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第三章『神々の黄昏』

chapter25「天上人の憂鬱2」

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 インターホンを鳴らし、長谷川家のドアを叩く。

「なんだ、ケイトか」
「ごめん、今日もいいかな?」

 申し訳ないと思いつつも、ここ以外に逃げ場がない。

「またか……お前も大変だな」

 アキラの呆れるような声と共に、扉が開かれる。

 エプロン姿のアキラが出迎えてくれた。
 家の中からは、ガーリックの良い香り。
 料理の途中だったようだ。

「まぁ、よかろう。入れ」
「おじゃましまーす」

 靴をそろえて長谷川家に上がる。

「いつも通りだ。始発までなら好きなだけいるといい」
「いやいや、さすがにそこまでは大丈夫だよ」
「そうか」
「サンキュ。助かるよ」

 我が家のようにリビングもどきへ向かう。
 同じ団地だからね。部屋の形も同じようなもんだし。



『私の記憶が確かなら……』

 有料衛星放送か、懐かしいテレビ番組が流れていた。

『現れ出でよ! 食の究極鉄人! 料理開始(アーレ・キュイジーヌ)!!」

 若き日の加賀武氏(かがたけうじ)の御姿を拝聴しつつ、テーブルに座る。

「あの黄色いピーマンて生で食べても美味しいのかな?」
「パプリカか? 物によるだろうが、ピーマンとは違って苦くは無いらしいぞ」
「そうなんだ」

 意味の無い会話に花を咲かせつつも、テーブルに置かれる大皿。フライパンから山盛りにされてゆく大量のパスタ……!

 実に美味しそうだ。

 多分、目を輝かせる、ってくらいな表情をしてたんだろうね。

「食事はすませたはずだろう? 太るぞ」
「そ、そうだよね……」

 返された言葉に軽くしょんぼり。

 すると――。

「しょうがない、少しだけだぞ」

 小皿を取ってきて二口分ほど分けてくれる。

「ありがとー。いただきまーす」

 ちゅるりとすすって食してみる。

「んまーい!」

 アキラの手料理はとても美味だった。

 さすがに鉄人(アイアン)なシェフとまではいかないが、母さんの料理を比べたら……。

 よほど顔に出ていたのだろうか。

「これくらい誰でも作れるだろ?」

 といいつつも、うれしそうなアキラがいた。

「いや、凄く美味しいよ。コンビニのパスタよりも何か」

 香りがいい?

「たいしたものは入れてないのだがな」

 謙遜なさらずとも、お店に出しても遜色の無い、実に美味しいペペロンチーノでした。

「正式名称はアーリオ・オーリエ・ペペロンチーノ。別名、絶望のパスタ、貧者のパスタとも言われる。使っているのはオリーブオイルとニンニクと唐辛子くらいだ」
「へぇ~」

 それだけでこんな味が出せるんだね。

「まぁ、他にも色々と隠し味は入れているがな」

 その辺は企業秘密なのだろうか。

「塩とコンソメくらいだ。後は全部目分量だから……必要なのは経験だな」
「ほぇ~……」

 素直に美味しい。

 こういう所を見てると、なんかこう……。
 アキラが女の子だったらなぁとか思ってしまう。

 知的眼鏡クールで料理上手な幼馴染の女の子とか……グッと来るよね。

 まぁ、その場合、僕が相手にされてないだろうけど。

 嫁にするならアキラみたいな趣味が合って芯が通っていて中身の出来た子が良いだろうな、とか夢想してしまう。

「はぁ、お前が男でなく無く美少女だったらなぁ」
「ん?」
「趣味も合う。明るく元気で小動物系。食べてるときにしろ顔に感情が出まくる。そんな幼馴染がいたら……」
「多分、相手にされてないね」
「そうだな……」
「そしたらお互いここまで仲良くなんかなれてないんだよね、きっと」
「現実は絶望しかないな」

