上 下
49 / 203

今更

しおりを挟む
「私の両親がルアンナを褒めたせいでしょうね、あれだけ止めたのに。本当にしょうもないわ。私がどれほど妃殿下を褒めたかったか知らない癖に」

 ティファナは伯爵家の令嬢であった、両親は優秀なティファナに王太子妃になれるのではないかと期待していた。親戚も同じであった。

「本当だったの…」
「当たり前でしょう!あんな天才を私は見たことがありませんよ。あなたが一習っている内に、妃殿下は十は進みます。これが教える側にとって喜ばしいことはありません。私が自分で育て立派にするより、どんどん吸収していく妃殿下に、学ばせたくなる性だったのでしょうね…そこは私の責任です。そして、妃殿下があなたのように褒めて付け上がるような方ではないと知っておりました、ですが王妃様から無暗に褒めることはしないように言われていたからです」

 ルアンナにはサリーと比べるようなことはせず、自身が教えることもあったが、母親よりは別の者が教える方がいいのではないかと、家庭教師も雇った。それが見限った、褒められたいと強く思うようにもなったのかもしれない。それでも妃殿下は既に婚約者であったのだ、候補者であったなら分かるが、そうではない。

「そんな…」
「我が両親も幼い頃はルアンナを褒めていたからね、妃殿下を見た後ではおずおずと黙るようになったがな」
「義両親は理解したのですから、それよりも私の両親の責任です。私が王妃になれると思っていた愚か者ですから」

 ローサムはティファナが咄嗟に外国語が出ないことを知っており、実の両親にも欠点を話していたが、理解して貰えてず、今度は孫に期待するようになってしまい、過剰に褒めるようになっていた。止めさせて、実家に行くのも控えていたが、ルアンナには記憶として残ってしまったのだろう。

 王太子妃教育も本来は任される器ではないことも分かっていた。だが尊敬する王妃様から頼まれたとなれば、断る選択肢はなかっただけであった。

「私もノーリスに話したいのですが、殿下に伺ってから方がいいでしょうか」

 ノーリスとはルトアスの婚約者で、伯爵家の令嬢である。

「ああ、そうだな。こんな娘がいる家は嫌だと言われたら、引くしかないな」
「ええ、みすみす不幸にするわけには参りません」
「…えっ、そんな」
「私も明日、お会いできれば、王妃様に辞意を伝えて参ります」
「ああ、それがいいな」

 ルアンナには発言権も決定権もなく、どんどん話は進んでいく。

 殿下とサリーが結婚するまでは微かな希望を持っていたが、結婚してからは二人に近づいたりしていない。きちんとクリジアン家の妻として努め、娘も産んだ。これから先、ルイソードと歩んでいく決意をちゃんとしていた。

 それなのに今さら、『私が決めたことではない』『意義があるなら王家に伝えたらいい』ということ以外、サリーは何も言い返すことはなかった。叩かれても、突き飛ばしても、やり返しても来なかった。

 ペルガメント侯爵家はサリーに興味がなく、不遇な扱いをされていると聞いていたので、親に言うことは無いだろうと思っていた。案の定、苦情はなかった。まさか診断書を貰っているとは思わなかった。

 不貞のことは明かしては、もし正妃になれても、ルイソードと結婚することになっても、どちらにせよ不利になることは分かっていた。サリーは見たと言っていたが、それなのに何も行動には移さなかった。何も思わなかったのだろうか、それとも悲しくて、悔しくて涙したのだろうか。

 それから、ずっと執念深く、復讐のチャンスを待っていたのか。あの時、罰されていた場合とどちらが良かったのだろうか。

「私は妃殿下に会う際には話し掛けていたが、どんなお気持ちだったのだろうか…辛い気持ちを思い出させていたのだろうか」
「それを言うなら、私よ。本来なら、守る側の人間が、責める方の親だなんて、申し訳なくて。顔も見たくなかったでしょうに」
「私もいつかお話が出来たらと思っておりましたが、叶わなくなりました。もう近づくことも許されません」

 父親も母親も、弟も正常である。おかしかったのは、自分のことばかりで、人の気持ちを考えられない、愚かなルアンナだけであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】もう結構ですわ!

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
 どこぞの物語のように、夜会で婚約破棄を告げられる。結構ですわ、お受けしますと返答し、私シャルリーヌ・リン・ル・フォールは微笑み返した。  愚かな王子を擁するヴァロワ王家は、あっという間に追い詰められていく。逆に、ル・フォール公国は独立し、豊かさを享受し始めた。シャルリーヌは、豊かな国と愛する人、両方を手に入れられるのか!  ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/11/29……完結 2024/09/12……小説家になろう 異世界日間連載 7位 恋愛日間連載 11位 2024/09/12……エブリスタ、恋愛ファンタジー 1位 2024/09/12……カクヨム恋愛日間 4位、週間 65位 2024/09/12……アルファポリス、女性向けHOT 42位 2024/09/11……連載開始

あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。

ふまさ
恋愛
 楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。  でも。  愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。

役立たずの私はいなくなります。どうぞお幸せに

Na20
恋愛
夫にも息子にも義母にも役立たずと言われる私。 それなら私はいなくなってもいいですよね? どうぞみなさんお幸せに。

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
稚拙ながらも投稿初日(11/21)から📝HOTランキングに入れて頂き、本当にありがとうございます🤗 今回初めてHOTランキングの5位(11/23)を頂き感無量です🥲 そうは言いつつも間違ってランキング入りしてしまった感が否めないのも確かです💦 それでも目に留めてくれた読者様には感謝致します✨ 〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷

忘却令嬢〜そう言われましても記憶にございません〜【完】

雪乃
恋愛
ほんの一瞬、躊躇ってしまった手。 誰よりも愛していた彼女なのに傷付けてしまった。 ずっと傷付けていると理解っていたのに、振り払ってしまった。 彼女は深い碧色に絶望を映しながら微笑んだ。 ※読んでくださりありがとうございます。 ゆるふわ設定です。タグをころころ変えてます。何でも許せる方向け。

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

【完結】今世も裏切られるのはごめんなので、最愛のあなたはもう要らない

曽根原ツタ
恋愛
隣国との戦時中に国王が病死し、王位継承権を持つ男子がひとりもいなかったため、若い王女エトワールは女王となった。だが── 「俺は彼女を愛している。彼女は俺の子を身篭った」 戦場から帰還した愛する夫の隣には、別の女性が立っていた。さらに彼は、王座を奪うために女王暗殺を企てる。 そして。夫に剣で胸を貫かれて死んだエトワールが次に目が覚めたとき、彼と出会った日に戻っていて……? ──二度目の人生、私を裏切ったあなたを絶対に愛しません。 ★小説家になろうさまでも公開中

婚約破棄を望むなら〜私の愛した人はあなたじゃありません〜

みおな
恋愛
 王家主催のパーティーにて、私の婚約者がやらかした。 「お前との婚約を破棄する!!」  私はこの馬鹿何言っているんだと思いながらも、婚約破棄を受け入れてやった。  だって、私は何ひとつ困らない。 困るのは目の前でふんぞり返っている元婚約者なのだから。

処理中です...