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叱咤
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エマ・ネイリーは、サリーに会いに行った次の日、父親に呼ばれていた。
「王宮から文が届いた、何てことをしてくれたんだ!」
「でも、側妃ならなれるんじゃないかと思って。お父様だって私が側妃になれば、嬉しいでしょう?」
「まだそんな夢のようなことを思っていたのか」
「夢じゃないわ、だってサ、妃殿下は私に正妃になって欲しいと頭を下げたのよ」
「は?」
「結婚される前に正妃になってくれと言われたの」
「ははは、それをお前は鵜呑みにしたのか」
「だって、事実だもの」
夢見がちな娘ではないと思っていたが、思い返せば、あの不正の頃から、随分おかしくなってしまった。いくら娘だとはいえ、賢くない者は賢くない。
妻も何だか気持ちの悪い娘になってしまったと言っていたが、何を言っているのかと本気にしていなかった。妻は既に距離を取るようになっていた。
「お前になれるはずがないだろう?母国語の試験だって大した点が取れないくせに。あの不正は、お前をそこまで調子に乗らせたのか」
「調子に乗ったわけじゃないわ」
「お前が何て言われているのか知らないのか」
「男装の麗人でしょう?」
「王太子夫妻を不仲にさせた元凶だよ」
不正の直後は娘さんは素晴らしい観察眼をお持ちでと言われたが、あれは偶然だ。エマが悪巧みをする会話をたまたま聞いただけなのだから、書類で見破ったなどと格好いいものではない。
縁談も全て顔合わせで断れてしまい、エマはさほど悲しんではいなかったが、領地で休養するように向かわせた。
王太子殿下が結婚されて、上手くいっていないことから、エマが元凶とされて、遠巻きにされることが多くなった。でも側妃を娶られて、落ち着いて来たところだったのに。確かに側妃の打診はありませんかと言っていた、冗談かと思っていたが、冗談ではなかったのだろう。
「それは悪かったと思っているわ。でもだからこそ責任を取ろうと思って」
「何の責任だ?」
「だから、私が責任を持って、殿下をサポートすれば」
「出来るわけないだろう?お前、まさか自分が妃殿下と並ぶとだなんて思っておるわけではないよな?あの方は才女中の才女だぞ?」
子爵家ですらサリーの語学力を目にすることは多い。
わざと他国の者がノール語を母国語する者を連れて来た際に、偶然居合わせたが、相手は完璧だと声を漏らしたほどであった。
「聞いたわ、三ヶ国語でしょう?私だって子どもの頃からやっていれば、違ったわ」
「ノワンナ語すら投げ出した者が何を言うんだ」
学園に入る前に、ノワンナ語の家庭教師を雇ったことはあった。でも難しくて私には無理だと投げ出したのだ。
「で、でも殿下のためなら」
「ならば、一つでも喋れるのか?」
「今さら無理よ」
何が今さらだ、当時だって無理だったくせに。ようやく、妻が距離を取った理由が分かった。話が通じないから、いくら言っても無駄だと思ったのだろう。
「じゃあ、無理じゃないか。縁談も爵位の高い者しか受けずに、己に合ったところに嫁げばよかったのに。もう縁談もないと思え」
「それは仕方ないわ」
「はあ、お前はもう領地に戻りなさい。王族の方に近づくことは許さん!分かったな?」
「でも」
「でもじゃない、牢屋に入れられたいのか?弟のことも考えろ」
エマには三つ年下に弟がいる、姉がこんな様子では、弟にも差し支える。
「そんな、酷い」
「酷いのはどちらだ、お前のせいで弟が嫌がらせを受けてもいいのか」
「そんなことあり得ないわ」
「あり得るだろう、あんな姉がいるならと思われて仕方ないだろう」
「誇らしい姉のはずよ…」
クリコット様が再度忠告に訪問されるということだったので、その後に妻と相談して、領地に閉じ込めることにした。
「君が言ったことがよく分かった。話しても何も受け止める気配がない」
「だから言ったじゃない!私が注意しても、殿下は私を気に入っているから、仕方ないのとか言い出すのよ!どうせ憶えられないんだから、そんなになりたいなら領地で勉強しなさいと閉じ込めましょう」
「憶えられたらどうする?」
「はあ?無理に決まっているでしょう?あの子は記憶力が良くないわ」
