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第六十五話「いきなり不起立性淫勁症候群発症事件・解決編1(中編)」
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それはまさに、芸術だった。
まず、太腿まで落ちる長い栗色の髪が芸術的だ。普段付けているリボンを解いた、ちょっとレアな姿というのもポイントが高い。
そして、彼女の特徴とも言える輪郭。小さくて丸い可愛らしい肩に、華奢で小柄な細い体躯。浮かびかけた肋骨。凹凸の少ないウエストラインは肉付きの少なさ以上に中性的で、未だ二次成長最中にある青き果実の少女を思わせる。腕も脚も太腿さえ、全てがか細く、健気で、美しい。
病的な細さとはちょっと違う。抱きしめれば壊れてしまいそうな、触れれば消えてしまいそうな、そんな儚さを感じさせる痩躯。当然、前面の乙女の膨らみもまた、その肉の薄さに見合った、嗜み程度とさえ言えない程に慎ましやかだったりする訳で、それはもう、もはや丘というよりはなだらかな斜面をともなう平原とも言うべき平坦さだ。だが、そんな白き雪原のような滑らかな肌を下ると、そこには、ほんのりと朱に色づく縦一本筋が。それは彼女が乙女たる証。実に初々しく、清らかで、芸術的だ。
絶景かな。絶景かな。
無性的であることが幻想的であるとするならば、彼女はまさに幻想そのもの。その姿まさに、森の湖畔で戯れる美しき妖精の如し。蒼き木漏れ日が光の柱のように降り注ぐ神秘的な大森林をその背後に夢想してしまう程だ。
あぁ、大いなる大自然の恵みに感謝を。
……な~んてね。
なお、何度も言わせていただきますが、彼女はもう立派な大人なのだ。
なぜなら彼女はエルフ。こう見えて、十分、成人年齢に達しているのだ。ゆえに合法。安心してご堪能いただけます。
「い、いかがでしょうか。ご、ご期待に添えられましたでしょうか……っ」
顔を真っ赤に染め上げながらプルプルと震えながら問うてくる。
目を合わせると、慌てて視線を泳がせる。そして軽く涙目になりながらこちらを見つめてくる。
よほど恥ずかしい思いをさせてしまったに違いない。それを、無理して耐えてくれているのだろう。
実に健気だ。愛おしい。そのまま押し倒してしまいたい程に。
「あぁ、もう十分満足したよ」
そんな愛くるしい小動物のような彼女の問いに「まだまだ不満だもっと見せろ脚を開けぐへへへ~」などと返答できようはずもない。というか、俺はそんな鬼畜ゲー主人公みたいにはなれそうにないので土台無理な話だ。何より、性的魅了スキルさんがそれを頑なに許そうとしない。まぁ、例外として相手がドМだった場合に限り、許可されることもあるようだが。
それはさておき。
やはり大きく目を見開き、広い視界で眺めるその姿は、見えてくる全体像というものが、なんというか、もう、こう、ね。味わいが違う。
先ほどからもう既に、下着を脱ぐ姿やらその動きのおかげやらで、そりゃあもう隅々まで色んな所を事細かにじっくりとご堪能させていただきました訳ではありますけれども、やはり、何度見ても良い物は良い。こんなん何度見たって良いですからね、という奴だ。
いつの世も、男にとって婦女子の裸体というのは、心を満たす、いうなれば麻薬のような物なのだろう。
昔、you●ubeか何か、雑学動画で見た話だと思うので眉唾ではあるのだけれど、なんでも毎日十分間以上オパーイを眺めることで、男性は平均寿命を延ばせるらしいのだ。
本当かどうかは知らない。恐らくはジョーク系のフェイクネタなんだろうが、もし本当なら、それほどの幸福をもたらすのだから俺は今日一日できっと一年は寿命が延びたことだろう。まぁ私、既に不老不死なんですけど。ヨホホホホ~。チート異世界転生者ジョーク。
そんなこんなで、俺が究極至高の料理に舌鼓を打つ美食家の如き恍惚とした気分のまま、無意識に何度もうなづいていると、何やらフィルナがこのようなことをのたまい始めた。
「むぅ、じゃあ……ボクだって見せるもん」
どうやら対抗心に火を付けてしまったようだ。
フィルナは、むんっと腰に手を当て、グイっと下腹部を前に突き出し、肩幅に足を開きドヤ顔仁王立ちの姿で自らの裸体を恥ずかしげも無く見せつけてきおる。
そのまま脚を蛙のように開いてアへ顔腰ヘコダンスでもしてくれれば面白かったのだが、さすがにそれを望むのはどうかとも思う今日この頃。そもそもそういった性癖は俺の趣味じゃ無いしな。
まぁ、そんな戯言は捨て置きつつ。見せてくれると言うのであれば、じっくり見るのが世の情け。
オマ○湖ホール。白濁した未来が待ってるぜぇ。にゃ~んつってな。
などと、刹那の合間に無駄な戯言で脳内を満たしていると。
「ど、どう? ボクの魅力にメロメロになっちゃったかなっ?」
などとのたまいつつ、自信満々に似合わないセクシーポーズを決めつつウインクなど飛ばしてきおる。
その自信は一体どこから来るんだか。まぁ、そんな所も可愛いんだけどさ。
ふむふむ、そこまで言うなら、じっくりと拝見させていただこうじゃないの。どれどれ?
