29 / 203
再来
しおりを挟む
サリーは代理をグリズナー・トラスから、ミアローズ・エモンドに変更を行った。リール殿下にも伝えられると、呆然とした。
「ミアローズ・エモンド…」
代理の理由の欄には十一年前の四月十日に『私以外にリールに相応しい相手はいないのよ、本来なら私が正妃、あなたがよくて側妃だったのに。語学なんて何の役に立つとのかしら。私は語学なんかより価値のある存在なのよ。あなたが代わり?出来るはずがないと気付かないのかしら』と発言された為と書かれていた。
ミアローズ・エモンドは、結婚してミアローズ・マーラとなったが、出戻ってミアローズ・エモンドに戻っている。殿下にとって関わりたくない相手である。
「あれは間違いなく、サリーに暴言を吐いているだろう。聞かなくても分かる」
「喜んで受けるんじゃないでしょうか」
「最悪の誕生祭になること間違いなしだぞ?」
「償いになるのではないですか」
「確かに恥を晒すしか想像できないから、勝手に自滅するだろうが、だが私はあれの横に並びたくもない」
リール殿下とミアローズ・エモンドは曾祖父を同じとするはとこである。
貴族の頂点というべき公爵家の令嬢。王女がいないために、同世代で自分より身分が高い者がおらず、しかも表向きは傲慢に振舞うわけではないが、淑やかな令嬢と見せかけ、裏では陰湿に絡め取っていく質である。
殿下とサリーより三つ年上で、学園では一緒にはなっていないが、サリーとはおそらく夜会などでは会っているはずだ。
「あれにまだ騙される者がおるのか」
「さすがに結婚してからは多少は静かになっておりましたが、性根は変わりませんからね。離縁の理由も表向きは性格の不一致だとか言ってますけど、不貞でしょう」
「間違いなくそうだろうな、公爵を呼ぶしかないな」
ミアローズは七歳年上のリカス・マーラ侯爵と結婚した。ミアローズは当時二十二歳、高位貴族としては遅い結婚であった。リカスに熱烈に求婚されたと本人は言っていたが、結婚生活はたった一年半。マーラ侯爵は無言を貫いているそうだが、何らかの取引があったのだろう。
エモンド公爵を呼び出し、出席しないでくれれば助かるが、駄目でも忠告だけはして置こうと考えた。
「サリーの代理のことは聞いているか」
「はい、ミアローズが張り切っております。御指名をありがとうござました」
王家から代理の通達が来た時は何事かと思ったが、出戻ったとはいえ、ミアローズ以外に代理に相応しい令嬢はいない。
「分かっていると思うが、指名したのはサリーだ」
「あっ、ええ、そうですよね。ですが、殿下も是非ともミアローズをと思ってらしてのことではありませんか?」
グリズナー・トラスのことを知っていれば、絶対に受けたくない代理だと気付いただろうが、好意的に考えているようだ。
「私は代理にはこの世で一番相応しくないと思っている。そのことを伝えておこうと思って呼んだのだ」
「は?それはいくら何でも失礼ではないでしょうか」
「どこがだ?それほどのことを君の娘はしただろう?」
リールとミアローズには因縁がある。過去の愚行は消えることはない。王家と公爵家でなかったことにはしたが、関係性はあまり良くない。
「それは…ですが、娘も変わりました」
「どうだかな、恥を掻くだけだと思うが、引き受けるのだな?」
「妃殿下のご指名ですから、引き受けぬわけには参りませんでしょう」
「分かった。ただし、私は君の娘に合わせる気はない。サリーと同じように行動する。詳細は担当者から事前資料をきちんと貰い、頭に入れるように。王家に、サリー王太子妃に泥を塗るような真似を絶対にするなと伝えてくれ。粗相した時点で帰らせる、いいな?」
「心配には及びません、しっかり準備をして向かわせます」
公爵は通訳は既に手配済み、妃殿下の強みを補えば問題はないと考えていた。
「そうか、責任を追及するような事態にならないことを願うよ」
「勿論でございます。殿下の衣装はもう決まっておいででしょうか、折角ですからミアローズと揃いにしてはどうかと思いまして」
「はあ、私はサリーの色を纏う。当たり前だろう?」
「そ、そうでございますね」
