上 下
27 / 203

追放

しおりを挟む
 トラス伯爵はサリーからもう一部、写しを貰い、握りしめながら邸に戻った。前妻は侯爵令嬢だったこともあり、気位の高い、気の強い女性だった。グリズナーは違うと思っていたが、私に見せる顔だけではなかったようだ。聞くことは出来なかったが、妃殿下はどんな気持ちで聞いていたのだろうか。

 自身の父親は亡くなっているが、別邸で暮らしている母親にも話に行くと、同じ女性として軽蔑する、顔も見たくない、子どもたちは私も面倒を看るから、あなたは家を守るように言われ、本邸に戻ることになった。

「君は母と代わりに別邸に移動して貰う、反省して生きていくように」
「…っはい、承知しました」
「このまま向かいなさい、必要なものは後で届けさせる」

 グリズナーは大人しく、別邸に移動した。娘は三歳、息子もまだ十歳、グリズナーは悪いことをしたので、謹慎となったため別邸で暮らす。詳しいことは理解できるくらい大きくなったら、全て話すと告げた。娘は泣き出すかと思ったが、分かったと言ってケロッとしており、驚いたほどだった。

 どうやら兄である息子は何か起きていると察していたようで、娘の手をぎゅっと握っていた。兄と妹の関係が良くて安心した。

 そしてグリズナーの両親には説明より前に、まず黙ってこちらに目を通してくださいと、妃殿下への発言を先に読ませた。不思議そうな顔をしていたが、読み進めると二人とも同じように眉間に皺を寄せていた。

「酷い言葉だとは思いませんか?全て、グリズナーのサリー・ペルガメント侯爵令嬢、そしてサリー王太子妃殿下への発言です」
「っな、何ですと…私たちは知らない、こんなことを言っていたなど知らなかった」

 義母は目を見開き、言葉を失っていた。全く関係ない者でも、まさに不愉快でしかない言葉の羅列のようなものだ。

「そこにあるように相応しいという発言をしたために、王太子妃殿下は代理に指名されました。ですが、殿下から閨の教育の担当の契約違反で、王家の催しに参加させないと通達が来ました」
「本当に知らなかったのです、ペルガメント侯爵からも王家からも何も言われておりません」

 娘がこんな発言をしていたならば、侯爵家でも、王家からでも、お咎めがあってもいいはずだ。しかし、そのようなものはなかかった。

「そうでしたか、何も言われていないから問題がないというわけではないでしょう。私も何も知りませんでした。ですが、追放は変わりません。私の妻は追放され、あなた方の娘は追放されたと理解した上で行動してください」
「私たちもですか」
「当たり前です、殿下から連帯責任となりました」
「事実なのですか」
「妃殿下の記憶力はご存知ですよね?嘘を付いても何の得にもならないことも。それとも私にこの一緒にいた人物に確認を取れと言うのですか?恥ずかしくて、出来ません。代わりにやってくれるのであれば、調査してください」
「そ、それは…」
「私はこれを妃殿下に渡されたのです。目の前でこれを読む辛さが分かりますか?閨の教育の担当ではなく、まるで分別のない、頭の悪い娼婦です」

 トラス伯爵が王太子夫妻の前ではのみ込んだ言葉だったが、義両親にはしっかり目を見つめて告げた。

「これは、その通りだと思います。まさか、こんなことを言う娘だということすら、知りませんでした。閨の教育のことも、事後報告だったのです。先に聞いていたら、私は反対しました。それなのに、あの子は立派なお役目だと言いながら、こんな発言をしていたなんて。何て罰当たりで愚かなことでしょう、これは私たちの責任です」

 義母は潔く受け止めたようで、トラス伯爵の目をしっかり見つめて言い切った。

「息子にもきちんと伝えます。ご迷惑をお掛けして申し訳ございません」

 子爵家は既にグリズナーの弟が継いでいる。弟も何も知らなかったかもしれないが、知らなかったから関係ないとは言えはしない。

「見張ることが罰だとされました」
「はい、表に出していたことが恥ずかしくてなりません。我儘を言うようなら、こちらで幽閉しても構いません。ねえ、あなた」
「ああ、そうだな」
「とりあえず、こちらで様子を見ます。酷いようならお任せするかもしれません」

