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第一章前編・閑話的外伝「精湯治性射・黄金水伝説完結編」(松)裸のお突き愛
第七十五話「いきなりオタク的早口で語り出すルティエラさん(前編)」
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「わーい、一番乗り~」
体を洗い終えるやいなや、浴槽へと駆け出す裸ん坊一名。もちろんフィルナである。
「はしゃいでこけるなよー」
「わかってるよー。もー、子供扱いしてー」
ぷりぷりと怒っていらっしゃるご様子。可愛いのぅ。
見た目も相まって、もはやただの幼女でしかない。
ちなみに、万が一にも嫁が転んで死のうものなら闇落ちして世界を滅ぼすか自殺して後を追いかねないのがこの俺だ。
約一名程嫁がはしゃぎ回ることなんざ当然ながらお見通し。対応策はばっちりだ。
……とまでは言えないが、一応がんばってはみた。
淡い水色の正方形タイルが無数に敷き詰められた床。
これこそが俺の工夫の結晶だ。
え? 何もしていないじゃないかって?
チッチッチ。甘いですなぁ。
この、細かなモザイク状のタイルこそが対策なのだよ。
え? 「ちょっと何言ってるかわからないですねぇ」って?
まぁまぁ落ち着いて聞きたまえ。どこぞのお笑い芸人じゃあるまいし。
これは、俺が実際に銭湯に行った際に感じた個人的な感想なのだがね?
面積の広いタイル床は濡れるとめっちゃ滑る。
多分、足の接地面が関係しているんだと思う。
接地した全てが平らでツルツルしてるとすっげぇ滑る。マジヤバイ。
石鹸まで使って洗い落とした後とか気をつけて歩いていてもマジ転ぶ。
けど、細かいタイルだったりゴツゴツした小さい石が組み合わさってるようなとこだと割となんとか歩いていける。
多分、無数の隙間が合間にある分、足の接地部分に凹凸ができてほんの少しだけ体感滑りにくくなるんだと思う。
実際、温泉とか銭湯とか行ってみればわかる。一つのタイル面積が広いとことか、けっこうヤバいから。
まぁ、あくまで個人の感想なんだけどね。
けど、その体験を教訓として作ったのがこの床って訳。
合間の接着部分もほんのりギザギザと滑り止めになるよう、ほんの少しだけ工夫して、滑りづらいよう気をつけてみたのだ。
とはいえ、濡れた床を走る時点で危険極まりない行為だ。
こればかりは作り手がどう対処しようと、使う側が身を守る他無い。
実際、風呂場での転倒事故ってのは馬鹿にできないからな。
後頭部をしたたかに打ち付ければ人は割と簡単に死ぬ。
こっちの世界ではどうかは知らないが、気をつけるにこした事は無い。
嫁の命ファースト。それが俺の絶対公約なのだ。
もっとも、転んでも全力で治すけどな。治癒魔法あるし。
――そんなこんなで、風呂である。
「うわぁ~、綺麗~」
“その光景”に感嘆の声を漏らすフィルナ。
グレーの大理石模様で彩られた横に長い長方形の浴槽。
湯船を満たすお湯の色はなんと、透き通るような淡いエメラルド色だ。
水面が煌めくその様相は、まるで回復の泉めいていてとても美しい。
「いいにおい~」
そして、ゆらめく水面よりふんわりと湯気と共に漂うは、何とも形容しがたい良い香り。
フルーティでフローラルで甘い感じもある、花のようで果実めいてもいて、なんかとにかく良く出来た、香水のような不思議な匂いだ。
「ここに入った時から気になってはいたのですが、やはり湯船からだったのですね」
「洗浄の匂いとは全然違うの。センスいいの」
嫁達からも好評の様子。
風呂ってのは安らぎと癒しの一時でないといけないと思うんだ。
日々の最後、もしくは始まりに、ゆったり浸かってリフレッシュ。
アロマ効果、みたいな話あるじゃん?
