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番外編1

ミアローズ・エモンド5

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 ついにミアローズの邸に兄であるエディンがやって来た。この兄妹は年が五つ離れているのもあるが、仲が良い悪いではなく、同じ邸にいても顔を合わせることのない間柄である。両親がミアローズばかりを可愛がることに、何も思わなかったわけではないが、関わりたくもなかった。

 エディンは既に結婚しており、子どももいるため、悪い影響を与えられては困ると、結婚後はさらに関わらなくなっていた。妻子も理解しており、ミアローズに関わらないようにしている。

「この邸から出て貰う、ここは壊すから居たくてもいられないがな」
「は?何でよ」
「私がエモンド公爵となった、ここは不快だ。更地にする」
「私にだって権利があるはずよ」
「はあ…何もせずに金だけ使っていたお前にはもう権利はない。全て使い切ったと思え。権利を主張するなら、裁判でもしたらいい。お前のしていたことをすべて公にすることになるがな」

 ミアローズは何もせずに、周りがどうにかしてくれてるという環境で、エディンよりも遥かにお金を使っていた。もちろん、ミアローズは稼ぎもせず、何か家のためになるようなことも一切していない。

 結婚時の持参金も慰謝料という名目ではないが、口止め料を兼ねているので、返金されてはいない。

「そんな…お兄様も何も言わなかったじゃない!」
「面倒だったからだ…」
「は?」
「お前を相手にするのが面倒だったからだ」

 エディンも色狂いのことは知っていた、だが改善されるとは思えず、面倒なので放っていた。いずれ噂になるかもしれないと思っていたが、こんなに大きくなるとは思わなかった。更地にするのは、いかにも認めているようなものだが、残しておけば、噂は一生付き纏ってしまうからだ。

「何で二度も言うのよ」
「答えがそれしかないからだよ、父上が洩らさないようにしていたようだけど、そんな力ももうない。私は色狂いの妹を持つ兄なんだよ!これから大変なんだ、私の視界にもう入らないでくれ」
「は?色狂いって何よ!」
「お前のことに決まっているだろう」
「私が?違うわ!」
「どこが違うんだ?色事しかしていないような令嬢なんて聞いたこともないぞ?」
「他にもしているわ」
「何をだ?」
「社交とか…」

 確かにパーティーにも呼ばれなくなってから、色事しかしていなかった。いずれ父親が縁談を持って来てくれるだろう、それまで楽しもうと思っていたのだ。

「もう社交界にお前の居場所はない。噂が広がって、実はお前に嫌がらせをされたという者もたくさん出て来ている。誰にも誘われなくなっただろう?恨みを買っているんだよ、報復されるかもしれないな」
「そんなのどうせ下級貴族でしょう」
「その中には高位貴族に嫁いだ者、優秀さを買われて地位を得た者、大きな商会を持つ者もいるんだよ、一生同じ地位にいると思ったら大間違いだ」

 嫁いで地位が上がった者もいるが、自身の力で頭角を現した者もいる。ミアローズは今持っている者、目先のことばかりで、将来を考える知恵を持っていない。

「代理の件も、よく出ていけたものだな」
「指名されたんだから!」

 代理の件だけは意味が分からなかった。なぜミアローズなんかを、父が頼んだのかと思い、殿下に時間を取って貰い、謝罪に行くと、サリー妃殿下の書かれたという代理の理由と、妃殿下への発言を見せられた。そこには明らかに暴言が書かれており、誰が言ったのか聞かなくても分かるというものであった。

「申し訳ありません!このようなことを申していたとは」
「誰がと言わなくても分かるのだな」
「はい、この口振りはミアローズしかいません。妃殿下に謝罪させます」

 愚かだと思っていたが、妃殿下にまで暴言を吐いていたとは。責任を取らせて、放り出せば碌なことにならないだろうから、幽閉すべきだろう。

「それはいい、ミアローズがまともに謝罪するとは思えない。サリーも望んでいない。正直、エディン殿もミアローズに関わりたくないのではないか?」
「分かっておいででしたか」
「ああ、理解出来る。そしてエディン殿が今の状態では何も出来ないというのもな」
「申し訳ありません。ですが、このままというわけには」

 何もしないということは出来ない。だが、殿下の言う通り、まともに謝罪するとは思えない。

「我々はミアローズに関わらないことは出来るが、エディン殿は違うだろう?噂も聞いている、一番被害を被っているのは君だろう」
「はい、逃げていてはいけませんね。父は謝罪に伺いましたか」
「いいや、謝罪も、代理の理由を聞きに来たのも、エモンド公爵家ではエディン殿だけだ」
「は?」

 眩暈がした、誰も謝罪していない?両親すら理由も聞きに来てもいない?おかしいと思わないのか?

「何も知らないままだ、それでこちらはいい。ミアローズを退場させられるのは、エディン殿だけだろう?」
「はい」

 そこで、絶対に父に降りて貰うことを決めたのだ。だからこそ、いくら嫌でも最後にミアローズと二人で話すつもりだった。
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