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第1章『恋心の宝石』
隠された真実
しおりを挟む卵を買って家に帰るとイダとカイが出迎えてくれた。当たり前のように俺たちの持ってる荷物を受け取ろうとする二人の頭を撫でる。
ビル「ただいま~」
フュール「ただいまぁ、遅くなってごめんねぇ」
イダ「兄さん達遅かったね。お仕事お疲れ様」
カイ「おかえり」
ビル「いつもありがとな。」
カイ「ん」
リビングに向かうと何やらミランダに怒られているアルとクラウドの姿があった。ソファにミランダがドカッと座りその前に2人が正座してる状態だ。
ピルの姿が見えないのをみるとまだ帰ってないようだな。
ミランダ「アル兄…お前昼間から来た客を誘おうとするな。この話は前にもしたはずだぞ。」
アル「勝手に盛ったのはアイツのだぜぇ?俺はいつも通りに酒をオッサン共に提供しただけだ」
少しおちゃらけた風に言い返すが、ミランダに正論で叩きつけられる。
ミランダ「そのいつも通りがマズイんだ、アル兄の場合それが素だったりするから仕方ないかもしれないが、少しは抑えろ。後々面倒になるんだ。この間だって執拗いのが後をつけて来ただろ。」
アル「あ~…?あぁ、そいつ顔がキモかったから殺したぜ?だから大丈夫だろ?」
ミランダ「そういう問題じゃない。」
顔が良ければいいのだろうか……
アルはストーカーされたりすることがよくある。女性のような長いまつ毛、腰が細くスラッとしている身体つき、あと言動が際どい。変なのが寄り付くのは、まぁ無理もない。
その度に殺してはいるがそろそろ危ないと思う。気をつけて欲しいのは俺も山々だ。
ミランダ「それにクラウド…お前はいつになったら皿やグラスを割らずに洗い物をするんだ。」
話はクラウドの方に切り替わり、すっかり萎縮してしまっているクラウドに鋭い蒼の瞳が貫く。
クラウド「だって、あれ脆いんだもん…。俺は優しく洗ってるつもりだよ?」
ふいっと横を向くクラウドはもう完全に耳の下がっている大型犬みたいだ。
ミランダ「その結果が今日割った枚数か?俺が知る限り38枚は割っていだが。」
フュール「38枚も?もぅ、また買い出し行かないとじゃ~ん」
アル「お?前よりは減ってんじゃねーか」
クラウド「違う……もっと割ってる…。51枚…」
イダ「記録更新だね☆」
違う。なんかいろいろ違う気がする。あとクラウド、素直なのはいいけどそうじゃない。
ミランダ「お前は持つ時に力を入れ過ぎだ。慎重に洗っているのはわかったが強く持ってヒビが入って割れたら元も子もないだろ。」
クラウド「はい…ごめんなさい…」
クラウドのごめんなさいを最後に説教タイムは終わったみたいだ。ミランダがソファから立ち上がると、くるっと振り向く。
ミランダ「ビル兄、フュール兄。おかえり」
そのまま横を通って階段を上がり、自分の部屋に向かったみたいだ。アルは大きく伸びをしたかと思うとさっきまでミランダの座っていたソファに深く腰を下ろした。
アル「ぃつつつ…足痺れたぜぇ……」
未だ正座の姿勢のまま動かないクラウドは首だけゆっくりと振り向いて泣きつく。
クラウド「う、動けない……兄さぁ~ん……」
こっちも痺れてたのか、まぁ仕方ないな。
さっきコソッとカイに教えてもらったが正座のまま30分以上は説教されてたみたいだし。
クラウドの元まで歩み寄って手を掴むと少しの反動を付けて立ち上がらせる。
クラウド「ありがとぅ、、」
足の痺れはそう簡単には治らない、ビリビリくるのか何かヒンヒン言ってる。
タッパのある18歳だが、まだまだ子供な感じがするのは末っ子だからか。自分の半分しか生きてないこの弟が可愛くて仕方ない。
痺れを無理矢理治そうと足を揉んでいるアルの隣に座らせてから俺は自室に向かった。
ビル「ふぅ…」
コートをハンガーラックに掛けてからネクタイを緩め、ベッドに腰を降ろして深く溜息をついた。
今日の依頼内容整理しないとな。
依頼主は宝石を取られて殺された友人の代わりに友人が想いを寄せていた女性にそのことを伝えたい。その為に宝石を取り返して欲しいって事だ、テキワが予想したヤツらの中にいるのならいいが、もし外れてたら…帰り際に偶然会ったアイツの話が本当だったとしたら、何処で誰がその宝石の話を聞いていたかはわかったもんじゃない。