ミアローズは招待状がない場合以外は、王宮は出入り禁止となっている。サリーがいない場であったとしても、そのようなことはさせない。
「ミアローズ・エモンド…」
代理の理由の欄には十一年前の四月十日に『私以外にリールに相応しい相手はいないのよ、本来なら私が正妃、あなたがよくて側妃だったのに。語学なんて何の役に立つとのかしら。私は語学なんかより価値のある存在なのよ。あなたが代わり?出来るはずがないと気付かないのかしら』と発言された為と書かれていた。
ミアローズ・エモンドは、結婚してミアローズ・マーラとなったが、出戻ってミアローズ・エモンドに戻っている。殿下にとって関わりたくない相手である。
「あれは間違いなく、サリーに暴言を吐いているだろう。聞かなくても分かる」
「喜んで受けるんじゃないでしょうか」
「最悪の誕生祭になること間違いなしだぞ?」
「償いになるのではないですか」
「確かに恥を晒すしか想像できないから、勝手に自滅するだろうが、だが私はあれの横に並びたくもない」
リール殿下とミアローズ・エモンドは曾祖父を同じとするはとこである。
貴族の頂点というべき公爵家の令嬢。王女がいないために、同世代で自分より身分が高い者がおらず、しかも表向きは傲慢に振舞うわけではないが、淑やかな令嬢と見せかけ、裏では陰湿に絡め取っていく質である。
殿下とサリーより三つ年上で、学園では一緒にはなっていないが、サリーとはおそらく夜会などでは会っているはずだ。
「あれにまだ騙される者がおるのか」
「さすがに結婚してからは多少は静かになっておりましたが、性根は変わりませんからね。離縁の理由も表向きは性格の不一致だとか言ってますけど、不貞でしょう」
「間違いなくそうだろうな、公爵を呼ぶしかないな」
ミアローズは七歳年上のリカス・マーラ侯爵と結婚した。ミアローズは当時二十二歳、高位貴族としては遅い結婚であった。リカスに熱烈に求婚されたと本人は言っていたが、結婚生活はたった一年半。マーラ侯爵は無言を貫いているそうだが、何らかの取引があったのだろう。
エモンド公爵を呼び出し、出席しないでくれれば助かるが、駄目でも忠告だけはして置こうと考えた。
「サリーの代理のことは聞いているか」
「はい、ミアローズが張り切っております。御指名をありがとうござました」
王家から代理の通達が来た時は何事かと思ったが、出戻ったとはいえ、ミアローズ以外に代理に相応しい令嬢はいない。
「分かっていると思うが、指名したのはサリーだ」
「あっ、ええ、そうですよね。ですが、殿下も是非ともミアローズをと思ってらしてのことではありませんか?」
グリズナー・トラスのことを知っていれば、絶対に受けたくない代理だと気付いただろうが、好意的に考えているようだ。
「私は代理にはこの世で一番相応しくないと思っている。そのことを伝えておこうと思って呼んだのだ」
「は?それはいくら何でも失礼ではないでしょうか」
「どこがだ?それほどのことを君の娘はしただろう?」
リールとミアローズには因縁がある。過去の愚行は消えることはない。王家と公爵家でなかったことにはしたが、関係性はあまり良くない。
「それは…ですが、娘も変わりました」
「どうだかな、恥を掻くだけだと思うが、引き受けるのだな?」
「妃殿下のご指名ですから、引き受けぬわけには参りませんでしょう」
「分かった。ただし、私は君の娘に合わせる気はない。サリーと同じように行動する。詳細は担当者から事前資料をきちんと貰い、頭に入れるように。王家に、サリー王太子妃に泥を塗るような真似を絶対にするなと伝えてくれ。粗相した時点で帰らせる、いいな?」
「心配には及びません、しっかり準備をして向かわせます」
公爵は通訳は既に手配済み、妃殿下の強みを補えば問題はないと考えていた。
「そうか、責任を追及するような事態にならないことを願うよ」
「勿論でございます。殿下の衣装はもう決まっておいででしょうか、折角ですからミアローズと揃いにしてはどうかと思いまして」
「はあ、私はサリーの色を纏う。当たり前だろう?」
「そ、そうでございますね」
