戦士と腕輪

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第6章 暗き闇との邂逅

第53話 惨敗と武器破損

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戦士と腕輪 第53話 惨敗と武器破損

 商会の馬車を死守した少年とシスターは翌日に有力商人への報告のため、商会へと向かっていた。暗黒騎士との戦闘でダメージを負っていた少年であったが、その日のうちにシスターの回復魔法で治してもらい、一晩ぐっすり寝ると体力ともに回復していた。

「はあ。昨日は何とか馬車を守り切れたが、相当やばかったな。モンスターだけだと思ったら、あんな強そうな騎士っぽいのが現れるなんて。」

「そうですね。でも、商会からの依頼はしっかりと達成できたので十分だと思いますよ。それにこうやって元気に歩いてられるし。」

シスターも昨日の戦闘で多少のダメージを負っていたにも関わらず、少し落ち込む少年を励ますのであった。そんな会話をしているうちに、2人は商業都市の商会に到着するのであった。

「おはようございます。昨日の馬車の護衛の件で報告に来ました。代表の方にお会いしたいのですが。」

「おお。これはお待ちしておりました。昨日はうちの馬車と従業員も守っていただき、大変感謝しております。ささ、どうぞ。私の部屋の中へ入ってください。」

少年とシスターが商会の中に入ると、有力商人がすぐに出迎えてくれて、自分の部屋へと案内するのであった。その対応ぶりは、有力商人の感謝する気持ちの現れであった。2人は有力商人に案内されて、部屋に入ると、早速、昨日の馬車の護衛の件を報告した。

「お願いされていた馬車の護衛の件ですが、襲撃を受けたものの、襲撃者を撃退して、何とか守り切れました。」

「うちの従業員からも聞いております。本当にありがとうございました。」

少年は有力商人に昨日の馬車の護衛で襲撃を受けたことを詳しく説明していた。有力商人も少年たちに感謝しつつ、少年の話を注意深く聞くのであった。

「やはり、襲撃者は馬車の積荷を狙っていたようです。何度も襲撃していたのも目当ての積荷を得るためだったのでしょう。心当たりはありますか?」

「そうですか。そうだとすると、今回の積荷に狙いのものがあったのでしょう。こちらを見てください。」

少年が馬車の積荷の件で心当たりがないかと聞くと有力商人も何かを察したようで、机の上に置いてあった箱を開けると、あるものを見せてきた。

「おそらく、襲撃者が狙っていたものはこちらの品でしょう。」

「こ、これは何ですか。何かとても高価そうなものですが。」

少年とシスターは有力商人が見せてきた宝物を食い入るように見るのであった。宝物は玉のような形をしていて、少し黒みがかっており、不思議な光沢を放つのであった。

「この品は、先日、我が商会がオークションで競り落とした黒のオーブと呼ばれるものです。これは古い遺跡で見つかりまして、あまりの美しさに美術品として取り扱われ、オークションに出品されて、私が気に入り、競り落としました。金貨100枚近くは費やしました。」

「金貨100枚。それは高価な品ですね。これを狙って、襲撃してきたなら、わかりますね。でも、暗黒騎士がモンスターを使役したり、そんなことをするほどの貴重な品なのかな。」

少年は有力商人の説明を受けて、高価な黒のオーブを狙って襲撃してきたことをある程度理解を示すが、腑に落ちない点も同時に感じていた。

「この黒のオーブに関してはオークションで落札後も会場周辺で不審なことがあったので、他の商品といっしょに主催者側が厳重に警備を行なっておりました。それで襲撃犯は手が出せなかったので、輸送中の馬車を狙うことにしたのでしょう。高価なものですから、これからはうちの商会で厳重に警備しますよ。あと、商業都市の自警団もおりますから、安心です。」

「まあ、確かに犯行の手口はかなり特殊ですが、犯人の狙いが黒のオーブなら警備を厳重にしておけば大丈夫でしょう。では、今回の依頼はこれで終了でしょうか。」

「はい。今回のクエストでの依頼は終了でかまいません。本当にありがとうございました。」

有力商人の説明を受けて、少年は今回の件にある程度納得すると、馬車襲撃犯の調査と撃退のクエストの終了を有力商人から告げられるのであった。少年とシスターは有力商人の感謝の言葉を受け取ったのち、商会を後にして、斡旋所へ向かうのであった。

「おはようございます。クエストが完了したので報告に来ました。」

「これは、昨日の商会のクエストを引き受けてくださった方ではないですか。
もうクエストを完了されたのですか。さすがですね。」

少年たちは斡旋所に入るとすぐに職員のいるカウンターへ向かい、クエストの完了を報告した。少年とシスターが昨日引き受けて、今日完了の報告に来ることに斡旋所の職員は大変驚きながら、クエストの完了報告を受けるのであった。

