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第二十七話EX「幕間:ダークソーン家のお・仕・事☆(後編3)」

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――ダークソーン家には秘密があった。

 それは、一族全員が常に目を瞑り、あえて不自由な生活をしている、という事である。そしてそれこそが、一族秘伝の魔術制約であった。

 ダークソーン家は蝙蝠族である。嫁を取る場合も必ず同属との婚姻を重視する。多種族との結婚はすなわち破門を意味する。なぜか? それは種族特性に由来する。
 蝙蝠族は他の種族と異なり、種族的にエコーロケーションによる特殊な視覚能力を有している。つまり、目を閉じても音で視覚を得る事が可能なのだ。
 ゆえの音波による視覚で代理する事により、普段は常に目を閉じた生活が可能となる。
 その結果、どうなるか――。
 目を閉じ続けるというリスクを魔法の制限に使用する事ができるのだ。
 だが、一族はそれを決して教えない。一族の者にさえ、教えない。本人が気付くまで待つのだ。なぜか? 見えるのに目を閉じ続けるという奇行の理由と、その能力について“決して他者に教えない事”さえも条件に組み込んでいるからだ。

――これにより、上記制約によって、より強力な魔法をリスク無しで使用する事ができるようになる。

 結果、セルディウスが選択した魔法こそが――未来予知の能力であった。

 ある程度以上目を閉じた生活が条件となるものの、発動条件は目を開くのみ。他のリスクは一切なし。

 今、セルディウスの眼には未来の姿が先行して映っている。
 現在と間違わないよう、徐々に青白く濃くなっていく残像として、未来が同時に眼に映っているのだ。

 そして、当然肉体強化の魔術も併用されている。体感時間の増加も行っているのだ。
 最大で十倍まで加速が可能だが、今回は対した敵でないため二倍速。
 二分の一の速度に落とした動画を見た事があるだろうか。今、セルディウスの眼にはそれほどにゆっくりと、そして未来のナビゲート付きで、世界が映っていた。

 セルディウスは思考する。恐らく古代には、神レベルの魔力を有する者がいたはずだ。ならば、きっと彼らは、こんな術でさえ、ノンリスク、ノーコストで常時発動していたのかもしれない。

――末恐ろしい話だ。俺なんてまだまだ、という事だな。

 などとセルディウスが、圧縮された時間の中で自嘲していた刹那の時間。まるで糸の切れた操り人形のように、女暗殺者達は動きを停止させると、地面へと落下する。

――すでに、女暗殺者達は事切れていた。

 流派、魔蠍紅針拳における秘伝にして必殺の奥義である。
 対象を即死たらしめる点穴へと寸分の狂いもなく指先を抉りこませ、微量のマナを発する。これにより、対象は全身を流れる命の源ともいえるマナを狂わされ、即座に命尽きるのである。

「次はあんただ。ドヴロクサス」

 シャンデリアから降り、着地したセルディウスはゆっくりとドヴロクサスの元へと歩み寄る。

「ヒィッ!? な、何をぼさっとしておる! 貴様らも行け! 殺されたいのか!!」

 両隣に存在するミロルとバグズに命ずるも、二人は動かない。

「何をしている! 動けっ!! 黙っていても結局は殺されるだけだぞ! 行け! わしの下につくのだ!」

 それでも、二人は微動だにしない。覚悟を決めた表情でセルディウスを見つめていた。

「給料ははずむぞ!? 頼む! 助けてくれぇぇ!!」

 ついに、ドヴロクサスの眼前に、セルディウスが到着する。

「わ、わかった。話し合おう。そうだ! 君を買おうじゃないか! いくらだ!? いくら出せばわた――」
「いい加減、うざいよ。お前」

 セルディウスの指先がドヴロクサスの額を軽く貫いた刹那。

「ぺばっ!?」

 首だけを綺麗に残し、ドヴロクサスの体が弾け飛んだ。

 魔蠍紅針拳奥義。貫いた指先から微量のマナを放ち、体内のマナを暴走、爆発させて体内から肉体を破壊する秘技。

 無数の肉片と血、内臓やその内包する糞便を撒き散らし、血まみれの骨だけとなった状態で体など支えられるはずも無く――ドヴロクサスは地面へと崩れるように倒れ伏す。

「~~~ッ!? ~~~!!」

 そんな状況でも、哀れにもまだ絶命していないらしく――。

「ッ……、……ッ……」

 無事なのは頭部のみ、肺も無い状況ではしゃべれるはずもない。なのに、必死に口をパクパクと、陸に上がった魚のように無残な醜態をさらした後に――ドヴロクサスの顔が青ざめ、やがて紫色に変色していく。
 ドヴロクサス・イーブルクラウン。この愚かな男は、最上の苦悶と恐怖と絶望を味わった上で、絶命した。

「うちの部下を利用した罪。存分に味わってもらえたかな?」

 愚かな末路を見下してセルディウスが再度問う。

「で、お前らはどうする?」

 その言葉を発する前に、セルディウスは視た。

 友が、覚悟を決めた表情で、手にしたナイフで自らの手を刺し穿ち、地面に縫いつけた上で頭を垂れる姿を。

――止める事はできた。だが、止めなかった。それこそが、彼らに報いると思ったからだ。

 セルディウスは自らが視た光景どおりに、現実が動く様を眺めた後――。

「わかった」

 二人へと歩み寄った。その表情は死を覚悟していた。

――セルディウスは、全て理解していた。父から依頼を受けたその時から。この任務は、知人であるがゆえに任されたのであろうと。
 それはつまり、場合によっては生死不問であると。真実と照らし合わせ、自ら判断しろという意味なのであろうと。

――ゆえに。

「卿は話のわかる方と聞く。話を通せばきっとなんとかなるだろう」

 セルディウスは二人の手に刺さったナイフを抜き取ると、彼らを許す事を選んだ。

「だが、二度は無いぞ」

 その言葉に、二人は泣き崩れた。
 友の優しさに、そして、その選択の重さを理解したからだ。

「……困ったときは頼れよ。相談してくれれば俺が助けてやったのに」

 セルディウスは二人の肩を抱くと――。

「俺たち三人なら敵はいないさ。そうだろ?」

 愚かな選択をしてしまった友を激励する。

――頭を垂れ、ナイフで利き手を地面に縫い付ける行為。これは暗殺者ギルドにおける、忠誠と降伏の証にして最大の謝罪の形であった。



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