 アキラも同じ事考えてたようで、二人爆笑。

「お互い家庭にちょっと色々あって」
「あぁ、そこから徐々に攻略していくパターンだ」
「だが、男なんです」
「現実はうまくいかないものだな」
「まったくだね」

 お互い、二分の一をはずしたね。
 そして再び笑いあうのだった。


 そんな折、再びインターホンが鳴らされる。


「誰だ? こんな時間に」


 いぶかしみつつもアキラが扉を開けると。


「アキラ~。遊びに来たぜ~」


 タケシだった。

「お前もか。全く、俺の家を溜まり場にするな」
「……とか言っちゃって、本当はうれしいくせに」
「それはない」

 そんなこんなで入ってきたタケシは……。

「汗臭っ」

 洗ってない獣の匂いがした。

「ちょっとランニングしてきたからな」
「貴様は、まずは風呂に入って出直して来い……」
「おぅ、シャワー借りるぜ」
「おい……いや、まぁ、かまわんが、着替えはどうするつもりだ」
「持ってきた」
「お前は……人の家を何だと思っている」
「悪ぃな」

 こうしてタケシはバスルームへと消えていった。

「それにしても、ちょっと懐かしいね」
「ん? あぁ」

 アキラの家は諸事情があって、親が始発過ぎまで帰ってこない。
 なので、中学時代とかはもっと大勢でここを拠点にして遊んでたんだ。
 わりかし頻繁に。
 場合によっては夜過ぎまで。
 軽いお泊り会みたいな感じでね。
 けど、高校で別々になってからは徐々に疎遠になって行っちゃってね。

「あいつら元気にしてるかな」
「さぁな」

 何人かはまだ近所に住んでるようだけど、引っ越してしまった相手も多い。
 だから最近は、この密かなパーティは、金曜日の部活後とか、翌日が休みの日などに稀に開かれる、黄星学園無電源ゲーム愛好会二次会会場として受け継がれていた。

「金曜日にさぁ、神倉氏も呼んでみない?」
「あの新部員候補か……続くようならありだとは思うが」

 ちなみに紅一点の麻耶嬢もリョウと一緒なら付いてくる事が多い。

「で、歓迎会しよう」
「ふむ、考えておいてもいいだろうな」
「じゃあ後でみんなに確認しとくね」

 と、金曜の入部歓迎会が確定したその時だった。

「こんにちわー」

 インターホンが鳴り響く。
 あの女性声優特有のショタ少年ボイスと美少女キャラ声優ボイスの中間声。
 間違いない。リョウだ。

「よぉ」

 タケシが勝手に扉を開けていた。
 あのね、ここ君の家じゃないからね。
 しかもシャワー上がりの全裸タケシが登場したもんだから……。

「きゃー出たー!!」

 両目隠したふりで指の間からしっかり覗き見スタイルで恥らうリョウがいた。

 が、その顔は一瞬で「勝った」という笑みに変わっていた。

 麻耶嬢大変だろうなぁ、いづれあのジャイアントマグナムを相手にするだなんて……。

「一本いっとく?」

 ペチンペチンと腰を振って嫌な音を立てるタケシ。

「ギャー! ボクそっちの趣味ないからー」

 とてとてと、靴を脱いでこちらに逃げ出してきた。

 でも、そんな乱れた靴をきっちり整えてあげる優しさはあるんだよね。タケシ。
 その繊細さを他にも出してくれればね~。

 それはさておき。



 その後、四人で盛大にマージャンした。

「ククク……背中がすすけてるぜ」
「いや、かっこつけてるとこ悪いけど、ソーズ狙いなの、丸見えだからね」
「カカカカキキキキキくくくくけぇっけっけぇぇ! この強運にチンケな技など不要! URYYYY!!」