フュールが嘘を言ってなさそうって言ってたしな、ちょっと時間掛かるかもしれないな今回のは…。
ビル「…と、その前に」
ベッドから降りデスクの方に移動するとパソコンを立ち上げる。
貰った名刺から所属している組織を検索してみると、どうも平和主義をモットーにしている組織らしく取り仕切っているボスも柔らかそうな雰囲気のある女性だ。
軽くメンバーのデータファイルに侵入してやるとそのメンバーの個人情報が沢山流れてくる。
ビル「あの4人は………。お、居た。ちょっと保存させて貰うか、」
テキワという男の言っていた4人とテキワ、そして組織のボスの情報も一応コピーを取ってからさらに下へスクロールしていると、死亡と表示された欄が出てきた、昨晩死亡した男の情報も記載されていた。それを確認してからパソコンを閉じる。
再びベッドに背中からダイブして天井を眺めながら考えた。
ビル「………。」
殺された男は、一体誰に想いを伝えようとしたのだろう…。
フュール「おまたせぇ~、ご飯できたよぉ~!」
その声に意識が引き戻される。
そうだ、今晩はオムライスだ。急いで行かないとおかわり出来なくなる。
部屋を出て下に降りるとミランダとイダ以外揃っていて、もう食べ始めていた。クラウドに至ってはガツガツ食べて半分ぐらいなくなっている。
しまった、出遅れた。そして、いつの間にかピルも帰ってきてたらしい。
ビル「おかえりピル」
ピル「お、ただいまぁ~。なぁなぁ、聞いてくれビルぅ~」
いつも通り真正面から飛びつかれて非常に邪魔。
俺もいつも通りに頭を撫でてやりながら話を聴いてやると、どうも今日の依頼主が色目を使ってきたらしい。この男のどこがいいのか…。
まぁ、見た目は悪い方ではないしむしろいい。
口さえ開かなければそこそこイケメンなのではないかと思う。(俺も同じ顔してるが)
それでもしつこく迫られたから逃げるように帰ってきたらしい。
ピル「浮気相手の処理する依頼だったから簡単に終わったけどよぉ、“もう夜だしどお?“とか“仕事忙しいから発散出来てないんじゃないの?“とか言ってきてもう散々だったんだよぉ~。俺はさっさと帰りたかったのにぃ~」
その女の真似をしてるのか裏声をだしながら言ってる。
フュール「ピルが誘われるの面白いけどねぇ、
仕事に影響出るようなら切っといたほうがいいかなぁ?」
ピル「そこまではいいわ、次指名で依頼入った方が金貰えるし…。」
アル「ピル兄も誘われてんのウケる…w」
クラウド「綺麗な人だったの?」
カイ「まさか…満更でも無かった…?」
ビル「え、マジでか?相棒…」
ピル「ちげぇし!あんな女と一緒に居るより俺は皆と居た方がいいの!」
フュール「ハイハイ、早く席ついてねぇ。」
やれやれとでも言うようにフュールがピルの首根っこ捕まえて引き剥がしてくれた。コレでやっと飯が食える。
まだなにかブーブー言ってるが、大丈夫だろ。
席につくと湯気のたつオムライスが目の前にある。やばい、美味そう。
ビル「いただきます」
フュール「ど~ぞ~」
口いっぱいにケチャップライスとトロトロの卵を頬張る。フュールの飯はどんなのでも美味い。
本人も「失敗作のご飯なんて食べさせないから」といつも張り切って作ってくれている。
家事が出来ない俺からしたらだいぶありがたい。
イダ「うわぁ~っ、今晩はオムライスなんだね!美味しそう!」
階段から顔を覗かせながら降りてくるイダ。その後にミランダも続いて降りてくる。コレで全員揃った。
それぞれ今日あった出来事などで会話を弾ませ、いつも通り楽しい食卓を囲んだ。
食べ終わった順で、流しに皿を置き。またそれぞれの時間を過ごす。皆リビングや部屋に行ったり風呂に入りに行ったりして、いつの間にかダイニングには俺とフュールだけになっていた。
フュールは、ハーフアップにしている髪を一つにまとめ上げて皿を洗っていた。
フュール「ねぇ、ビル」
ビル「…ぉん?」
フュール「今日の依頼、調べた内容僕のスマホに送っといてくれないかな?僕が明日聴き込みしてくるからさぁ」
ビル「あぁ、わかった…。けど1人で大丈夫か?」
フュール「うん大丈夫だよぉ。ほら、僕達2人で街中歩いてると目立っちゃうでしょ?」
ビル「まぁ、そうだな」
じゃぁさっき調べた内容を後でフュールのトコに送っとくか。
