上 下
52 / 203

不遜

しおりを挟む
 ルイソードは怒りが冷めて、ルアンナに呆れた気持ちになっていった。演技だったとまでは言わないが、あまりに考えが厚かましく、図々しい。

「私は婚約破棄したとしても、君は殿下の正妃はおろか、側妃にもなれなかった。今頃、何をしていたんだろうな」
「な、にって…」
「最後までしなかったからと言いわけをして、不貞を犯した阿婆擦れとして有名になれたかもしれませんね」

 両親は口にしたくもなかった例えをしても、受け止めない娘に諦め、無言になっていたため、ルトアスの冷えた発言は部屋に響き渡った。

「酷い!そんなはずないわ。ルトは知らないだろうけど、私は憧れられて、理想とされる令嬢だったのよ!」
「そこだよ、何なんだ、その己惚れは。ずっと思っていたよ。姉さんは確かに勉強が出来ないとは言わないが、平均的な貴族令嬢だ。私は何度も妃殿下と比べることすら、烏滸がましいと何度も言ったよね?」
「ずっと比べられて来たからよ!」

 私は直接言われたことはないが、ずっと比べられていた。母親にも、同級生にも。サリーが優れているのは語学力でもあるが、記憶力だということは分かっていた。勿論、レベッカ側妃見習いと違って、正妃も側妃の条件も理解している。

 だからこそサリーを攻撃した、いなくなれば、当時の学園の生徒で三ヶ国語が話せるという生徒は聞いたことがなく、爵位も合わせれば、私は最有力候補になる。王太子が相手がいないからと、結婚しないことはないだろうから、正妃は難しくとも、何か条件も変わるのではないかと思っていた。

「妃殿下は別格として、思っているなら分かるよ。姉さんは並んでいると思っているよね?だから不貞も出来たの?」
「並んでいるじゃない!」
「どこがだよ、ノワンナ語は出来ても、アペル語とカベリ語は読み書きですら、出来るとは言えないと聞いている。成績だって、おそらく妃殿下を超えたこともないだろう?かろうじて並んでいると言えるのは爵位だけ」
「妃殿下は記憶力がいいだけじゃない!」
「だから、何だ?妃殿下は記憶力がいいことで驕ったりしたか?頭が悪いと馬鹿にされたとでも言うのか?」

 ルアンナは一方的に話すだけで、サリーと会話という会話をしたことはない。そもそもサリーには同級生に親しい相手はいなかった。親しく話しているのは、世代の違う者や他国の者が主であった。

「比べたことなんてないわ…ルトアスの言う通り、違い過ぎるもの」

 ティファナは下を向いたまま、落ち着いた声で反論した。

「嘘よ!直接言わないだけで、ずっと比べていたくせに!」
「所作、ダンス、確かにこの辺りなら、あなたも妃殿下も平均的だったでしょう。でもその他は、比べられるところがないの…」
「あるでしょう!沢山!」

 ルアンナはここぞとばかりに噛みついたが、ティファナは顔を上げる気はなく、そのまま続けた。

「あなた、百頁以上ある本を丸々一冊暗記できる?出来ないでしょう?」
「っな、それは、頑張れば」
「無理よ、一年以上前に一度読んだ本なのに、何頁に書いてありますって、平気で言うのよ。普通はタイトルを覚えているだけで、記憶力がいい方よ。あなたは良くて、その程度」
「っな!自分が優秀だからって、馬鹿にするような言い方しないで!」

 ルアンナは息を荒げて、怒鳴りつけている。皆も母親へ、妃殿下への劣等感は感じていただろうことは分かっていた。ローサムとルトアスが知る限り、ティファナがこのような言い方をしたの初めてである。

「地図だって、現在と過去のものと頭の中で比べられるの。凄いでしょう?文字、図、音、全て記憶できるの。だからと言って、憶えるだけではない、理解して、組み合わせて、活かすことも出来る。だからあんなに言語が操れるの。おそらく、文字を憶えて、正しい音に乗せて、発音する。私には絶対無理だわ。あなたに出来る?あなたも無理でしょう?」
「頑張れば、出来たかもしれないじゃない…」
「愚かね…」

 身を持って感じることが出来たティファナだからこその言葉であった。そして、ルアンナには敢えて言わずにいたことであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

あなたへの想いを終わりにします

四折 柊
恋愛
 シエナは王太子アドリアンの婚約者として体の弱い彼を支えてきた。だがある日彼は視察先で倒れそこで男爵令嬢に看病される。彼女の献身的な看病で医者に見放されていた病が治りアドリアンは健康を手に入れた。男爵令嬢は殿下を治癒した聖女と呼ばれ王城に招かれることになった。いつしかアドリアンは男爵令嬢に夢中になり彼女を正妃に迎えたいと言い出す。男爵令嬢では妃としての能力に問題がある。だからシエナには側室として彼女を支えてほしいと言われた。シエナは今までの献身と恋心を踏み躙られた絶望で彼らの目の前で自身の胸を短剣で刺した…………。(全13話)

