戦士と腕輪

第7章 闇と過去との決着

第66話 父親の懺悔

戦士と腕輪　第66話　父親の懺悔

　商業都市の大混乱から1ヶ月後、辺境の村の入り口に1人の男が歩いてやって来た。その男とは、何とあの暗黒騎士であった男性であったのだ。今は黒い甲冑や兜を脱ぎ捨てて、普通の服装を着用していた。この元暗黒騎士の男性は故郷である辺境の村に戻って来たのだ。

「ひさしぶりだな。あれから10年以上も経ったんだな。以前と変わらないな。」

元暗黒騎士の男性は辺境の村の入り口付近で村の様子を見渡すと昔と変わらない景色に安心してか、ほっとした気持ちになるのであった。彼は商業都市の自警団から取り調べを受けたが、暗黒騎士として活動していた頃の記憶が曖昧だったことや大量のモンスターを使役したり、強力なモンスターを召喚することなどはとても難しいことなので、彼を商業都市の大混乱を引き起こした張本人と断定するのは困難であった。また、襲撃を受けた有力商人からも処罰の要求が特になかったため、商業都市の自警団は彼を商業都市の大混乱の張本人とは断定せず、牢屋に1ヶ月程度拘留したのち、商業都市から追放するのであった。解放された元暗黒騎士の男性はその足で辺境の村へと向かい、今へと至るのであった。

「お、俺の家だ。やっと戻って来れたな。昔と何も変わらないな。あの人はまだ居てくれるかな。」

元暗黒騎士の男性は辺境の村の中に入ると早速住んでいたと思われる自分の家の前まで辿り着き、喜びに浸り始めるのであった。さらに、玄関の扉の前に立つと会いたい人のことを頭の中で思い浮かべながら、軽く扉を叩くのであった。

「トン。トン。こんにちわ。」

「はーい。どなたですか。」

元暗黒騎士の男性が扉を叩くと家の中から声がして、扉がゆっくりと開くのであった。開いた扉から姿を現したのは少年の母親であった。何と、元暗黒騎士の男性が訪ねた家とは少年の家であった。

「えっ。あ、あなた。」

「ただいま。突然いなくなって、すまなかった。」

出迎えた少年の母親は驚愕するのであった。何と、目の前にいたのは10年以上前の嵐の夜にこつぜんと姿を消した旦那こと少年の父親であった。元暗黒騎士の男性は少年の父親であったのだ。少年の母親は少年の父親がいなくなった後に少年を1人で産んで育てていた。

「本当にあなたなの。今まで、どうしていたの。」

「本当にすまなかった。詳しく説明させてくれ。」

少年の母親は目に涙を浮かべながら、少年の父親に質問を投げかけるのであった。少年の父親もひさしぶりに愛する妻に会えて喜んでいたが、家をほったらかしにしていた気まずさもあり、謝ることに専念していた。少年の母親はさらに歩み寄って、少年の父親を家の中に招き入れようとするが、その前にやることがあった。

「バコン。バカ。私を1人にして、どこでほっつき歩いていたの。あのいなくなった日に本当は子供ができたって報告したかったのに。あの後、1人で子供を産んで育てて大変だったんだから。」

「ご、ごめんよ。えっ。子供。俺の子がいるのか。ほ、本当にごめん。」

少年の母親は、少年の父親の顔をその拳でぶん殴ると、少年のことを語るのであった。少年の父親も自分に子供がいることを聞かされて、大変驚くとともに自分のしでかしたことをとても悔いるのであった。そして、少年の父親と母親は抱き合って、再会の喜びをかみしめ合った。

「詳しい話は家の中でしましょう。さあ、入ってちょうだい。」

「わ、わかったよ。本当にごめんよ。」

感動の夫婦の再会と思いきや手荒い再会となったが、少年の母親は詳しい話を聞くために、少年の父親を家の中に招き入れるのであった。一方、その頃、少年たちは商業都市を出発して、1週間以上が経過していた。商業都市の斡旋所でクエストを受けたわけでなく、商業都市からも離れることにしたのだ。目的は今回の一件で顕在化した暗黒剣と黒のオーブに関することであった。

「はあ。もったいないな。商業都市の斡旋所ならもっといい報酬のクエストを受けて、稼げてたのにな。」

「全くだぜ。オレたちなら、相当稼げていたはずだぜ。」

少年とウォーリヤーは商業都市の斡旋所でクエストをもっと受けて稼げていたと歩きながら口惜しそうにぼやいていた。

「キシャー。その話は先週したニョロ。旅先の斡旋所でコツコツとクエストを受ければいいニョロ。それよりも我らには大いなる目的があるニョロ。」

「洞窟の主さんのおっしゃる通りです。暗黒剣や黒のオーブの一件で、これらに関わる問題を解決する必要が出て来たのですから、私たちで旅をして解決をしないといけませんよ。」

洞窟の主が少年とウォーリヤーを諭すように話すと、シスターもそれに同意するように旅の目的を語るのであった。少年たちは暗黒剣や黒のオーブの一件で洞窟の主から、これらが大昔に世界を暴れ回ったとんでもない悪党の征伐に関わるものであり、この問題を解決しないとまた暗黒騎士の起こしたような事件が起こる可能性が高いと聞かされた。このまま放置することはできないと言うことで、少年たちは商業都市を出発して、旅に出るのであった。少年たちの行く手には、これから先、何が待ち受けているのか、少年たちには知る由もなかった。