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番外編1
グリズナー・トラス1
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『王太子様とは年齢が合わなかっただけなのよ、本来なら私の方が王家に相応しかったのに、とっても残念だわ。私がもう少しだけ遅くに生まれていたら良かったのに、神様って意地悪ね。 ーグリズナー・マディンー』
トラス伯爵邸、別邸で過ごすグリズナーにはすっかり遠い存在となっていた。時折、聞こえて来る子どもたちの声だけが唯一の楽しみだった。
王家の催しから外されたということは、発表されるものではないため、グリズナーは病で療養していることになっている。
「君は精神的な病で療養していることにする。子どもたちにも使用人にも、そう伝える。手紙のやり取りは実家にだけは許可する」
「…はい、承知しました」
夫に言われた時に、何て私に相応しい病だろうかと思った。
決まった時間にだけ庭に出ることを許され、数年後に義息子・クレインに得体のしれない者を見るような顔を向けられた時に、ああ聞いたのだと思った。
好かれるのもなかなか難しい間柄だった。それが爆弾だったと知ればそんな顔を向けたくはなるのは無理はない。実母ではないことが救いだろう。
もっと辛い状況なのは実子であるフェアリーだ。泣く声が聞こえて、思わず慌てて立ち上がっても、抱きしめることはおろか、声を掛けることすら出来ない。どうか幸せになって貰いたい。業を背負うのは私一人であるべきだ。
トール王太子殿下と会ったのは、まだグリズナー・マディンだった頃であった。
子爵家に生まれ、過不足なく育てられた。前の夫とは縁談で知り合い、そのまま結婚した。強い愛はないが、お互い不満もなかったと思う。
しかし、夫が事故で急に亡くなって、ようやく心も落ち着いた頃、夫の友人の妻から、王太子殿下の閨の教育担当の話があると話を聞かされ、纏まったお金が手に入ると思って受けてはどうかと言われた。夫との間には、子どももおらず、妊娠もしていなかったため、伯爵家をいずれ出て行くことを見越してのお声掛けだったのだろう。
元々は性に奔放だったわけではなく、夫が初めての相手で、指南できるほどではないと思ったが、娼婦よりも、あまり経験がないくらいの方がいいと言い、お金のためと思って、受けることにした。半ば自棄になっていたところもあった。
さすがに十歳年下でも、相手は王太子殿下、私にとっては夫ではない相手。初日は酷く緊張した。
「正直に話します。実は元夫しか経験がないんです。教えられることは少ないかもしれませんが、よろしくお願いします」
「伺っています、よろしくお願いします」
天使の様だとまでは言わないが、まだほとんど穢れていない少年のように思えた。恥ずかしさもあったので、こうしたらいい、こんな風に言われると嬉しいと、教え方はそのような感じであったと思う。
若く、権力も、美貌も兼ね備えた殿下はみるみる内に成長をして、夫とは味わったこともない、刺激的な情事に変わった。殿下が夢中になればなるほど、女性としての自信にもなった。だが、いつか終わる関係である。
殿下と結婚を約束された女性を憎らしく思うようになり、矛先は王太子殿下の婚約者、サリー・ペルガメント侯爵令嬢に向かった。殿下の前では余裕のある大人な振りをして、サリーの前では罵る人間になった。
「本当に辛気臭い顔ね」
「魅力のない身体だこと、ペルガメント侯爵家は財政が貧しいのかしら」
「これまで構えて貰って良かったではありませんか」
だが、サリーはいくら煽っても、顔を歪めはするものの、強く言い返すこともなく、ペルガメント侯爵家からも苦情がないことをいいことに、言いたい放題だったと思う。契約のこともすっかり忘れていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
お読みいただきありがとうございます。
不定期になるかとは思いますが、
番外編を書き上げ次第、投稿させていただきます。
よろしくお願いいたします。
トラス伯爵邸、別邸で過ごすグリズナーにはすっかり遠い存在となっていた。時折、聞こえて来る子どもたちの声だけが唯一の楽しみだった。
王家の催しから外されたということは、発表されるものではないため、グリズナーは病で療養していることになっている。
「君は精神的な病で療養していることにする。子どもたちにも使用人にも、そう伝える。手紙のやり取りは実家にだけは許可する」
「…はい、承知しました」
夫に言われた時に、何て私に相応しい病だろうかと思った。
決まった時間にだけ庭に出ることを許され、数年後に義息子・クレインに得体のしれない者を見るような顔を向けられた時に、ああ聞いたのだと思った。
好かれるのもなかなか難しい間柄だった。それが爆弾だったと知ればそんな顔を向けたくはなるのは無理はない。実母ではないことが救いだろう。
もっと辛い状況なのは実子であるフェアリーだ。泣く声が聞こえて、思わず慌てて立ち上がっても、抱きしめることはおろか、声を掛けることすら出来ない。どうか幸せになって貰いたい。業を背負うのは私一人であるべきだ。
トール王太子殿下と会ったのは、まだグリズナー・マディンだった頃であった。
子爵家に生まれ、過不足なく育てられた。前の夫とは縁談で知り合い、そのまま結婚した。強い愛はないが、お互い不満もなかったと思う。
しかし、夫が事故で急に亡くなって、ようやく心も落ち着いた頃、夫の友人の妻から、王太子殿下の閨の教育担当の話があると話を聞かされ、纏まったお金が手に入ると思って受けてはどうかと言われた。夫との間には、子どももおらず、妊娠もしていなかったため、伯爵家をいずれ出て行くことを見越してのお声掛けだったのだろう。
元々は性に奔放だったわけではなく、夫が初めての相手で、指南できるほどではないと思ったが、娼婦よりも、あまり経験がないくらいの方がいいと言い、お金のためと思って、受けることにした。半ば自棄になっていたところもあった。
さすがに十歳年下でも、相手は王太子殿下、私にとっては夫ではない相手。初日は酷く緊張した。
「正直に話します。実は元夫しか経験がないんです。教えられることは少ないかもしれませんが、よろしくお願いします」
「伺っています、よろしくお願いします」
天使の様だとまでは言わないが、まだほとんど穢れていない少年のように思えた。恥ずかしさもあったので、こうしたらいい、こんな風に言われると嬉しいと、教え方はそのような感じであったと思う。
若く、権力も、美貌も兼ね備えた殿下はみるみる内に成長をして、夫とは味わったこともない、刺激的な情事に変わった。殿下が夢中になればなるほど、女性としての自信にもなった。だが、いつか終わる関係である。
殿下と結婚を約束された女性を憎らしく思うようになり、矛先は王太子殿下の婚約者、サリー・ペルガメント侯爵令嬢に向かった。殿下の前では余裕のある大人な振りをして、サリーの前では罵る人間になった。
「本当に辛気臭い顔ね」
「魅力のない身体だこと、ペルガメント侯爵家は財政が貧しいのかしら」
「これまで構えて貰って良かったではありませんか」
だが、サリーはいくら煽っても、顔を歪めはするものの、強く言い返すこともなく、ペルガメント侯爵家からも苦情がないことをいいことに、言いたい放題だったと思う。契約のこともすっかり忘れていた。
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お読みいただきありがとうございます。
不定期になるかとは思いますが、
番外編を書き上げ次第、投稿させていただきます。
よろしくお願いいたします。
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