上 下
74 / 203
番外編1

マリーズ・ヒルダ1

しおりを挟む
『私と殿下は想いあっているの。爵位以外は相応しいと言ってくれるだけど。でも心配なさらないで。私は卒業したらソアート帝国に行くの。でも殿下が離してくれるかは、分からないの。だから私が去ったら、しっかり捕まえておいてくださいね。もし、奪ってしまったらごめんなさい。 ーマリーズ・ヒルダー』

 平民よりは上だが、裕福な平民と比べると劣るような男爵家に生まれた。これで、とびきりの美人であったなら何か違ったかもしれないが、平凡で、埋没するような顔立ち、これと言って特徴を言えない、それが私だった。

 生まれを憎むこともあったが、今となっては私に見合った生まれだったと思う。親戚のお姉さんが聞かせてくれるソアート帝国の話は華やかで、活気のある話ばかりで、憧れの場所となった。

 親に留学したいと言ったが、学園を卒業して、自分で稼いでいくように言われた。学園に通わせるお金はあっても、そこまでのお金はない。

 殿下と出会ったのは本当に偶然だった。たまたま、他の席が空いておらず、図書室で隣の席になったのだ。

 話す機会のある身分ではなかったのに、横に座って話をすることが、日常になるなんて思わなかった。私はあの頃だけは選ばれた人間だと思い込んでいた。

 私は殿下よりも一つ年上で、卒業しても殿下が寂しく思ってくれるのではないかと、卒業したら帝国に行くのだと話してみると、自立した、向上心のある女性なのだなと言われて嬉しくなった。とても私に似合う、そう思った。

 それから、会う度に距離は縮まり、どんどん惹かれていった。

「帝国に行くまで、殿下を想うことをお許しください」
「マリーズ」
「私が卒業するまででいいのです」

 質のいい高級なプレゼントを貰ったり、こっそり出掛けたり、恋人だと言っても過言ではない関係だった。

「もっと触れてはくれませんか」
「いや、君がいずれ結婚する時に困ることになるよ」
「私、初めてではないのです」
「えっ」
「前に婚約者がいたのです。相性も大事だからと、婚約中に関係を持ってしまって」

 殿下と関係を持てたのはこれが大きかった。一年半前に同じ男爵家の婚約者がいたのだ。相性も大事だと言われたこともあるが、私も興味があり、どうせ結婚するのだからと、簡単に関係を持ってしまった。

「だが、今婚約者は…」
「解消されました」
「どうして?」
「他に好きな人でも出来たのではないでしょうか」

 これは嘘であった。援助も含めた政略結婚だったが、相手は援助できなくなってしまい、お互いのために解消となっただけである。初めてをあげたのにと思ったが、元婚約者にも公にするより、言わなければ分からないと言われて、お金のない家に嫁ぐにも嫌だったので、了承したのだ。

「そうだったのか」
「ですので、責任を取って欲しいなんて言いませんから」

 そう言えば、殿下と関係を持つようになった。元婚約者とは違って、女性を悦ばせる術を持っていた。私はどんどんのめり込んでいくようになった。

 ただ、表立って言えないのは、殿下に婚約者がいるからであった。サリー・ペルガメント侯爵令嬢。見た目も頭脳も家柄も、私とはまるで正反対で、傍から見れば勝てるものなんて一つもない。

「折角の顔も愛されなくては意味がないものですね」

「昨日もこっそり殿下とデートしましたの。帰り際に離れたくないと言われて、困ってしまったんです」

「またおひとりですの?」

 だから、いかに殿下が愛してくれているかを聞かせてみると、渋い顔はするものの、強く言い返してくることはなく、学生時代のお遊びだと、容認されているのだろうと思う反面、相手にされていないようで腹も立った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

お読みいただきありがとうございます。

亡きマリーズ・ヒルダの回となります。
全3話の予定です。

よろしくお願いいたします。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

あなたへの想いを終わりにします

四折 柊
恋愛
 シエナは王太子アドリアンの婚約者として体の弱い彼を支えてきた。だがある日彼は視察先で倒れそこで男爵令嬢に看病される。彼女の献身的な看病で医者に見放されていた病が治りアドリアンは健康を手に入れた。男爵令嬢は殿下を治癒した聖女と呼ばれ王城に招かれることになった。いつしかアドリアンは男爵令嬢に夢中になり彼女を正妃に迎えたいと言い出す。男爵令嬢では妃としての能力に問題がある。だからシエナには側室として彼女を支えてほしいと言われた。シエナは今までの献身と恋心を踏み躙られた絶望で彼らの目の前で自身の胸を短剣で刺した…………。(全13話)

