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第四章「絶望のフラグメント」
chapter34「*episode山下武『山下武の事情~後編~』」
しおりを挟む「いよぉ、タケシじゃぁん、お久しぶりぃ~」
甲高い声が耳につく、不快な喋り方の男。
オレンジに染めあげた坊主というにはわずかに長い程度の髪。
嫌味なまでに派手なピアスを耳と鼻に通した、チャラチャラとアクセサリー塗れの姿。
派手な紫のアロハを着た長身の男。
黄星学園バスケットボール部の先輩だった元生徒。例の喧嘩でぶちのめしたクズの一人だ。
「気分転換にジョギングのルート変えたら、楽しいねぇ~。珍しいもん見つけちゃったよぉ☆」
にやにやと笑いながら近づいてくる。
正直、係わり合いになりたくない。
「よう、元バス野郎。元気してるか~い?」
不快な声に睨みつける。
「お、怖ぁ~い。また殴って今度は退学にでもなるかぁ?」
殴れない事を知っていて、チクチクと挑発を繰り返してくる。
「おら、殴ってみろよ~。しゅっしゅ」
なってない動きでボクシングの真似事をする。
当たるか当たらないかの位置に拳を打ってくる。
――うぜぇ。
「お前がいなくなってからさぁ。学校の策略でもっといい選手が入って来て、バスケ部がんばっちゃって去年は何? 地区でいいとこまで行っちゃったんだって?」
ねっとりと、下から嘗め回すような姿勢で覗き上げてくる。
「ねぇ、どんな気持ち? 今、どんな気持ちぃ~? やめちゃった後にバスケ部が成功しちゃってぇ、今どんな気持ちぃ~?」
「うるせぇ!!」
意識するより速く、言葉が口から弾け出た。
「ぷすす~っ。格好つけて正義マンするからだよぉ、ばぁ~か」
本当は、ずっと後悔していた。
後悔しないはずがなかった。
誰かを守るためにやめたバスケ部が、輝いていく様を遠くから見る事しかできない。
見知らぬ誰かを救った代償に、俺は得られるはずだった栄光を失ったんだ。
「本当は後悔してるんだろぉ? クソ正義マンちゃぁ~ん☆」
耳元に、不快な息が吹きかかる。
「ねぇねぇ聞いてよぉ、今ねぇ、俺ねぇ~。Fランだけど大学行ってさぁ、バスケもそこで続けててさぁ、そこそこエースでさぁ。彼女もいてさぁ~。もう最っ高に幸せなんだよねぇ~」
にやにやと、歪んだ笑みを浮かべ臭い息を吹きかけてくる。
「お前はどうよ? 助けたオタチビと仲良くしてるぅ? 人生楽しんでるぅ~? 彼女できたぁ~? あ、ごめ~ん、あのオタチビが彼氏なんだっけぇ?」
「うせろ!!」
「お~怖ぇ~。どうせ何もできやしない癖に、ま、せいぜい無駄な努力がんばっててよ~。えいやっせいや~っ、ぷすす~。口先だけの馬鹿空手ちゃん☆ グッバイ♪」
そして去り際に、余計な一言を残し。
「サークルでさ、お前の変わりにせいぜいポコジャカ沢山点入れて、有名になってやんよ☆ バスケ界は俺に任せろ♪ ぷぎゃーっ☆」
ようやく、二度と見たくも無い忘れさりたい男は去っていった。
――糞!
不快な気分が収まらない。
俺が間違っていたってのか?
アイツを……ケイトを助けてやった事が、そんなに間違いだったとでも言うのかよ!!
そんなはずは無ぇ!!
俺は、俺の信念に基づいて、正しい選択をしたはずだ!!
後悔なんてしちゃいない。しちゃいけない!
俺が助けなきゃ、独りの幸せが、小さな幸せとは言え、壊されてたんだからよぉ!!
そんな事、許せるはずがねぇ。
だから……これは、しょうがなかったんだ……。
それに、もうそこまでバスケに未練がある訳でもねぇしな。
空手部が無かったから仕方なくやってた程度のものだ。プロを目指してた訳でもねぇ。
――けど、続けていればプロになれたかもよ? そしたら今頃、有名スター選手に……。
うるせぇ!!
そんなミーハーなもん、俺は望んじゃいねぇんだよ!!
怒りに、自販機横のゴミ箱を蹴り飛ばす。
音に驚いたのだろう。ちょうど通りがかった散歩中の犬が鳴き声をあげる。
うるせぇっ。空気読めっ。
……別にスポーツなんてしなくたって死にゃしないさ。
得意だから、求められていたから、だからやっていたってだけで……。
まぁ、別に……楽しかったかって言うと楽しくはあったかもしれねぇけど……。
だからといって失って後悔するほどのものでもない。
――後悔なんて、ない!
そうだよ、何夢見てんだか、やり続けてたからってプロになれるなんて限らねぇじゃねぇか。
そんな夢見れるほどお人よしじゃねぇんだよ。
空手だって、格闘技で喰っていきたかったわけじゃねぇ!
だから、俺は……これでいいのさ……。
ノルマをこなした。家に帰ろう。
そして、シャワーを浴びて着替えてちょっぴり夜食をいただく。
その後はいつもどおりさ。
今日も暇つぶしにゲームや漫画を好きなだけ貪る。
これはこれで楽しいもんさ。
将来何になるかなんて考えたことも無い。
考えるだけ無駄さ。
『所詮世の中、なるようにしかならないし、なるようになる』
俺の好きなゲームの名台詞さ。
別にスポーツ続けてたからって必ずプロになれる訳でもないし、プロで活躍できるやつなんて一握り。
どうせなれやしなかったんだ。
だからこれでいいんだ。
……ただ、時々、ちょっと暇を感じるってだけで……。
帰宅後、ぼ~っと惰性で見ていたテレビに映し出されたのは、異世界転移もののよくあるタイトル。
「こういうアニメ、最近流行ってんのな」
――異世界か。
もし俺が行く事になったら、それなりに無双できるだろうか?
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けど、転移のオマケでチート能力とかが付けば……いけなくもないんじゃないか?
なんて、くだらない事を夢想した。
そろそろ眠くなってきたな。
テレビを消して布団に入る。
まったく、異世界ねぇ……。
行けるもんなら行ってみたいもんだぜ。
そん時ゃ、ぜひともチートとついでにTSで頼むぜ?
ロリ美少女最高っ!
今日こそは良い夢を見られるようにってね、アキラから教わったおまじないで……。
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こいつを枕の下に敷いて……寝る、と。
さぁて、今日はいい夢見られますように、っと!
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