上 下
59 / 203

無縁

しおりを挟む
 妃殿下の心根を知ったルイソードの元へ、クイスラー侯爵家のアドルがやって来た。同級生ではあるが、正直、他の友人と一緒にいた際に、互いにその場にいたことがあるというべき間柄で、親しいとは言えないが、悪い人間ではない。

 伺いを立てて、やって来たので、訪問を許可はしたが、内容は分かっている。

「離縁したって、本当なのかい?」
「ああ、事実だ」
「仲良くやっていたじゃないか、急にどうしたんだい?」
「何も聞いていないのか?」
「あっ、いや…」
「私の心配ではなく、自分の心配で来たんだろう?友人たちの中で、私を訪ねられる人間は限られるからね」

 ルアンナと一緒にいたというステファー嬢とミンア嬢とカトレア嬢。アドルの妻が伯爵家のステファ―嬢である。皆、結婚しているが、アドルが一番爵位が高く、他の者は生家も含めても、伯爵家と子爵家である。

「皆に泣き付かれて、やって来たというところかな?だが、私は答えを持っていないから、答えようがない」
「待ってくれ、離縁の理由は何なんだ?」
「人間性の問題だよ、知っているのだろう?」

 アズラー侯爵夫人が不貞のことを話しているとは思えない。殿下は口止めをしなかったが、相手探しになれば、面倒なことになるだろう。私も公にすることを望んではいない、妃殿下もあの口振りだと同じだろう。

「いや、ルアンナ嬢が妃殿下へ暴言を吐いていたというのは聞いたが、内容まではよく憶えていないと、詳しくは知らない」

 全員を訪ねたと言っていた、おそらく三人の夫人たちは連絡を取り合ったのだろう。もしかしたら、ルアンナにも取ろうとしたのかもしれない。だが、アズラー侯爵夫妻が取らせることはないだろう。

「そうか。で、何だ?手短に話してもらいたい」
「ああ、すまない。どうして今さら問題になったのか、知りたくて」
「それなら先程、答えただろう?私は答えを持っていないと」
「だが、何か聞いたのではないか」
「何かって何だ?」
「いや、それは…」

 実際、妃殿下からは何も聞いていない、ルアンナの暴言は書かれていたが、他の者の発言は書かれていなかった。だが、何度も一緒におり、おそらく咎めもせず一緒にいたような人間だ、何か言っている可能性は高い。

「奥方は何と言っているのだ?アズラー侯爵夫人が聞きに来ただろう?」
「暴言の書かれた紙を見せられて、事実かと聞かれたと、よく憶えてはいなかったが、王家に訊ねましょうかと言われて、認めてしまったと」
「裏付けが取れているではないか」
「責任を感じているんだ。自分が証言したせいで、離縁になったのではないかと」
「違うだろう?」

 そんなはずはない、我々の心配などしていない。もはやルアンナの心配をしていればいい方だろう。アズラー侯爵夫人も巧みな聞き出し方である、三人を連絡を取らせない内に一気に訪問し、王家に訊ねると言われれば、大々的に調べられる可能性があるため、正直に話しただろう。

「えっ、違わないさ」
「奥方も問題にされるのではないか、自分に火の粉が降りかからないか、だろう?」
「問題になっているのか」
「だから、言っているじゃないか、私は答えを持っていない」
「だが、何か知っているのなら教えて欲しい。子どもも生まれたばかりなんだ、子を持つ親なら分かるだろう?」

 確かに子どもは数ヶ月前に生まれたばかりだと聞いてる。男児であったため、ルアンナが次は男の子がいいと言っていたが、もう私には縁のない相手だ。

「私は本当に知らないが、謝罪に行くつもりなのか?」
「ああ、当然だ」
「ならば、そうすればいいじゃないか」
「だが、ステファーは同調したことはあったかもしれないと、言っていた」

