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浅墓

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 王家からネイリー子爵家に苦情の文を出し、さらにクリコットが再度忠告のためにエマ・ネイリーに会いに行った。

「何て愚かな真似をしたのですか、大変お怒りです。弁えるということをご存知ないのですか」
「も、申し訳ございません」

 さすがに子爵家宛てにしたので、父親に怒られたのであろう。

「ようやく理解出来ましたか?」
「でも、語学はサ、妃殿下が得意なのですよね。なら、妃殿下にお任せすればいいじゃないですか」
「それが可能なら、側妃はあなたではなくて、誰でもいいとなります。そのような方はたくさんおります。爵位が高い者、有益な繋がりが多い者、お金がある者などですね。それでもなお、自分が選ばれると思いますか」
「それは…」
「はあ、では妃殿下が別の事柄で、側妃が対応しなければならなくなったら、どうしますか?私は話せないと言うのですか?通訳を自分だけ付けるのですか?」
「別にそれでいいのではありませんか」

 私は妃殿下のように堪能ではないので、通訳を付けますと言えばいい話だ。そうすれば、妃殿下の価値だって上がるはずじゃないか。

「あなたはその対応をした時点で、周辺国から話せないのに側妃になったと判断されます。王家も周辺国もバカにしているのだなと」
「そんな風には思っていません。話せる人は凄いなと思います」
「そう思われるという話をしているのです。その時点であなたは表舞台には二度と出れないでしょう」
「えっ」
「たかがそんなことと思っているのでしょう?周辺国も条件は同じなのですよ?それなのに、あなただけが特別?そう思った時点で失格なのですよ」
「では、クリコット様は話せるのですか」
「いいえ、私はノワンナ語のみです」
「だったら、私だって」
「私は妃ではありません。側近は一ヶ国のみで可能です」

 男装もどきは何を言っているんだ、私は側近で、妃ではない。妃だと思っているのか?そもそも、ノワンナ語も話せないだろう?

「一つ言っておきますが、妃殿下は三ヶ国語は完璧です。相手によってアペラ語とカベリ語を、その場で切り替えて話せるほどです。さらにビアロ語とノール語もほぼ完璧と聞いています。読み書きだけなら、もっと出来ると思います。さらに現在も学んでらっしゃいます」
「え?六ヶ国語、話せるということですか…」

 どういう頭になっているのだ、私は母国語しか話せないのに。

「はい、あなたが妃殿下の代わりをしていたと言った言葉は、これが全て成り代わって出来ますと言っていたのです。それほど、重い言葉だったのです」
「あっ、だから語学のことを…そんなこと知りませんでした」

 だから皆が優秀だとお聞きしましたと開口一番に言い、さすがにエマもそうなんですとは言わなかったが、お恥ずかしいですという素振りをしていた。

「頭のいい方々には有名な話です。今でも妃殿下に翻訳を頼みたい人は、順番待ちです。もし、あなたがあの時、成り代わりでもしたら、妃殿下の代わりが出来ると言ったのだからと、翻訳を頼まれ、妃殿下と同じように話されて、対応できましたか?出来ないでしょう?」
「それは、はい。出来ません」

 そんなことになっていたら、パニックになったことだろう。私が代わりなんて言った相手がそんなに高い語学力を持っていたなんて知らなかった、爵位の高いだけの侯爵令嬢だと思っていたのだ。

「でもそんなに忙しい妃殿下のためにも、側妃は必要なのではありませんか」
「えーっと、確か、功績による免除でしたか?」
「はい、始めから免除で話せないと言えばいいのではないでしょうか」
「確かに一人だけ免除という言葉ではありませんが、功績をお持ちになっており、アペラ語しか話せなかったものの、側妃になった方がいらっしゃいます」
「やっぱり!」

 ほら、やっぱり免除になった人がいるじゃないか。長い歴史の中で、絶対抜け道で何かあると思っていた。

「大変優秀なお医者様だったそうです」
「あっ、その他には…」

 エマは結局、ノワンナ語の本を買っただけで、語学の勉強さえしていない。やったこと?と言えば、明日になったら急に話せるようにならないかなと思いながら、眠るくらいである。医者になれるはずもない。

「いらっしゃいません。もはや、ネイリー子爵令嬢は、二度と王家の方に近づくことは出来ません。今回は警告ですが、次回は実刑になります」
「そんな…待ってください。殿下だけが褒めてくれたんです」
「はあ…条件に合う方と結婚された方が身のためですよ」

 そんな相手がいないから、押し掛けて来たのだろうが、実刑となると文にも書いてある。クリコットはとりあえず、やるべきことはやったと思うことにした。
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