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後悔3

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「離縁状も私が盗んだ」
「そうでしょうね…出産の時かしら?」
「ああ、そうだ。最低だろう」
「ええ、あの時、あなたにもう一度、最後に賭けてみたの」
「私はサリーの気持ちを踏み躙った。だが、飛び出し、逃げてもおかしくなかった。そう思うのだが」
「考えなかったわけではないわ、でも私は犯罪者にはなれなかった。兄に、ルアース・ベルア様に迷惑が掛かるから、だから真正面から出て行くしかなかった」
「犯罪者って…」
「王家から勝手に逃げた、そう言われたでしょう」
「それは…」

 サリーがあの日、こっそり出て行っていたら、大規模な捜索が行われていただろう。そしてサリーの身勝手な行動にされた可能性は否定できない。

「守って貰った恩義もあった」
「守って?私に、ではないよな」
「ええ、前国王陛下、前王妃陛下です」
「お祖父様とお祖母様?」
「ええ、見付けて下さったのは前王妃陛下のクレア様です。私を守るために殿下の婚約者にしたの」
「守る?」
「クレア様は私の記憶力は危険だと判断した、利用されたり、攫われてしまう可能性だってある。王太子の婚約者とすれば、親からも周りからも守ることが出来ると、もし何か起きても、動く大義名分が出来るからと」

 サリーに婚約者がいなければ、政治や、立場の高い者に、利用される可能性は高かっただろう。他国の王家などが侯爵家に無理を言えば、両親は抗えない。旨みのある話なら、飛び付いたかもしれない。

「お祖母様が…だが、ペルガメント侯爵が売り込んだと」
「あんな父が売り込んだくらいで、王太子の婚約者にはなれませんよ。表向きはそうしただけです」
「そうだったのか」
「ええ、クレア様と出会い、亡くなるまでが一番幸せでした。前陛下、ミース様とも一緒に色んな話をしました」
「そうだったのか」

 お茶を飲んだりしていたことは見掛けていたが、殿下も勉強に忙しくしていたため、三人で親しくしていたことは知らなかった。

「クレア様に言われたのです。『サリー、あなたは自身が思う以上に必要とされる力を持っているわ。だから、もしどうしても叶えたい想いがあったら、盤石な時に使いなさい。それまで刃先を向けずに、一番いい時までずっと研いでおくの。そうすれば願いは必ず叶うから』と、それを実行したのです。成功と言えるでしょう」
「ああ、私もサリーは無敵だと感じていた」
「無敵?そんなことはないです」
「いや、サリーは無敵だよ」

「代理のこともクレア様に聞いていたのです。『婚約者候補者の中に自分の方が相応しかったとずっと言って来る人がいたの。結婚後も変わらなくて、ならばやってみなさいと代理に指名したの。彼女も既に結婚していたのだけど、陛下の色を纏って、意気揚々とやって来たの。でも学んでから使うことがなかったのか、三ヶ国語が話せなくなっていて、周りにも私の方が相応しかったと言っていたものだから、それからは片肩身が狭い思いをしていたわ』とおっしゃっていました」

「どこの家だ?」
「ティファナ先生のご実家、リリク伯爵家よ」
「っな、母上は何も知らずに」
「そうでしょうね、でもクレア様はそんな狭量な方ではないわ。ティファナ先生をきちんと見て、許可したそうよ」
「娘は良かったが、孫娘に…」

 その孫娘に現を抜かすした孫をお祖母様はどう思っただろう。きっと怒るでもなく、きっと情けないと溜息を漏らしただろう。顔向けが出来ない。

「ティファナ先生はいい先生でした」
「だが、褒めなかったと」
「おそらく、王妃様に言われていたのではないでしょうか。別に褒められることは重要ではなかったので、気になりませんでした。それよりもルアンナの母親に褒められたいという気持ちが理解できなかったくらいです」

 サリーの人格形成に大いに関わっているのは、あのペルガメント侯爵夫妻である。だが、家庭教師を雇って勉強をさせて、学力は分かっているはずだ。それなのに娘を褒めないということはないだろう。

「褒められたことはないのかい?」
「多分、ありますよ。私の娘は天才だとか、育て方が良かったのねとか、自分の娘だから当たり前だとか」
「最初以外、あまり褒められたように感じないのだが」
「あの二人は自分が中心にあっての子どもですから、主観が自分なのです。ですから褒められても、嬉しくはない。でもルアンナは母親に褒められたい。だから、たかがそんなことでと思っていたのです。でも親が違えば、価値も違うんでしょうね。私には分かりません」
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