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interlude

第二十三話EX「幕間:ダークソーン家のお・仕・事☆(前編)」

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 今から語る物語は、私の知らない物語。
 つまり、別視点の物語って事だね。
 だから今回の私は三人称扱いなんだよ?

 ちょっとした番外編だと思って、そういうのもあるんだな、って思ってくれると助かるかな~。



 時間は深夜。この物語の主人公であるミリエラ・スターフィールドことミリアちゃんはすでにご就寝。
 そんな中、ミリアの居住地であるスターフィールド家の豪勢な大屋敷。その一階奥地にある執務室。薄闇の中。部屋に灯されている魔力による仄かな明かりは、申し訳程度の微々たるもの。明るいとは言い難い。豪勢な机の上には蒼く光り輝く魔晶球オーブ。机と揃えられた、これまた豪勢な椅子の上には一人の男が座っているのだった。

 やや長めに整えられた輝く金の髪に真紅の瞳。その年齢には余りにふさわしくないまだ若々しい張りのある肌は、小麦というには薄い、白と言うには濃い、やや焼けた健康的な色合いで、口元には似合っていないカイゼル髭を生やしていた。
 似合ってないのも無理は無い。背丈はこの種族にしてはやや高めではあるものの、その顔は、年齢に対してまるで幼い。これでアラフォーと言って誰が信じるだろうか? 未だ十代の若者らしい面影を残す美丈夫である。
 ついでに言うと、種族特有の特徴的な垂れた兎耳が、似合いもしない可愛らしさを演出していた。

 男は輝きを放つ蒼い魔晶球オーブに向かい、小声で呟いた。

「裏切ったか? 我が友よ」

 男の手には上質な葉巻。男はそれを口にして、充分に口内へと煙を見たすと、思いっきり煙を吐き出した。甘いクリーミーな匂いが部屋中に充満する。
 男はもう片方の手に持つグラスに注がれた、これまた高級で上質なブランデーを口にする。

 だが、その顔は無表情でありながら、瞳には静かな殺気が灯されていた。

「……四眼巨大黒毛牛狼ペルペルパンバギウスの件かな?」
「言わずとも、わかるであろう? 我が友よ」

 男は魔晶球オーブから放たれる声に返答する。そして――。

「娘に危害を加えるなら、君でも殺すよ?」

 その瞬間、部屋にはおぞましい程の殺気が満ち溢れた。
 はからずも同時期、その気迫に当てられ、ミリアたちが尿意を催し目を覚ましたのは、本能によるものに相違あるまい。

「言い訳がましいかもしれないけどさ、アレ、僕の指示じゃないんだ。だから僕は悪くない」
「では、誰の仕業だと?」

 無表情に、男は問い詰める。その瞳に宿る小さな殺気と怒気は未だに衰える事はない。

「う~ん……どうやら、“動かされたのは”僕の部下みたいなんだよねぇ……」
「知ってる」

 ふっと、小さな笑みを浮かべつつも、男の瞳は笑ってはいない。

「ごめんよぉ~。あれは計算外なんだ。今度安くするからさぁ。許してよぉ?」
「だ~め。これは貸し一つ案件だからな?」

 全身から殺気を漏らしつつも、笑顔で陽気に答える男。本当は、最初から許す気さえ無いのかもしれない。

「それで済ましてくれるのかい? 助かるよ。できれば君は敵にまわしたくない」
「私もだよ。マイフレンド」

 口だけは陽気に。顔には笑みを浮かべつつ、殺気の込められた眼で窓の外を見やる。濃紫色の夜空。その下。偶然庭の樹に止まっていた魔香夜鳥ミルミルペギットが一羽。その視線に当てられ心停止して地面へと落下する。
 手に持った葉巻の煙を燻らせ、わずかに落ち着くと男は再度会話を再開する。

「お互いにうまくやってこうじゃないか。ガルヴエ・フォン・ダークソーン。我が友よ」
「もちろんだとも。ディルグラム・フォン・スターフィールド。我が友よ」

 見えずとも、お互いにグラスを掲げ、軽くぶつけ合うような仕草をする。
 同時期に、ガルヴエと呼ばれた男も、暗い執務室の中で、真紅のように赤いワインの注がれたグラスを掲げるのであった。

「で、愛しい我が娘の命を脅かした罪……君はどうあがなう?」
「そうだなぁ、今度美味しい紅茶に御招待するよぉ☆ それじゃあダメ?」

 茶化すように微笑みつつ、陽気に口にするも、ガルヴエとて、それで許されるとは思っていない。
 内心、敵に回したくない友の激昂に、少々悩んでおり、軽く冷や汗を流している所だった。

