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リール殿下は両陛下とも相談の上、ある決意をサリーに告げた。サリーの信用を取り戻すことは不可能、謝罪もいいわけすらさせても貰えない。
「離縁は認めるから、子どもを産んでもらえないか」
マリーヌ王女が王太子となることは難しい以上、側妃を娶らないとなった以上、王家に必要なのは、やはりサリーの子どもとなる。
サリーは子が孕めないと思っている者もいるが、近しい者は事情を分かっている。身体は以前も、定期診断も問題はないとされている。
「子どもは一人、男女問わずですか」
「ああ、一人だけでいい」
「避妊薬を使って、時間を引き延ばすなどということはありませんね?」
「そのようなことはしない。きちんと管理する」
「相性が悪く、産めない場合はどうなりますか?」
「一年とするのはどうだろうか」
「一年経っても妊娠しなければ、離縁ということですか」
「ああ、悪くないだろう?」
お互いが子どもを材料にするようであるが、王家の安寧を思えば仕方ない。
「離縁は何十年後とか、王命でやはり離縁は出来なくなった、母親が子を捨てるのかなどと言い出したりしませんか?」
「それはない。離縁状を渡す。心配ならサリーが持っていたらいい」
「ええ、あなたも嘘つきですからね」
リール殿下は二枚の離縁状にサインし、一枚は自分に、一枚はサリーに渡し、サリーは金庫に仕舞った。その場にいたのは二人以外では、側近・クリコットと侍女・リビアナだけで、息を殺して、その場を見守るしかなかった。
「もし、破られた場合は報復を始めますから、必ず守ってくださいね」
「報復?」
「はい、言ったことの責任を取って貰おうと思うのです」
「私にか?」
「原因は殿下ですから、関係はあるでしょうね。離縁していただければ、行いませんから、問題ありませんよね?」
「ああ、分かった」
サリーは妊娠しやすい日に王太子宮に行くことになった。
「嫌なのはお互い様ですから、さっさと済ませましょう。どなたかを好みの方でも思い浮かべてください」
「私はそんなことは思っていない」
嫌悪しながら抱かれて、一ヶ月、二ヶ月、三ヶ月、四ヶ月、五ヶ月目にようやく兆候があり、そろそろ限界だったサリーはほっとした。
そして妊娠が確定すると、殿下はサリーの身を案じて、何度か訪れるも、悪阻も僅かで治まり、公務に翻訳に勤しんでいた。
「暇なんですか?でしたら、翻訳を手伝ってください」
「いや、お茶でもどうかと思って」
「そんな暇はありません」
サリーはギリギリまで引継ぎの書類作成と、公務をしながら、王子を出産。王宮も国内も喜びに湧き、不仲も改善されたのだろうと思われた。
王子は殿下によってミーラと名付けられ、サリーは始めは世話をしたが、落ち着くと王太子宮に連れて行くように言った。
「本当によろしいんですか」
「いいのよ、この子には辛い人生になるでしょうけど、私を恨むことで生きてくれたらいいわ」
「恨むなんて…」
リビアナは王子を抱きながら、あんなに慈しんで声を掛けていたこと、孤児院での子どもたちへ接し方を見ていれば、我が子が可愛くないわけがない。
いくら王家は乳母が育てることが基本だとしても、手放すのとは違う。
それでもサリーは微笑みを絶やさぬまま、王子を見送った。王子は王太子宮に移り、サリーは体調の回復に努め、出て行く準備を始めた。サリーにとって、待ちに待った時がようやく訪れることになった。侯爵邸に戻るつもりはなく、翻訳の仕事をしながら、どこかで生きて行こうと思っている。
そして二ヶ月が経てば、無理なく動けるようになったため、鞄に自分の荷物だけを詰めた。世話をしてくれている者にやらせるのは、さすがに申し訳ない気持ちにもなるため、夜中に行った。
しかし、出てこうと思った当日、金庫を開けると離縁状はなくなっていた。サリーは始めはどうしてという気持ちではあったが、やはりと思うところもあった。
