上 下
34 / 203

驕傲

しおりを挟む
 邸に帰ったミアローズは荒れた、荒れに荒れた。馬車の中でも暴れていたのだが、まだ足りなかったようだ。

「何なのよ!どうして、私が退出させられないといけないの!」
「なぜ、語学を教えているなどと言ったのだ…」
「だって、そういえば、あの綺麗な男性と時間を作れるじゃない!リールもリールよ、何で私を庇わないのよ!引き立たせるべきでしょう!」
「殿下の誕生祭だぞ」
「えっ、あっ、それはそうだけど」

 ミアローズはすっかり忘れており、ただの夜会の気分でいたのだ。しかも王太子妃の代理、離縁を払拭し、ミアローズが輝かしい場所に戻って来たと、アピールする絶好の機会だと思っていたのだ。

 離縁してからは生家は変わらなかったが、公に場に出ると、同世代の男性は妻を伴っているので、昔のようには近寄って来れない。

 何人かは妻を伴ってやって来たので、可愛らしい奥様だと言いながら、値踏みするくらいしか楽しみもなく、物足りなさを感じていた。だからこそ、真の価値を知らしめて、向こうから願わせようと考えていた。

「分かったわ、通訳が悪いのよ!」
「そうだな、報酬を渡して帰らせたから、もう姿を現さないよ」
「ふん!私が折角、雇ってあげたのに可哀想ね」
「しばらく大人しくしていなさい」
「そうね、傷付いたもの。静養させていただきますわ」

 ミアローズは家族のいる邸ではなく、別の邸に移って、男性たちと楽しむことにした。ミアローズは色事を異常に好んでいる。

 リール殿下とクリコットが離縁の理由が不貞だろうと言ったのも、色狂いであることを知っていたからである。

 そして、ミアローズはこの一件で、僅かな友人の伴侶からミアローズ禁止令が出てしまい、夜会にも呼ばれなくなり、ますます色事にのめり込むこととなる。

 ミアローズは幼い頃から、両家共に女の子はミアローズだけの環境で、自分がお姫様だと疑わなかった。しかし、本物のお姫様は王太子妃になってこそだと知り、自身がいずれなるのだと、周りも応援していた。

 だが、家庭教師から三ヶ国語は無理だと言われ、さすがに公爵夫妻も王太子妃は難しいと結論を出した。お金や権力でどうにかなるものではない。しかし、ミアローズは納得できなかった、だから婚約者に選ばれたサリーを貶す発言をしている。

 そして色事を覚えたミアローズは、すっかり虜になってしまった。見た目は美しいので、相手には困らない。王太子妃も、恋愛小説にあったように既成事実を作ってしまえばいいと思い、リール殿下に興奮剤を飲ませて、情事に及んだ。これが公にはされていない王家と公爵家の因縁である。

 ミアローズは妊娠しているかもしれないと、殿下に責任を取るように迫ったが、なれても愛妾であることをようやく理解し、諦めたのだ。

 もちろん、妊娠もしていなかった。

 それからは殿下に迫って来るようなことはなかったが、昔から親しいのだとアピールをしたり、殿下には気持ちの悪い蟠りとなったが、ミアローズは何もなかったように接するのが、余計に関わりたくない相手となった。

 ただし、王族に興奮剤を飲ませることは罪とされ、ミアローズは公爵の同伴者として王宮を自由に出入りしていたが、公にはなっていないが、公式な場で招待状がないと入れないこととなっている。

 関わりたくなければ、王宮にいれば、安全である。サリーに会いに行くことも出来ないので、押し掛けて来る可能性はなかった。

 ミアローズが二十二歳まで結婚しなかったのは、色狂いのこともあるが、三ヶ国語が必須ではない、別の国の妃を狙っていたからである。しかし、それでも他国となれば、それこそ語学力が必要になる。公爵も伝手を辿って、会わせることは出来ても、最初は美しい見た目と所作に好印象となるが、通訳を通して話すことになり、結局は婚約とまではならない。他国の高位貴族も同様であった。

 そしてようやく結婚したのが、リカス・マーラ侯爵であった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】「君を愛することはない」と言われた公爵令嬢は思い出の夜を繰り返す