そこにあったのは、ルティエラさんとは真逆の道を行く、されど美しさでいったなら、なんらひけを取ることはない、実に芸術な光景だった。
眩いばかりに煌く金の髪。天使のような童顔に、愛くるしい程に華奢で小柄な体躯。太り過ぎている訳では断じてない。そこそこ痩せた女児特有の、ぷにぷにした肉付きの実に健康的な、あざといばかりの寸胴イカ腹ロリボディ。
平坦でまな板なツルペタ胸部。ウエストの凹凸なんてあるんだか無いんだか。かろうじて腰の大きさと肉付きで女子らしいシルエットを保っているとも言える。
だが、お胸様のかろうじて存在するわずかな膨らみと、その先端にある大きさめの桜色と、むちむち曲線でかたどられた丸みを帯びたおふともも様の狭間に刻まれし奥ゆかしき縦の一本線こそが、彼女を乙女であることを証明すると同時に、禁断の美と社会的死というテーマの芸術性を表現していて――。
……うん。可愛い。可愛いんだけど。
どう見ても女子児童なんだよね。背徳感ヤバい。
こんなんどう考えたって事案ですやん。
身長や体型のせいで、中学生……いや、下手すればギリ高学年の小学生くらいにさえ見られかねない。
中学生にしても背の順は最前列だろう。両手を腰に当ててる姿が目に浮かぶ。それくらいには超小柄。
まぁ、実年齢は俺より年上、お姉さんなんだけどね。本当だよ?
しかし、失礼なのを承知で本心を語るのであれば……我ながら、よく今まで抱けてきたなぁ、って思う時も、まぁ、無い訳では、うん、稀に、よく、ある。いや、可愛いんだけどさ。めっちゃ可愛いのだけれどもね?
だってさ、そもそも俺の弱点はさ! 巨乳お姉さんですからぁー!!
……けどさ、やっぱ可愛いんだよねぇ。
愛し合った相手が、たまたま好きになった相手が、童顔で、貧乳で、しかも幼児体型だった。ただそれだけのこと。
性癖なんて関係ない。自分を好きになってくれた子が一番になってしまった。好かれてる内に良い所とか見えて来ちゃってさ、好きになってしまう。そんなの、普通のことだろ? なにより、肌を重ねた相手に特別な感情を抱いてしまうなんて、よくある話さ。そう、たまたま、偶然、何の因果か、好きになってしまった相手が、ちょっと、いや、かなり小柄だったというだけ。それだけの話なんだよ。
だって彼女はドワーフなのだから。こんな見た目だったとしても、彼女はれっきとした合法なのだから。それは種族的な特徴なのだから。小さくたって仕方のないことなんだよ。
などと、俺は脳内加速を過信し、ほんの一瞬のつもりだったが、長考を許してしまった。そう、無言のままに、だ。
それは、彼女の目にどう映ったことだろう。
俺はその程度のことさえ予測できなかったのだ。
「やっぱ、ダメ……かな?」
不安げな瞳でフィルナが俺を見つめていた。
「え?」
「ダメ、だよね。ボクなんかじゃ……」
先ほどの自信満々な表情や声音とは正反対の、
「子供みたい、でしょ?」
消え入るように小さな声、憂いを帯びたその表情。
俺を見つめるその瞳が、弱々しく震えている。
不安にさせてしまったのか。俺が。彼女を。
「ちっちゃいし、おっぱいも大きく無いし」
いや、そもそも比較対象であろうルティエラさんだってさ? お乳に関しては割と、というか、ほぼ無いに等しい訳で、彼女もまた小さいしさ? その辺はあまり気にしなくてもよいと思うんだけど、ね?