 アドルはステファー夫人を信じたいのか、愛しているのだろう。だが、私なら事実が知りたい。実際、これで良かったと思っている。

「だから怖くなった?憶えていないというのは便利な言葉だものな。妃殿下の記憶力でなくとも、された方は憶えているものだよ」
「そう、だな…」
「君も想像が付いているのだろう?元妻があれだけのことを言って、夫人は同調していなくとも、何度も一緒にいた、咎めもしなかったのではないか?私はそのような人間を妻にはできない。だから、私は離縁した。もういいか、商談があるんだ」
「ああ、時間を取らせてすまなかった…」

 その後、何か行動を見せるかと思ったが、アドルも他の者も妃殿下に接触した様子はなかった。おそらく、全員で何かしらの結論を出したのだろう。

 妃殿下がどこまで考えていたかのかは分からないが、私はアドルに毒を盛ることが出来ただろう。皆でビクビクしながら過ごせばいい。

 ルイソードが思った通り、夫人たちは三人で集まって、大事になることを恐れ、口裏を合わせて、ルアンナは妃殿下を目の敵にしていたが、よく憶えていない、何か同調するようなことを言っていたとしても、爵位が下の私たちのことなんて、妃殿下は怒っていないかもしれない、もし咎められることがあれば、その際に必ず責任を持って、謝罪すると夫を説得した。

 夫たちは自分勝手な説得に、子どもがいたり、家同士の関係もあるため、一応は納得をしたが、妻への疑念は消えず、距離が出来るのは当然であった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

巻き戻り令嬢は長生きしたい。二度目の人生はあなた達を愛しません

せいめ
恋愛
「アナ、君と私の婚約を解消することに決まった」  王太子殿下は、今にも泣きそうな顔だった。   「王太子殿下、貴方の婚約者として過ごした時間はとても幸せでした。ありがとうございました。  どうか、隣国の王女殿下とお幸せになって下さいませ。」 「私も君といる時間は幸せだった…。  本当に申し訳ない…。  君の幸せを心から祈っているよ。」  婚約者だった王太子殿下が大好きだった。  しかし国際情勢が不安定になり、隣国との関係を強固にするため、急遽、隣国の王女殿下と王太子殿下との政略結婚をすることが決まり、私との婚約は解消されることになったのだ。  しかし殿下との婚約解消のすぐ後、私は王命で別の婚約者を決められることになる。  新しい婚約者は殿下の側近の公爵令息。その方とは個人的に話をしたことは少なかったが、見目麗しく優秀な方だという印象だった。  婚約期間は異例の短さで、すぐに結婚することになる。きっと殿下の婚姻の前に、元婚約者の私を片付けたかったのだろう。  しかし王命での結婚でありながらも、旦那様は妻の私をとても大切にしてくれた。  少しずつ彼への愛を自覚し始めた時…  貴方に好きな人がいたなんて知らなかった。  王命だから、好きな人を諦めて私と結婚したのね。  愛し合う二人を邪魔してごめんなさい…  そんな時、私は徐々に体調が悪くなり、ついには寝込むようになってしまった。後で知ることになるのだが、私は少しずつ毒を盛られていたのだ。  旦那様は仕事で隣国に行っていて、しばらくは戻らないので頼れないし、毒を盛った犯人が誰なのかも分からない。  そんな私を助けてくれたのは、実家の侯爵家を継ぐ義兄だった…。  毒で自分の死が近いことを悟った私は思った。  今世ではあの人達と関わったことが全ての元凶だった。もし来世があるならば、あの人達とは絶対に関わらない。  それよりも、こんな私を最後まで見捨てることなく面倒を見てくれた義兄には感謝したい。    そして私は死んだはずだった…。  あれ?死んだと思っていたのに、私は生きてる。しかもなぜか10歳の頃に戻っていた。  これはもしかしてやり直しのチャンス?  元々はお転婆で割と自由に育ってきたんだし、あの自分を押し殺した王妃教育とかもうやりたくたい。  よし!殿下や公爵とは今世では関わらないで、平和に長生きするからね!  しかし、私は気付いていなかった。  自分以外にも、一度目の記憶を持つ者がいることに…。      一度目は暗めですが、二度目の人生は明るくしたいです。    誤字脱字、申し訳ありません。  相変わらず緩い設定です。

