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誕生祭1

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 誕生祭の当日。サリーはいつもように起きて、いつものように公務に取り掛かった。本日の公務を終えてから、翻訳などの作業をすることとしている。今日は出掛けることは出来ないので、翻訳に勤しむつもりだ。

 侍女のリビアナと、護衛のマッカスとグレーナとトアストは交代で誕生祭に顔を出す予定ではある。

 昼は殿下がお祝いムードの国民の前に姿を現し、感謝を述べ、これからも良き国にしようと締め括り、しかしその場には妃殿下の姿はない。出産前は孤児院や病院で見掛けた者もいたため、具合が悪いのではないかと心配する者も多かった。

 そして夜は誕生祭のパーティーとなり、貴族が集まり始めた。

 リール殿下は自身の色であるブラックと、ブルーを纏ったミアローズがやって来るだろうと想像するだけで、既に疲れた気持ちになっていた。

 正装はブラックに、サリーの優しい色味のブロンドからゴールドの刺繍で彩り、瞳のグリーンのマント、宝飾品は全てゴールドとグリーン。サリーが贈り物は要らないというため、サリーの色の宝飾品を購入して、身に付けることにした。

 はとこと言っても、ミアローズは赤みの強いブラウンヘアに、薄いブラウンの瞳で、二人は似ても似つかないため、勘違いされることはないだろう。

 ミアローズはシルバーのドレスに、グリーンのアクセサリーでやって来た。自分だけというのは滑稽だと気付いたのか、誰かに助言されたのか。確かに皮肉にもサリーの色が対に見えなくはない。

 しかし、私の正装がブラックだと見た瞬間に、顔を引きつらせたのを、見逃すことは出来なかった。昼と同じシルバーだと思っていたのだろう。確かにシルバーなら揃いに見えたはずだ。

「ご無沙汰しております、王太子殿下」
「久しぶりだな、エモンド公爵令嬢」

 見掛けだけはあの頃と確かに変わらない。お金を掛ければ、上辺くらいは維持できるというところか。

「まあ、他人行儀ですこと。本日は私がパートナーですのよ」
「分かっている。歓談になったら、一緒に回ってくれ」
「えっ、入場からでも努められますわよ?」
「代理は歓談の時のみというのは、公爵令嬢なら勿論、知っているよな?」

 側妃ではない代理というのは、王太子妃の全ての代理というわけではない、夫婦のように腕を組んだりすることもなければ、一緒に入場したり、隣に座るということもなく、本日は既に王太子妃の席は設けられていない。誕生祭で言えば、歓談の際のパートナーという扱いである。

「勿論ですわよ、入場からの方がいいのではないかと、少し思っただけですわ」
「では、また後で」

 知らないとは言いたくない性格は分かっていたので、ああ言えば引くことを知っている。ある意味変わっておらず、安心したほどだ。しかし、間違いなく、何か問題を起こすだろう。

 両陛下の挨拶、王太子の挨拶が終わり、ダンスタイムを挟みながらの歓談となる前に案内があった。違う言語でも同様の発表をしている。

 「本日はこれより退席までの間、サリー王太子妃殿下の代理を、ミアローズ・エモンド公爵令嬢が務めます」

 視線の集まったミアローズは、ここぞとばかりに丁寧にカーテシーを行い、満足げであったが、皆はなぜ彼女なんだというまなざしである。そして、ここからサリーと比べれるという合図でである。

 早速、殿下の元へソアート帝国、外交担当のファラス大臣夫妻がお祝いを述べにやって来た。他国の王族は参加していないため、彼らがトップである。王族ではないので、互いの言語で話す決まりはない。

「王太子殿下、おめでとうございます」「おめでとうございます」
『ありがとうございます(カベリ語)』
『喜ばしい年となりそうでございますね(カベリ語)』
『はい、そう願っております(カベリ語)』
『お子様は大きくなられましたか、殿下に似てらっしゃるのかしら、妃殿下に似てらっしゃるのかしら(カベリ語)』
『今のところは、サリーに似ておりますが、どうなることか。語学力はサリーに似て欲しいところですがね(カベリ語)』
『殿下も素晴らしいではありませんか(カベリ語)』
『いえいえ、私は足元にも及びませんよ(カベリ語)』

 ミアローズは二人の美形の通訳を引き連れていたが、何を言っているか分からないため、通訳から内容を聞くので精一杯で、会話に入れない状態となった。

 サリーであれば、ファラス大臣夫妻が話し掛けただろうが、知らないミアローズに話し掛けることもなく、代理が中年の男性だと思えば、おかしな話ではない。後ろに控えて、見守ることだろう。実際、王妃が代理に指名した大臣などはそうしている。

 通訳も相手が話す、通訳する、こちらが話す、通訳する、待ってもらってこそ成り立つのである。殿下もファラス大臣夫妻も完全に待つつもりはない。
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