ミアローズは招待状がない場合以外は、王宮は出入り禁止となっている。サリーがいない場であったとしても、そのようなことはさせない。
619
お気に入りに追加
6,886
あなたにおすすめの小説
2度もあなたには付き合えません
cyaru
恋愛
1度目の人生。
デヴュタントで「君を見初めた」と言った夫ヴァルスの言葉は嘘だった。
ヴァルスは思いを口にすることも出来ない恋をしていた。相手は王太子妃フロリア。
フロリアは隣国から嫁いで来たからか、自由気まま。当然その所業は貴族だけでなく民衆からも反感を買っていた。
ヴァルスがオデットに婚約、そして結婚を申し込んだのはフロリアの所業をオデットが惑わせたとして罪を着せるためだった。
ヴァルスの思惑通りに貴族や民衆の敵意はオデットに向けられ遂にオデットは処刑をされてしまう。
処刑場でオデットはヴァルスがこんな最期の時まで自分ではなくフロリアだけを愛し気に見つめている事に「もう一度生まれ変われたなら」と叶わぬ願いを胸に抱く。
そして、目が覚めると見慣れた光景がオデットの目に入ってきた。
ヴァルスが結婚を前提とした婚約を申し込んでくる切欠となるデヴュタントの日に時間が巻き戻っていたのだった。
「2度もあなたには付き合えない」
デヴュタントをドタキャンしようと目論むオデットだが衣装も用意していて参加は不可避。
あの手この手で前回とは違う行動をしているのに何故かヴァルスに目を付けられてしまった。
※章で分けていますが序章は1回目の人生です。
※タグの①は1回目の人生、②は2回目の人生です
※初日公開分の1回目の人生は苛つきます。
★↑例の如く恐ろしく、それはもう省略しまくってます。
★11月2日投稿開始、完結は11月4日です。
★コメントの返信は遅いです。
★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません
巻き戻り令嬢は長生きしたい。二度目の人生はあなた達を愛しません
せいめ
恋愛
「アナ、君と私の婚約を解消することに決まった」
王太子殿下は、今にも泣きそうな顔だった。
「王太子殿下、貴方の婚約者として過ごした時間はとても幸せでした。ありがとうございました。
どうか、隣国の王女殿下とお幸せになって下さいませ。」
「私も君といる時間は幸せだった…。
本当に申し訳ない…。
君の幸せを心から祈っているよ。」
婚約者だった王太子殿下が大好きだった。
しかし国際情勢が不安定になり、隣国との関係を強固にするため、急遽、隣国の王女殿下と王太子殿下との政略結婚をすることが決まり、私との婚約は解消されることになったのだ。
しかし殿下との婚約解消のすぐ後、私は王命で別の婚約者を決められることになる。
新しい婚約者は殿下の側近の公爵令息。その方とは個人的に話をしたことは少なかったが、見目麗しく優秀な方だという印象だった。
婚約期間は異例の短さで、すぐに結婚することになる。きっと殿下の婚姻の前に、元婚約者の私を片付けたかったのだろう。
しかし王命での結婚でありながらも、旦那様は妻の私をとても大切にしてくれた。
少しずつ彼への愛を自覚し始めた時…
貴方に好きな人がいたなんて知らなかった。
王命だから、好きな人を諦めて私と結婚したのね。
愛し合う二人を邪魔してごめんなさい…
そんな時、私は徐々に体調が悪くなり、ついには寝込むようになってしまった。後で知ることになるのだが、私は少しずつ毒を盛られていたのだ。
旦那様は仕事で隣国に行っていて、しばらくは戻らないので頼れないし、毒を盛った犯人が誰なのかも分からない。
そんな私を助けてくれたのは、実家の侯爵家を継ぐ義兄だった…。
毒で自分の死が近いことを悟った私は思った。
今世ではあの人達と関わったことが全ての元凶だった。もし来世があるならば、あの人達とは絶対に関わらない。
それよりも、こんな私を最後まで見捨てることなく面倒を見てくれた義兄には感謝したい。
そして私は死んだはずだった…。
あれ?死んだと思っていたのに、私は生きてる。しかもなぜか10歳の頃に戻っていた。
これはもしかしてやり直しのチャンス?
