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番外編1
グリズナー・トラス2
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「あなたなんかに王太子妃が務まるのかしら」
「でしたら、私ではなく、陛下に伝えてはいかがでしょうか」
「っな、なぜ陛下に」
「王太子の婚約者が不満だと伝えるのは、陛下にではありませんか」
時折、サリーが言い返すのも感情的ではなく、非常に事務的であり、腹立たしい存在となっていた。
それから再婚しても、味わい続けた快感は忘れられず、殿下とも不仲だという噂も聞き、側妃を娶ったこともサリーが悪いと、会う度に見下すようになっていた。
そもそも、侯爵令嬢に、王太子殿下の婚約者、王家の関係者への口の利き方ではない。驕り高ぶり、まさに精神がおかしかったのだと思う。
だが、代理の指名で一気に代償を払うことになってしまった。文のあて名を見て、瞬間的に血の気が引いた。これはきっと悪いものだと、良いものであるはずがない。一番よく分かっていた。一緒にクスクス笑っていた夫人たちも、冷遇されていると母から聞いた。妃殿下ではなく、殿下が行ったのだろう。
それでも、謝れば許してもらえるはずだと信じて、対峙したサリーは圧倒的な力を纏っているように思えた。吹っ切れたようにペラペラと話し出して、呆然とした。
なぜ、あの時ではなく、今なのかと、心の傷に時効なんてない、私が決めることではないのに、そう思っていた。
自身の発言の全てを憶えてはいないが、凄まじい記憶力で、憶えのある発言ばかりだった。どうにか回避しようと必死で、あまり憶えていないというのが一番都合がいいと判断したが、自身の言った恥ずかしい発言が投げ返されるだけであった。
私のためにわざわざ謝罪に行ってくれた夫にも、両親にも知られてしまった。
今思い出せば、関係を持った相手は結婚相手と殿下と再婚相手だけだったのに、まるで何人もと経験を持った阿婆擦れ、娼婦のような発言だったことは分かる。
でも当時の私は殿下に欲望をぶつけられていただけなのに、愛されていると、勘違いしていた。こんなに求められているのだから、私は特別な存在だと思い込んでいた。受けなければ、割り切らなければならなかった。
なんて愚かで恥ずかしい女だったのだろうか。
娘・フェアリーが学園に入る前に、母親に何があったかを説明がされたことを、また母から聞いた。顔を合わせることはないが、もう同じ敷地にいることすら不快かもしれない、そう思うようになった。
しばらくすると、私は両親と領地にある子爵家に戻ることになった。いつかそんな日が来るのではないかと思っていた、むしろここまでよく伯爵家に置いてくれたものだとすら思う。父は顔も見たくないと、ほとんど顔を合わすことはなかったが、母だけは月に一度は伯爵家に会いに来て、向き合ってくれた。
「フェアリーが嫌がったのね」
「…ええ」
「母親が王太子妃殿下にあんなことを言っていたと知ったら、当たり前よ」
妃殿下の評価は上がる一方だと聞いている。語学の強みに加えて、そのおかげで外交にも役立っており、私も母が持って来てくれた『コルボリット』を読んだが、本当に素晴らしかった。クレインもフェアリーも大好きだと聞く。
「今となっては狂っていると思うわ、まさに精神的な病だわ。でも当時の私には妃殿下を見下すことが快感だったの。本当に愚かだった」
「反省はしているんでしょう?」
「ええ、もうそれしか残っていないもの」
「フェアリーが辛くなってしまったようなの」
「え、どうして…」
私が大人しくしていれば、伯爵家に処罰はなく、娘も責められることはないと聞いていたはずなのに。
「でしたら、私ではなく、陛下に伝えてはいかがでしょうか」
「っな、なぜ陛下に」
「王太子の婚約者が不満だと伝えるのは、陛下にではありませんか」
時折、サリーが言い返すのも感情的ではなく、非常に事務的であり、腹立たしい存在となっていた。
それから再婚しても、味わい続けた快感は忘れられず、殿下とも不仲だという噂も聞き、側妃を娶ったこともサリーが悪いと、会う度に見下すようになっていた。
そもそも、侯爵令嬢に、王太子殿下の婚約者、王家の関係者への口の利き方ではない。驕り高ぶり、まさに精神がおかしかったのだと思う。
だが、代理の指名で一気に代償を払うことになってしまった。文のあて名を見て、瞬間的に血の気が引いた。これはきっと悪いものだと、良いものであるはずがない。一番よく分かっていた。一緒にクスクス笑っていた夫人たちも、冷遇されていると母から聞いた。妃殿下ではなく、殿下が行ったのだろう。
それでも、謝れば許してもらえるはずだと信じて、対峙したサリーは圧倒的な力を纏っているように思えた。吹っ切れたようにペラペラと話し出して、呆然とした。
なぜ、あの時ではなく、今なのかと、心の傷に時効なんてない、私が決めることではないのに、そう思っていた。
自身の発言の全てを憶えてはいないが、凄まじい記憶力で、憶えのある発言ばかりだった。どうにか回避しようと必死で、あまり憶えていないというのが一番都合がいいと判断したが、自身の言った恥ずかしい発言が投げ返されるだけであった。
私のためにわざわざ謝罪に行ってくれた夫にも、両親にも知られてしまった。
今思い出せば、関係を持った相手は結婚相手と殿下と再婚相手だけだったのに、まるで何人もと経験を持った阿婆擦れ、娼婦のような発言だったことは分かる。
でも当時の私は殿下に欲望をぶつけられていただけなのに、愛されていると、勘違いしていた。こんなに求められているのだから、私は特別な存在だと思い込んでいた。受けなければ、割り切らなければならなかった。
なんて愚かで恥ずかしい女だったのだろうか。
娘・フェアリーが学園に入る前に、母親に何があったかを説明がされたことを、また母から聞いた。顔を合わせることはないが、もう同じ敷地にいることすら不快かもしれない、そう思うようになった。
しばらくすると、私は両親と領地にある子爵家に戻ることになった。いつかそんな日が来るのではないかと思っていた、むしろここまでよく伯爵家に置いてくれたものだとすら思う。父は顔も見たくないと、ほとんど顔を合わすことはなかったが、母だけは月に一度は伯爵家に会いに来て、向き合ってくれた。
「フェアリーが嫌がったのね」
「…ええ」
「母親が王太子妃殿下にあんなことを言っていたと知ったら、当たり前よ」
妃殿下の評価は上がる一方だと聞いている。語学の強みに加えて、そのおかげで外交にも役立っており、私も母が持って来てくれた『コルボリット』を読んだが、本当に素晴らしかった。クレインもフェアリーも大好きだと聞く。
「今となっては狂っていると思うわ、まさに精神的な病だわ。でも当時の私には妃殿下を見下すことが快感だったの。本当に愚かだった」
「反省はしているんでしょう?」
「ええ、もうそれしか残っていないもの」
「フェアリーが辛くなってしまったようなの」
「え、どうして…」
私が大人しくしていれば、伯爵家に処罰はなく、娘も責められることはないと聞いていたはずなのに。
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