「では、今回のクエストの報酬になります。」

「銀貨50枚。え、こんなにいただけるのですか。何かの間違いではありませんか?」

少年は報酬の多さにびっくりするのであるが、斡旋所の職員が理由を説明してくるのであった。

「実は依頼主の商会から報酬の増額が連絡されましたので、銀貨50枚になりました。商会も今回の馬車の襲撃犯の撃退を高く評価されております。」

「なるほど、わかりました。がんばった甲斐があったな。」

「本当に良かったですね。あんな激しい戦いをされて、剣まで折れてしまって、それでもあの暗黒騎士を撃退されたのですから。はっ。いけません。」

少年は厳しいクエストを達成して、依頼主から高い評価を受けたことに感銘を受けて、喜びの余韻に浸るのであった。シスターもそんな少年の功績を褒め称えるのであるが、今、言ってはまずい言葉を発してしまったようであった。

「はっ。はっ。はっ。まあ。報酬がこんなに高額なんですから、今はそのことは忘れましょう。この銀貨50枚で今夜はどんなご馳走をいただきましょうか。」

「そ、そうですね。商業都市にはまだ行ったことのないレストランがたくさんありますから、今夜はそこでお食事をしましょう。」

少年も忘れていたある痛い事実をシスターの言葉で思い出すが、今はその事実を忘れるようにした。地雷を踏んでしまったシスターも少し焦ったが、少年を励ますように食事をしようと提案するのであった。2人は斡旋所でクエストの報酬を受け取ると宿屋に戻るのであった。

「はあ。ひさしぶりに大変なクエストだったな。あんなに強い敵が出てくるとは予想外だったな。ギリギリのところで撃退できたけど、次に暗黒騎士と再戦する時は勝てるか自信がないな。何とかしないとな。でも、報酬がこんなに高かったのはせめてもの救いだな。じー。」

宿屋の部屋に戻った少年はクエストや報酬の件で色々と物思いにふけっていたが、あるものに目線が向かってしまい、凝視してしまうのであった。

「はあ、やっぱり、痛いな。大事な剣が折れてしまうのは。」

少年は部屋の壁に立てかけられた折れた黒鉄剣を切ない気分で見つめていた。刀身の半分くらいのところで真っ二つに折れてしまい、戦闘には使えない状態であった。魔王との戦闘も共に戦った黒鉄剣には並々ならぬ思い入れがあり、少年は何とかしたいと思うのであるが、どうしたものかと考えあぐねるのであった。

「代わりの剣を探すしかないかな。商業都市ならすごい剣が売られてそうだし。」

「トン。トン。失礼します。私です。入ってよろしいでしょうか。」

少年が折れた黒鉄剣をどうしたものかと考えているとシスターが部屋を訪ねてくるのであった。シスターも先ほどの斡旋所での件で余計なことを言ってしまったと感じて、謝りに来たようであった。

「先ほどは余計なことを言ってしまって、すいませんでした。お気持ちも察せられなくて。」

「いや。いいですよ。剣が折れたのは事実ですから。俺がまだ未熟だからですよ。でも、この折れた剣を何とかしないと明日からクエストもまともにこなせなくなりますから。」

「では、これから武器屋に行ってみませんか。折れた剣を直すか、新しい剣を探すか、なんかとかしましょう。私も付き合います。」

シスターは少年に謝りの言葉を述べると、少年を励ますべく、武器屋に行こうと誘うのであった。どうしようかと考えあぐねていた少年にとって、その言葉は背中を押す一押しとなった。

「わかりました。早速、今から、武器屋に向かいましょう。いっしょに付き合ってください。時間がかかるかもしれませんよ。」

「はい。何時間でも、お付き合いします。好きなだけ選んでください。」

武器屋に行くと決心した少年に対して、シスターもいっしょについて行くと返事するのであった。早速、2人は宿屋を出ると武器屋に向かうのであった。

「こんにちわ。お世話になります。」

「いらっしゃいませ。おー。これは先日来ていただいた方ではないですか。どうされましたか。」

武器屋の店主は少年の声に気がつくとすぐに応対をし始めた。少年は折れた黒鉄剣を見せて事情を説明し始めた。

「実は、先日研いでもらったばかりの剣なのですが、この通り、昨日の戦闘で折れてしまって、どうしたものかと悩んでいます。修復するにしても時間がかかりそうだし、あきらめて新しいのにするのも探すのに大変そうだし。」

「なるほど、困りましたね。これほどの黒鉄剣はなかなか出回っていないので新しいのを見つけるのは大変ですよ。修復するにしても、こんなに真ん中から上下2つに折れてしまっていると修復するのが大変そうですな。」