 義両親は元々常識のある、人のいい人たちだった。一気に老け込んだ顔で、項垂れており、関与しているとは考えていなかった。何か言われればこちらを読めば黙るでしょうと、写しを渡して帰った。

 私も見る目がないが、王家も教育の担当の人選ミスだとしか言いようがない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私の知らぬ間に

豆狸
恋愛
私は激しい勢いで学園の壁に叩きつけられた。 背中が痛い。 私は死ぬのかしら。死んだら彼に会えるのかしら。

どうやら婚約者が私と婚約したくなかったようなので婚約解消させて頂きます。後、うちを金蔓にしようとした事はゆるしません

しげむろ ゆうき
恋愛
 ある日、婚約者アルバン様が私の事を悪く言ってる場面に遭遇してしまい、ショックで落ち込んでしまう。  しかもアルバン様が悪口を言っている時に側にいたのは、美しき銀狼、又は冷酷な牙とあだ名が付けられ恐れられている、この国の第三王子ランドール・ウルフイット様だったのだ。  だから、問い詰めようにもきっと関わってくるであろう第三王子が怖くて、私は誰にも相談できずにいたのだがなぜか第三王子が……。 ○○sideあり 全20話

あなたはその人が好きなんですね。なら離婚しましょうか。

水垣するめ
恋愛
お互い望まぬ政略結婚だった。 主人公エミリアは貴族の義務として割り切っていた。 しかし、アルバート王にはすでに想いを寄せる女性がいた。 そしてアルバートはエミリアを虐げ始めた。 無実のエミリアを虐げることを、周りの貴族はどう捉えるかは考えずに。 気づいた時にはもう手遅れだった。 アルバートは王の座から退かざるを得なくなり──。

別れてくれない夫は、私を愛していない

abang
恋愛
「私と別れて下さい」 「嫌だ、君と別れる気はない」 誕生パーティー、結婚記念日、大切な約束の日まで…… 彼の大切な幼馴染の「セレン」はいつも彼を連れ去ってしまう。 「ごめん、セレンが怪我をしたらしい」 「セレンが熱が出たと……」 そんなに大切ならば、彼女を妻にすれば良かったのでは? ふと過ぎったその考えに私の妻としての限界に気付いた。 その日から始まる、私を愛さない夫と愛してるからこそ限界な妻の離婚攻防戦。 「あなた、お願いだから別れて頂戴」 「絶対に、別れない」

【完結】捨てられ正妃は思い出す。

なか
恋愛
「お前に食指が動くことはない、後はしみったれた余生でも過ごしてくれ」    そんな言葉を最後に婚約者のランドルフ・ファルムンド王子はデイジー・ルドウィンを捨ててしまう。  人生の全てをかけて愛してくれていた彼女をあっさりと。  正妃教育のため幼き頃より人生を捧げて生きていた彼女に味方はおらず、学園ではいじめられ、再び愛した男性にも「遊びだった」と同じように捨てられてしまう。  人生に楽しみも、生きる気力も失った彼女は自分の意志で…自死を選んだ。  再び意識を取り戻すと見知った光景と聞き覚えのある言葉の数々。  デイジーは確信をした、これは二度目の人生なのだと。  確信したと同時に再びあの酷い日々を過ごす事になる事に絶望した、そんなデイジーを変えたのは他でもなく、前世での彼女自身の願いであった。 ––次の人生は後悔もない、幸福な日々を––  他でもない、自分自身の願いを叶えるために彼女は二度目の人生を立ち上がる。  前のような弱気な生き方を捨てて、怒りに滾って奮い立つ彼女はこのくそったれな人生を生きていく事を決めた。  彼女に起きた心境の変化、それによって起こる小さな波紋はやがて波となり…この王国でさえ変える大きな波となる。  