立ち上がり、部屋に戻ろうとしたとき風呂場からカイがひょっこりと顔を出した。
カイ「お風呂、上がったよ」
ビル「おー、わかった。フュール先に風呂はいるか?」
フュール「いーよぉ、僕最後に入るから」
ビル「カイ、他はもうはいったか?」
カイ「…うん。たぶんはいったと思う」
ちょっと首を傾げながらそう答えた。ならお言葉に甘えて先にはいらせてもらおう。
ビル「じゃあ先はいるわ」
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
お風呂場に姿を消したビルを見届けたカイは僕の所まで歩いてきた。
カイ「あと俺洗おっか?」
フュール「すぐ終わるから大丈夫よぉ。ほら、髪まだ濡れてる、ちゃんと拭いときなさいね」
カイはこくっと頷いて、髪をわしわし拭きながら二階にあるリビングに向かった。すると急にドタドタと音がしたと思うと、ピルが階段を駆け下りてきた。
フュール「ピル!危ないから階段で走らないで!」
ピル「わりぃ!ビルぅぅっ!!」
一言だけ謝られたけど、7割悪いって思ってない。
よく見る光景でそのままお風呂場にピルが直行した。お風呂場からビルの怒鳴り声が聞こえる。
ビル「ちょっ!!狭ぇから入ってくんなよ!」
ピル「いいじゃねーかよぉ!ビルぅ!」
ピルはいつでもあんな感じだけど、ちょっとは落ち着いて動いて欲しいなぁ…..
皿を洗ってからリビングに向かいお風呂終わったか再確認してからタオルを取りに部屋に向かう。
部屋から出たタイミングで二人が騒がしくリビングに来るのがみえたから僕もお風呂に入ろう。
身体を洗い湯船に浸かりながら、明日の計画を立てる。これが僕の日課。
お風呂を上がり、部屋で髪を乾かすとスマホにビルからの通知が来た。さっき言ったのを送ってくれたみたい。軽く確認しておこう。
フュール「……なるほどねぇ…」
とりあえず明日聴き込みしないとなにも始まらないから、今日はもう寝よう。
僕はリビングから聞こえる皆の声を聴きながら眠りについた。
━━━━━━━━━━━━━━━
朝、いつも通り5時30分ぐらいに起きて皆の朝食を作り着替えて家を出た。
写真で貰った“少し大柄の柔らかい雰囲気のある者““眼鏡にヘアセットバッチリの堅そうな者“
“金髪で顔に刺青のあるチャラい者““筋肉質なガタイのいい者“のそれぞれの日課や、いつもどこにいるのかをビルに調べてもらい。その内容を頼りにザベド街に向かう。
フュール「昨日一人に聴けたしねぇ…あと三人かなぁ?」
車を走らせながら目的地の確認をしているとビルから電話が掛かってきた。珍しい、もう起きてるだなんて。片手でスマホを取り出して着信ボタンを押すと少し眠たげなビルの声が聞こえてくる。
ビル『もしもし…』
フュール「もしもし~」
ビル『フュール…もぅ、家…出たんだな…..。』
フュール「そうだよぉ、おはよ~。」
ビル『ん、はよ…』
フュール「朝ごはんはまだそうだねぇ。ちゃんと食べてねぇ」
ビル『…ん……』
フュール「ちょっとぉ、寝ちゃダメだよ~。
それでぇ?どーしたのぉ?」
ビル『あ”~……昨日、送ったのまだ調べきれてないから…更新したら、見といて…』
フュール「はぁ~い、わかったよぉ」
律儀に報告するために電話してきたみたいね。
電話を切って助席ほうに置く。
目的地はもうすぐだ。雑貨屋に足を運ぶと開店の準備をしている大柄な男に声をかける。
フュール「すいません、ちょっといいですかぁ?」
男「ん?ゴメンね~開店まであと少しなんだ。もうちょっと待ってくれないかい?」
お客さんと間違えたみたい。
フュール「いえ。あなたにお聞きしたいことがあって来たんです。お時間よろしいですかぁ?」
男「あ、そうなのかい?間違えてごめんねぇ。それで、聞きたいことって?」
仕事の手を止めて僕の方まで歩いてきてくれてる。写真のイメージ通りでホント助かるわぁ…
周りに花でも咲いていそうなほどのほがらかな印象をあたえる人だ。
フュール「はい、先日あなたも所属している組織のおひとりが亡くなられたそうですね。それについて調べたいことがあったんですよぉ。」
男「あぁ、あの人ね…。まさかうちの組織であんなことが起きるなんて思ってもみなかったからね。驚いてるよ。」