おのまとぺ
恋愛
「君を愛することはない!」 鳴り響く鐘の音の中で、三年の婚約期間の末に結ばれるはずだったマルクス様は高らかに宣言しました。隣には彼の義理の妹シシーがピッタリとくっついています。私は笑顔で「承知いたしました」と答え、ガラスの靴を脱ぎ捨てて、一目散に式場の扉へと走り出しました。 え?悲しくないのかですって? そんなこと思うわけないじゃないですか。だって、私はこの三年間、一度たりとも彼を愛したことなどなかったのですから。私が本当に愛していたのはーーー ◇よくある婚約破棄 ◇元サヤはないです ◇タグは増えたりします ◇薬物などの危険物が少し登場します

愛せないですか。それなら別れましょう

黒木 楓
恋愛
「俺はお前を愛せないが、王妃にはしてやろう」  婚約者バラド王子の発言に、 侯爵令嬢フロンは唖然としてしまう。  バラド王子は、フロンよりも平民のラミカを愛している。  そしてフロンはこれから王妃となり、側妃となるラミカに従わなければならない。  王子の命令を聞き、フロンは我慢の限界がきた。 「愛せないですか。それなら別れましょう」  この時バラド王子は、ラミカの本性を知らなかった。

【完結】婚約破棄され毒杯処分された悪役令嬢は影から王子の愛と後悔を見届ける

堀 和三盆
恋愛
「クアリフィカ・アートルム公爵令嬢! 貴様との婚約は破棄する」  王太子との結婚を半年後に控え、卒業パーティーで婚約を破棄されてしまったクアリフィカ。目の前でクアリフィカの婚約者に寄り添い、歪んだ嗤いを浮かべているのは異母妹のルシクラージュだ。  クアリフィカは既に王妃教育を終えているため、このタイミングでの婚約破棄は未来を奪われるも同然。こうなるとクアリフィカにとれる選択肢は多くない。  せめてこれまで努力してきた王妃教育の成果を見てもらいたくて。  キレイな姿を婚約者の記憶にとどめてほしくて。  クアリフィカは荒れ狂う感情をしっかりと覆い隠し、この場で最後の公務に臨む。  卒業パーティー会場に響き渡る悲鳴。  目にした惨状にバタバタと倒れるパーティー参加者達。  淑女の鑑とまで言われたクアリフィカの最期の姿は、良くも悪くも多くの者の記憶に刻まれることになる。  そうして――王太子とルシクラージュの、後悔と懺悔の日々が始まった。

【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる

kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。 いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。 実はこれは二回目人生だ。 回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。 彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。 そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。 その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯ そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。 ※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。 ※ 設定ゆるゆるです。

忘却令嬢〜そう言われましても記憶にございません〜【完】

雪乃
恋愛
ほんの一瞬、躊躇ってしまった手。 誰よりも愛していた彼女なのに傷付けてしまった。 ずっと傷付けていると理解っていたのに、振り払ってしまった。 彼女は深い碧色に絶望を映しながら微笑んだ。 ※読んでくださりありがとうございます。 ゆるふわ設定です。タグをころころ変えてます。何でも許せる方向け。

【完】愛人に王妃の座を奪い取られました。

112
恋愛
クインツ国の王妃アンは、王レイナルドの命を受け廃妃となった。 愛人であったリディア嬢が新しい王妃となり、アンはその日のうちに王宮を出ていく。 実家の伯爵家の屋敷へ帰るが、継母のダーナによって身を寄せることも敵わない。 アンは動じることなく、継母に一つの提案をする。 「私に娼館を紹介してください」 娼婦になると思った継母は喜んでアンを娼館へと送り出して──

今世ではあなたと結婚なんてお断りです!

水川サキ
恋愛
私は夫に殺された。 正確には、夫とその愛人である私の親友に。 夫である王太子殿下に剣で身体を貫かれ、死んだと思ったら1年前に戻っていた。 もう二度とあんな目に遭いたくない。 今度はあなたと結婚なんて、絶対にしませんから。 あなたの人生なんて知ったことではないけれど、 破滅するまで見守ってさしあげますわ!

【完結】婚約者様、王女様を優先するならお好きにどうぞ

曽根原ツタ
恋愛
オーガスタの婚約者が王女のことを優先するようになったのは――彼女の近衛騎士になってからだった。 婚約者はオーガスタとの約束を、王女の護衛を口実に何度も破った。 美しい王女に付きっきりな彼への不信感が募っていく中、とある夜会で逢瀬を交わすふたりを目撃したことで、遂に婚約解消を決意する。 そして、その夜会でたまたま王子に会った瞬間、前世の記憶を思い出し……? ――病弱な王女を優先したいなら、好きにすればいいですよ。私も好きにしますので。

処理中です...