そういうの狙ってみた訳よ。
ちょっとした匠の一手間って奴だな。
「これは憎い演出なの。セルフィちゃんポイント10点贈呈」
「溜まるとどうなるんだ?」
「ファックする権利をあげるの」
「もう持ってる」
ちなみにこの香りは、匂いを付与する生活魔法である香気の中でも、性的魅了スキルさんが一押しと判断させてくれたレシピを使用してみた。
「このブレンドは……ベルティモ・ポワイヤンの36番を再現したものでしょうか? 見事な再現性なのです」
なんか、そういう名前のものらしい。
俺はスキルの導きのままに適当に混ぜこぜして設定しただけなんだけどな?
ちなみにお湯の色を変えたのも、生活魔法Cランクにある刻印って魔法の応用だ。
古翼竜を連れて凱旋した時に無害であることを伝えるために落書きしたのもこれ。
こいつを領域で水全体に効果を及ぼして、水全体に満遍なく印として色を付けたって訳だ。
入浴剤なんざ無くたって、魔法一つで秘湯気分。魔法って凄いね。
ちなみに刻印で付けた印は淡く発光する。つまり、暗くすると湯船が発光するのだ。
その光景はきっと神秘的なものとなるであろう。後で試してみるか。
「香りやお湯だけではありませんよ。これは実に素晴らしいです。シンプルですが機能美にあふれたデザイン。見てくださいこのヴァナレクス・ゴノティヴァの如き荒々しくも力強い大地を髣髴とさせる岩のような光沢――」
まるで詩人のごとくうっとりと賛辞を述べるべく口を開くルティエラさん。
だがしかし――。
「匂いとかデザインとかどうでもいーの。入れれば関係ねーの」
無慈悲なセルフィのインターセプト炸裂!
まるで先ほどの焼き写しである。
まったくこの子達はもう。
だがそんなセルフィさん。
いつも通りの無表情、無感情なダウナー系の口調でポツリと持論を述べた後、二番槍は我ぞとばかりにパタパタと浴槽に向け駆けて行く。
そして――。
「んっほぉ~。綺麗なの~。良い匂いなの~。最高なの~」
あんだけ直前で否定しといてそれかい。
湯船にザボーンと浸かるとキャッキャキャッキャと大はしゃぎ。
……即落ち二コマかよ。手の平グルングルン。まるでドリルだな。愛い奴よ。
そんなこんながありまして。
「あぁ、なんという壮観な眺めなのでしょうっ」
ルティエラさんってば、懲りずにまた語り始めようとしていらっしゃるご様子。
まるでスポットライトを浴びて歌い出す歌手のように両手を広げ、さながらブロードウェイのミュージカルスターが如く、彼女は朗々と謳うように、その綺麗なお声で熱弁を口にする。
さて、今度は誰がインターセプトするのかな?
「どうですか。この、まさに汚れなき白の具現とも呼べる神々しい美で満ち溢れしこの空間たるや! さながらヴィルキリム宮殿の大広間、いえ、かのグリザール聖廟楼の誓いの間にも似た神秘性を帯びたもはや芸術の領域!」
すまんな。その白い壁。ぶっちゃけトイレっぽくないか気にしてたくらいなんだ。
モチーフにしたのも近所にあった綺麗なビルのトイレだしな。
……褒められ過ぎて逆に辛い。
「あぁ、ならば床を満たすこの美しき空の如き水蒼色はどうでしょう? ジャーヴィス平原の丘に建つ滅びし都ヴィラトリノ。かのグロッサリア王朝時代の遺物たるポゴッドビア塗りの絵皿。その良質なる美品にのみ見られる艶やかな天蒼色――」
ごめんよ。それもモチーフはトイレのタイルなんだ。
「いや、かの高名なるアルシック焼きの青白磁、初期フィルマピオンに見られる美しい天水色と、 ロイヤル・グリッサハーネンの名作、オールド・ブリモッティオのヴォイミオ花模様の薄天色の狭間をたゆたうような美しい淡いライトスカイ。 今は亡きフォルマピア王国において王族にのみ贈られたと言われるグリッジ・カサノピアのご禁制裏ヴェペオニオ様式、幻の七番と呼ばれるかの伝説のカサノッハ・エメルヴィレーテのエメラルドスカイにも似た。あぁ、もはや踏む事さえ躊躇われる! まさに至高の芸術品!!」
まぁ、すでに踏んでいらっしゃるのですけどね?