 アゴや鼻の尖った某漫画の如く奇声を上げつつ牌を取るタケシ。
 相変わらず何やってもタケシはノリが良い。

「ここは……カン!!」

 4牌を隅に置き……。

「チッ」
「いやいや、漫画じゃないんだから」

 そう簡単にリンシャンで解放できる奴なんざ雀界の魔王様だけで十分だから。
 しぶしぶ牌をすてるタケシ。

「あ、その牌、ロ~ン」
「なん……だと……!?」

 リョウがにこやかに微笑みつつ上がっていた。
 いやいや、捨て牌よく見ようよ。
 よくそんな危険牌をドヤ顔で捨てられるね。

「あ、ドラが増えてる~。やった~」

 哀れ、自爆的に高い点で振り込んでしまったタケシは一気に最下層へ。
 そしてそのまま無情にも順位は変わらずに終わり……。

「ぐ~にゃ~……ぐわわわわ~……」

 まるで沼パチンコで数千万をすった男のような表情で敗北するのであった。


 ちなみに、こんな馬鹿マージャン、お金かけてやれるはずがない。
 もちろん賭博は禁止ですから。長谷川家マージャンではお金はかけないという鉄則があります。
 が、それはそれ。
 敗者には罰ゲームがございます。

「長谷川家名物『大三元』だ。見事、受けてみせるか」

 まるで某、漢な塾の如く、宣言するアキラ。
 テーブルに置かれたのは、地獄めいた『どどめ色のジュース』だった。

「うぐ……こいつぁ……」

 ちなみに、中身は至って健康的だ。
 トマトジュースと、青汁と牛乳をミックスブレンド。

 たまにアキラの母がプレゼントしてくれる粉末赤マムシや粉末スッポンが加わる事もある。
 どこから調達してくるのかは謎だが。

 そんなスペシャル健康ドリンクも、度が過ぎると酷い事に。


 だがしかし――。

「いくぜ!」



 ……その後、吐き気を耐え続けるタケシを放置して、アキラは風呂へと向かう。

 暇なのでリョウと二人でアキラの部屋を探検することに。

「エッチなほーん、なーいかな~」

 ベッドの下をまさぐるリョウ。
 お尻がプリプリしていて目の毒だ。
 いや、僕にそのケは無いんですけどねっ。

 本当、なんでこの子はこんなにも可愛いのでしょう。

「多分アキラはネットで溜め込む派だと思うよ」
「そーなのかー」

 そして、棚を見ると……。
 もうね、何かこう、魔導書って感じの本が沢山鎮座していた。

「ふぇぇ……凄いね」
「うん」

 他にも机には謎のパワーストーンらしき原石とか、怪しいキャンドルとか、何か色々あったりする。
 水晶とか……お高くないの?

「アキラが聖杯巡ってサーヴァント呼んで夜な夜な戦ってたとしても驚かないよね」
「むしろありえすぎて怖い~っ」

 けど、棚の隅には「僕は彼女のおぱんちゅが怖い」とか「おぱんちゅはかない主義っ☆」とか「締め付け! ふんどしガール!」とか、謎な小説や漫画が積まれている。
 毎回この辺にある漫画や小説は売り払われて別の本に変わる運命にある。
 それはわかっていてもこのラインナップはどうなのよ。
 何この『メス逝き林檎じゅぅす♪(果汁百パーセント)』先生って。
 最近はまってるのかな?

 そうこうしていると――。

「なんだ? エロ本なんぞ探しても無いぞ」

 やがて、シャワーあがりのアキラが部屋にやってくる。

 意外と胸板や腹筋がキレッキレでセクシー。結構な肉体美だ。

 僕もきたえなきゃなぁ。

「っと、もうこんな時間だ。僕もう帰るね~」

 夜の12時になっていた。

「っと、じゃあ俺も~……」

 タケシも帰り支度を始めていた。

「ボクはギリギリまで、ダメ?」

 上目遣いで尋ねるリョウがいた。

「いや、別にいいが……何かあったのか?」
「今日はね……帰りたくない気分なんだ」
「え……?」

 ドキっとする台詞で迫られていた。

「いや、父さんが帰ってきててさ、多分母さんと盛ってるんだ。そんなとこ、帰りたくないよぅ」
「……あぁ、そういう事か」
「あのね……何度も言うけど、ボクそっちのケ、無いからねっ」

 危うく禁断の疑惑が生まれる所だった。
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