上 下
84 / 203
番外編1

ミアローズ・エモンド8

しおりを挟む
「何をしたんだ?どうせミアローズだろう?」
「顔に劇薬を掛けられたんだ…目は無事だったんだが、片側が酷く爛れてしまったんだ。泣き喚いて暮らしているんだ」
「はあ、何をしたんだと聞いています」
「心配じゃないのか!」
「どうせ、婚約者がいる相手か既婚者に手を出したんでしょう?」
「知っていたのか?」
「そのくらい想像できるでしょう?今までは父上が洩らさないようにしていたんでしょう?相手が公爵令嬢ですから、泣き寝入りするしかなかったでしょうからね」

 これまでの相手は社交界で知り合った者だった。確かに婚約者がいる者、既婚者もいたが、洩れることはなかったが、疑惑だけでも恨む者は多かっただろう。

「既婚者で妊婦だったんだ…夫と揉めて流産してしまって、もう子は産めないだろうと…それで劇薬を掛けたそうだ」
「酷いな、劇薬を掛けられても仕方ないですね」

 妻の敵は夫ではなく、ミアローズとなったのだろう。

「お前は何てことを言うんだ!」
「相手に慰謝料を支払うべきでしょう」
「既に自害した…」
「何てことを…ミアローズなんかのせいで」

 相手は名ばかりでも公爵家の人間、自害する気で劇薬を掛けたのだろう。

「お前はっ!ミアを心配するべきだろう!」
「まだ分かっていないのですか?あなた方のせいでもあるのですよ、なぜ止めなかったのですか、なぜお姫様扱いを続けているのですか、あれは何も考えることの出来ない者になっているのですよ」
「そんなことはない」

 これまで信じて、変わらず、続けていたのだ。私が何を言っても無駄だろうが、それでも言いたかった。

「父上が言ういい縁談がなかったのは、ミアローズのせいですよ!結婚して欲しかったなら、管理してくれるような人に嫁がせることが最善でした」
「管理などと…」
「医者は派遣するようにしましょう。治療費は私が出しますから、相手に請求しないように」
「あの女が!」
「不貞をしたのはミアローズです」
「知らなかったと」
「知らなかったら、何をしてもいいわけではないのですよ。父上は責任を持って、ミアローズの世話をしてください。それがあなたの務めです」

 エディンは妻の方の家族に会いに行き、謝罪と慰謝料を渡した。男爵家の令嬢で、夫は騎士伯だった。

 男爵家の方々は怒りを持ちながらも、相手は公爵の妹。こちらも劇薬を掛ける引け目があるようではあったが、子どもは結婚五年目でようやく授かった子で、子ども好きで、毎日楽しみに待っていたと、それなのに夫は不貞を犯した。ミアローズも夫もお互いが相手が誘ったと言っている。エディンはその話を真摯に聞いた。

 妊娠中で精神は不安定だったのだろう、他にもこんな女性がいたのではないか。ミアローズは公爵令嬢の地位が間違いだったのだろう。

 エディンはミアローズに会いに行くことはしなかったが、派遣した医師によると、左側が溶け爛れているような状態だという。化粧で隠すことは不可能、しかも領内で噂になって、夫の方は姿を消していた。

 ミアローズもさすがに外に出ることが出来なくなり、望んだ幽閉にはなったが、一人の女性と胎児の命を引き換えにしたようで、後味の悪い辛さが残った。

 それからミアローズは可哀想な私に酔い、我儘放題で過ごし、反省することもなかった。だが両親が亡くなって、相手をしてくれる者すらいなくなった。顔以外は元気であるため、暴れるようになり、療養所に入れることにした。

 最初は暴れていたが、ならば世話はもうしない、籍を抜くと言えば、仕方なく留まった。爛れた顔で行くところなどない。若い男性を舐めるように見るようになるも、年を取った、爛れた女を相手にするはずもなく、あっけなく感染症で亡くなった。

 顔の傷の影響のせいかもしれないと言われ、会ったこともないが、あの時の自害した妻が長い時間を掛けて、仇を取ったのではないかと思えた。享年四十七であった。

 エディンはサリー妃殿下が亡くなった時は早すぎると思ったが、ミアローズは遅すぎるくらいだと思えた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

お読みいただきありがとうございます。

これにてようやくミアローズ編、終了です。
長くなって申し訳ありません。
次はルアンナ・アズラーを書いていきます。

よろしくお願いいたします。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】今世も裏切られるのはごめんなので、最愛のあなたはもう要らない

曽根原ツタ
恋愛
隣国との戦時中に国王が病死し、王位継承権を持つ男子がひとりもいなかったため、若い王女エトワールは女王となった。だが── 「俺は彼女を愛している。彼女は俺の子を身篭った」 戦場から帰還した愛する夫の隣には、別の女性が立っていた。さらに彼は、王座を奪うために女王暗殺を企てる。 そして。夫に剣で胸を貫かれて死んだエトワールが次に目が覚めたとき、彼と出会った日に戻っていて……? ──二度目の人生、私を裏切ったあなたを絶対に愛しません。 ★小説家になろうさまでも公開中

婚約破棄を望むなら〜私の愛した人はあなたじゃありません〜

みおな
恋愛
 王家主催のパーティーにて、私の婚約者がやらかした。 「お前との婚約を破棄する!!」  私はこの馬鹿何言っているんだと思いながらも、婚約破棄を受け入れてやった。  だって、私は何ひとつ困らない。 困るのは目の前でふんぞり返っている元婚約者なのだから。

旦那様、離縁の申し出承りますわ

ブラウン
恋愛
「すまない、私はクララと生涯を共に生きていきたい。離縁してくれ」 大富豪 伯爵令嬢のケイトリン。 領地が災害に遭い、若くして侯爵当主なったロイドを幼少の頃より思いを寄せていたケイトリン。ロイド様を助けるため、性急な結婚を敢行。その為、旦那様は平民の女性に癒しを求めてしまった。この国はルメニエール信仰。一夫一妻。婚姻前の男女の行為禁止、婚姻中の不貞行為禁止の厳しい規律がある。旦那様は平民の女性と結婚したいがため、ケイトリンンに離縁を申し出てきた。 旦那様を愛しているがため、旦那様の領地のために、身を粉にして働いてきたケイトリン。 その後、階段から足を踏み外し、前世の記憶を思い出した私。 離縁に応じましょう!未練なし!どうぞ愛する方と結婚し末永くお幸せに! *女性軽視の言葉が一部あります(すみません)

【取り下げ予定】お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。

ごろごろみかん。
恋愛
仕事と私、どっちが大切なの? ……なんて、本気で思う日が来るとは思わなかった。 彼は、王族に仕える近衛騎士だ。そして、婚約者の私より護衛対象である王女を優先する。彼は、「王女殿下とは何も無い」と言うけれど、彼女の方はそうでもないみたいですよ? 婚約を解消しろ、と王女殿下にあまりに迫られるので──全て、手放すことにしました。 お幸せに、婚約者様。 私も私で、幸せになりますので。

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜

みおな
恋愛
 伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。  そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。  その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。  そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。  ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。  堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・

処理中です...