きな人ができた私は、幼い頃からの婚約者と婚約解消した。  婚約解消したことで、ずっと後悔し続ける令息の話。  ご都合主義です。ゆるい設定です。  誤字脱字お許しください。  

やり直し令嬢は本当にやり直す

お好み焼き
恋愛
やり直しにも色々あるものです。婚約者に若い令嬢に乗り換えられ婚約解消されてしまったので、本来なら婚約する前に時を巻き戻すことが出来ればそれが一番よかったのですけれど、そんな事は神ではないわたくしには不可能です。けれどわたくしの場合は、寿命は変えられないけど見た目年齢は変えられる不老のエルフの血を引いていたお陰で、本当にやり直すことができました。一方わたくしから若いご令嬢に乗り換えた元婚約者は……。

処理中です...