【完結】愛とは呼ばせない

野村にれ

文字の大きさ
上 下
12 / 203

再非望

しおりを挟む
「で、私から頼んだら違う?逃げたくせによく言いに来たものね。側妃試験を受けさせて欲しいという意味かしら?」

 逃げたわけじゃないと言いたかった、やっぱり子爵令嬢と侯爵令嬢では認められなかっただけだ。だから側妃に甘んじてあげようと思っているのに、でも相手は王太子妃である。嫌われたら、側妃も立場がないことくらい分かっている。

「はい、もう一人の側妃様も見習いになったと聞きました。私だったら、立派に務めて見せます」

 レベッカ妃の見習いの発表には笑ってしまった。私からその立場を奪ったというのに、でもこれは私に側妃になれと言っているのだと、殿下にも手紙を出したが、そのまま戻って来てしまった。おそらくクリコットの仕業だろう。ならばとサリーのところにやって来たのだ。

『そう、三ヶ国語は出来るのよね?(カベリ語)』
「え?あの…」
『三ヶ国語は出来るのよね?(アペラ語)三ヶ国語は出来るのよね?(ノワンナ語)』
「理解できないの?」
「えっと、その…」
「はあ、三ヶ国語は出来るのよね?と言ったの、分からないの?」
「それなのですが、語学は免除というわけにはいかないのでしょうか?妃殿下は出来るのですよね、ですから妃殿下にしていただいて、私は別のことを。もちろん、妃殿下には敵わないと思いますが、語学も学んでいくつもりです。いかがでしょうか」

 クリコット様はしきりに語学のことを言っていたが、サリー様が出来るのだから問題はないはずだ。あの試験だってこれから学んでいくためだと言っていた、側妃になって学べばいい話ではないか。

「はあ、あなたあれでしょう?公務は誰かに任せて、高価なドレスを着て、溺愛されて、閨を行いたい女性ね。そんな子は沢山いるの」

 側妃になりたいと言い出す者は大体が公務はサリーに任せて、自分は寵愛だけを受けたいという者で、サリーが急に出られなくなった時はどうするのかと問われれば、答えることは出来ない。妃がサリー一人なら仕方ないで済むが、側妃がいるなら出なければならない、仮病を一度くらいなら可能かもしれないが、頻繁となれば外交・夜会などに二度と呼ばれなくなる。

「っ、そうではありません」
「じゃあ、何?何か語学に勝るような功績があるの?余程のことでないと許可されないと思うわよ?」
「前の不正の…」
「あれだけで通訳は付けて貰えないわ。大きな功績があるから、語学が苦手でと言えるのよ?そうでなかったら、あれで?と言われるのはあなたよ?」
「でも三ヶ国語なんて」

 サリーの声色が急に変わった。

「ねえ、殿下や陛下を馬鹿にしてるの?皆、周辺国の王族は喋ることが必須なの。あなたは出来ないと言えるけど、王家に生まれていたら、死ぬ気で覚えることよ?」
「そ、それは…」

 失言だった。確かに陛下や殿下は苦手だろうが、妃と違って、必ず憶えなくてはならないのだ。外国語を話す殿下は非常に格好良くて見とれたほどだったのに。

「残念だけど、我が国ではあなたのような子は認められていないわ。側妃でも三ヶ国語が話せることは必須。愛妾にしてもらったらどう?それならドレスは難しいけど、溺愛と閨はどうにかなるんじゃないかしら?」
「愛妾とはどのようなものでしょうか」
「表舞台には出ず、子どもも成さず、閨をするために、殿下の訪れを待つのが仕事。費用は殿下持ちだけど、殿下とご実家から支援してもらえば、ドレスも可能かもしれないわ」
「…それは」

 嫌だ、殿下だって断ったと言っていた。私は殿下の横に立ったことがあるのだから、あの時のように大勢の前で寄り添い、褒められて、さらに愛されて、子どもを産むのだから、愛妾では駄目なのだ。