「……気持ち悪い、よね?」
おいおいおい……。
「たまに聞こえてくるんだ。ドワーフなんてみんなガキみたいじゃないかって。あんなのよく抱ける奴がいるもんだよなって」
お前、何言って――。
「ボクの体じゃさ、もう満足できないんじゃない?」
あぁ、そうか。
俺はなんて――。
「我慢してるんでしょ?」
なんて間違いを。
「あの時、必要だったから抱いただけで、本当は――」
劣等感。
その人生において積み重ねられてきた悩み、経験、蓄積したそれらからなる劣等感。それが彼女をそうさせるのか。
彼女は彼女なりに、自身の身体的特徴に悩みを抱えていたんだ。
「だから、たまたまそこにいたボクを好きにしただけで」
それもそうだ。当たり前だ。いくら自信に満ち溢れてるように見せてたって、彼女は、フィルナは、女の子なんだから。
好きな相手に体を見られ、他にライバル視してしまうような関係の相手が何人もいて、その反応が気にならない訳が無い。不安にならない訳がないじゃないか。
そもそも、彼女は国を出て、自らの地位も、何もかもをかなぐり捨てて、祖国を裏切ってまで、俺についてきてくれたんだぞ?
時折口にする“その言葉”だって、きっとそういった不安からくるものなのだろう。
だから、
「もう必要ないもんね。だから、いつかは、ううん……もう、ボクのことなんか――」
言わせるものかよ。
「何言ってるんだよ」
それ以上の言葉を言わせてはいけない。
「フィルナは気づいてないかもしれないけどな」
だからこそ、俺はあえて軽く言う。
「お前、めちゃくちゃ可愛いからな」
いつもの雰囲気で、お前の不安なんて、この重い空気ともども吹き飛ばしてやる。
「俺は好きだぞ」
俺は、彼女に偽らざる本心を告げる。
「お前のこと」
性的魅了スキルから導き出されるまでもない。ゆだねる必要さえない。俺の言葉で、何一つ飾ることなく、ただ一心、ありのまま、俺の気持ちをそのまま、真っすぐ彼女に伝える。
「もちろん、お前の体もだ」
確かに迷いそうになることはあった。性癖とは一致しない。けど、それがフィルナ本人を好きになれない理由になど、なるはずがない。
「……本当?」
不安げに震える彼女の瞳が、俺を捉えて離さない。
いつものような、甘えてねだるようなおふざけではない。
それは本気の、拒絶を恐れる目だった。
「ポイ、しない?」
そして、“その言葉”を口にした。
ポイ。自動的に行われる異世界語の翻訳機能から考えても、物を捨てる時に用いられるスラング的な、幼児語めいた位置づけの言葉をそのまま似たような意味合いの日本語に変換したもの。つまり、変換不可能なこの世界における独自の単語ではないということ。
稀に、この世界にしか存在しない食材やら生物やら鉱物やらで、現代地球には該当例がない場合に限り、翻訳機能に変換されることなく意味だけがルビで紐づけられるような形で脳内に翻訳される単語も存在するのだが、この言葉においてはそれに該当しない。
つまり、ポイとは、捨てるという意味に他ならない。
ポイ? 捨てる? 何を捨てると?
フィルナを、捨てる? 誰が?
俺が? お前を、捨てる?
ありえない。
そんなの絶対にありえない。
だって、こんなにも俺はフィルナを愛しているのだから。
「当たり前だ。愛してる。ずっと一緒だ。これからも。いつまでも」
そう、絶対に捨てたりなんかしない。するものか!
あぁ、俺はなんと愚かだったのだろう。
一瞬でも、彼女のあんなにも愛くるしい見た目に対して、罪悪感だの、背徳感だの、地球程度のただ青いだけが取り柄のクソくだらない、魔法すらないちっぽけな、肌の色程度にしか人種の違いが無い、実に矮小な世界における価値判断基準、実にくだらない常識風情に惑わされて。
彼女を傷つけてしまった。
世界が変われば文化だって変わる。国が変われば法律だって変わる。日本では一夫多妻が犯罪なのは当たり前のことかもしれない。だが同じ地球であったとしても、例えばアフリカなど別の国であれば限定的にであろうと一夫多妻が認められている国だってある。
なら、ここはどこだ?
異世界だ。
じゃあ法律も、常識も、文化だって、違っていて当たり前じゃないか。
それなら……!
見た目が子供みたいだからといって、何だと言うのだ!
いつまで前世にこだわっているんだ天原翔。お前はもうとっくに死んだだろ。ここはもう日本じゃないんだ。地球ですらないんだぞ!
そうだ、俺の名はアルク・ディファニオン。この、異世界エルデフィア、ルミナスフェリア大陸を生きる者。
もはや人ですらない。魔族だ。
そんな俺が、何を気にしている。何を恐れている!
