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滑稽

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 王太子妃殿下について報告がありますとクリコットが言うと、殿下は無意識に背筋を伸ばした。確かに身構えて聞くべき内容だろう。

「エマ・ネイリーが側妃になるとサリー様の宮に押し掛けたそうです」
「は?なんだそれは」

 目を見開き、理解できないと言う顔をしている。

「ええ、私も同意見です。きちんと三ヶ国語が出来ないとなれないと伝えたのですが、いつもの側妃希望と同じで、妃殿下に行ってもらって、自分は寵愛を受けたかった。さらに不正のことで手柄があるから、通訳を付けて貰おうと考えたようです」
「なんだそれは」
「それより、妃殿下はエマ・ネイリーにキスしたことをご存知だったようです」
「っな、な、何だと」

 分かり易くしどろもどろになっている。クリコットも驚いたが、殿下はそれ以上だ。もはや、エマ・ネイリーに関わったことに後悔することだろう。

「抱いては貰えなかったとまで仰っていたそうです」
「誰かに見られたか、密偵がいたのか?ああ、何てことだ」

 転びそうになった際に、顔を真っ赤にしたために、酔っていたこともあって、うっかりキスをしてしまったのだ。

「性欲処理の女性は気付いていると思っておりましたが」
「っな」
「気付いてないと思ってらっしゃったのでしょうけど、あれは無理ですよ。もう崖っぷちです。飛び出していかないだけでも有難いと思うべきかと考えたほどです」

 殿下はこっそり呼んでいたので、気付かれていないと思っていたようだが、気付かないはずもなく、メイドの噂にも上るほどである。

「サリー、ああ、何てことだ。私が滑稽に見えたであろうな」
「ええ、そうでしょうね。エマ・ネイリーは相当厄介なのを引っかけたと反省してください」
「男装の麗人というくらいだから、のぼせ上がる質ではないと思ったのだがな」
「中身は女々しい女だったんですよ」

 当時、エマ・ネイリーは殿下の前では、喋り方、接し方であまり女を出さないように心掛けていた。でも所詮、見掛け倒しの張りぼて男装もどきであるため、ドレスを着せれば、やはり気分が高揚したのか、女が出ていた。

「まだ男装の麗人のような格好をしていると思いますよ。殿下に褒められたから」
「他に褒めるところがないんだから仕方ないだろう」
「ドレスは似合わなかったですよね」
「鎧のようであったな」

 エマ・ネイリーは気付いていないが、肩幅が広いため、厳つい仕上がりになってしまう。だからこそ周りはサリーには可哀想と言いながらも、あれが?という気持ちがあり、調査だったと聞かされると、やっぱりそうだったのかと納得したのである。

「エマ・ネイリーは、私から再度注意して置きます」
「ああ、頼む。私はどうしたらいいんだ」
「もはや、何を仰っても、サリー様の心には届かないと、考えた方がいいと思います。あれだけ何の関係もない、正しいことをするためだったと言ったのですから。だから控えるように注意したではありませんか」

 殿下はバレなければいいという節があり、クリコットは何度も殿下に注意をした。エマ・ネイリーのことも、妙なことにならなければいいと思っていたのだ。

「たった一度キスしただけだぞ?」
「それが特別だと思い込んだのでしょう」

 殿下もエマ・ネイリーからの距離は近くなっていたことは気付いていた。ただいずれ離れる関係だったので、気にもしていなかったのだ。

「合わせる顔がない」
「そうでしょうね、側妃の話も出てくることでしょうし」
「なれる者などそういないだろう」
「まあそうですが、探しているようですから、分かりませんよ」
「はあ…もう何日、サリーを見ていないのだろうか」

 必要な公務がなければ、姿を見ることも敵わなくなったサリー。殿下の息抜きは、王太子妃宮で世話をされている、マリーヌ王女に会いに行くくらいである。まだ赤子だが、自分の境遇にいずれ気付くだろう。腐らないで欲しいものだ。
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