「それは嫌なのね、ならばせめて三ヶ国語を学ぶべきじゃないかしら?話はそれからだわ。私の代わりをしていたと言っていたくらいだから、話せると思っていたのだけど、嘘だったのね。一体何のつもりで代わりなんて言ったの?」
「そ、それは」
「閨のお相手ではないわよね、あなたはキスされて舞い上がっただけ。抱いては貰えなかった。だからこそ愛されていると思ったのかしら?」

 なぜ知っているのか、殿下に聞いたのだろうか。殿下はどんな顔で話したのだろうか。素敵だったと言ってくれたのだろうか。

「私は特別だったから!」
「そんな相手は沢山いると思うわよ?」
「で、でも妃殿下は!」
「何?私は愛されてもいないし、子どもも産んでもいないわ。でも能力があるからここに閉じ込められているの。あなたが嘘つきでなかったら、私は解消してもらえたのに。本当に憎いわ!この大嘘つきが!もう顔を見たくない、帰って頂戴」

 納得できない様子のエマを護衛がとっとと追い出し、サリーは侍女に入れて貰ったお茶を優雅に飲んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた

菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…? ※他サイトでも掲載中しております。

さよなら、皆さん。今宵、私はここを出ていきます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【復讐の為、今夜私は偽の家族と婚約者に別れを告げる―】 私は伯爵令嬢フィーネ・アドラー。優しい両親と18歳になったら結婚する予定の婚約者がいた。しかし、幸せな生活は両親の突然の死により、もろくも崩れ去る。私の後見人になると言って城に上がり込んできた叔父夫婦とその娘。私は彼らによって全てを奪われてしまった。愛する婚約者までも。 もうこれ以上は限界だった。復讐する為、私は今夜皆に別れを告げる決意をした―。 ※マークは残酷シーン有り ※(他サイトでも投稿中)

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

魔法のせいだから許して?

ましろ
恋愛
リーゼロッテの婚約者であるジークハルト王子の突然の心変わり。嫌悪を顕にした眼差し、口を開けば暴言、身に覚えの無い出来事までリーゼのせいにされる。リーゼは学園で孤立し、ジークハルトは美しい女性の手を取り愛おしそうに見つめながら愛を囁く。 どうしてこんなことに?それでもきっと今だけ……そう、自分に言い聞かせて耐えた。でも、そろそろ一年。もう終わらせたい、そう思っていたある日、リーゼは殿下に罵倒され頬を張られ怪我をした。 ──もう無理。王妃様に頼み、なんとか婚約解消することができた。 しかしその後、彼の心変わりは魅了魔法のせいだと分かり…… 魔法のせいなら許せる? 基本ご都合主義。ゆるゆる設定です。

もう、愛はいりませんから

さくたろう
恋愛
 ローザリア王国公爵令嬢ルクレティア・フォルセティに、ある日突然、未来の記憶が蘇った。  王子リーヴァイの愛する人を殺害しようとした罪により投獄され、兄に差し出された毒を煽り死んだ記憶だ。それが未来の出来事だと確信したルクレティアは、そんな未来に怯えるが、その記憶のおかしさに気がつき、謎を探ることにする。そうしてやがて、ある人のひたむきな愛を知ることになる。

【完結】ある公爵の後悔

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
王女に嵌められて冤罪をかけられた婚約者に会うため、公爵令息のチェーザレは北の修道院に向かう。 そこで知った真実とは・・・ 主人公はクズです。

【完結】婿入り予定の婚約者は恋人と結婚したいらしい 〜そのひと爵位継げなくなるけどそんなに欲しいなら譲ります〜

早奈恵
恋愛
【完結】ざまぁ展開あります⚫︎幼なじみで婚約者のデニスが恋人を作り、破談となってしまう。困ったステファニーは急遽婿探しをする事になる。⚫︎新しい相手と婚約発表直前『やっぱりステファニーと結婚する』とデニスが言い出した。⚫︎辺境伯になるにはステファニーと結婚が必要と気が付いたデニスと辺境伯夫人になりたかった恋人ブリトニーを前に、ステファニーは新しい婚約者ブラッドリーと共に対抗する。⚫︎デニスの恋人ブリトニーが不公平だと言い、デニスにもチャンスをくれと縋り出す。⚫︎そしてデニスとブラッドが言い合いになり、決闘することに……。

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

処理中です...