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優秀
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サリーが結婚して初めて会いたいというので、浮足立っていた殿下は地面に叩き付けられることになる。
「離縁してください」
「っな!する理由がない!側妃の妊娠が気に食わないのか!君が抱かせず、子どもを産まなかったせいだろう!」
「レベッカ様が正妃になればいい話です。彼女も引き受けて下さると申しております。本当に嬉しいですわ」
「離縁はしない」
「そうですか、それでいいのですね?後悔しませんか」
「しない」
その後も、サリーは顔を合わせても、公務の話はするが、その他に話をすれば、私ではなくレベッカ妃にお願いしてくださいと言われるだけである。
レベッカが第一子となるマレーヌ王女を出産した。さすがに殿下も自身の子は可愛いかったが、レベッカにそっくりで、可愛いでしょうと言って来るのが、ドレスを見せていかがですかと言っている顔と同じように見えた。
出産後半年が過ぎる頃、サリーが王太子宮から移ると言い出した。
「私は移りますので、レベッカ妃と王女にこちらに来ていただいてください」
「駄目だ、王太子妃はサリーだろう」
「ええ、でも公務はレベッカ妃は『私は自分で言うのは憚れますが、優秀だと思っております。殿下を支え、跡継ぎを育てることは造作もありません』と仰っておりましたので、私は必要ないかと思いますが、必要であればお呼びください。とりあえず、書類仕事は行いますので」
「待て、そんなはずないだろう」
「まさか、王太子妃に向かって嘘はつきませんでしょう?」
いつかの誰かの言葉と同じような話になっている。
「誰が許可した?」
「陛下に決まっているではありませんか。では、失礼いたします」
サリーは陛下にレベッカ妃が自身は優秀で王太子妃も務められると言っていたこと、書類仕事は今まで通り行うので、宮を移りたいと願い出た。普通なら通るはずもないが、サリーは離縁を望んでいること、レベッカの言葉も事実だと確認されており、留まってくれるのならばと許可されることになった。
これで二人は偶然顔を合わすこともなくなった。サリーの書類は完璧で、レベッカに任せた時間で、孤児院や医院の調査なども行い、精力的に動いている。
産後から回復したレベッカは、サリーが王太子宮を出たこと、大変優秀だと聞いている、殿下と公務を行うように言われ、喜びに満ちていた。
殿下も公務が出来る者が増えることは有難いので、書類を回すと、耳を疑う言葉が聞こえた。
「翻訳したものはどちらですか」
「そのようなものはありません、こちらが本書です」
「え?」
「君は、アペラ語を読めないのか?側妃の試験にあっただろう?」
「ええと、文字はあまり得意ではなくて」
「なるほど、話す方で評価されたのか」
難易度が高いため、書くことが苦手でも、話せる方が優先となり、そちらで評価する場合もある。
「はい、そうなんです。今日は母国語のものにしていただけませんか」
「は?」
「母国語のものは文官が行います」
「そ、そうでしたか」
「では、ノワンナ語はどうだ?」
「ノワンナ語でしたら大丈夫です」
本国は別の言語の国に囲まれているため、母国語であるトワイ語の他、ノワンナ語、アペラ語、カベリ語は正妃はもちろん、側妃にも必須である。
レベッカは一番得意なノワンナ語の翻訳、そして注意点、疑問点を書き出すように言われるも、まずノワンナ語が全てわかるわけではなく、崩した言葉もあるので、辞書を持ちながら、さらに注意点、疑問点も言い回しが回りくどいため、どこなのか、なかなか理解できなかった。
ようやく、二頁を翻訳することが一日で精一杯であった。
「今日はもういい。休みなさい」
「…はい」
殿下とクリコットは、レベッカの退室したドアを怪訝な顔で見詰めていた。
「初日だからとしても、翻訳は関係ないよな。優秀だと自分で言ったそうだぞ」
「あれでですか?」
「これはサリーに翻訳し直してもらうべきだろうな」
「そうですね、要領を掴めば出来るようになるかもしれませんが」
翌日もその翌日も結果は同じであった。
「あの、持ち帰らせてもらえませんか」
「執務室から書類を出すことは出来ない」
「でも妃殿下は別の宮で行われているんですよね?」
「ああ、そうだ。王太子妃の執務室であるから問題ない」
「そ、そうですか」
親しくさせてもらっている、アペラ語を母国語とするルーゴ王国の王太子夫妻が、王女の誕生祝いに訪れることとなった。さすがにサリーを呼び付ける理由が思い浮かばず、レベッカに頼むことにした。
「我々はアペラ語で会話をすることになるが、一緒に会うか」
「勿論です、私がマレーヌの母親ですから」
夫妻の到着を待つ間、レベッカはキョロキョロしており、殿下は初めての外交というほどではないが、場になれるにはちょうど良かったかもしれないと思っていた。
『ようこそ、お越しくださいました(アペラ語)』
「当たり前ではありませんか、王女殿下のご誕生おめでとうございます(トワイ語)」
「リール殿下、レベッカ妃殿下、おめでとうございます(トワイ語)」
『ありがとうございます(アペラ語)』
「ありがとうございます(トワイ語)」
王太子夫妻はレベッカを不思議そうな目で見詰めた。
「我々はアペラ語で話すんだ(トワイ語)」『大変失礼しました。まだ慣れてないものですから(アペラ語)』