少年の話しを聞いた武器屋の店主は折れた黒鉄剣を見ながら、そう話していた。しかし、武器屋の店主は何かを閃いてようで、少年に語り始めた。

「あ、もしかするとあの店でなら、何とか修復してくれるかもしれません。」

「ほ、本当ですか。詳しく教えてください。」

少年は武器屋の店主の言葉にすぐに食いつくのであった。

「うちに武器を卸してくれている鍛冶屋があります。鍛冶屋の親父はとても腕が良くて、強力な武器を作っては、たまにうちにも強力な武器を卸してくれます。あの鍛冶屋の親父なら、あなたの折れた黒鉄剣を修復してくれるでしょう。」

「良かった。すぐにでも、その鍛冶屋の場所を教えてください。今から向かいます。」

「わかりました。鍛冶屋の場所を教えます。」

そう言うと、武器屋の店主は少年の折れた黒鉄剣の修復のために鍛冶屋の場所を少年に詳しく伝えるのであった。早速、少年とシスターは鍛冶屋へと急いで向かうのであった。

「えーと。ここかな。この路地の中に入って、奥に進むと鍛冶屋があると言ってたな。」

「かなり、道が狭くなってきましたね。こんなところに教えていただいた鍛冶屋があるんでしょうか。」

少年とシスターは武器屋の店主から教えてもらった道を進んで、鍛冶屋へと進んでいたが、道を進むにつれて、どんどんと道幅が狭くなってきており、道を間違えているのではないかと不安を感じ始めていた。しかし、数分もするとその不安は吹き飛ぶのであった。

「あっ。見てください。あんな隅っこにお店がありますよ。」

「本当だ。あの看板のデザインは教えてもらった鍛冶屋のものだ。あれが目的の鍛冶屋か。」

シスターが路地の奥にある店の存在に気がつくと、その店が目的の鍛冶屋であった。少年とシスターは足早に鍛冶屋へ歩いて行き、店の扉を開くのであった。

「ガン、ガン。うん、なんだ。お前らは。」

「こんにちわ。武器屋の店主に紹介されて伺いに来ました。」

少年とシスターが鍛冶屋の中に入ると、年配の男性がハンマーを持って、赤く熱せられた鉄を叩いていた。少年は年配の男性の質問にすぐに答えるが、しばらくの間は鉄の打撃音のみが鍛冶屋の中に響き渡るのであった。店には年配の男性のみで、どうやら年配の男性が鍛冶屋の親父であった。

「ジュー。よーし、こんなもんだろう。待たせたな。あいつの紹介か。珍しいな。用件は何だ。」

「はい。この折れた黒鉄剣を修復していただきたいのです。」

少年は折れた黒鉄剣を鍛冶屋の親父に見せると、食い入るように鍛冶屋の親父はそれを手に取って詳細に見定めていくのであった。

「ダメだな。こりゃ。まー。つなぎ合わせて、見てくれは何とかなるだろうが、次にこいつを折った奴にもう一度同じ攻撃をくらったら、剣が粉々になっちまうだろうよ。」

「ガーン。そ、そんな。もう、この黒鉄剣は修復しても意味がないのか。」

「では、あなたの鍛治の技で、この剣をさらに強力にできませんか。」

鍛冶屋の親父から折れた黒鉄剣を修復しても意味がないと言われて、少年は失意に落ちてしまうが、シスターが食い下がる形で鍛冶屋の親父に懇願するのであった。鍛冶屋の親父はシスターの懇願を聞いて、折れた黒鉄剣を見ながら考え込むのであった。

「うーむ。ねぇことはねぇが、うーん。この剣を強化するなら、特別な材料が必要だが、市場に出回ってねぇ代物だぜ。この商業都市でも見たことはないからな。」

「修復してさらに強化できるんですか。では、その特別な材料のことを教えてください。私たちが探して、お持ちします。」

鍛冶屋の親父が折れた黒鉄剣を修復して、さらに強化する方法を口にすると、シスターが前のめりになって、強化に必要な特別な材料のことを鍛冶屋の親父から聞き出し始めた。鍛冶屋の親父もシスターの真剣な眼差しに抗うことはできず、特別な材料に関して、口にするのであった。

「材料の名前は金剛石だ。昔、俺の師匠が旅の戦士から手に入れたらしくてな。それを使って、武器を作ると強力な武器が出来上がったのさ。黒鉄剣なんて目じゃないくらいだ。旅の戦士はその金剛石をある洞窟を探索した際に見つけたらしいんだ。」

「その洞窟は何という洞窟でしょうか。私たちに教えてください。」

期待に目を輝かせたシスターが洞窟の名前を問うと、鍛冶屋の親父はとある洞窟の名を口にするのであった。

「その洞窟には強いモンスターがたくさんいて、1番奥には強力な主がいるそうだから、ヤベェ場所だぞ。確か、洞窟の名前は古代洞窟だ。」

「え、古代洞窟。」

金剛石のある洞窟の名前が古代洞窟であると聞くと、少年はきょとんとただただ口を開けてびっくりするのであった。
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