この世界には色んな種族がいる。彼女のように成人しても小柄なままという特徴を持つ者だっている。なら、背が低いだの、童顔だの、胸が小さいだの、ペドフィリアだの、前世の世界基準で犯罪だなんだと、そんな風に扱うことこそが差別じゃないか。それこそが許されざるべき悪なんじゃないのか!? おい、人種差別なんてよくないことなんだろ!? そうだろ地球の常識人様どもがよぉ!!
なら、差別的なこと考えてるんじゃねぇよ!
目ぇ、覚ませよ俺!
俺の嫁が、目の前で泣いてんだろうが!!
「でも、ボク、小さいから、だから――」
こんなにも震えてる。
さっきまでは自信満々にさらけ出していた体を腕に抱き、小さく震えている。
涙までは流していない、けど、その心が泣いているって、俺の心が言ってんだよ!!
俺の嫁が、怯えている。
何に? 俺に? 俺の、言葉に? いや、俺の煮え切らない態度にだ。
俺が、そうさせてしまったんだ。
俺の迷いが、伝わってしまった結果だ。
俺が彼女を不安にさせてしまったんだ。
だから、俺はその言葉を放つ。
「だから、なんだ?」
彼女の不安を払しょくするために。
「小さくたって関係ねぇよ」
捨てられることに怯え、自身の肉体に劣等感を抱き続ける彼女を安心させるために。
「俺は、フィルナが好きなんだ」
異世界であるこのエルデフィアに、ロリコンだのペドフィリアなどといった概念があってたまるものか! あった所で知ったことかよ!
「お前だから、好きなんだ」
地球の常識など関係ない! 俺のこの愛が、犯罪なんかであるものか!!
――警告、未成年への性行為は国により死罪です。同意を得た性交渉も性的暴行として扱われる国の方が多数派です。
……そんな覚悟極まった俺の想いをよそに、無慈悲な訂正が脳内へと叩き付けられる。
歴史、雑学スキル辺りが反応したようだ。
空気読めよ。
まぁ、そうだよね。未成年はダメだよね。
でも、大人なら?
だって、フィルナも、ルティエラさんも、ほら、大人だもん、ね?
――解、彼女らは種族的特徴により小柄なだけで成人です。むしろ子供扱いする方が差別になり、所により軽犯罪として処罰される可能性があります。
スキルによる自動的な知識反映が即座に行われる。
なお、イメージ的に某作品のスライム様に宿る何かのように脳内表現させてはいるものの、実際にそういった何かがいて語り掛けている訳ではない。所詮、ごっこだ。
その内、本当にそれっぽいのを作って住まわせたいとは思っているんだけどね。並列思考とか出来たら便利そうだし。某作品の蜘蛛の人みたいにさ。
「不安にさせてごめんな。大きさなんて関係ない。だって、フィルナはフィルナだから。代わりなんて無いし。あったとしても、そんなのはいらない。お前だから、俺はお前が好きなんだ」
「……本当?」
これだけ平然と浮気しといてなんだけど、嘘偽らざる本心であることに変わりはない。マジで愛しているんだ。本当だよ?
「あぁ、俺の気持ちに変わりはない」
これだけ愛を囁いているのに、何がそんなにも彼女を不安にさせてしまうのだろう。
俺がいきなり嫁三人とか浮気し放題なせい? そうだな。それに関してはマジすまんとしか言いようがない。男とはそういう生き物なのだとでも思って諦めていただきたい。
「愛してる。可愛いよ。そして綺麗だ」
いや、女という生き物が、そういうものなのかもしれない。
男が何度でも美女の裸婦を見て楽しめるように。何度でも愛を囁かれなければ不安になるのが女という生き物なのかもしれない。
全員が全員そうであるとも限らないが、実際ルティエラさんは貴族の常識として受けいているように見えるし、セルフィに至ってはのほほんと何考えてるか掴みどころが無くてまるでわかんねぇし、たまたまフィルナが湿度高めなヤンデレ気質なだけだったのかもしれない。
けど、それがどうした。
俺はこの世界で嫁を愛でると決めたのだ。
全裸を眺めることが男の楽しみであるように、愛を囁かれるのが女の幸せであるのだとすれば、何度だって思い返させてやろうじゃないか。刻み込んでやろうじゃないか。
俺がお前を愛しているんだ、ってことを。何度だってな。
「えへへ、本当~? おだてたって何も出ないよ~?」
現金にも、俺の言葉にいつもの調子を取り戻すフィルナ。
小さくたって可愛い。健康的で明るい美に愛された少女。それがフィルナという女性なのだ。
まず、太腿まで落ちる長い栗色の髪が芸術的だ。普段付けているリボンを解いた、ちょっとレアな姿というのもポイントが高い。