私はただ一度の暴言が許せない

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
厳かな結婚式だった。 花婿が花嫁のベールを上げるまでは。 ベールを上げ、その日初めて花嫁の顔を見た花婿マティアスは暴言を吐いた。 「私の花嫁は花のようなスカーレットだ!お前ではない!」と。 そして花嫁の父に向かって怒鳴った。 「騙したな!スカーレットではなく別人をよこすとは! この婚姻はなしだ!訴えてやるから覚悟しろ!」と。 そこから始まる物語。 作者独自の世界観です。 短編予定。 のちのち、ちょこちょこ続編を書くかもしれません。 話が進むにつれ、ヒロイン・スカーレットの印象が変わっていくと思いますが。 楽しんでいただけると嬉しいです。 ※9/10 13話公開後、ミスに気づいて何度か文を訂正、追加しました。申し訳ありません。 ※9/20 最終回予定でしたが、訂正終わりませんでした!すみません!明日最終です! ※9/21 本編完結いたしました。ヒロインの夢がどうなったか、のところまでです。 ヒロインが誰を選んだのか?は読者の皆様に想像していただく終わり方となっております。 今後、番外編として別視点から見た物語など数話ののち、 ヒロインが誰と、どうしているかまでを書いたエピローグを公開する予定です。 よろしくお願いします。 ※9/27 番外編を公開させていただきました。 ※10/3 お話の一部(暴言部分1話、4話、6話)を訂正させていただきました。 ※10/23 お話の一部(14話、番外編11ー1話)を訂正させていただきました。 ※10/25 完結しました。 ここまでお読みくださった皆様。導いてくださった皆様にお礼申し上げます。 たくさんの方から感想をいただきました。 ありがとうございます。 様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。 ただ、皆様に楽しんでいただける場であって欲しいと思いますので、 今後はいただいた感想をを非承認とさせていただく場合がございます。 申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。 もちろん、私は全て読ませていただきます。

私の知らぬ間に

豆狸
恋愛
私は激しい勢いで学園の壁に叩きつけられた。 背中が痛い。 私は死ぬのかしら。死んだら彼に会えるのかしら。

王子妃だった記憶はもう消えました。

cyaru
恋愛
記憶を失った第二王子妃シルヴェーヌ。シルヴェーヌに寄り添う騎士クロヴィス。 元々は王太子であるセレスタンの婚約者だったにも関わらず、嫁いだのは第二王子ディオンの元だった。 実家の公爵家にも疎まれ、夫となった第二王子ディオンには愛する人がいる。 記憶が戻っても自分に居場所はあるのだろうかと悩むシルヴェーヌだった。 記憶を取り戻そうと動き始めたシルヴェーヌを支えるものと、邪魔するものが居る。 記憶が戻った時、それは、それまでの日常が崩れる時だった。 ★1話目の文末に時間的流れの追記をしました(7月26日) ●ゆっくりめの更新です(ちょっと本業とダブルヘッダーなので) ●ルビ多め。鬱陶しく感じる方もいるかも知れませんがご了承ください。  敢えて常用漢字などの読み方を変えている部分もあります。 ●作中の通貨単位はケラ。1ケラ=1円くらいの感じです。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界の創作話です。時代設定、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

どうやら婚約者が私と婚約したくなかったようなので婚約解消させて頂きます。後、うちを金蔓にしようとした事はゆるしません

しげむろ ゆうき
恋愛
 ある日、婚約者アルバン様が私の事を悪く言ってる場面に遭遇してしまい、ショックで落ち込んでしまう。  しかもアルバン様が悪口を言っている時に側にいたのは、美しき銀狼、又は冷酷な牙とあだ名が付けられ恐れられている、この国の第三王子ランドール・ウルフイット様だったのだ。  だから、問い詰めようにもきっと関わってくるであろう第三王子が怖くて、私は誰にも相談できずにいたのだがなぜか第三王子が……。 ○○sideあり 全20話

旦那様、離婚しましょう

榎夜
恋愛
私と旦那は、いわゆる『白い結婚』というやつだ。 手を繋いだどころか、夜を共にしたこともありません。 ですが、とある時に浮気相手が懐妊した、との報告がありました。 なので邪魔者は消えさせてもらいますね *『旦那様、離婚しましょう~私は冒険者になるのでお構いなく!~』と登場人物は同じ 本当はこんな感じにしたかったのに主が詰め込みすぎて......

彼女はいなかった。

豆狸
恋愛
「……興奮した辺境伯令嬢が勝手に落ちたのだ。あの場所に彼女はいなかった」

処理中です...