「無論、許さない。招待はされるけど」

 陽気に、笑顔を浮かべつつ答えるディルグラム。

「じゃあ一番良い奴を仕入れておくよ」

 対応する、はるか彼方の地。デスクリムゾン内に存在するダークソーン邸。その地下にある秘密の第三執務室にて。鎮座した真紅の魔晶球オーブの先。その顔は呪印で飾られた特性のフードで見えづらいものの、苦笑いを浮かべつつガルヴエが答える。

「さて、どうするかなぁ……確証はないんだけどさ。多分、アイツラも利用されたんだと思うんだよね。可哀想だけど」
「それで?」

 笑みを浮かべ、強い威圧感を発しながらディルグラムが問う。

「頭と尻尾。どっちが御所望?」

 微笑を浮かべながら、ガルヴエが問い返す。

「無論、両方だ」

 返答は、ガルヴエの予想通りだった。

「う~ん……しょうがないなぁ……悪い奴らじゃなかったんだけどなぁ」
「ちなみに、指示者は誰だい」
「あぁ、今回裏で動いてたのはね……」

 その名を聞いて、ディルグラムは全てを理解するのだった。

「……なるほどね。それじゃあ……」

 侮蔑と、嫌悪と、憎悪と、激怒の融合された、恐るべき瘴気とも取れるほどの濃密な殺気を放ちながら。
ディルグラムはその言葉を口にした。

「……正式に、“始末”を依頼させてもらうよ」

 デスクリムゾン。このレムリアースの僻地とも呼べる場所に存在するこの国の恥部。その大半を構成するスラム街と、盗賊ギルドと暗殺者ギルド、そして闇の賭博と闇の富、この国の暗部のみで成立されるまさにこの世の地獄。

 そこにはある法律があった。

 それは、デスクリムゾンでのみ適用される、まさに悪の、闇の法律だ。だが、この国のルールが一切届かないからこそ、そのルールを破る事は即座に死を意味した。ゆえに、その誓約は強く守られる。

 そんなルールの中の一つに、ギルド内の不可侵があった。それは、ギルド組織内部での争いは御法度、というもの。犯した者は文字通り命で贖う事となる。だが、そんなルールにも一つだけ抜け道がある。

――すなわち、外部からの依頼、つまりは“仕事”であれば話は別、というもの。

 もちろん、制裁的な死のターゲットとなる対象は、明らかに“そのギルドメンバー”に“あきらかな非がある”場合に限る。また、“外”からの正式な依頼に限る。
 万が一にも精査され、わずかにでも異を認められる状況になれば、依頼を受けた側にも組織からの制裁、つまりは死が待っている。ゆえに、安々とこの裏技を使うことはできない。だが――。

「……う~ん、了解。今回は明らかにこちらの不手際もあるし、割り引かせてもらうよ」
「ありがとう。なんて素敵な友人なんだ。助かるよ」

 ディルグラムはやっと、その殺気を収め、笑みを浮かべつつ、葉巻の煙を燻らせる。

「いやいや、こっちこそ。なんかうちのいざこざに巻き込んじゃったみたいでさ、ごめんね」

 ダークソーンの家と、今回の事件。裏があったのはディルグラムも理解していた。
――恐らく、ガルヴエの地位を失脚させたい何者かが絡んでいるだろう、とまでは。

 だが、まさかそういった意図でさえもデコイとし、くだらない過去の恨み如きで“己が真意を隠しとおせる”と考えるような馬鹿がいたとはディルグラムにとっても想定外であった。

「何、こちらにも不手際があったようだ。誠意の品をいただければ問題ないさ」
「OK、きっちりそろえてお届けするよ、頭を。もちろん、言葉通りにね」

 暗い笑みを浮かべる両者。
 だが、ディルグラムとは異なり、わずかな殺気さえも零さず、飄々と、それでいて陽気に、ガルヴエは答えるのだった。

「我が友に感謝を」
「こちらこそ、我が友に感謝を」

 お互いに落とし所を見つけ、両者は連絡用のマジックアイテム、通話の魔晶球オーブの魔力供給を切る。

「さて、やはり甘すぎたな。我が娘よ」

 ディルグラムの胸中に浮かぶのは、愛しい娘の姿。

「まぁ、それもしょうがないこと、なにしろ、まだ十歳だからな」

 過去に行った甘い采配のせいで今回の事件は起こった。

「それでもだ。命を持ってしか贖えない罰はあるのだという事を……理解させるしかあるまい」

 甘い制裁の果てに、自らの命が奪われる未来もありうる。
 いつかはそういった教育もしなければならない、と心に誓いつつも。

「あぁ、でも可愛い我が娘が穢れちゃうのはやだなぁ。今のままの可愛いミリアでいて欲しいなぁ~……」

 ミリエラ・スターフィールドの父、ディルグラムは一人、執務室内で静かに苦悩するのであった。

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