そして、彼女の特徴とも言える輪郭。小さくて丸い可愛らしい肩に、華奢で小柄な細い体躯。浮かびかけた肋骨。凹凸の少ないウエストラインは肉付きの少なさ以上に中性的で、未だ二次成長最中にある青き果実の少女を思わせる。腕も脚も太腿さえ、全てがか細く、健気で、美しい。
病的な細さとはちょっと違う。抱きしめれば壊れてしまいそうな、触れれば消えてしまいそうな、そんな儚さを感じさせる痩躯。当然、前面の乙女の膨らみもまた、その肉の薄さに見合った、嗜み程度とさえ言えない程に慎ましやかだったりする訳で、それはもう、もはや丘というよりはなだらかな斜面をともなう平原とも言うべき平坦さだ。だが、そんな白き雪原のような滑らかな肌を下ると、そこには、ほんのりと朱に色づく縦一本筋が。それは彼女が乙女たる証。実に初々しく、清らかで、芸術的だ。
絶景かな。絶景かな。
無性的であることが幻想的であるとするならば、彼女はまさに幻想そのもの。その姿まさに、森の湖畔で戯れる美しき妖精の如し。蒼き木漏れ日が光の柱のように降り注ぐ神秘的な大森林をその背後に夢想してしまう程だ。
あぁ、大いなる大自然の恵みに感謝を。
……な~んてね。
なお、何度も言わせていただきますが、彼女はもう立派な大人なのだ。
なぜなら彼女はエルフ。こう見えて、十分、成人年齢に達しているのだ。ゆえに合法。安心してご堪能いただけます。
「い、いかがでしょうか。ご、ご期待に添えられましたでしょうか……っ」
顔を真っ赤に染め上げながらプルプルと震えながら問うてくる。
目を合わせると、慌てて視線を泳がせる。そして軽く涙目になりながらこちらを見つめてくる。
よほど恥ずかしい思いをさせてしまったに違いない。それを、無理して耐えてくれているのだろう。
実に健気だ。愛おしい。そのまま押し倒してしまいたい程に。
「あぁ、もう十分満足したよ」
そんな愛くるしい小動物のような彼女の問いに「まだまだ不満だもっと見せろ脚を開けぐへへへ~」などと返答できようはずもない。というか、俺はそんな鬼畜ゲー主人公みたいにはなれそうにないので土台無理な話だ。何より、性的魅了スキルさんがそれを頑なに許そうとしない。まぁ、例外として相手がドМだった場合に限り、許可されることもあるようだが。
それはさておき。
やはり大きく目を見開き、広い視界で眺めるその姿は、見えてくる全体像というものが、なんというか、もう、こう、ね。味わいが違う。
先ほどからもう既に、下着を脱ぐ姿やらその動きのおかげやらで、そりゃあもう隅々まで色んな所を事細かにじっくりとご堪能させていただきました訳ではありますけれども、やはり、何度見ても良い物は良い。こんなん何度見たって良いですからね、という奴だ。
いつの世も、男にとって婦女子の裸体というのは、心を満たす、いうなれば麻薬のような物なのだろう。
昔、you●ubeか何か、雑学動画で見た話だと思うので眉唾ではあるのだけれど、なんでも毎日十分間以上オパーイを眺めることで、男性は平均寿命を延ばせるらしいのだ。
本当かどうかは知らない。恐らくはジョーク系のフェイクネタなんだろうが、もし本当なら、それほどの幸福をもたらすのだから俺は今日一日できっと一年は寿命が延びたことだろう。まぁ私、既に不老不死なんですけど。ヨホホホホ~。チート異世界転生者ジョーク。
そんなこんなで、俺が究極至高の料理に舌鼓を打つ美食家の如き恍惚とした気分のまま、無意識に何度もうなづいていると、何やらフィルナがこのようなことをのたまい始めた。
「むぅ、じゃあ……ボクだって見せるもん」
どうやら対抗心に火を付けてしまったようだ。
フィルナは、むんっと腰に手を当て、グイっと下腹部を前に突き出し、肩幅に足を開きドヤ顔仁王立ちの姿で自らの裸体を恥ずかしげも無く見せつけてきおる。
そのまま脚を蛙のように開いてアへ顔腰ヘコダンスでもしてくれれば面白かったのだが、さすがにそれを望むのはどうかとも思う今日この頃。そもそもそういった性癖は俺の趣味じゃ無いしな。
まぁ、そんな戯言は捨て置きつつ。見せてくれると言うのであれば、じっくり見るのが世の情け。
オマ○湖ホール。白濁した未来が待ってるぜぇ。にゃ~んつってな。
などと、刹那の合間に無駄な戯言で脳内を満たしていると。
「ど、どう? ボクの魅力にメロメロになっちゃったかなっ?」
などとのたまいつつ、自信満々に似合わないセクシーポーズを決めつつウインクなど飛ばしてきおる。
その自信は一体どこから来るんだか。まぁ、そんな所も可愛いんだけどさ。
ふむふむ、そこまで言うなら、じっくりと拝見させていただこうじゃないの。どれどれ?
