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再来

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 サリーは代理をグリズナー・トラスから、ミアローズ・エモンドに変更を行った。リール殿下にも伝えられると、呆然とした。

「ミアローズ・エモンド…」

 代理の理由の欄には十一年前の四月十日に『私以外にリールに相応しい相手はいないのよ、本来なら私が正妃、あなたがよくて側妃だったのに。語学なんて何の役に立つとのかしら。私は語学なんかより価値のある存在なのよ。あなたが代わり?出来るはずがないと気付かないのかしら』と発言された為と書かれていた。

 ミアローズ・エモンドは、結婚してミアローズ・マーラとなったが、出戻ってミアローズ・エモンドに戻っている。殿下にとって関わりたくない相手である。

「あれは間違いなく、サリーに暴言を吐いているだろう。聞かなくても分かる」
「喜んで受けるんじゃないでしょうか」
「最悪の誕生祭になること間違いなしだぞ?」
「償いになるのではないですか」
「確かに恥を晒すしか想像できないから、勝手に自滅するだろうが、だが私はあれの横に並びたくもない」

 リール殿下とミアローズ・エモンドは曾祖父を同じとするはとこである。

 貴族の頂点というべき公爵家の令嬢。王女がいないために、同世代で自分より身分が高い者がおらず、しかも表向きは傲慢に振舞うわけではないが、淑やかな令嬢と見せかけ、裏では陰湿に絡め取っていく質である。

 殿下とサリーより三つ年上で、学園では一緒にはなっていないが、サリーとはおそらく夜会などでは会っているはずだ。

「あれにまだ騙される者がおるのか」
「さすがに結婚してからは多少は静かになっておりましたが、性根は変わりませんからね。離縁の理由も表向きは性格の不一致だとか言ってますけど、不貞でしょう」
「間違いなくそうだろうな、公爵を呼ぶしかないな」

 ミアローズは七歳年上のリカス・マーラ侯爵と結婚した。ミアローズは当時二十二歳、高位貴族としては遅い結婚であった。リカスに熱烈に求婚されたと本人は言っていたが、結婚生活はたった一年半。マーラ侯爵は無言を貫いているそうだが、何らかの取引があったのだろう。

 エモンド公爵を呼び出し、出席しないでくれれば助かるが、駄目でも忠告だけはして置こうと考えた。

「サリーの代理のことは聞いているか」
「はい、ミアローズが張り切っております。御指名をありがとうござました」

 王家から代理の通達が来た時は何事かと思ったが、出戻ったとはいえ、ミアローズ以外に代理に相応しい令嬢はいない。

「分かっていると思うが、指名したのはサリーだ」
「あっ、ええ、そうですよね。ですが、殿下も是非ともミアローズをと思ってらしてのことではありませんか?」

 グリズナー・トラスのことを知っていれば、絶対に受けたくない代理だと気付いただろうが、好意的に考えているようだ。

「私は代理にはこの世で一番相応しくないと思っている。そのことを伝えておこうと思って呼んだのだ」
「は?それはいくら何でも失礼ではないでしょうか」
「どこがだ?それほどのことを君の娘はしただろう?」

 リールとミアローズには因縁がある。過去の愚行は消えることはない。王家と公爵家でなかったことにはしたが、関係性はあまり良くない。

「それは…ですが、娘も変わりました」
「どうだかな、恥を掻くだけだと思うが、引き受けるのだな?」
「妃殿下のご指名ですから、引き受けぬわけには参りませんでしょう」
「分かった。ただし、私は君の娘に合わせる気はない。サリーと同じように行動する。詳細は担当者から事前資料をきちんと貰い、頭に入れるように。王家に、サリー王太子妃に泥を塗るような真似を絶対にするなと伝えてくれ。粗相した時点で帰らせる、いいな?」
「心配には及びません、しっかり準備をして向かわせます」

 公爵は通訳は既に手配済み、妃殿下の強みを補えば問題はないと考えていた。

「そうか、責任を追及するような事態にならないことを願うよ」
「勿論でございます。殿下の衣装はもう決まっておいででしょうか、折角ですからミアローズと揃いにしてはどうかと思いまして」
「はあ、私はサリーの色を纏う。当たり前だろう?」
「そ、そうでございますね」

 ミアローズは招待状がない場合以外は、王宮は出入り禁止となっている。サリーがいない場であったとしても、そのようなことはさせない。
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