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リール殿下とクリコットはリビアナに聞いて驚き、形振り構わず走って駆け付け、二人は慌ててサリーの執務室を開けた。さすがにリビアナは遅れて戻って来た。
「トラス伯爵!そなたを咎める気はなかったのに、なぜ来たのだ」
「ですが、昔のことを仰ったのはそちらではありませんか」
「私は追放して欲しいとは言っておりません」
殿下はまだサリーにどうやって償えばよいか分からず、何から話そうかと悩んでおり、処罰のことも話していなかったのだ。
「私の判断だ、夫人は契約を破った。だから、王家の催しには参加させないとした」
「そういうことにしたのですね、まあいいですわ。トラス伯爵、私は夫人に自分の発言の責任を取って貰おうと代理に指名したのです」
「発言ですか」
「はい、確かに昔といえばそうですね。でも六年前ですよ?『王太子様とは年齢が合わなかっただけなのよ、本来なら私の方が王家に相応しかったのに、とっても残念だわ』という発言です」
「妻がそのようなことを…」
「はい。丁度、話すのは時間が勿体ないので、作って置いたのです。グリズナー夫人の私への発言の全てを書いておきました。日付と場所、誰と一緒にいたか、あとはドレスの色も」
サリーははいと、トラス伯爵と殿下に五枚くらいの束をそれぞれに渡した。
「写しですから、持ち帰って頂いて結構ですよ」
トラス伯爵は最初の『ごきげんよう、ペルガメント侯爵令嬢。私ね、殿下に見初められてしまったみたいなの。リールったら、すごく激しくって、身体のだるさがまだ取れないのよ。恥ずかしいのだけど、乳首がドレスに当たってヒリヒリしますの。どういうことか分かるかしら?でもあなたには、一生関係ないかもしれないわね、分かりあえなくて残念だわ』で、卒倒しそうになった。
「何ですか、これは、妻が言ったのですか」
「ええ、全て書いてあります。抜けはないと思います」
「トラス伯爵、これは契約上言う必要のないことだが、君には知る権利があると思う。夫人はトラス伯爵と結婚前に私の閨の教育の担当だった。そして言いわけにもならないが、私も当時は若く、初めて知った欲に、本能の思うがまま、今となっては恥ずかしいことだと思っている」
「そうでしたか。だから、契約を破ったと」
閨の教育の担当というのは、公にされることはない存在である。前夫と死別後、私との再婚前であれば、特に責めるところではない。金銭も発生しており、契約をした以上、話してはいけないというのも理解できる。
「ああ、サリーに契約を破って、当時から聞かせていたらしい。そもそも、夫人に名を呼ぶ許可も出していない。呼ばれたこともないはずだが?」
「なんだ、これは、まるで…」
トラス伯爵は王太子夫妻の前で言うべきことではないと言葉をのみ込んだ。
読み進めて読み進めても、自分はいかに魅力的で愛されているか、自分こそが相応しいと言わんばかり。そして必ずサリーを貶す発言である。
殿下も前に聞いた言葉以外の発言が書かれており、サリーが一人で受け止めていたと思うと、紙を持つ手が強くなってしまっていた。
『私、結婚しましたの。求められるというのは重要なことなのですよ。ペルガメント侯爵令嬢はきちんと答えてらっしゃるのかしら?私、呼ばれても行けないのですから。しっかりなさってくださいよ』
「待ってください、私と結婚してからもではないですか」
日付はトラス伯爵との結婚後になっていった、そして妃殿下が結婚するまで似たような発言を繰り返している。殿下はもはや殺意が湧いていた。
『妊娠したのです。殿下の子ではありませんよ。心配なさらないでくださいね』
冗談では済まされない発言しかない、そしてようやく終わりが見え、最後は殿下がレベッカ妃を娶った後のことだ。
『やっぱり魅力がないから、側妃を娶られるのよ。それとも孕めない身体なのかしら?努力しなくちゃ駄目だと言ったでしょう』
全てを読み終えると、食べた物が逆流している感覚がし、吐き気がした。これは六年前でも現在でも許される発言ではない。何て陰湿で酷く醜い、どこが棘のある言い方だ、棘だらけの不愉快な悪口ではないか。
「これは私にも責任があります。殿下、私にも罰を与えるべきです」
「ああ、そのようだな。サリーへの慰謝料と、離縁せず、見張ることを罰としよう。実家にも連帯責任としてもいい。サリー、それでいいか?」
「代理をしていただけるのなら、何でもいいですわよ?」
サリーは優雅にお茶を飲んでおり、殿下と伯爵の反応にも興味がない様子である。
「夫人はもう表舞台には出せない。私は殺意が湧いている」
「交流会も急病だなんて言って、私は責任を取っていただきたいだけなのよ」
「交流会?」
「伯爵は聞いていないのか?バリミューア島での交流会の代理に指名して、急病で欠席したんだ。名前も載っているから、調べたらいい」
「っな、そんなこと…重ね重ね、申し訳ございませんでした。しっかり見張り、外へは出しません。彼女の実家へも話します」
「トラス伯爵は何も悪くないのに?」
「いいえ、私にも責任があります」
トラス伯爵は酷く疲れた顔で、紙の束を握りしめて帰って行った。
「サリー、謝罪は受け取って貰えないのは分かっているが、謝らせてくれ。原因は私だ。快楽に馬鹿になった愚かな結果だ、不快にさせてすまなかった」