そこにあったのは、ルティエラさんとは真逆の道を行く、されど美しさでいったなら、なんらひけを取ることはない、実に芸術な光景だった。
眩いばかりに煌く金の髪。天使のような童顔に、愛くるしい程に華奢で小柄な体躯。太り過ぎている訳では断じてない。そこそこ痩せた女児特有の、ぷにぷにした肉付きの実に健康的な、あざといばかりの寸胴イカ腹ロリボディ。
平坦でまな板なツルペタ胸部。ウエストの凹凸なんてあるんだか無いんだか。かろうじて腰の大きさと肉付きで女子らしいシルエットを保っているとも言える。
だが、お胸様のかろうじて存在するわずかな膨らみと、その先端にある大きさめの桜色と、むちむち曲線でかたどられた丸みを帯びたおふともも様の狭間に刻まれし奥ゆかしき縦の一本線こそが、彼女を乙女であることを証明すると同時に、禁断の美と社会的死というテーマの芸術性を表現していて――。
……うん。可愛い。可愛いんだけど。
どう見ても女子児童なんだよね。背徳感ヤバい。
こんなんどう考えたって事案ですやん。
身長や体型のせいで、中学生……いや、下手すればギリ高学年の小学生くらいにさえ見られかねない。
中学生にしても背の順は最前列だろう。両手を腰に当ててる姿が目に浮かぶ。それくらいには超小柄。
まぁ、実年齢は俺より年上、お姉さんなんだけどね。本当だよ?
しかし、失礼なのを承知で本心を語るのであれば……我ながら、よく今まで抱けてきたなぁ、って思う時も、まぁ、無い訳では、うん、稀に、よく、ある。いや、可愛いんだけどさ。めっちゃ可愛いのだけれどもね?
だってさ、そもそも俺の弱点はさ! 巨乳お姉さんですからぁー!!
……けどさ、やっぱ可愛いんだよねぇ。
愛し合った相手が、たまたま好きになった相手が、童顔で、貧乳で、しかも幼児体型だった。ただそれだけのこと。
性癖なんて関係ない。自分を好きになってくれた子が一番になってしまった。好かれてる内に良い所とか見えて来ちゃってさ、好きになってしまう。そんなの、普通のことだろ? なにより、肌を重ねた相手に特別な感情を抱いてしまうなんて、よくある話さ。そう、たまたま、偶然、何の因果か、好きになってしまった相手が、ちょっと、いや、かなり小柄だったというだけ。それだけの話なんだよ。
だって彼女はドワーフなのだから。こんな見た目だったとしても、彼女はれっきとした合法なのだから。それは種族的な特徴なのだから。小さくたって仕方のないことなんだよ。
などと、俺は脳内加速を過信し、ほんの一瞬のつもりだったが、長考を許してしまった。そう、無言のままに、だ。
それは、彼女の目にどう映ったことだろう。
俺はその程度のことさえ予測できなかったのだ。
「やっぱ、ダメ……かな?」
不安げな瞳でフィルナが俺を見つめていた。
「え?」
「ダメ、だよね。ボクなんかじゃ……」
先ほどの自信満々な表情や声音とは正反対の、
「子供みたい、でしょ?」
消え入るように小さな声、憂いを帯びたその表情。
俺を見つめるその瞳が、弱々しく震えている。
不安にさせてしまったのか。俺が。彼女を。
「ちっちゃいし、おっぱいも大きく無いし」
いや、そもそも比較対象であろうルティエラさんだってさ? お乳に関しては割と、というか、ほぼ無いに等しい訳で、彼女もまた小さいしさ? その辺はあまり気にしなくてもよいと思うんだけど、ね?
「……気持ち悪い、よね?」
おいおいおい……。
「たまに聞こえてくるんだ。ドワーフなんてみんなガキみたいじゃないかって。あんなのよく抱ける奴がいるもんだよなって」
お前、何言って――。
「ボクの体じゃさ、もう満足できないんじゃない?」
あぁ、そうか。
俺はなんて――。
「我慢してるんでしょ?」
なんて間違いを。
「あの時、必要だったから抱いただけで、本当は――」
劣等感。
その人生において積み重ねられてきた悩み、経験、蓄積したそれらからなる劣等感。それが彼女をそうさせるのか。
彼女は彼女なりに、自身の身体的特徴に悩みを抱えていたんだ。
「だから、たまたまそこにいたボクを好きにしただけで」
それもそうだ。当たり前だ。いくら自信に満ち溢れてるように見せてたって、彼女は、フィルナは、女の子なんだから。
好きな相手に体を見られ、他にライバル視してしまうような関係の相手が何人もいて、その反応が気にならない訳が無い。不安にならない訳がないじゃないか。
そもそも、彼女は国を出て、自らの地位も、何もかもをかなぐり捨てて、祖国を裏切ってまで、俺についてきてくれたんだぞ?