手で洗うよりこちらの方が慣れているのだろう。器用に使役魔法でお湯を操作して体を洗いつつ、つまりは体の細部にお湯を纏って隠すという、まるで半透明のドレスでイケナイ部分のみを覆っているかの如き、結局全部見えてるに等しいよね? なのにチラリズムとか、むしろ全裸よりエロくね? ってなお姿で、ふんすふんすと鼻息荒く熱弁をふるうルティエラさん。なお、セルフィ式のシャワーは体を冷やさないのと、最後に洗い流す時のために使っているもよう。
「その二つが組み合わされば、これはもはや古代ヴァーロンハイデ公国の名画、蒼き天上の城グリンロワイエの美しくも壮大で幽玄かつ趣深い蒼天と雲海原の色彩にも引けを取らない蒼と白とのコントラスト! 浴槽に至ってはもう、ブルティック大魔導公国の誇る名家具工房アルディエッタ・サングの名作と名高い――」
おいおいおい、まさかのここまでインターセプトなしかよ。
よほどフィルナやセルフィに寸止めされたのが悔しかったのか、それともガチでまだ語り足りてないとでもいうのか。流暢な演説めいた食レポならぬ風呂レポを延々と垂れ流し続けるルティエラさん。
その目は爛々と輝き、クワッと見開き、さながらマッドサイエンティストの如し。
頬を紅潮させ、興奮隠さず熱弁をふるうそのお姿は、まるでどこぞの映画の、なんかよく動画とかの嘘字幕シリーズで遊ばれている某総統閣下の名シーンみたいだ。
なんか手もプルプルしてるし。
「かのモデル409の大理石テーブルで有名な、あの味わい深いブロッティオ・ゴッシュの色彩にも似た、もしくはフォルティエッタ寺院の聖石碑に見る玄妙なる――」
まだ続くんかーい。おっぱいプルーンプルン。
「ベルルッティ・ジュルーヴの、いえ、あの日、クロッシオス大聖堂で見た雄々しき英雄、聖アグロッサ像のあの深みある――」
ノーパンアクロバット!
……って、ぬぬぬ? なんか、知識系スキルが勝手に彼女の語るよくわかんない単語の羅列を脳内で勝手に理解させせせあががががが!?
「ゴルディウム・ガルニコの鈍き輝きをも彷彿とさせる重厚にして荘厳な深き色合い。ましてや張り巡らされたこの薬湯の色に至っては――」
うああああうわらばばばばば!? 脳内に無駄な雑学知識の洪水がああああ!?
