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陳謝
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リール殿下はルイソード・クリジアンに謝罪に伺いたいと文を送ったが、こちらが出向きますとと、訪問を受けることになった。
元々、父親であるクリジアン公爵と会うことはあっても、ルイソードとは一年間は学園で一緒ではあったが、話すことはなく、さすがの殿下も不貞の相手の夫、当時は婚約者に会うことは初めてであった。
これから先、クリジアン公爵から、ルイソードから、協力を得られることはないかもしれないが、受け入れるつもりである。
「私が出向かなければいかないところ、申し訳ない」
「いえ、殿下にも妃殿下にも一度は話をしなければと思っておりましたから」
「ああ、聞いている」
ルイソードは本日、サリーへの訪問許可も取っていると、クリコットから報告を受けている。被害者同士、気が合うだろうと思うと気が重いが、仕方ない。
「何を言われても、不敬としないことを約束する。そして、当時婚約者であったルアンナ・アズラーとの不貞行為を認め、謝罪する。申し訳なかった。慰謝料を請求してもらって構わない」
「いえ、笑って許せるということはありませんが、既に離縁しましたし、慰謝料も結構です。不貞については、時間のおかげか…正直、そこまで怒りはないんです。当時知っていたら、こうはならなかったかもしれませんが」
「許す許さないではなく、お金の問題ではないことも分かっているが、事実は事実として、慰謝料は受け取って欲しい」
受け取らないのではないかとは思っており、既に慰謝料は用意してあった。母上からも慰謝料として使いなさいと私財からお金を渡され、十分な額であるはずだ。
「承知しました」
「本当にすまなかった」
殿下は座ったままではあるが、しっかりと頭を下げ、ルイソードもこれが最大限の謝罪だろうと、止めることなく、見届けた。
「一つ、伺ってもよろしいでしょうか」
「ああ、何でも嘘偽りなく答える」
「ルアンナをお好きだったのでしょうか」
「正直に答えるが、好きだったわけではない。私は相手は控えるが、他にも不貞を犯しているのだ。だが、皆、婚約者がいない者だった。サリーと婚約していたのにと言われれば、何も言えないのだが、愚かであった。だからアズラー侯爵令嬢に言い寄られたが、君がいることは分かっていたたので、拒絶したのだが…」
殿下は少しでも不快な思いをさせないために、どう伝えるべきか、悩んでいた。離縁しても、娘の母親、その不貞相手から、言われて気分がいいはずがない。
「ありのまま話してくださって結構です」
「では、事実を話す。当時、アズラー侯爵令嬢は真面目で、礼儀正しい令嬢だと思っていたのもあり、何度か断ったのだが、サリーがいる限り、正妃になるのは叶わない。だから思い出が欲しいと、それで記憶にある限り、三回不貞行為を犯した…」
「そうでしたか、ルアンナが誘ったというのは事実のようですね」
ルアンナの発言は嘘だとは思っていたが、否定できる材料がなかった。だが、ここまで来て殿下が嘘を付く必要はない。若気の至りだと言われればそれまでだが、押しと欲望に弱いのかもしれない。
「だが、私も拒絶し切れなかった責任がある」
「殿下を憎むことはしません。冷静になって考えてみると、不貞よりも妃殿下への暴言と暴力の方が許せませんでした。おそらく不貞もその延長だったのでしょう。身体を使おうなどと、令嬢のすることではありません。そのような人間が妻であること、母親であることの方が耐えらなかったのです」
確かに不貞にも驚きはした、アズラー侯爵家の者が不貞を犯すはずがないとどこかで思っていたからだ。だが、より許せなかったのは、妃殿下への暴言と暴力の方であった。陰湿に執拗に何度も浴びせ掛け、暴力を振い、さらに不貞まで犯し、優越感に浸っていたような人間を、私は許すことが出来ない。
「それは私も遺憾である。だが、私にも責任がある。サリーに償い続けるつもりだ」
償えるかは分からないが、殿下にはもうその道しか残されていない。