時折口にする“その言葉”だって、きっとそういった不安からくるものなのだろう。
だから、
「もう必要ないもんね。だから、いつかは、ううん……もう、ボクのことなんか――」
言わせるものかよ。
「何言ってるんだよ」
それ以上の言葉を言わせてはいけない。
「フィルナは気づいてないかもしれないけどな」
だからこそ、俺はあえて軽く言う。
「お前、めちゃくちゃ可愛いからな」
いつもの雰囲気で、お前の不安なんて、この重い空気ともども吹き飛ばしてやる。
「俺は好きだぞ」
俺は、彼女に偽らざる本心を告げる。
「お前のこと」
性的魅了スキルから導き出されるまでもない。ゆだねる必要さえない。俺の言葉で、何一つ飾ることなく、ただ一心、ありのまま、俺の気持ちをそのまま、真っすぐ彼女に伝える。
「もちろん、お前の体もだ」
確かに迷いそうになることはあった。性癖とは一致しない。けど、それがフィルナ本人を好きになれない理由になど、なるはずがない。
「……本当?」
不安げに震える彼女の瞳が、俺を捉えて離さない。
いつものような、甘えてねだるようなおふざけではない。
それは本気の、拒絶を恐れる目だった。
「ポイ、しない?」
そして、“その言葉”を口にした。
ポイ。自動的に行われる異世界語の翻訳機能から考えても、物を捨てる時に用いられるスラング的な、幼児語めいた位置づけの言葉をそのまま似たような意味合いの日本語に変換したもの。つまり、変換不可能なこの世界における独自の単語ではないということ。
稀に、この世界にしか存在しない食材やら生物やら鉱物やらで、現代地球には該当例がない場合に限り、翻訳機能に変換されることなく意味だけがルビで紐づけられるような形で脳内に翻訳される単語も存在するのだが、この言葉においてはそれに該当しない。
つまり、ポイとは、捨てるという意味に他ならない。
ポイ? 捨てる? 何を捨てると?
フィルナを、捨てる? 誰が?
俺が? お前を、捨てる?
ありえない。
そんなの絶対にありえない。
だって、こんなにも俺はフィルナを愛しているのだから。
「当たり前だ。愛してる。ずっと一緒だ。これからも。いつまでも」
そう、絶対に捨てたりなんかしない。するものか!
あぁ、俺はなんと愚かだったのだろう。
一瞬でも、彼女のあんなにも愛くるしい見た目に対して、罪悪感だの、背徳感だの、地球程度のただ青いだけが取り柄のクソくだらない、魔法すらないちっぽけな、肌の色程度にしか人種の違いが無い、実に矮小な世界における価値判断基準、実にくだらない常識風情に惑わされて。
彼女を傷つけてしまった。
世界が変われば文化だって変わる。国が変われば法律だって変わる。日本では一夫多妻が犯罪なのは当たり前のことかもしれない。だが同じ地球であったとしても、例えばアフリカなど別の国であれば限定的にであろうと一夫多妻が認められている国だってある。
なら、ここはどこだ?
異世界だ。
じゃあ法律も、常識も、文化だって、違っていて当たり前じゃないか。
それなら……!
見た目が子供みたいだからといって、何だと言うのだ!
いつまで前世にこだわっているんだ天原翔。お前はもうとっくに死んだだろ。ここはもう日本じゃないんだ。地球ですらないんだぞ!
そうだ、俺の名はアルク・ディファニオン。この、異世界エルデフィア、ルミナスフェリア大陸を生きる者。
もはや人ですらない。魔族だ。
そんな俺が、何を気にしている。何を恐れている!
この世界には色んな種族がいる。彼女のように成人しても小柄なままという特徴を持つ者だっている。なら、背が低いだの、童顔だの、胸が小さいだの、ペドフィリアだの、前世の世界基準で犯罪だなんだと、そんな風に扱うことこそが差別じゃないか。それこそが許されざるべき悪なんじゃないのか!? おい、人種差別なんてよくないことなんだろ!? そうだろ地球の常識人様どもがよぉ!!
なら、差別的なこと考えてるんじゃねぇよ!