この世界のどの産地の大理石めいたものがどんな色合いで美しくどのように喜ばれているかどこで使われているのか、どこそこの古代遺跡が芸術がどうだのこうだのあーだこーだのふんぐるいいい!? 彼女が口にした無数の専門用語についての知識が一瞬にして詰め込まれ理解できて行く。理解できてしまう。
クトゥルフ神話技能に成功した時ってこんな感じなのかもしれないな。
などと思いつつ。知識スキルと高INTの弊害とも呼ぶべきバグをその身に受けつつ、俺は悟りに近い境地でルティエラさんの造詣が深い蘊蓄まみれの講義にも似た風呂レポを黙って聞くことにするのだった。
……うん、もう好きなだけ語らせてあげよう。
一つの単語から連想される無数の関連知識からさらに連鎖式に増えて行く情報の圧倒的物量に脳内を埋め尽くされつつも、興奮して弁を振るう全裸の嫁もそれはそれで可愛かったので――俺は考えるのをやめた。
体を洗い終えるやいなや、浴槽へと駆け出す裸ん坊一名。もちろんフィルナである。
「はしゃいでこけるなよー」
「わかってるよー。もー、子供扱いしてー」
ぷりぷりと怒っていらっしゃるご様子。可愛いのぅ。
見た目も相まって、もはやただの幼女でしかない。
ちなみに、万が一にも嫁が転んで死のうものなら闇落ちして世界を滅ぼすか自殺して後を追いかねないのがこの俺だ。
約一名程嫁がはしゃぎ回ることなんざ当然ながらお見通し。対応策はばっちりだ。
……とまでは言えないが、一応がんばってはみた。
淡い水色の正方形タイルが無数に敷き詰められた床。
これこそが俺の工夫の結晶だ。
え? 何もしていないじゃないかって?
チッチッチ。甘いですなぁ。
この、細かなモザイク状のタイルこそが対策なのだよ。
え? 「ちょっと何言ってるかわからないですねぇ」って?
まぁまぁ落ち着いて聞きたまえ。どこぞのお笑い芸人じゃあるまいし。
これは、俺が実際に銭湯に行った際に感じた個人的な感想なのだがね?
面積の広いタイル床は濡れるとめっちゃ滑る。
多分、足の接地面が関係しているんだと思う。
接地した全てが平らでツルツルしてるとすっげぇ滑る。マジヤバイ。
石鹸まで使って洗い落とした後とか気をつけて歩いていてもマジ転ぶ。
けど、細かいタイルだったりゴツゴツした小さい石が組み合わさってるようなとこだと割となんとか歩いていける。
多分、無数の隙間が合間にある分、足の接地部分に凹凸ができてほんの少しだけ体感滑りにくくなるんだと思う。
実際、温泉とか銭湯とか行ってみればわかる。一つのタイル面積が広いとことか、けっこうヤバいから。
まぁ、あくまで個人の感想なんだけどね。
けど、その体験を教訓として作ったのがこの床って訳。
合間の接着部分もほんのりギザギザと滑り止めになるよう、ほんの少しだけ工夫して、滑りづらいよう気をつけてみたのだ。
とはいえ、濡れた床を走る時点で危険極まりない行為だ。
こればかりは作り手がどう対処しようと、使う側が身を守る他無い。
実際、風呂場での転倒事故ってのは馬鹿にできないからな。
後頭部をしたたかに打ち付ければ人は割と簡単に死ぬ。
こっちの世界ではどうかは知らないが、気をつけるにこした事は無い。
嫁の命ファースト。それが俺の絶対公約なのだ。
もっとも、転んでも全力で治すけどな。治癒魔法あるし。
――そんなこんなで、風呂である。
「うわぁ~、綺麗~」
“その光景”に感嘆の声を漏らすフィルナ。
グレーの大理石模様で彩られた横に長い長方形の浴槽。
湯船を満たすお湯の色はなんと、透き通るような淡いエメラルド色だ。
水面が煌めくその様相は、まるで回復の泉めいていてとても美しい。
「いいにおい~」
そして、ゆらめく水面よりふんわりと湯気と共に漂うは、何とも形容しがたい良い香り。
フルーティでフローラルで甘い感じもある、花のようで果実めいてもいて、なんかとにかく良く出来た、香水のような不思議な匂いだ。
「ここに入った時から気になってはいたのですが、やはり湯船からだったのですね」
「洗浄の匂いとは全然違うの。センスいいの」
嫁達からも好評の様子。
風呂ってのは安らぎと癒しの一時でないといけないと思うんだ。
日々の最後、もしくは始まりに、ゆったり浸かってリフレッシュ。
アロマ効果、みたいな話あるじゃん?