エマ・ネイリーは再び姿を消すこととなった。
「王宮から文が届いた、何てことをしてくれたんだ!」
「でも、側妃ならなれるんじゃないかと思って。お父様だって私が側妃になれば、嬉しいでしょう?」
「まだそんな夢のようなことを思っていたのか」
「夢じゃないわ、だってサ、妃殿下は私に正妃になって欲しいと頭を下げたのよ」
「は?」
「結婚される前に正妃になってくれと言われたの」
「ははは、それをお前は鵜呑みにしたのか」
「だって、事実だもの」
夢見がちな娘ではないと思っていたが、思い返せば、あの不正の頃から、随分おかしくなってしまった。いくら娘だとはいえ、賢くない者は賢くない。
妻も何だか気持ちの悪い娘になってしまったと言っていたが、何を言っているのかと本気にしていなかった。妻は既に距離を取るようになっていた。
「お前になれるはずがないだろう?母国語の試験だって大した点が取れないくせに。あの不正は、お前をそこまで調子に乗らせたのか」
「調子に乗ったわけじゃないわ」
「お前が何て言われているのか知らないのか」
「男装の麗人でしょう?」
「王太子夫妻を不仲にさせた元凶だよ」
不正の直後は娘さんは素晴らしい観察眼をお持ちでと言われたが、あれは偶然だ。エマが悪巧みをする会話をたまたま聞いただけなのだから、書類で見破ったなどと格好いいものではない。
縁談も全て顔合わせで断れてしまい、エマはさほど悲しんではいなかったが、領地で休養するように向かわせた。
王太子殿下が結婚されて、上手くいっていないことから、エマが元凶とされて、遠巻きにされることが多くなった。でも側妃を娶られて、落ち着いて来たところだったのに。確かに側妃の打診はありませんかと言っていた、冗談かと思っていたが、冗談ではなかったのだろう。
「それは悪かったと思っているわ。でもだからこそ責任を取ろうと思って」
「何の責任だ?」
「だから、私が責任を持って、殿下をサポートすれば」
「出来るわけないだろう?お前、まさか自分が妃殿下と並ぶとだなんて思っておるわけではないよな?あの方は才女中の才女だぞ?」
子爵家ですらサリーの語学力を目にすることは多い。
わざと他国の者がノール語を母国語する者を連れて来た際に、偶然居合わせたが、相手は完璧だと声を漏らしたほどであった。
「聞いたわ、三ヶ国語でしょう?私だって子どもの頃からやっていれば、違ったわ」
「ノワンナ語すら投げ出した者が何を言うんだ」
学園に入る前に、ノワンナ語の家庭教師を雇ったことはあった。でも難しくて私には無理だと投げ出したのだ。
「で、でも殿下のためなら」
「ならば、一つでも喋れるのか?」
「今さら無理よ」
何が今さらだ、当時だって無理だったくせに。ようやく、妻が距離を取った理由が分かった。話が通じないから、いくら言っても無駄だと思ったのだろう。
「じゃあ、無理じゃないか。縁談も爵位の高い者しか受けずに、己に合ったところに嫁げばよかったのに。もう縁談もないと思え」
「それは仕方ないわ」
「はあ、お前はもう領地に戻りなさい。王族の方に近づくことは許さん!分かったな?」
「でも」
「でもじゃない、牢屋に入れられたいのか?弟のことも考えろ」
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「そんな、酷い」
「酷いのはどちらだ、お前のせいで弟が嫌がらせを受けてもいいのか」
「そんなことあり得ないわ」
「あり得るだろう、あんな姉がいるならと思われて仕方ないだろう」
「誇らしい姉のはずよ…」
クリコット様が再度忠告に訪問されるということだったので、その後に妻と相談して、領地に閉じ込めることにした。
「君が言ったことがよく分かった。話しても何も受け止める気配がない」
「だから言ったじゃない!私が注意しても、殿下は私を気に入っているから、仕方ないのとか言い出すのよ!どうせ憶えられないんだから、そんなになりたいなら領地で勉強しなさいと閉じ込めましょう」
「憶えられたらどうする?」
「はあ?無理に決まっているでしょう?あの子は記憶力が良くないわ」
エマ・ネイリーは再び姿を消すこととなった。
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