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アズラー侯爵家は口を開けず、ルイソードも発する気力もなく、静かな時間が流れていたが、沈黙を破ったのは慌ててやって来た騒がしいルアンナの足音であった。応接室の扉を開けたルアンナは一縷の望みを掛けて、夫の名前を呼んだ。
「ルイ!」
「君には失望したよ…」
「待って、結婚前の話なの」
「仕方なくした、婚約だものな?」
「っい、違うわ」
「ルアンナ!!」
ローサムの怒気を帯びる声が発せられたが、ルアンナはルイソードの両腕を持ち、お構いなしに話し続ける。
「結婚してからは本当に何もないの。シュリアには母親が必要でしょう?シュリアはどこ?シュリアに会わせて」
「シュリアは乳母がきちんと面倒を看てくれている。君は婚約中だからいいだろうと考えているのか」
「私が誘ったんじゃないわ!殿下に誘われたの」
「ルアンナ!いい加減にしなさい。ここへは謝罪に来ているのだ、お前の言いわけを話しに来ているわけではない」
ルアンナは不貞が隠せないのならば、自分が誘ったのではないということにすればいいと、一晩で思い付いた浅墓な作戦だった。
「侯爵、話を一応聞きましょう。ルアンナ、座りなさい」
ローサムは苦い表情で頷き、ルイソードには一番聞く権利がある。
「事実か?もし嘘であったなら、君は王家にも嘘を付いたことになることを分かっていての発言か?」
「っえ、そ、そうよ」
「婚約者がいると断れば良かっただろう?」
「でも殿下だもの、断れるわけないじゃない。だから、許してくれませんか」
「では、事実を確認しよう。嘘であった場合は、内輪の話だけではなくなるが、いいんだな?」
「っあ、えっ、穏便に話しましょう」
「妃殿下にあれだけの発言をして置いて、誘われた、断れなかったというのは矛盾がある。諦められず、言い寄り、優越感に浸っていたという方が正当性がある。もしくは殿下に誘われ、君も喜んで受け入れたという場合もある。どうだ?」
一晩で考えた愚かな思惑は矛盾があり、誘われた、誘われていないという話ではない。不貞行為は行われており、目撃者もいる。
「妃殿下の全部、デタラメで、嘘かもしれないじゃない。なぜ皆、そう思わないの?家族でしょう?」
「ルイソード様、発言を失礼します」
ティファナがルイソードに断りを入れて、ルアンナに向いて話し始めた。
「ルアンナ。暴言については、あなたと一緒にいたというステファー嬢とミンア嬢とカトレア嬢に確認を取りました。皆、認めています」
「っな、どうしてよ、お母様、母親なら娘を守るべきでしょう!」
「違います。親であれば、罪を認めさせて、償うべきだと、私は考えます。あなたはシュリアが愚かなことをしたら、隠蔽することが親のすべきことだと思っているのですか。そんなことをすれば、また隠蔽すればいいと助長するだけです」
「親なら、守りたいと思うものでしょう!お母様は私を愛していないから、そんなことが言えるんだわ」
ティファナはルアンナを愛していないわけがない、サリーとルアンナに事故に遭ったとすれば、ルアンナを助けるだろう。ただし、それは二人が同じ状況であればの話であり、今、話しているのは罪を犯した娘である。
「これは言葉にしたくなかったことですが、もし、あなたの言葉で暴力で妃殿下が身体が不自由になっていたら、万が一にも自害されていたら、私たちの責任では足りません。おそらくこの世にはいなかったことでしょう。父も母も弟も、祖父母も、皆、あなたのせいで処刑されていたかもしれないのです」
一瞬、ルアンナはティファナの真剣な眼差しにたじろいだが、そんなことはあり得ないと首を振った。もしサリーが重病や亡くなっていたら、私がそれこそ正妃になれたかもしれないと想像していた。
「大袈裟よ!」
「あなたに何を言っても、もう駄目なのね…」
「だから、大袈裟なのよ!妃殿下も妃殿下だわ。あの時、言ってくれていたら、今更何なのよ!結婚してからは言っていないわ!過去のことじゃない、笑い話にすればいいじゃない。ルイもそう思うでしょう?」
「確かに私が知っていれば、君と結婚する選択肢はなかっただろうな」
「え」
「君は罪悪感があったのではないか、だから結婚してからはおくびも出さなかった」
「ち、違うわ…そうじゃない、わ」
ルアンナは紳士で優しいルイソードしか知らないため、始めは怒りはするだろうが、結局は許してくれるのではないかと期待していた。だからこそ、殿下に誘われて断れなかったなどと浅墓な思い付きをしたのだ。
