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11.最後通告

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 その次の日から、紘一は、動き始めた。
 何かあるごとに、電話を掛けている。
 逆に、食事中でも、電話を受けることも増えていった。
 清子は、あえて何も言わなかった。
 口数を減らすことで、信二のサバンナ行き反対の意思表示を示しているようだった。
 だが、紘一が電話を掛けたり、受けたりするたびに、機嫌が悪くなるのは、見て取れた。
 そんな状態から、一週間が経った。
 再び、紘一が、アフリカに旅立つ日になった。
 見送りに、清子の姿はなかった。
 いつもなら、泣きそうな顔をして、
「次は、いつ帰ってくるの?」
 と、早くも次の帰国予定を聞いてきたのに。
「お袋に嫌われちゃったな」
 と、笑いながら、紘一は、信二に言った。
「……すまん」
 信二は、謝ることしかできなかった。
「まぁ、いいさ」
 と、紘一は、笑って答えた。
 続けて、
「親父。サバンナには、絶対連れて行ってやる。
 だから、それまで死ぬなよ」
 と、いつもの軽口を叩いた。
 信二は、神妙しんみょうに頷いた。
 タクシーに乗り、空港に向かう紘一を見送った後、一歩一歩ゆっくりと玄関に近づいた信二は、そこで初めて、清子が玄関に立っている姿に気がついた。
「…そこにいたのか。紘一は、もう行ったぞ」
 と、信二が言うと、清子は、
「知ってるわよ。ここで見てたから」
 と、素っ気なく答え、きびすを返し、二階の自分の寝室に上がって行った。
 今までは、信二と清子は、二階の部屋で一緒に就寝していた。
 だが、夜中に信二は息苦しさを覚え、目覚めることが増えてきた。
 仰向けに寝ていると、のどの奥が重力で引っ張られるような、気道を塞がれるような、そんな気がするのだ。
 信二は、仰向けで寝ることに不安を感じ、横向きに寝るようになった。
 しかし、ずっと片横で寝ていても、苦しい。
 適度に、寝がえりをするようになっていた。
 同時に、夜中に何度も寝がえりを打つことで、清子を起こすことも増えてきた。
 二階への階段を上がることに不安を感じていたこともあり、信二は、一階の客間にベッドを置き寝起きするようになっていた。
 そんな信二が、一階の自分の寝室につき、やれやれと腰を下ろした時、
「そんな状態で、本気でサバンナに行くつもりなの?
 サバンナどころか、飛行機に乗るのだって無理よ」
 と、声がした。
 入り口には、二階に上がった、と思っていた清子が立っていた。
 信二には、その言葉は、清子からの最後通告のように、感じた。
 しかし、その最後通告に返答できなかった。
 (清子の言う通りだ)
 とさえ、思った。
 だが、信二は、自分の死が近づいているからこそ、彼らの死を見たいと思った。
 彼らの死に様を見たい、と思った。
 彼らの選択した覚悟を感じ取りたかった。
 (それを清子にわかってもらうには、何と伝えればいいんだろう)
 信二は、長考した。
 黙りこくった信二を見て、清子は、聞えよがしな大きなため息をついた。
 きびすを返し、部屋を出ようとした清子に向かって、信二が言葉を発した。
「青い薔薇ばらなんだ」
 清子が、振り返った。
「無理かもしれない。夢かもしれない。
 でも、サバンナに行くことは、俺にとって、青い薔薇ばらなんだ」
 清子は、黙って信二を見ていた。
 そして、そのまま何も言わず、部屋を出た。
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