愛されない花嫁はいなくなりました。

豆狸
恋愛
私には以前の記憶がありません。 侍女のジータと川遊びに行ったとき、はしゃぎ過ぎて船から落ちてしまい、水に流されているうちに岩で頭を打って記憶を失ってしまったのです。 ……間抜け過ぎて自分が恥ずかしいです。

巻き戻り令嬢は長生きしたい。二度目の人生はあなた達を愛しません

せいめ
恋愛
「アナ、君と私の婚約を解消することに決まった」  王太子殿下は、今にも泣きそうな顔だった。   「王太子殿下、貴方の婚約者として過ごした時間はとても幸せでした。ありがとうございました。  どうか、隣国の王女殿下とお幸せになって下さいませ。」 「私も君といる時間は幸せだった…。  本当に申し訳ない…。  君の幸せを心から祈っているよ。」  婚約者だった王太子殿下が大好きだった。  しかし国際情勢が不安定になり、隣国との関係を強固にするため、急遽、隣国の王女殿下と王太子殿下との政略結婚をすることが決まり、私との婚約は解消されることになったのだ。  しかし殿下との婚約解消のすぐ後、私は王命で別の婚約者を決められることになる。  新しい婚約者は殿下の側近の公爵令息。その方とは個人的に話をしたことは少なかったが、見目麗しく優秀な方だという印象だった。  婚約期間は異例の短さで、すぐに結婚することになる。きっと殿下の婚姻の前に、元婚約者の私を片付けたかったのだろう。  しかし王命での結婚でありながらも、旦那様は妻の私をとても大切にしてくれた。  少しずつ彼への愛を自覚し始めた時…  貴方に好きな人がいたなんて知らなかった。  王命だから、好きな人を諦めて私と結婚したのね。  愛し合う二人を邪魔してごめんなさい…  そんな時、私は徐々に体調が悪くなり、ついには寝込むようになってしまった。後で知ることになるのだが、私は少しずつ毒を盛られていたのだ。  旦那様は仕事で隣国に行っていて、しばらくは戻らないので頼れないし、毒を盛った犯人が誰なのかも分からない。  そんな私を助けてくれたのは、実家の侯爵家を継ぐ義兄だった…。  毒で自分の死が近いことを悟った私は思った。  今世ではあの人達と関わったことが全ての元凶だった。もし来世があるならば、あの人達とは絶対に関わらない。  それよりも、こんな私を最後まで見捨てることなく面倒を見てくれた義兄には感謝したい。    そして私は死んだはずだった…。  あれ?死んだと思っていたのに、私は生きてる。しかもなぜか10歳の頃に戻っていた。  これはもしかしてやり直しのチャンス?  元々はお転婆で割と自由に育ってきたんだし、あの自分を押し殺した王妃教育とかもうやりたくたい。  よし!殿下や公爵とは今世では関わらないで、平和に長生きするからね!  しかし、私は気付いていなかった。  自分以外にも、一度目の記憶を持つ者がいることに…。      一度目は暗めですが、二度目の人生は明るくしたいです。    誤字脱字、申し訳ありません。  相変わらず緩い設定です。

あなたが望んだ、ただそれだけ

cyaru
恋愛
いつものように王城に妃教育に行ったカーメリアは王太子が侯爵令嬢と茶会をしているのを目にする。日に日に大きくなる次の教育が始まらない事に対する焦り。 国王夫妻に呼ばれ両親と共に登城すると婚約の解消を言い渡される。 カーメリアの両親はそれまでの所業が腹に据えかねていた事もあり、領地も売り払い夫人の実家のある隣国へ移住を決めた。 王太子イデオットの悪意なき本音はカーメリアの心を粉々に打ち砕いてしまった。 失意から寝込みがちになったカーメリアに追い打ちをかけるように見舞いに来た王太子イデオットとエンヴィー侯爵令嬢は更に悪意のない本音をカーメリアに浴びせた。 公爵はイデオットの態度に激昂し、処刑を覚悟で2人を叩きだしてしまった。 逃げるように移り住んだリアーノ国で静かに静養をしていたが、そこに1人の男性が現れた。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※胸糞展開ありますが、クールダウンお願いします。  心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。イラっとしたら現実に戻ってください。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

処理中です...