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18.サバンナへ

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「これから、サバンナの奥にある宿泊地に、向かいますから」
 と、運転席に座ったオニャンゴが言い、車を走らせた。
 ナイロビは、高いビルディングが立ち並び、とてもイメージしていたアフリカとは違った。
 だが、車を一時間も走らせると、徐々に人工物は減り、高い木が目立つようになってきた。
 ふと気づくと、大小さまざまな木が目立ち始め、広大な自然が眼前に広がっていた。
 その風景を見た清子が、思わず驚嘆の声を上げた。
 生まれて初めて、地平線を見た。
 四方を人工物や山に囲まれた日本では、こんな景色は絶対に拝めない。
 あまりにも広大な、素晴らしい景色だった。
 アフリカはもちろん、海外旅行そのものが初めての清子にとって、新鮮な感動だった。
 信二は、仕事の関係で、アメリカ出張は何度もあるが、当然都市部に駐留ちゅうりゅうするばかりで、このような大自然を観たのは、やはり初めての経験だった。
 信二は、清子に言って、窓を開けさせた。
 朝早いこともあり、それほど熱風も入ってこない。
 日本ではいだこともない、大自然の砂埃の匂いを存分に堪能たんのうした。
 ふと、車のサイドミラー越しに後ろを見ると、ブッシュの向こうに、高いビルディングが蜃気楼しんきろうのように浮かんでいた。
 眼前に広がる大自然と、それとは真逆な光景が、混在している。
 不思議な感覚だった。
 すると、突然、紘一が叫んだ。
「左だ!左に回れ!」
 オニャンゴは、ハンドルを左に切った。
「なになに、どうしたの!?」
 清子が疑問を口にすると、隣のケムワがつぶやいた。
「ヒポポタマス」
 (カバ?どこに?)
 と、信二は目をらした。
 だが、信二の眼前には、草原が広がるばかりだ。
「コーイチは、カバの写真、撮りたがっています」
 と、オニャンゴが、車を走らせながら言った。
「カバ?どこよ?」
 と、清子も辺りを見回しながら、聞いた。
 すると、ケムワが、まっすぐ前方を指さした。
 信二も清子もその方向に、目をらす。
 徐々に、沼地のようなものが見えてきた。
 そして、その泥の中に、かすかに動くものが見えてきた。
 (あれがカバか?)
 (あんな遠くから、よく見えたな)
 信二は、オニャンゴやケムワはともかく、紘一の視力に驚いた。
 やがて、カバを刺激しないよう、沼地から離れた場所に車を止めると、紘一はカメラを携え、ソロソロと、カバに近づいていく。
 スティーブンス一行を載せた後続車も、車を止めて、休憩に入った。
 スティーブンスたちは、クーラーの効いた車から出てこようともしなかった。
「コーイチ、いつも突然、撮りたい写真が出来ます。
 私たちは、慣れました」
 と、オニャンゴは苦笑いしていた。
 ケムワが、車椅子を組み立て、信二を座らせてくれた。
 そのまま、車椅子を押し、信二を高い木の陰まで連れて行ってくれる。
 清子とオニャンゴも付き添う。
 紘一の視線の先では、沼地でカバの親子が、仲良く水浴びをしている。
 ゆっくりと近づいた紘一は、腰をかがめ、カバの親子を刺激しないよう、シャッターを押し続けていた。
「カバは、怒らすと、とても危険なんです」
 と、オニャンゴが、清子に説明した。
 そのうち、紘一は、泥の中に寝そべり、なおもシャッターを切りだした。
 それを見た清子が、
「ああ、お洗濯大変そう」
 と、つぶやいた時だった。
 スタッフの一人が、スティーブンスの車から飛び出し、草原を指さして何か叫んだ。
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