罪悪感…は、あった。結婚してからはいい妻になろうとした、夫に馴れ馴れしい令嬢に渡したくないとも思った。そして、ルイソードに愛されている自信があった。
「ルイ!」
「君には失望したよ…」
「待って、結婚前の話なの」
「仕方なくした、婚約だものな?」
「っい、違うわ」
「ルアンナ!!」
ローサムの怒気を帯びる声が発せられたが、ルアンナはルイソードの両腕を持ち、お構いなしに話し続ける。
「結婚してからは本当に何もないの。シュリアには母親が必要でしょう?シュリアはどこ?シュリアに会わせて」
「シュリアは乳母がきちんと面倒を看てくれている。君は婚約中だからいいだろうと考えているのか」
「私が誘ったんじゃないわ!殿下に誘われたの」
「ルアンナ!いい加減にしなさい。ここへは謝罪に来ているのだ、お前の言いわけを話しに来ているわけではない」
ルアンナは不貞が隠せないのならば、自分が誘ったのではないということにすればいいと、一晩で思い付いた浅墓な作戦だった。
「侯爵、話を一応聞きましょう。ルアンナ、座りなさい」
ローサムは苦い表情で頷き、ルイソードには一番聞く権利がある。
「事実か?もし嘘であったなら、君は王家にも嘘を付いたことになることを分かっていての発言か?」
「っえ、そ、そうよ」
「婚約者がいると断れば良かっただろう?」
「でも殿下だもの、断れるわけないじゃない。だから、許してくれませんか」
「では、事実を確認しよう。嘘であった場合は、内輪の話だけではなくなるが、いいんだな?」
「っあ、えっ、穏便に話しましょう」
「妃殿下にあれだけの発言をして置いて、誘われた、断れなかったというのは矛盾がある。諦められず、言い寄り、優越感に浸っていたという方が正当性がある。もしくは殿下に誘われ、君も喜んで受け入れたという場合もある。どうだ?」
一晩で考えた愚かな思惑は矛盾があり、誘われた、誘われていないという話ではない。不貞行為は行われており、目撃者もいる。
「妃殿下の全部、デタラメで、嘘かもしれないじゃない。なぜ皆、そう思わないの?家族でしょう?」
「ルイソード様、発言を失礼します」
ティファナがルイソードに断りを入れて、ルアンナに向いて話し始めた。
「ルアンナ。暴言については、あなたと一緒にいたというステファー嬢とミンア嬢とカトレア嬢に確認を取りました。皆、認めています」
「っな、どうしてよ、お母様、母親なら娘を守るべきでしょう!」
「違います。親であれば、罪を認めさせて、償うべきだと、私は考えます。あなたはシュリアが愚かなことをしたら、隠蔽することが親のすべきことだと思っているのですか。そんなことをすれば、また隠蔽すればいいと助長するだけです」
「親なら、守りたいと思うものでしょう!お母様は私を愛していないから、そんなことが言えるんだわ」
ティファナはルアンナを愛していないわけがない、サリーとルアンナに事故に遭ったとすれば、ルアンナを助けるだろう。ただし、それは二人が同じ状況であればの話であり、今、話しているのは罪を犯した娘である。
「これは言葉にしたくなかったことですが、もし、あなたの言葉で暴力で妃殿下が身体が不自由になっていたら、万が一にも自害されていたら、私たちの責任では足りません。おそらくこの世にはいなかったことでしょう。父も母も弟も、祖父母も、皆、あなたのせいで処刑されていたかもしれないのです」
一瞬、ルアンナはティファナの真剣な眼差しにたじろいだが、そんなことはあり得ないと首を振った。もしサリーが重病や亡くなっていたら、私がそれこそ正妃になれたかもしれないと想像していた。
「大袈裟よ!」
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「だから、大袈裟なのよ!妃殿下も妃殿下だわ。あの時、言ってくれていたら、今更何なのよ!結婚してからは言っていないわ!過去のことじゃない、笑い話にすればいいじゃない。ルイもそう思うでしょう?」
「確かに私が知っていれば、君と結婚する選択肢はなかっただろうな」
「え」
「君は罪悪感があったのではないか、だから結婚してからはおくびも出さなかった」
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罪悪感…は、あった。結婚してからはいい妻になろうとした、夫に馴れ馴れしい令嬢に渡したくないとも思った。そして、ルイソードに愛されている自信があった。
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