「いいえ、我々も使わないと身に付きませんからね(トワイ語)」
「モッチワケゴジュマリアン」
「離縁してください」
「っな!する理由がない!側妃の妊娠が気に食わないのか!君が抱かせず、子どもを産まなかったせいだろう!」
「レベッカ様が正妃になればいい話です。彼女も引き受けて下さると申しております。本当に嬉しいですわ」
「離縁はしない」
「そうですか、それでいいのですね?後悔しませんか」
「しない」
その後も、サリーは顔を合わせても、公務の話はするが、その他に話をすれば、私ではなくレベッカ妃にお願いしてくださいと言われるだけである。
レベッカが第一子となるマレーヌ王女を出産した。さすがに殿下も自身の子は可愛いかったが、レベッカにそっくりで、可愛いでしょうと言って来るのが、ドレスを見せていかがですかと言っている顔と同じように見えた。
出産後半年が過ぎる頃、サリーが王太子宮から移ると言い出した。
「私は移りますので、レベッカ妃と王女にこちらに来ていただいてください」
「駄目だ、王太子妃はサリーだろう」
「ええ、でも公務はレベッカ妃は『私は自分で言うのは憚れますが、優秀だと思っております。殿下を支え、跡継ぎを育てることは造作もありません』と仰っておりましたので、私は必要ないかと思いますが、必要であればお呼びください。とりあえず、書類仕事は行いますので」
「待て、そんなはずないだろう」
「まさか、王太子妃に向かって嘘はつきませんでしょう?」
いつかの誰かの言葉と同じような話になっている。
「誰が許可した?」
「陛下に決まっているではありませんか。では、失礼いたします」
サリーは陛下にレベッカ妃が自身は優秀で王太子妃も務められると言っていたこと、書類仕事は今まで通り行うので、宮を移りたいと願い出た。普通なら通るはずもないが、サリーは離縁を望んでいること、レベッカの言葉も事実だと確認されており、留まってくれるのならばと許可されることになった。
これで二人は偶然顔を合わすこともなくなった。サリーの書類は完璧で、レベッカに任せた時間で、孤児院や医院の調査なども行い、精力的に動いている。
産後から回復したレベッカは、サリーが王太子宮を出たこと、大変優秀だと聞いている、殿下と公務を行うように言われ、喜びに満ちていた。
殿下も公務が出来る者が増えることは有難いので、書類を回すと、耳を疑う言葉が聞こえた。
「翻訳したものはどちらですか」
「そのようなものはありません、こちらが本書です」
「え?」
「君は、アペラ語を読めないのか?側妃の試験にあっただろう?」
「ええと、文字はあまり得意ではなくて」
「なるほど、話す方で評価されたのか」
難易度が高いため、書くことが苦手でも、話せる方が優先となり、そちらで評価する場合もある。
「はい、そうなんです。今日は母国語のものにしていただけませんか」
「は?」
「母国語のものは文官が行います」
「そ、そうでしたか」
「では、ノワンナ語はどうだ?」
「ノワンナ語でしたら大丈夫です」
本国は別の言語の国に囲まれているため、母国語であるトワイ語の他、ノワンナ語、アペラ語、カベリ語は正妃はもちろん、側妃にも必須である。
レベッカは一番得意なノワンナ語の翻訳、そして注意点、疑問点を書き出すように言われるも、まずノワンナ語が全てわかるわけではなく、崩した言葉もあるので、辞書を持ちながら、さらに注意点、疑問点も言い回しが回りくどいため、どこなのか、なかなか理解できなかった。
ようやく、二頁を翻訳することが一日で精一杯であった。
「今日はもういい。休みなさい」
「…はい」
殿下とクリコットは、レベッカの退室したドアを怪訝な顔で見詰めていた。
「初日だからとしても、翻訳は関係ないよな。優秀だと自分で言ったそうだぞ」
「あれでですか?」
「これはサリーに翻訳し直してもらうべきだろうな」
「そうですね、要領を掴めば出来るようになるかもしれませんが」
翌日もその翌日も結果は同じであった。
「あの、持ち帰らせてもらえませんか」
「執務室から書類を出すことは出来ない」
「でも妃殿下は別の宮で行われているんですよね?」
「ああ、そうだ。王太子妃の執務室であるから問題ない」
「そ、そうですか」
親しくさせてもらっている、アペラ語を母国語とするルーゴ王国の王太子夫妻が、王女の誕生祝いに訪れることとなった。さすがにサリーを呼び付ける理由が思い浮かばず、レベッカに頼むことにした。
「我々はアペラ語で会話をすることになるが、一緒に会うか」
「勿論です、私がマレーヌの母親ですから」
夫妻の到着を待つ間、レベッカはキョロキョロしており、殿下は初めての外交というほどではないが、場になれるにはちょうど良かったかもしれないと思っていた。
『ようこそ、お越しくださいました(アペラ語)』
「当たり前ではありませんか、王女殿下のご誕生おめでとうございます(トワイ語)」
「リール殿下、レベッカ妃殿下、おめでとうございます(トワイ語)」
『ありがとうございます(アペラ語)』
「ありがとうございます(トワイ語)」
王太子夫妻はレベッカを不思議そうな目で見詰めた。
「我々はアペラ語で話すんだ(トワイ語)」『大変失礼しました。まだ慣れてないものですから(アペラ語)』
「いいえ、我々も使わないと身に付きませんからね(トワイ語)」
「モッチワケゴジュマリアン」
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