顔色が少し曇った。平和主義をモットーにしている組織で殺しがあったんだから無理ないかもしれない。
フュール「そこで、なんですけど。ある宝石の話ってご存知ですかぁ?」
男「宝石?……え~っと…、あ!ハート型の宝石のことかい?!」
フュール「多分そうだと思います。光を翳すと~のヤツですねぇ」
男「なら合ってる!その話は亡くなっちゃったハシヴさんに教えてもらったんだよ。でも、それがどうかしたのかい?」
フュール「その宝石について調べないといけない仕事がありましてねぇ、詳しく教えてくれませんかぁ?」
男「そうなんだね。ん~、でも少し前だったからね覚えてるか自信ないけど。なんだっけな…」
考えこんじゃった…でも手掛かりがあるなら待ってようかな?僕的にこの人が持ってるとは考えにくいんだよねぇ。数分経ってから唐突に頭をあげて話し出した。
男「あのねぇ、少し恋愛の話になるけどいいかい?」
フュール「はい、いいですよぉ」
男「ハシヴさんは、うちの組織のボスに片思いしていたんだけど。下っ端の自分なんかが告白したらいけないとか言って想いを伝えることができてなかったんだよ。そーいう相談は俺も受けてたからね。でも、ある時皆とご飯食べに行ったときだったかな?宝石の話を持ち出したの。」
フュール「皆って誰ですか?」
男「えっと、ハシヴさんとテキワさんとクブサさんと俺の四人だよ。それでね…」
クブサ…昨日の夜みた名前だな。確かチャラい人だ。
話を聴くと一緒にご飯に行ってから宝石の話が出てきて、迷信だから叶わないと思うけど少しでも自分が想ってることを伝えたいと言っていたらしい。そして、その話を反対していたのがクブサだという。この人はクブサのことをあまりよく思ってはいなかったけど、ハシヴが誰とも気兼ねなく話しかけるタイプの人だから話す機会は沢山あったみたい。反対されてからは1度も宝石の話を持ち出されることはなく、もう渡したものだと思っていたらしい。
男「俺が知ってる限りはこんな感じかな。お力になれたかい?」
フュール「はい。お時間いただき、ありがとうございましたぁ。お仕事頑張ってくださいね」
男「ありがと~」
だいぶ時間を割いてくれた。店の開店準備を後に来た別のスタッフに任せて、お客さんも入ってきていたのに、僕の話に応じてくれた。
雑貨屋を出て時間を確認してみると、既に12時を回っていて、少しばかり小腹が空いてきた。
フュール「カフェでお茶しよ~」
独り言をボヤきながら街中を歩いていると、人目に付きにくい小洒落たカフェ店をみつけた。
中に入り窓際の席につくと女性スタッフが声をかけてくれた。
コーヒーとサンドイッチを注文してからスマホを開くとビルから通知が来ていた。
((堅物さんは組織の秘書。
後、ハシヴの死因が銃殺から交通事故に変えられていた。よく分からないからそこの調査頼む。))
フュール「……」
何それ僕も分からなぁい…。なんで変えたんだろ
何か変える必要でもあったのかな?
フュール「ま、僕は仕事をこなすだけだけどねぇ~…」
必要の無い情報はあまり取り込まない方がいい。そっちのほうが動きやすいからね。
写真を机に並べて、ビルからの情報を頼りに僕なりの推測を立てる。最初の二人の線は低いと予想してるんだけどなぁ…。
注文したものが到着して食べていると、ふと外を通った男に目が止まった。
フュール「……、?」
何やらコソコソと怪しい動きをしているように見えた。男は深くフードを被り、周りを確認しながら建物の中に消えた。顔はよく見えなかったが顔から首にかけて刺青があったような気がする。
フュール「なにあれ…。…にしてもどっかで見たことあるような刺青だなぁ………あ、」
目線を下に向けると机の上に置いてある4枚のうち1枚の写真に目を向ける。
フュール「やっぱり…」
刺青がみえてる写真で助かった。
急いでサンドイッチとコーヒーを押し込んで、会計を済ませてから店を出る。
男の入った建物に近づいていくにつれて何かが燃えるような煙たい匂いが漂って来る。
フュール「煙草…?いや、なんか違うねぇ…」
ドアに耳をつけて中の音を確認するが、特になんの音もしなかった。そして僕は、ゆっくりとドアノブに手を掛けて静かに中に入っていった。
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