【完結】愛とは呼ばせない

野村にれ

文字の大きさ
上 下
31 / 203

誕生祭2

しおりを挟む
『あと一つ、失礼を承知で、お伺いしたいのですが(カベリ語)』
『こら、殿下に聞くのは止めなさいと言っただろう。失礼しました(カベリ語)』
『何でしょう?私で分かることであれば(カベリ語)』
『実は、コルボリットの最新刊は…(カベリ語)』
「はははは」
『殿下、妻が申し訳ございません(カベリ語)』
『いえいえ、構いません。現在、進行中と聞いております(カベリ語)』

 「コルボリット」とはサリーが翻訳の担当をしている魔法とミステリーを融合した各国で大人気の小説である。

 殿下も直接聞いてはいないが、情報だけはリビアナから収集している。

 作者はビアロ語を母国語とするルアース・ベルアという貴族の女性で、サリーはこの本を読むためにビアロ語を取得した。

 元々はルアース・ベルアは、翻訳は伝わらないことが不安だと難色を示していたが、出版社からサリーの存在を知り、二人は会うことになった。サリーが自身の小説のためにビアロ語を取得したこと、話す言葉も完璧だったこと、この描き方がとても良かったと一言一句間違えず、とんでもない記憶力に度肝抜いたそうだ。

 そして翻訳を許可するのはサリーが取得している言語のみとし、サリー自身が最終の確認をしてくれるのなら、任せてもいいという条件を出し、サリーもファンとしては沢山の人に読んで貰いたいと、快く引き受け、五年前から各国で発売されている。

 まず翻訳家が翻訳を行うが、その後、サリーが国に合わせた表現方法、抜け、誤字などは全ての確認を行う。表現方法は論文などと違い、難しいところで協議することは多いが、抜けや誤字はサリーの得意分野となる。

 王家も他国にアピールするチャンスだと了承しており、王太子妃としては異例の肩書を持っている。同時にサリーは離縁しても困ることのない理由でもある。

 翻訳された本のすべてにサリーの名前が記されており、ルアース・ベルアもサリーに感謝していると発言しており、ファンの間では有名人である。

『まあ、そうでしたか。アントアがどうしても、聞いて来てくれと煩かったものですから、申し訳ございません(カベリ語)』
『いえ、サリーも喜ぶと思います。もう一つの大事な顔ですからね(カベリ語)』

「小説のお話なら私も混ぜてくださいませ。訳して」
『小説の話なら私も混ぜてください(通訳カベリ語)』

 紹介もされず、全く眼中にも入っていないことに、耐え切れずミアローズは、通訳を最後までちゃんと聞かないまま、割り込んで来た。紹介は先程、案内で済んでいるので、殿下は全くする気がなかった。

 ファラス夫人は不憫に思ったのか、優しい微笑みで問い掛けた。

『どのような小説を読まれるのですか(カベリ語)』
「何て」「どのような小説を読まれるのですかと」
「私はやはり恋愛小説でしょうか。女性が愛されて、蝶のように美しくなっていく様は読んでいて、女性はこうあるべきだと思いますわね。訳して」
『私はやはり恋愛小説です。女性が愛されて、蝶のように美しくなっていく様は読んでいて、女性はこうあるべきだと思います(通訳カベリ語)』

 内容も通訳も苛立ちしかない。訳されると思っているせいか、周りが見えていないのか、愚かさを隠さなくなったのか、言葉使いも非常に悪い。

『ええ、お若いご令嬢は憧れますわね(カベリ語)』
『若いご令嬢は憧れます(通訳カベリ語)』
「えっ、馬鹿にしてるの?訳さなくていいから」
「馬鹿にはしておりませんよ(トワイ語)」

 ミアローズは目を見開いた、大臣夫妻はカベリ語で話しているが、トワイ語が分からないわけではない。

『大変失礼しました(カベリ語)』「君は黙っていてくれ。話が進まない」
「っな、私は本日、代理ですのよ!敬うべきでしょう」
「何を勘違いしているんだ?」
「通訳の紹介もなく、代理というのを履き違えているのではありませんか(トワイ語)」
『申し訳ございません、代理が大変失礼しました(カベリ語)』
『殿下の謝罪を受け入れます。妃殿下に無理はせず、ですが、皆が楽しみにしておりますと、お伝えくださいませね(カベリ語)』
『分かりました、必ず伝えます(カベリ語)』

 ミアローズには通訳からまたサリーの話を聞かせられ、これまで全て男性にはやってもらって当たり前という立場しか知らないため、殿下が言ってくれれば済む話じゃないと激しく苛立っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王子は婚約破棄を泣いて詫びる

tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。 目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。 「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」 存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。  王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。

君のためだと言われても、少しも嬉しくありません

みみぢあん
恋愛
子爵家の令嬢マリオンの婚約者、アルフレッド卿が王族の護衛で隣国へ行くが、任期がながびき帰国できなくなり婚約を解消することになった。 すぐにノエル卿と2度目の婚約が決まったが、結婚を目前にして家庭の事情で2人は……    暗い流れがつづきます。 ざまぁでスカッ… とされたい方には不向きのお話です。ご注意を😓

さよなら、皆さん。今宵、私はここを出ていきます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【復讐の為、今夜私は偽の家族と婚約者に別れを告げる―】 私は伯爵令嬢フィーネ・アドラー。優しい両親と18歳になったら結婚する予定の婚約者がいた。しかし、幸せな生活は両親の突然の死により、もろくも崩れ去る。私の後見人になると言って城に上がり込んできた叔父夫婦とその娘。私は彼らによって全てを奪われてしまった。愛する婚約者までも。 もうこれ以上は限界だった。復讐する為、私は今夜皆に別れを告げる決意をした―。 ※マークは残酷シーン有り ※(他サイトでも投稿中)

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

[完結] 私を嫌いな婚約者は交代します

シマ
恋愛
私、ハリエットには婚約者がいる。初めての顔合わせの時に暴言を吐いた婚約者のクロード様。 両親から叱られていたが、彼は反省なんてしていなかった。 その後の交流には不参加もしくは当日のキャンセル。繰り返される不誠実な態度に、もう我慢の限界です。婚約者を交代させて頂きます。

永遠の誓いを立てましょう、あなたへの想いを思い出すことは決してないと……

矢野りと
恋愛
ある日突然、私はすべてを失った。 『もう君はいりません、アリスミ・カロック』 恋人は表情を変えることなく、別れの言葉を告げてきた。彼の隣にいた私の親友は、申し訳なさそうな顔を作ることすらせず笑っていた。 恋人も親友も一度に失った私に待っていたのは、さらなる残酷な仕打ちだった。 『八等級魔術師アリスミ・カロック。異動を命じる』 『えっ……』 任期途中での異動辞令は前例がない。最上位の魔術師である元恋人が裏で動いた結果なのは容易に察せられた。 私にそれを拒絶する力は勿論なく、一生懸命に築いてきた居場所さえも呆気なく奪われた。 それから二年が経った頃、立ち直った私の前に再び彼が現れる。 ――二度と交わらないはずだった運命の歯車が、また動き出した……。 ※このお話の設定は架空のものです。 ※お話があわない時はブラウザバックでお願いします(_ _)

婚約破棄を望むなら〜私の愛した人はあなたじゃありません〜

みおな
恋愛
 王家主催のパーティーにて、私の婚約者がやらかした。 「お前との婚約を破棄する!!」  私はこの馬鹿何言っているんだと思いながらも、婚約破棄を受け入れてやった。  だって、私は何ひとつ困らない。 困るのは目の前でふんぞり返っている元婚約者なのだから。

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

処理中です...