そういうの狙ってみた訳よ。
ちょっとした匠の一手間って奴だな。
「これは憎い演出なの。セルフィちゃんポイント10点贈呈」
「溜まるとどうなるんだ?」
「ファックする権利をあげるの」
「もう持ってる」
ちなみにこの香りは、匂いを付与する生活魔法である香気の中でも、性的魅了スキルさんが一押しと判断させてくれたレシピを使用してみた。
「このブレンドは……ベルティモ・ポワイヤンの36番を再現したものでしょうか? 見事な再現性なのです」
なんか、そういう名前のものらしい。
俺はスキルの導きのままに適当に混ぜこぜして設定しただけなんだけどな?
ちなみにお湯の色を変えたのも、生活魔法Cランクにある刻印って魔法の応用だ。
古翼竜を連れて凱旋した時に無害であることを伝えるために落書きしたのもこれ。
こいつを領域で水全体に効果を及ぼして、水全体に満遍なく印として色を付けたって訳だ。
入浴剤なんざ無くたって、魔法一つで秘湯気分。魔法って凄いね。
ちなみに刻印で付けた印は淡く発光する。つまり、暗くすると湯船が発光するのだ。
その光景はきっと神秘的なものとなるであろう。後で試してみるか。
「香りやお湯だけではありませんよ。これは実に素晴らしいです。シンプルですが機能美にあふれたデザイン。見てくださいこのヴァナレクス・ゴノティヴァの如き荒々しくも力強い大地を髣髴とさせる岩のような光沢――」
まるで詩人のごとくうっとりと賛辞を述べるべく口を開くルティエラさん。
だがしかし――。
「匂いとかデザインとかどうでもいーの。入れれば関係ねーの」
無慈悲なセルフィのインターセプト炸裂!
まるで先ほどの焼き写しである。
まったくこの子達はもう。
だがそんなセルフィさん。
いつも通りの無表情、無感情なダウナー系の口調でポツリと持論を述べた後、二番槍は我ぞとばかりにパタパタと浴槽に向け駆けて行く。
そして――。
「んっほぉ~。綺麗なの~。良い匂いなの~。最高なの~」
あんだけ直前で否定しといてそれかい。
湯船にザボーンと浸かるとキャッキャキャッキャと大はしゃぎ。
……即落ち二コマかよ。手の平グルングルン。まるでドリルだな。愛い奴よ。
そんなこんながありまして。
「あぁ、なんという壮観な眺めなのでしょうっ」
ルティエラさんってば、懲りずにまた語り始めようとしていらっしゃるご様子。
まるでスポットライトを浴びて歌い出す歌手のように両手を広げ、さながらブロードウェイのミュージカルスターが如く、彼女は朗々と謳うように、その綺麗なお声で熱弁を口にする。
さて、今度は誰がインターセプトするのかな?
「どうですか。この、まさに汚れなき白の具現とも呼べる神々しい美で満ち溢れしこの空間たるや! さながらヴィルキリム宮殿の大広間、いえ、かのグリザール聖廟楼の誓いの間にも似た神秘性を帯びたもはや芸術の領域!」
すまんな。その白い壁。ぶっちゃけトイレっぽくないか気にしてたくらいなんだ。
モチーフにしたのも近所にあった綺麗なビルのトイレだしな。
……褒められ過ぎて逆に辛い。
「あぁ、ならば床を満たすこの美しき空の如き水蒼色はどうでしょう? ジャーヴィス平原の丘に建つ滅びし都ヴィラトリノ。かのグロッサリア王朝時代の遺物たるポゴッドビア塗りの絵皿。その良質なる美品にのみ見られる艶やかな天蒼色――」
ごめんよ。それもモチーフはトイレのタイルなんだ。
「いや、かの高名なるアルシック焼きの青白磁、初期フィルマピオンに見られる美しい天水色と、 ロイヤル・グリッサハーネンの名作、オールド・ブリモッティオのヴォイミオ花模様の薄天色の狭間をたゆたうような美しい淡いライトスカイ。 今は亡きフォルマピア王国において王族にのみ贈られたと言われるグリッジ・カサノピアのご禁制裏ヴェペオニオ様式、幻の七番と呼ばれるかの伝説のカサノッハ・エメルヴィレーテのエメラルドスカイにも似た。あぁ、もはや踏む事さえ躊躇われる! まさに至高の芸術品!!」
まぁ、すでに踏んでいらっしゃるのですけどね?