「お戻りになって、私忙しいんですの」
「分かった」
「トラス伯爵!そなたを咎める気はなかったのに、なぜ来たのだ」
「ですが、昔のことを仰ったのはそちらではありませんか」
「私は追放して欲しいとは言っておりません」
殿下はまだサリーにどうやって償えばよいか分からず、何から話そうかと悩んでおり、処罰のことも話していなかったのだ。
「私の判断だ、夫人は契約を破った。だから、王家の催しには参加させないとした」
「そういうことにしたのですね、まあいいですわ。トラス伯爵、私は夫人に自分の発言の責任を取って貰おうと代理に指名したのです」
「発言ですか」
「はい、確かに昔といえばそうですね。でも六年前ですよ?『王太子様とは年齢が合わなかっただけなのよ、本来なら私の方が王家に相応しかったのに、とっても残念だわ』という発言です」
「妻がそのようなことを…」
「はい。丁度、話すのは時間が勿体ないので、作って置いたのです。グリズナー夫人の私への発言の全てを書いておきました。日付と場所、誰と一緒にいたか、あとはドレスの色も」
サリーははいと、トラス伯爵と殿下に五枚くらいの束をそれぞれに渡した。
「写しですから、持ち帰って頂いて結構ですよ」
トラス伯爵は最初の『ごきげんよう、ペルガメント侯爵令嬢。私ね、殿下に見初められてしまったみたいなの。リールったら、すごく激しくって、身体のだるさがまだ取れないのよ。恥ずかしいのだけど、乳首がドレスに当たってヒリヒリしますの。どういうことか分かるかしら?でもあなたには、一生関係ないかもしれないわね、分かりあえなくて残念だわ』で、卒倒しそうになった。
「何ですか、これは、妻が言ったのですか」
「ええ、全て書いてあります。抜けはないと思います」
「トラス伯爵、これは契約上言う必要のないことだが、君には知る権利があると思う。夫人はトラス伯爵と結婚前に私の閨の教育の担当だった。そして言いわけにもならないが、私も当時は若く、初めて知った欲に、本能の思うがまま、今となっては恥ずかしいことだと思っている」
「そうでしたか。だから、契約を破ったと」
閨の教育の担当というのは、公にされることはない存在である。前夫と死別後、私との再婚前であれば、特に責めるところではない。金銭も発生しており、契約をした以上、話してはいけないというのも理解できる。
「ああ、サリーに契約を破って、当時から聞かせていたらしい。そもそも、夫人に名を呼ぶ許可も出していない。呼ばれたこともないはずだが?」
「なんだ、これは、まるで…」
トラス伯爵は王太子夫妻の前で言うべきことではないと言葉をのみ込んだ。
読み進めて読み進めても、自分はいかに魅力的で愛されているか、自分こそが相応しいと言わんばかり。そして必ずサリーを貶す発言である。
殿下も前に聞いた言葉以外の発言が書かれており、サリーが一人で受け止めていたと思うと、紙を持つ手が強くなってしまっていた。
『私、結婚しましたの。求められるというのは重要なことなのですよ。ペルガメント侯爵令嬢はきちんと答えてらっしゃるのかしら?私、呼ばれても行けないのですから。しっかりなさってくださいよ』
「待ってください、私と結婚してからもではないですか」
日付はトラス伯爵との結婚後になっていった、そして妃殿下が結婚するまで似たような発言を繰り返している。殿下はもはや殺意が湧いていた。
『妊娠したのです。殿下の子ではありませんよ。心配なさらないでくださいね』
冗談では済まされない発言しかない、そしてようやく終わりが見え、最後は殿下がレベッカ妃を娶った後のことだ。
『やっぱり魅力がないから、側妃を娶られるのよ。それとも孕めない身体なのかしら?努力しなくちゃ駄目だと言ったでしょう』
全てを読み終えると、食べた物が逆流している感覚がし、吐き気がした。これは六年前でも現在でも許される発言ではない。何て陰湿で酷く醜い、どこが棘のある言い方だ、棘だらけの不愉快な悪口ではないか。
「これは私にも責任があります。殿下、私にも罰を与えるべきです」
「ああ、そのようだな。サリーへの慰謝料と、離縁せず、見張ることを罰としよう。実家にも連帯責任としてもいい。サリー、それでいいか?」
「代理をしていただけるのなら、何でもいいですわよ?」
サリーは優雅にお茶を飲んでおり、殿下と伯爵の反応にも興味がない様子である。
「夫人はもう表舞台には出せない。私は殺意が湧いている」
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「っな、そんなこと…重ね重ね、申し訳ございませんでした。しっかり見張り、外へは出しません。彼女の実家へも話します」
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「いいえ、私にも責任があります」
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「サリー、謝罪は受け取って貰えないのは分かっているが、謝らせてくれ。原因は私だ。快楽に馬鹿になった愚かな結果だ、不快にさせてすまなかった」
「お戻りになって、私忙しいんですの」
「分かった」
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