「離縁は認めるから、子どもを産んでもらえないか」
マリーヌ王女が王太子となることは難しい以上、側妃を娶らないとなった以上、王家に必要なのは、やはりサリーの子どもとなる。
サリーは子が孕めないと思っている者もいるが、近しい者は事情を分かっている。身体は以前も、定期診断も問題はないとされている。
「子どもは一人、男女問わずですか」
「ああ、一人だけでいい」
「避妊薬を使って、時間を引き延ばすなどということはありませんね?」
「そのようなことはしない。きちんと管理する」
「相性が悪く、産めない場合はどうなりますか?」
「一年とするのはどうだろうか」
「一年経っても妊娠しなければ、離縁ということですか」
「ああ、悪くないだろう?」
お互いが子どもを材料にするようであるが、王家の安寧を思えば仕方ない。
「離縁は何十年後とか、王命でやはり離縁は出来なくなった、母親が子を捨てるのかなどと言い出したりしませんか?」
「それはない。離縁状を渡す。心配ならサリーが持っていたらいい」
「ええ、あなたも嘘つきですからね」
リール殿下は二枚の離縁状にサインし、一枚は自分に、一枚はサリーに渡し、サリーは金庫に仕舞った。その場にいたのは二人以外では、側近・クリコットと侍女・リビアナだけで、息を殺して、その場を見守るしかなかった。
「もし、破られた場合は報復を始めますから、必ず守ってくださいね」
「報復?」
「はい、言ったことの責任を取って貰おうと思うのです」
「私にか?」
「原因は殿下ですから、関係はあるでしょうね。離縁していただければ、行いませんから、問題ありませんよね?」
「ああ、分かった」
サリーは妊娠しやすい日に王太子宮に行くことになった。
「嫌なのはお互い様ですから、さっさと済ませましょう。どなたかを好みの方でも思い浮かべてください」
「私はそんなことは思っていない」
嫌悪しながら抱かれて、一ヶ月、二ヶ月、三ヶ月、四ヶ月、五ヶ月目にようやく兆候があり、そろそろ限界だったサリーはほっとした。
そして妊娠が確定すると、殿下はサリーの身を案じて、何度か訪れるも、悪阻も僅かで治まり、公務に翻訳に勤しんでいた。
「暇なんですか?でしたら、翻訳を手伝ってください」
「いや、お茶でもどうかと思って」
「そんな暇はありません」
サリーはギリギリまで引継ぎの書類作成と、公務をしながら、王子を出産。王宮も国内も喜びに湧き、不仲も改善されたのだろうと思われた。
王子は殿下によってミーラと名付けられ、サリーは始めは世話をしたが、落ち着くと王太子宮に連れて行くように言った。
「本当によろしいんですか」
「いいのよ、この子には辛い人生になるでしょうけど、私を恨むことで生きてくれたらいいわ」
「恨むなんて…」
リビアナは王子を抱きながら、あんなに慈しんで声を掛けていたこと、孤児院での子どもたちへ接し方を見ていれば、我が子が可愛くないわけがない。
いくら王家は乳母が育てることが基本だとしても、手放すのとは違う。
それでもサリーは微笑みを絶やさぬまま、王子を見送った。王子は王太子宮に移り、サリーは体調の回復に努め、出て行く準備を始めた。サリーにとって、待ちに待った時がようやく訪れることになった。侯爵邸に戻るつもりはなく、翻訳の仕事をしながら、どこかで生きて行こうと思っている。
そして二ヶ月が経てば、無理なく動けるようになったため、鞄に自分の荷物だけを詰めた。世話をしてくれている者にやらせるのは、さすがに申し訳ない気持ちにもなるため、夜中に行った。
しかし、出てこうと思った当日、金庫を開けると離縁状はなくなっていた。サリーは始めはどうしてという気持ちではあったが、やはりと思うところもあった。
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