元々はお転婆で割と自由に育ってきたんだし、あの自分を押し殺した王妃教育とかもうやりたくたい。
よし!殿下や公爵とは今世では関わらないで、平和に長生きするからね!
しかし、私は気付いていなかった。
自分以外にも、一度目の記憶を持つ者がいることに…。
一度目は暗めですが、二度目の人生は明るくしたいです。
誤字脱字、申し訳ありません。
相変わらず緩い設定です。
裏切りの代償
志波 連
恋愛
伯爵令嬢であるキャンディは婚約者ニックの浮気を知り、婚約解消を願い出るが1年間の再教育を施すというニックの父親の言葉に願いを取り下げ、家出を決行した。
家庭教師という職を得て充実した日々を送るキャンディの前に父親が現れた。
連れ帰られ無理やりニックと結婚させられたキャンディだったが、子供もできてこれも人生だと思い直し、ニックの妻として人生を全うしようとする。
しかしある日ニックが浮気をしていることをしり、我慢の限界を迎えたキャンディは、友人の手を借りながら人生を切り開いていくのだった。
他サイトでも掲載しています。
R15を保険で追加しました。
表紙は写真AC様よりダウンロードしました。
【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。
あなたが望んだ、ただそれだけ
cyaru
恋愛
いつものように王城に妃教育に行ったカーメリアは王太子が侯爵令嬢と茶会をしているのを目にする。日に日に大きくなる次の教育が始まらない事に対する焦り。
国王夫妻に呼ばれ両親と共に登城すると婚約の解消を言い渡される。
カーメリアの両親はそれまでの所業が腹に据えかねていた事もあり、領地も売り払い夫人の実家のある隣国へ移住を決めた。
王太子イデオットの悪意なき本音はカーメリアの心を粉々に打ち砕いてしまった。
失意から寝込みがちになったカーメリアに追い打ちをかけるように見舞いに来た王太子イデオットとエンヴィー侯爵令嬢は更に悪意のない本音をカーメリアに浴びせた。
公爵はイデオットの態度に激昂し、処刑を覚悟で2人を叩きだしてしまった。
逃げるように移り住んだリアーノ国で静かに静養をしていたが、そこに1人の男性が現れた。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※胸糞展開ありますが、クールダウンお願いします。
心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。イラっとしたら現実に戻ってください。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
公爵令嬢の立場を捨てたお姫様
羽衣 狐火
恋愛
公爵令嬢は暇なんてないわ
舞踏会
お茶会
正妃になるための勉強
…何もかもうんざりですわ!もう公爵令嬢の立場なんか捨ててやる!
王子なんか知りませんわ!
田舎でのんびり暮らします!
選ばれたのは美人の親友
杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。
貴方様の後悔など知りません。探さないで下さいませ。
ましろ
恋愛
「致しかねます」
「な!?」
「何故強姦魔の被害者探しを?見つけて如何なさるのです」
「勿論謝罪を!」
「それは貴方様の自己満足に過ぎませんよ」
今まで順風満帆だった侯爵令息オーガストはある罪を犯した。
ある令嬢に恋をし、失恋した翌朝。目覚めるとあからさまな事後の後。あれは夢ではなかったのか?
白い体、胸元のホクロ。暗めな髪色。『違います、お許し下さい』涙ながらに抵抗する声。覚えているのはそれだけ。だが……血痕あり。
私は誰を抱いたのだ?
泥酔して罪を犯した男と、それに巻き込まれる人々と、その恋の行方。
★以前、無理矢理ネタを考えた時の別案。
幸せな始まりでは無いので苦手な方はそっ閉じでお願いします。
いつでもご都合主義。ゆるふわ設定です。箸休め程度にお楽しみ頂けると幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる