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愛(最終話)
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リール殿下の願いは叶わず、十八年後、サリーは病に倒れ、誰よりも早くこの世を去ることとになった。
サリーは願い通りに沢山の翻訳を行い、学術書、小説、児童書、絵本と多岐に渡り、『コルボリット』もさらに翻訳本の言語は増えていた。
体調を崩し、始めは『コルボリット』の最新刊の翻訳が終わった後だったため、疲れが出たのだと思っていたが、そうではなかった。サリーはおそらく以前から不調があったはずだが、サリーは気付かなかったと、認めなかった。皆は必死で治療法を探したが、どの医者にも難しいと言われてしまった。
サリー自身はよく生きたからと言って、死を受け入れていた。準備していたように、必要なところに文を送り、死後の手配を行うようになっていたが、皆は刻一刻と迫っていても、諦めることが出来ず、受け入れられなかった。
ミーラ王子は立派に成長し、義姉のノーラ公爵家の嫡男夫妻の娘・ルリアと結婚し、娘も生まれており、孫を抱くことも出来ていた。ミーラによく似た顔立ちであったため、サリーによく似ていた。
サリーを励ましに訪れる者は後を絶たず、殿下、レベッカ、兄・レオは私だったら良かったのにと、サリーには言わなかったが、皆が心の中で思っていた。
ペルガメント侯爵家は代替わりにしており、両親は暴飲暴食が祟ったのか、領地で静養している。
マリーヌ王女は辺境伯家に嫁いでおり、その際にあれこれいう者にサリーが後ろ盾にもなってくれた。感謝しても感謝し切れない。まだ恩が返せていないと、レベッカは礼拝堂でひたすらに祈り続けていた。
そして、その日は気持ちのいい朝に訪れた。
呼吸が浅くなり、レオ達は間に合わなかったが、両陛下、殿下、息子夫妻、孫、レベッカに看取られて、サリー・オールソン王太子妃は静かに旅立った。弔いの鐘が鳴り響くと、皆が膝をついて、悲しみに暮れた。
殿下はサリーを愛していると他の者に言うことはあっても、サリーが亡くなる間際でも二度と告げることは出来なかった。言葉の代わりに涙を流し、静かに見送った。だが、届かなくてもいい、心の中では愛していると伝え続けた。
国外にも知らされると、早過ぎると悲しみに包まれ、多くの国が追悼の意を表し、必ずと言っていいほど感謝の言葉も同時に発表された。
サリーの残したお金、これからも入って来るお金は、王家とは別に財団が設立され、ミーラ、ルリア、そしてレベッカ、マリーヌが管理することになった。これはサリーの遺言であった。
「国が手の届かないところに届けて欲しい。四人もいたら不正も出来ないでしょう」
「んもう、こんな時に嫌味を言うなんて」
「ふふ、一人でやろうとするから駄目なのよ。皆で仲良くやって頂戴ね」
レベッカは怒りながら、笑いながら、泣いていた。自身の死でさらに中途半端な存在となる、レベッカに道筋を与えてくれた。サリーは側妃見習いと兼任させるつもりだったが、葬儀が終わるとすぐに側妃見習いを辞め、サリー財団の理事に就任した。
ペルガメント前侯爵夫妻も葬儀には間に合い、『起きるんだ』『なんでよ』と喚き、相変わらず、ひと騒ぎ起こした。さすがに涙を流してはいたが、皆が今さらだと、レオと孫と曾孫に怒られて、そそくさと帰らされた。
ルアース・ベルア氏もサリーの葬儀に参列し、形見分けとして、サリーのビアロ語の辞書を受け取って、国に戻って行った。
その後に、サリーが広めてくれた翻訳本を、今度は翻訳家たちと、私自身が死ぬまでは守り続けると、これはサリーの願いでもあると、そしてサリーがモデルではないかと言われていたキャラクターは、サリーがモデルだと認め、サリーは物語の中で生き続けると追悼文を発表した。
サリーの金庫はレオに、その他は皆で分けるように言われており、殿下はサリーの髪の毛をリボンで結んで、執務室に置いた。ただし、サリーが出て行こうとしていた際の鞄だけはどこにもなく、誰も心当たりがなかった。
パール国王陛下が崩御して、リールが国王になった時、王妃がいないのは問題ではないかと議題には上がったが、王妃、五大公爵家全てが、必要ない、代わりに立てる者がいるのかと言うと皆が黙り込んだ。
そして、リール国王陛下は全貴族、全国民に告げた。
「王妃は、私の愛する妻であるサリーだけだ」
事情を知っている者はきっと嘲笑うだろうが、それでもリールは償いの気持ちを忘れず、横にサリーを感じながら、前を向き続けた。その後ろには変わらず、クリコットが深く頷きながら立ち続けた。
レベッカもその言葉を聞いて、ちゃんと償い続ていますよと、あの日の朝のような空に声を掛け、きっとサリー様ならこう言うだろうと思った。
「殿下の愛は、愛とは呼ばせない」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
最後までお読みいただきありがとうございます。
番外編として、それぞれの話を書こうかとも考えていますが、
今度はすべて捨てた別の話を書きたくなりまして(新作を投稿しています)、
ひとまずこちらは完結とさせていただきます。
こんなに多くの方に読んで貰えるとは思っておらず、とても励みになりました。
お読みいただいた皆さま、本当にありがとうございました。
サリーは願い通りに沢山の翻訳を行い、学術書、小説、児童書、絵本と多岐に渡り、『コルボリット』もさらに翻訳本の言語は増えていた。
体調を崩し、始めは『コルボリット』の最新刊の翻訳が終わった後だったため、疲れが出たのだと思っていたが、そうではなかった。サリーはおそらく以前から不調があったはずだが、サリーは気付かなかったと、認めなかった。皆は必死で治療法を探したが、どの医者にも難しいと言われてしまった。
サリー自身はよく生きたからと言って、死を受け入れていた。準備していたように、必要なところに文を送り、死後の手配を行うようになっていたが、皆は刻一刻と迫っていても、諦めることが出来ず、受け入れられなかった。
ミーラ王子は立派に成長し、義姉のノーラ公爵家の嫡男夫妻の娘・ルリアと結婚し、娘も生まれており、孫を抱くことも出来ていた。ミーラによく似た顔立ちであったため、サリーによく似ていた。
サリーを励ましに訪れる者は後を絶たず、殿下、レベッカ、兄・レオは私だったら良かったのにと、サリーには言わなかったが、皆が心の中で思っていた。
ペルガメント侯爵家は代替わりにしており、両親は暴飲暴食が祟ったのか、領地で静養している。
マリーヌ王女は辺境伯家に嫁いでおり、その際にあれこれいう者にサリーが後ろ盾にもなってくれた。感謝しても感謝し切れない。まだ恩が返せていないと、レベッカは礼拝堂でひたすらに祈り続けていた。
そして、その日は気持ちのいい朝に訪れた。
呼吸が浅くなり、レオ達は間に合わなかったが、両陛下、殿下、息子夫妻、孫、レベッカに看取られて、サリー・オールソン王太子妃は静かに旅立った。弔いの鐘が鳴り響くと、皆が膝をついて、悲しみに暮れた。
殿下はサリーを愛していると他の者に言うことはあっても、サリーが亡くなる間際でも二度と告げることは出来なかった。言葉の代わりに涙を流し、静かに見送った。だが、届かなくてもいい、心の中では愛していると伝え続けた。
国外にも知らされると、早過ぎると悲しみに包まれ、多くの国が追悼の意を表し、必ずと言っていいほど感謝の言葉も同時に発表された。
サリーの残したお金、これからも入って来るお金は、王家とは別に財団が設立され、ミーラ、ルリア、そしてレベッカ、マリーヌが管理することになった。これはサリーの遺言であった。
「国が手の届かないところに届けて欲しい。四人もいたら不正も出来ないでしょう」
「んもう、こんな時に嫌味を言うなんて」
「ふふ、一人でやろうとするから駄目なのよ。皆で仲良くやって頂戴ね」
レベッカは怒りながら、笑いながら、泣いていた。自身の死でさらに中途半端な存在となる、レベッカに道筋を与えてくれた。サリーは側妃見習いと兼任させるつもりだったが、葬儀が終わるとすぐに側妃見習いを辞め、サリー財団の理事に就任した。
ペルガメント前侯爵夫妻も葬儀には間に合い、『起きるんだ』『なんでよ』と喚き、相変わらず、ひと騒ぎ起こした。さすがに涙を流してはいたが、皆が今さらだと、レオと孫と曾孫に怒られて、そそくさと帰らされた。
ルアース・ベルア氏もサリーの葬儀に参列し、形見分けとして、サリーのビアロ語の辞書を受け取って、国に戻って行った。
その後に、サリーが広めてくれた翻訳本を、今度は翻訳家たちと、私自身が死ぬまでは守り続けると、これはサリーの願いでもあると、そしてサリーがモデルではないかと言われていたキャラクターは、サリーがモデルだと認め、サリーは物語の中で生き続けると追悼文を発表した。
サリーの金庫はレオに、その他は皆で分けるように言われており、殿下はサリーの髪の毛をリボンで結んで、執務室に置いた。ただし、サリーが出て行こうとしていた際の鞄だけはどこにもなく、誰も心当たりがなかった。
パール国王陛下が崩御して、リールが国王になった時、王妃がいないのは問題ではないかと議題には上がったが、王妃、五大公爵家全てが、必要ない、代わりに立てる者がいるのかと言うと皆が黙り込んだ。
そして、リール国王陛下は全貴族、全国民に告げた。
「王妃は、私の愛する妻であるサリーだけだ」
事情を知っている者はきっと嘲笑うだろうが、それでもリールは償いの気持ちを忘れず、横にサリーを感じながら、前を向き続けた。その後ろには変わらず、クリコットが深く頷きながら立ち続けた。
レベッカもその言葉を聞いて、ちゃんと償い続ていますよと、あの日の朝のような空に声を掛け、きっとサリー様ならこう言うだろうと思った。
「殿下の愛は、愛とは呼ばせない」
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最後までお読みいただきありがとうございます。
番外編として、それぞれの話を書こうかとも考えていますが、
今度はすべて捨てた別の話を書きたくなりまして(新作を投稿しています)、
ひとまずこちらは完結とさせていただきます。
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お読みいただいた皆さま、本当にありがとうございました。
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