あなたが望んだ、ただそれだけ

cyaru
恋愛
いつものように王城に妃教育に行ったカーメリアは王太子が侯爵令嬢と茶会をしているのを目にする。日に日に大きくなる次の教育が始まらない事に対する焦り。 国王夫妻に呼ばれ両親と共に登城すると婚約の解消を言い渡される。 カーメリアの両親はそれまでの所業が腹に据えかねていた事もあり、領地も売り払い夫人の実家のある隣国へ移住を決めた。 王太子イデオットの悪意なき本音はカーメリアの心を粉々に打ち砕いてしまった。 失意から寝込みがちになったカーメリアに追い打ちをかけるように見舞いに来た王太子イデオットとエンヴィー侯爵令嬢は更に悪意のない本音をカーメリアに浴びせた。 公爵はイデオットの態度に激昂し、処刑を覚悟で2人を叩きだしてしまった。 逃げるように移り住んだリアーノ国で静かに静養をしていたが、そこに1人の男性が現れた。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※胸糞展開ありますが、クールダウンお願いします。  心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。イラっとしたら現実に戻ってください。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

裏切りの代償

志波 連
恋愛
伯爵令嬢であるキャンディは婚約者ニックの浮気を知り、婚約解消を願い出るが1年間の再教育を施すというニックの父親の言葉に願いを取り下げ、家出を決行した。 家庭教師という職を得て充実した日々を送るキャンディの前に父親が現れた。 連れ帰られ無理やりニックと結婚させられたキャンディだったが、子供もできてこれも人生だと思い直し、ニックの妻として人生を全うしようとする。 しかしある日ニックが浮気をしていることをしり、我慢の限界を迎えたキャンディは、友人の手を借りながら人生を切り開いていくのだった。 他サイトでも掲載しています。 R15を保険で追加しました。 表紙は写真AC様よりダウンロードしました。

どうやら婚約者が私と婚約したくなかったようなので婚約解消させて頂きます。後、うちを金蔓にしようとした事はゆるしません

しげむろ ゆうき
恋愛
 ある日、婚約者アルバン様が私の事を悪く言ってる場面に遭遇してしまい、ショックで落ち込んでしまう。  しかもアルバン様が悪口を言っている時に側にいたのは、美しき銀狼、又は冷酷な牙とあだ名が付けられ恐れられている、この国の第三王子ランドール・ウルフイット様だったのだ。  だから、問い詰めようにもきっと関わってくるであろう第三王子が怖くて、私は誰にも相談できずにいたのだがなぜか第三王子が……。 ○○sideあり 全20話

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

私の知らぬ間に

豆狸
恋愛
私は激しい勢いで学園の壁に叩きつけられた。 背中が痛い。 私は死ぬのかしら。死んだら彼に会えるのかしら。

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

あなたへの想いを終わりにします

四折 柊
恋愛
 シエナは王太子アドリアンの婚約者として体の弱い彼を支えてきた。だがある日彼は視察先で倒れそこで男爵令嬢に看病される。彼女の献身的な看病で医者に見放されていた病が治りアドリアンは健康を手に入れた。男爵令嬢は殿下を治癒した聖女と呼ばれ王城に招かれることになった。いつしかアドリアンは男爵令嬢に夢中になり彼女を正妃に迎えたいと言い出す。男爵令嬢では妃としての能力に問題がある。だからシエナには側室として彼女を支えてほしいと言われた。シエナは今までの献身と恋心を踏み躙られた絶望で彼らの目の前で自身の胸を短剣で刺した…………。(全13話)

処理中です...