私はただ一度の暴言が許せない

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
厳かな結婚式だった。 花婿が花嫁のベールを上げるまでは。 ベールを上げ、その日初めて花嫁の顔を見た花婿マティアスは暴言を吐いた。 「私の花嫁は花のようなスカーレットだ!お前ではない!」と。 そして花嫁の父に向かって怒鳴った。 「騙したな!スカーレットではなく別人をよこすとは! この婚姻はなしだ!訴えてやるから覚悟しろ!」と。 そこから始まる物語。 作者独自の世界観です。 短編予定。 のちのち、ちょこちょこ続編を書くかもしれません。 話が進むにつれ、ヒロイン・スカーレットの印象が変わっていくと思いますが。 楽しんでいただけると嬉しいです。 ※9/10 13話公開後、ミスに気づいて何度か文を訂正、追加しました。申し訳ありません。 ※9/20 最終回予定でしたが、訂正終わりませんでした!すみません!明日最終です! ※9/21 本編完結いたしました。ヒロインの夢がどうなったか、のところまでです。 ヒロインが誰を選んだのか?は読者の皆様に想像していただく終わり方となっております。 今後、番外編として別視点から見た物語など数話ののち、 ヒロインが誰と、どうしているかまでを書いたエピローグを公開する予定です。 よろしくお願いします。 ※9/27 番外編を公開させていただきました。 ※10/3 お話の一部(暴言部分1話、4話、6話)を訂正させていただきました。 ※10/23 お話の一部(14話、番外編11ー1話)を訂正させていただきました。 ※10/25 完結しました。 ここまでお読みくださった皆様。導いてくださった皆様にお礼申し上げます。 たくさんの方から感想をいただきました。 ありがとうございます。 様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。 ただ、皆様に楽しんでいただける場であって欲しいと思いますので、 今後はいただいた感想をを非承認とさせていただく場合がございます。 申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。 もちろん、私は全て読ませていただきます。

私の知らぬ間に

豆狸
恋愛
私は激しい勢いで学園の壁に叩きつけられた。 背中が痛い。 私は死ぬのかしら。死んだら彼に会えるのかしら。

王子妃だった記憶はもう消えました。

cyaru
恋愛
記憶を失った第二王子妃シルヴェーヌ。シルヴェーヌに寄り添う騎士クロヴィス。 元々は王太子であるセレスタンの婚約者だったにも関わらず、嫁いだのは第二王子ディオンの元だった。 実家の公爵家にも疎まれ、夫となった第二王子ディオンには愛する人がいる。 記憶が戻っても自分に居場所はあるのだろうかと悩むシルヴェーヌだった。 記憶を取り戻そうと動き始めたシルヴェーヌを支えるものと、邪魔するものが居る。 記憶が戻った時、それは、それまでの日常が崩れる時だった。 ★1話目の文末に時間的流れの追記をしました(7月26日) ●ゆっくりめの更新です(ちょっと本業とダブルヘッダーなので) ●ルビ多め。鬱陶しく感じる方もいるかも知れませんがご了承ください。  敢えて常用漢字などの読み方を変えている部分もあります。 ●作中の通貨単位はケラ。1ケラ=1円くらいの感じです。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界の創作話です。時代設定、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

どうやら婚約者が私と婚約したくなかったようなので婚約解消させて頂きます。後、うちを金蔓にしようとした事はゆるしません

しげむろ ゆうき
恋愛
 ある日、婚約者アルバン様が私の事を悪く言ってる場面に遭遇してしまい、ショックで落ち込んでしまう。  しかもアルバン様が悪口を言っている時に側にいたのは、美しき銀狼、又は冷酷な牙とあだ名が付けられ恐れられている、この国の第三王子ランドール・ウルフイット様だったのだ。  だから、問い詰めようにもきっと関わってくるであろう第三王子が怖くて、私は誰にも相談できずにいたのだがなぜか第三王子が……。 ○○sideあり 全20話

旦那様、離婚しましょう

榎夜
恋愛
私と旦那は、いわゆる『白い結婚』というやつだ。 手を繋いだどころか、夜を共にしたこともありません。 ですが、とある時に浮気相手が懐妊した、との報告がありました。 なので邪魔者は消えさせてもらいますね *『旦那様、離婚しましょう~私は冒険者になるのでお構いなく!~』と登場人物は同じ 本当はこんな感じにしたかったのに主が詰め込みすぎて......

彼女はいなかった。

豆狸
恋愛
「……興奮した辺境伯令嬢が勝手に落ちたのだ。あの場所に彼女はいなかった」

処理中です...