ルイソードは殿下を声を荒げることも、非難することもなく、至って冷静に殿下と話をして、早々に退席した。二歳でも年上の風格なのか、殿下の緊張は当然だが、控えていたクリコットも掌は汗で濡れていた。
元々、父親であるクリジアン公爵と会うことはあっても、ルイソードとは一年間は学園で一緒ではあったが、話すことはなく、さすがの殿下も不貞の相手の夫、当時は婚約者に会うことは初めてであった。
これから先、クリジアン公爵から、ルイソードから、協力を得られることはないかもしれないが、受け入れるつもりである。
「私が出向かなければいかないところ、申し訳ない」
「いえ、殿下にも妃殿下にも一度は話をしなければと思っておりましたから」
「ああ、聞いている」
ルイソードは本日、サリーへの訪問許可も取っていると、クリコットから報告を受けている。被害者同士、気が合うだろうと思うと気が重いが、仕方ない。
「何を言われても、不敬としないことを約束する。そして、当時婚約者であったルアンナ・アズラーとの不貞行為を認め、謝罪する。申し訳なかった。慰謝料を請求してもらって構わない」
「いえ、笑って許せるということはありませんが、既に離縁しましたし、慰謝料も結構です。不貞については、時間のおかげか…正直、そこまで怒りはないんです。当時知っていたら、こうはならなかったかもしれませんが」
「許す許さないではなく、お金の問題ではないことも分かっているが、事実は事実として、慰謝料は受け取って欲しい」
受け取らないのではないかとは思っており、既に慰謝料は用意してあった。母上からも慰謝料として使いなさいと私財からお金を渡され、十分な額であるはずだ。
「承知しました」
「本当にすまなかった」
殿下は座ったままではあるが、しっかりと頭を下げ、ルイソードもこれが最大限の謝罪だろうと、止めることなく、見届けた。
「一つ、伺ってもよろしいでしょうか」
「ああ、何でも嘘偽りなく答える」
「ルアンナをお好きだったのでしょうか」
「正直に答えるが、好きだったわけではない。私は相手は控えるが、他にも不貞を犯しているのだ。だが、皆、婚約者がいない者だった。サリーと婚約していたのにと言われれば、何も言えないのだが、愚かであった。だからアズラー侯爵令嬢に言い寄られたが、君がいることは分かっていたたので、拒絶したのだが…」
殿下は少しでも不快な思いをさせないために、どう伝えるべきか、悩んでいた。離縁しても、娘の母親、その不貞相手から、言われて気分がいいはずがない。
「ありのまま話してくださって結構です」
「では、事実を話す。当時、アズラー侯爵令嬢は真面目で、礼儀正しい令嬢だと思っていたのもあり、何度か断ったのだが、サリーがいる限り、正妃になるのは叶わない。だから思い出が欲しいと、それで記憶にある限り、三回不貞行為を犯した…」
「そうでしたか、ルアンナが誘ったというのは事実のようですね」
ルアンナの発言は嘘だとは思っていたが、否定できる材料がなかった。だが、ここまで来て殿下が嘘を付く必要はない。若気の至りだと言われればそれまでだが、押しと欲望に弱いのかもしれない。
「だが、私も拒絶し切れなかった責任がある」
「殿下を憎むことはしません。冷静になって考えてみると、不貞よりも妃殿下への暴言と暴力の方が許せませんでした。おそらく不貞もその延長だったのでしょう。身体を使おうなどと、令嬢のすることではありません。そのような人間が妻であること、母親であることの方が耐えらなかったのです」
確かに不貞にも驚きはした、アズラー侯爵家の者が不貞を犯すはずがないとどこかで思っていたからだ。だが、より許せなかったのは、妃殿下への暴言と暴力の方であった。陰湿に執拗に何度も浴びせ掛け、暴力を振い、さらに不貞まで犯し、優越感に浸っていたような人間を、私は許すことが出来ない。
「それは私も遺憾である。だが、私にも責任がある。サリーに償い続けるつもりだ」
償えるかは分からないが、殿下にはもうその道しか残されていない。
ルイソードは殿下を声を荒げることも、非難することもなく、至って冷静に殿下と話をして、早々に退席した。二歳でも年上の風格なのか、殿下の緊張は当然だが、控えていたクリコットも掌は汗で濡れていた。
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