手で洗うよりこちらの方が慣れているのだろう。器用に使役魔法でお湯を操作して体を洗いつつ、つまりは体の細部にお湯を纏って隠すという、まるで半透明のドレスでイケナイ部分のみを覆っているかの如き、結局全部見えてるに等しいよね? なのにチラリズムとか、むしろ全裸よりエロくね? ってなお姿で、ふんすふんすと鼻息荒く熱弁をふるうルティエラさん。なお、セルフィ式のシャワーは体を冷やさないのと、最後に洗い流す時のために使っているもよう。
「その二つが組み合わされば、これはもはや古代ヴァーロンハイデ公国の名画、蒼き天上の城グリンロワイエの美しくも壮大で幽玄かつ趣深い蒼天と雲海原の色彩にも引けを取らない蒼と白とのコントラスト! 浴槽に至ってはもう、ブルティック大魔導公国の誇る名家具工房アルディエッタ・サングの名作と名高い――」
おいおいおい、まさかのここまでインターセプトなしかよ。
よほどフィルナやセルフィに寸止めされたのが悔しかったのか、それともガチでまだ語り足りてないとでもいうのか。流暢な演説めいた食レポならぬ風呂レポを延々と垂れ流し続けるルティエラさん。
その目は爛々と輝き、クワッと見開き、さながらマッドサイエンティストの如し。
頬を紅潮させ、興奮隠さず熱弁をふるうそのお姿は、まるでどこぞの映画の、なんかよく動画とかの嘘字幕シリーズで遊ばれている某総統閣下の名シーンみたいだ。
なんか手もプルプルしてるし。
「かのモデル409の大理石テーブルで有名な、あの味わい深いブロッティオ・ゴッシュの色彩にも似た、もしくはフォルティエッタ寺院の聖石碑に見る玄妙なる――」
まだ続くんかーい。おっぱいプルーンプルン。
「ベルルッティ・ジュルーヴの、いえ、あの日、クロッシオス大聖堂で見た雄々しき英雄、聖アグロッサ像のあの深みある――」
ノーパンアクロバット!
……って、ぬぬぬ? なんか、知識系スキルが勝手に彼女の語るよくわかんない単語の羅列を脳内で勝手に理解させせせあががががが!?
「ゴルディウム・ガルニコの鈍き輝きをも彷彿とさせる重厚にして荘厳な深き色合い。ましてや張り巡らされたこの薬湯の色に至っては――」
うああああうわらばばばばば!? 脳内に無駄な雑学知識の洪水がああああ!?
この世界のどの産地の大理石めいたものがどんな色合いで美しくどのように喜ばれているかどこで使われているのか、どこそこの古代遺跡が芸術がどうだのこうだのあーだこーだのふんぐるいいい!? 彼女が口にした無数の専門用語についての知識が一瞬にして詰め込まれ理解できて行く。理解できてしまう。
クトゥルフ神話技能に成功した時ってこんな感じなのかもしれないな。
などと思いつつ。知識スキルと高INTの弊害とも呼ぶべきバグをその身に受けつつ、俺は悟りに近い境地でルティエラさんの造詣が深い蘊蓄まみれの講義にも似た風呂レポを黙って聞くことにするのだった。
……うん、もう好きなだけ語らせてあげよう。
一つの単語から連想される無数の関連知識からさらに連鎖式に増えて行く情報の圧倒的物量に脳内を埋め尽くされつつも、興奮して弁を振るう全裸の嫁もそれはそれで可愛かったので――俺は考えるのをやめた。
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