戦士と腕輪

第5章 新たなる旅路

第45話 嵐の夜

戦士と腕輪　第45話　嵐の夜
　
　辺境の村に1人の男が住んでいた。男は妻と2人暮らしで慎ましく生活を営んでいた。今日も、男は森の中で夕食用の動物を仕留めると、妻の待つ家へと向かうのであった。

「ふー。今日も良い獲物が取れたな。今晩もこれでいいご馳走が食べられそう
だな。」

男は今晩の夕食を思い浮かべながら、仕留めた獲物を肩に担いで家路を
急ぐのであった。夕日も落ちてきた頃には、男は妻の待つ家に到着するので
あった。

「ただいま。今帰ってきたぞ。今日も良い獲物が取れたぞ。早速、こいつで
何かを料理してくれ。」

「お帰りなさい。待ってたわよ。スープや野菜は調理してあるから、先に
食べ始めてちょうだい。その間にこの大きな動物を焼いておくから。」

男は担いでいた獲物を妻に渡すと、早速、妻はそれを台所に持っていき、
料理を始めるのであった。男はテーブルの席につくと、妻が調理したスープや野菜のサラダを食べていった。妻は料理をしながら、男と語らい始めるのであった。

「ねぇ。あなた。今日、夕食を食べ終わった後にお話ししたいことがあるのよ。時間をもらえるかしら。」

「ああ。いいよ。何の話だ？　街で何か欲しいものでもあるのか？　今度行くときに一緒に行って、買おうか？」

てっきり、男は妻が欲しいものでもあるのかと思い、街で買い物をする予定を
喋り出すが、妻は男の言葉を遮るのであった。

「そうじゃなくて、もっと大事なことよ。うふ。夕食が終わった後に話すから
楽しみにしていてね。」

「ああ。わかったよ。夕食が済んだら、話を聞こう。」

「ありがとう。そろそろ、今日仕留めてくれた動物のお肉が焼けてきたわ。
たくさん食べてね。」

妻は男に話したいことを教えなかったが、うれしそうな顔をして、焼けた肉をテーブルに運ぶのであった。妻は調理を終えるとテーブルの席に座って、男と一緒に夕食を食べていくのであった。しばらくすると2人の夕食の時間は終わりを告げ、妻は食器を運んで洗い物をするのであった。一方、食後にお腹がいっぱいになった男は体を動かしながら、つぶやき始めた。

「うーん。食べた。食べた。体を少し動かしてこようかな。」

「えー。もう日も暮れているし、明日にすれば。今夜は雨が降るかもしれないし。」

妻は話したいこともあり、男を止めようとするが、男は少し体を動かすだけだからと入り口のドアのそばにあった鉄剣を持って、外に出ていくのであった。
家の周りで素振りでもするのかと思われた男であったが、家を出ると洞窟の方へと進んでいくのであった。洞窟に入る前に男の額には雨粒が落ちてくるのであった。

「あっ。雨かな。まあ、すぐに切り上げれば大丈夫だろう。じゃあ。
軽く体を動かしながら、モンスターを倒していこうかな。」

男は辺境の村では珍しく鉄剣を持って、洞窟の中に入ると、モンスターを倒していくのであった。元々、男は辺境の村で生まれ育ったが、10代後半で騎士に憧れて、村を出ると、修行をしながら、戦士となった。男は斡旋所でクエストもこなしながら騎士を目指していた。妻とも街で知り合い、男は人生で充実した時間を過ごしていた。しかし、騎士になることは叶わず、危険な仕事をいつまでも続けるのは妻にも負担をかけるので数年前に辺境の村に戻ってきたのであった。男は戦士としての活躍を忘れることができず、鉄剣を取っては、たまに村の周辺で素振りをしたり、モンスターを倒したりするのであった。

「ふう。今日はこの辺りで終わりにしておこうかな。今日は話したいことが
あるって言っていたからな。」

男は妻の言葉を思い出すと鉄剣を鞘に収めて、洞窟から出ようとしたが、
ある光景に気がつくのであった。

「あれ。前に来た時はこんな横穴はなかったのに、壁が崩れて新しい横穴が
できたようだな。」

男は洞窟の中にできた横穴に興味を持つと少し中を覗き込んだ。さらに、男は横穴の中にあるものに目を奪われるのであった。

「あ、あれって、もしかして、剣が刺さっているのかな。」

男は横穴の奥にある剣に心を奪われると、横穴に急いで入っていくのであった。横穴の中は剣が地面に刺さっているだけで他には何もなかった。男は
剣の前に立つと、じっくりと見定めるのであった。

「立派な剣だな。鉄剣より断然いいな。こんな剣は騎士が持っていた剣よりもすごいぞ。なんで、こんな洞窟の中にあるんだろう？」

男は剣を食い入るように見ていると剣が鈍い光を放ったかのように思えて、剣を手に取りたくなるのであった。

「こんな立派な剣を振るえば、騎士になれてたかな。」

男は刺さっていた剣の前で騎士になる願望を口にすると、剣がさらに光を放つのであるが、その色は黒い漆黒のものであった。

「あれ、今。この剣、光らなかったか？さっきも少し光っていたような。もしかして、封印されていたのか？」

「グオー」

男は漆黒の光を放つ剣に疑いを持ち始めたが、時すでに遅く、漆黒の光は男の全身を包むくらいに広がり、横穴の中の大半の部分を覆い尽くすのであった。
一方、その頃、妻は男の帰りを待ちながら、台所で食器を洗っていた。

「あの人、早く帰ってきてくれないかしら。お腹の子のことを早く教えてあげたいのに。」

妻はお腹の辺りをなでながらそんなことをつぶやいて、男の帰りを待つのであった。雨音が激しさを増すと嵐の夜になるのであった。