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代償

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「私は全ての代理は許容できませんが、なるべくサリーの気持ちに沿うようにさせたいと思います」
「っな!そんなこと、駄目よ。誕生祭なのよ、出席させなさい」
「そうなれば、代理を無くさなくてはならなくなります」
「そ、それは」
「母上も使ってますよね、サリーは一度も使っていませんでした」

 王妃にも王太子妃と同様に代理の権利はある。ただ陛下の隣に自分以外の女性を立たせるのが嫌で、大臣など男性を代理に立てていたことも知っている。

「そんなこと関係ないわ、あなたが出ろを言えば出るべきでしょう」
「よく、自分の立場と同じだった人間にそのようなことが言えますね。自身は側妃も愛妾も許さず、アズラー夫人が脅威だったのでしょう?だから王太子妃の教育担当にした、目の届くところに置くために」
「っな!」
「アズラー夫人が王妃や側妃になりたかったかどうかは別にしても、確実に側妃試験に受かりますよね?」

 王太子妃教育の担当のティファナ・アズラーは、王妃より三歳年下ではあったが、サリーには劣るが優秀であった。王妃も自らで得た地位ではあるが、子どもはリール一人しかいないことから、幾度となく側妃の打診があっただろう。それを王妃はアズラー侯爵と結婚させて、黙らせたのではないか。リールはそう考えている。

「元はと言えばあなたのせいでしょう!私は大事にしなさいと言ったはずよ」
「それは分かっています。だからこそ、償わなければならないのです。ミーラのところへは顔を出してくれるようになっただけもいい傾向なのです」
「憑き物が落ちたようだな」
「そうかもしれません。まず、グリズナー夫人には責任を取らせます」

 グリズナー・トラスは王家の催しには出席させないと、通達を出すこととなった。それは社交界からの追放という意味を持つ。

 あの日、邸に帰ったグリズナーは具合が悪いと部屋に閉じこもった。それは王宮で何かあったと言っているようなものだった。

 そして、通達が出され、驚いたトラス伯爵はようやく話を聞くことになった。

「内容は話せないのですが、妃殿下に過去に話した発言が問題となったのです、結婚前の話です。私は前の夫が亡くなって、幸せそうな妃殿下を妬ましく思ってしまったのです。今となっては十歳以上年下の令嬢に、言ってはならないことでした」
「今さら問題になったのか」
「そのことで、王太子殿下の誕生祭の妃殿下の代理を頼まれたんです」
「代理?君が?」

 代理のことは関係者以外にはまだ知られることはなく、交流会も他国の方だったので、母国には既に代理の指名をされていることまでは届いていなかった。

「はい、でもそれは代理という嫌がらせだったようで、謝罪はしたのですが、許されることではなかったのです。トラス家ではなく、私だけの処罰でまだ良かったと思っております。申し訳ございません」
「昔のことをなぜ今になって」
「離縁で構いません。ですが、フェアリーのことだけは守ってください」

 フェアリーはトラス伯爵とグリズナーの娘で、まだ三歳である。

「っな、少し考えさせてくれ。何を言ったかはそんなに酷いことだったのか」
「当時は私もまだ若かったので、棘のある言い方をしました。妃殿下を傷付けたのは事実です」
「そうか…」

 トラス伯爵は、確かに相手は悪いが、グリズナーも子爵家の出身の伯爵夫人、妃殿下も当時は侯爵令嬢。爵位は上ではあるが、女性の間ではよくあることではないのか。グリズナーからは聞いたことがなかったが、前の亡くなった妻もよく嫌味を言われたり、言ったりしていた。今さらなぜという気持ちの方が強かった。

 よりにもよってトラス伯爵は、サリーに文を出して訪問してしまったのである。

「何の御用でしょうか」
「はい、妻のことで謝罪を」
「謝罪は受け入れません」

 トラス伯爵はまともに話したことはなかったが、いつも朗らかで、才女ということしか知らなかったが、あまりにハッキリ言い切る様に驚いた。

「妻が悪いことは本人も自覚して反省しております。ですが、なぜ今、妻の発言が社交界を追放されるほどの問題となったのかだけでも、教えていただくことは出来ますでしょうか」
「社交界を追放されたのですか?」
「はい、通達が来ました」
「それは私の与り知らぬことですね。リビアナ、殿下を呼んで来て貰えますか。時間が勿体ないので、一緒に話を付けましょう」

 リビアナは了承して、すぐさま飛び出した。なぜ妃殿下に聞きに来るのだ、妻を問い詰めればいいではないかと、早歩きで愚痴りながら、執務室に辿り着き、私に出来ることは殿下とクリコットに、急いでくださいということだけだ。
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