目ぇ、覚ませよ俺!
俺の嫁が、目の前で泣いてんだろうが!!
「でも、ボク、小さいから、だから――」
こんなにも震えてる。
さっきまでは自信満々にさらけ出していた体を腕に抱き、小さく震えている。
涙までは流していない、けど、その心が泣いているって、俺の心が言ってんだよ!!
俺の嫁が、怯えている。
何に? 俺に? 俺の、言葉に? いや、俺の煮え切らない態度にだ。
俺が、そうさせてしまったんだ。
俺の迷いが、伝わってしまった結果だ。
俺が彼女を不安にさせてしまったんだ。
だから、俺はその言葉を放つ。
「だから、なんだ?」
彼女の不安を払しょくするために。
「小さくたって関係ねぇよ」
捨てられることに怯え、自身の肉体に劣等感を抱き続ける彼女を安心させるために。
「俺は、フィルナが好きなんだ」
異世界であるこのエルデフィアに、ロリコンだのペドフィリアなどといった概念があってたまるものか! あった所で知ったことかよ!
「お前だから、好きなんだ」
地球の常識など関係ない! 俺のこの愛が、犯罪なんかであるものか!!
――警告、未成年への性行為は国により死罪です。同意を得た性交渉も性的暴行として扱われる国の方が多数派です。
……そんな覚悟極まった俺の想いをよそに、無慈悲な訂正が脳内へと叩き付けられる。
歴史、雑学スキル辺りが反応したようだ。
空気読めよ。
まぁ、そうだよね。未成年はダメだよね。
でも、大人なら?
だって、フィルナも、ルティエラさんも、ほら、大人だもん、ね?
――解、彼女らは種族的特徴により小柄なだけで成人です。むしろ子供扱いする方が差別になり、所により軽犯罪として処罰される可能性があります。
スキルによる自動的な知識反映が即座に行われる。
なお、イメージ的に某作品のスライム様に宿る何かのように脳内表現させてはいるものの、実際にそういった何かがいて語り掛けている訳ではない。所詮、ごっこだ。
その内、本当にそれっぽいのを作って住まわせたいとは思っているんだけどね。並列思考とか出来たら便利そうだし。某作品の蜘蛛の人みたいにさ。
「不安にさせてごめんな。大きさなんて関係ない。だって、フィルナはフィルナだから。代わりなんて無いし。あったとしても、そんなのはいらない。お前だから、俺はお前が好きなんだ」
「……本当?」
これだけ平然と浮気しといてなんだけど、嘘偽らざる本心であることに変わりはない。マジで愛しているんだ。本当だよ?
「あぁ、俺の気持ちに変わりはない」
これだけ愛を囁いているのに、何がそんなにも彼女を不安にさせてしまうのだろう。
俺がいきなり嫁三人とか浮気し放題なせい? そうだな。それに関してはマジすまんとしか言いようがない。男とはそういう生き物なのだとでも思って諦めていただきたい。
「愛してる。可愛いよ。そして綺麗だ」
いや、女という生き物が、そういうものなのかもしれない。
男が何度でも美女の裸婦を見て楽しめるように。何度でも愛を囁かれなければ不安になるのが女という生き物なのかもしれない。
全員が全員そうであるとも限らないが、実際ルティエラさんは貴族の常識として受けいているように見えるし、セルフィに至ってはのほほんと何考えてるか掴みどころが無くてまるでわかんねぇし、たまたまフィルナが湿度高めなヤンデレ気質なだけだったのかもしれない。
けど、それがどうした。
俺はこの世界で嫁を愛でると決めたのだ。
全裸を眺めることが男の楽しみであるように、愛を囁かれるのが女の幸せであるのだとすれば、何度だって思い返させてやろうじゃないか。刻み込んでやろうじゃないか。
俺がお前を愛しているんだ、ってことを。何度だってな。
「えへへ、本当~? おだてたって何も出ないよ~?」
現金にも、俺の言葉にいつもの調子を取り戻すフィルナ。
小さくたって可愛い。健康的で明るい美に愛された少女。それがフィルナという女性なのだ。
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みんなの感想(14件)
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女子の生着替え、見た事ある、って言うか見せられた😅
待っていました。
次話がアップされるまで何度も読み返しています。
読んでて凄く楽しく、続きが楽しみでしかたありません。
ありがとうございます!
生きている限り、先はまだまだ長いのですが、完結までしっかり書き進めて行きたいと思っております。
今後ともごひいきによろしくお願いします!
面白かった、皆さんみたいに一気読みしました、続きも楽しみにしてますd(>ω<。)
ありがとうございます!
遅筆ですががんばって書き進めて行きますので今後もご贔屓によろしくお願いします!