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第五十一話「いきなり黄金水アフターEX(前編)」
しおりを挟むしかし、セルフィが始めたくだらない会話のおかげか一気に場も暖まったし、悲壮な空気とかも消し飛んだな。
まさか、最初からそのつもりで? これを見越して場の雰囲気を柔らかくするためにふざけてくれたのか。
……そういうことなんだよな? セルフィさんよ。
気遣いのできるできた嫁。そして中々の策士であるセルフィ。
やりますなぁ、と俺はにやりとほくそ笑みつつ彼女を見つめる。
すると、
「……私は、アルクが望むならどんなプレイにだって応じるの」
……いやいや、そういうつもりで見た訳ではないから。
「だから、遠慮せずにリクエストして欲しい」
きりっとした表情で俺をみつめ返してくる。
いやいやいや。
おいおいおい。
まさかこいつ……!
――何も考えてない?
とりあえず、理由はどうあれよい結果を示してくれた影の功労者として、セルフィの頭も撫でておく。
「にへへ」
にんまりと気味の悪い笑みを浮かべるセルフィ。
……君は可愛いんだから、もっと普通の笑みを浮かべなさいよ。
相変わらず不思議ちゃんなセルフィさんなのでした。
そんなこんなもありまして。
嫁三人を愛でていたら日も少し昇り始め、予定もだいぶ遅れてしまった。
もうお出かけは昼過ぎてからでいいかな、と嫁達の温もりを堪能していると。
「クルルルゥ……」
大人しく黙って遠巻きに窓から覗いて見守っていた愛しの愛玩竜ちゃんが唸った。
『我のことも忘れんでくれ……』
いや、別に忘れてた訳じゃないぞ?
優先順位が低いだけだ。
『さすがに放置は寂しい』
『悪い悪い』
さて、丁度良いな。
この機会に顔合わせとでもいくか。
という訳で。
「……ほら、怖くないぞ」
フィルナを怯えさせないよう、おいでおいでして愛玩竜ちゃんのお顔を窓に近づけさせる。
彼女にとっては最悪の出会いになってしまったようだが、これから楽しい思い出に塗り替えていけば問題あるまい。
「ほんと?」
まだ若干不安そうな表情のフィルナ。
「あぁ、ちゃんと従属契約したからな」
不安にさせないよう、笑顔で対応。
大丈夫。怖くない。怖くないぞぉ~。
どことなく反省した表情で庭にちょこんと座る我が相棒。
爬虫類特有の無表情さから、見てわかるようなものではない。
けど、その微妙な違いをどことなく察したのか、フィルナの表情が和らいでいく。
「……そっか、従属契約してたんだもんね」
「あぁ」
俺が頷くと、いつもの表情にもどり、ぷっくり膨れ面でむくれ始める。
「もー! だったらなんで一言言ってくれなかったかなー」
「すまんすまん。なんかタイミング悪くて間に合わんかった」
「むー」
俺の答えにフィルナはプンスカ頬を膨らませつつ、ブー垂れる。
「大丈夫。先ほど話したとおりなのです」
「そうそう、漏らしたくらいじゃアルクは嫌わないの」
「それはそれとしてー! 恥ずかしいものは恥ずかしいんだよーっ」
『我、知ってる。人族は排泄を見られることを嫌う。怖がらせてしまった。すまん』
『いや、あれは俺も悪かった。ちょっとタイミングがなぁ……不幸な事故だったんだよ。忘れよう』
『むぅ、主がそう言うなら』
感じ取れる思念的に、実際ガチ反省モードのようだ。
ちょっと悪いことしたかなぁ。
「もー、せめて笑顔とかでいてくれればなー」
あの時。こいつの巨大な顔が出現した瞬間、俺はフィルナがもよおしてるのを知り、最悪を予想して顔を強張らせてしまった。
どうしたもんかと上手くなだめる方法を考えるのに必死になってしまった。
それが、逆に悪手だったらしい。
「改めまして、ルティエラ・ハッシェルミーンと申します」
場の空気を壊すように、ルティエラが自己紹介を開始する。
上手く気を使ってくれる出来た嫁だ。
「セルファリエ・オーニス。セルフィでいい。しくよろなの」
「ボクはフィルナ・ハーティス。今は偽名でフィオナ・ハルティスって名乗ってるけど。よろしくね~」
「ガウ、グルルゥ」
そんなこんなで無事、自己紹介タイムが開始される。
「えっと……この子、お名前は?」
あ~……そういえば。
確かに古翼竜って呼び続けるのもなぁ。
人に対して「人間」って呼びかけるようなもんだもんなぁ。
もっとも、ドラゴンとかは逆にやりそうだけどな。
しかし、名前か。考えないとなぁ。
「まだ決めてないんだ。後で考える。今日はちょっと用事があるから」
「ふ~ん」
「とりあえず、よろしくね」
「よろしくなの」
「よろしくです」
「ガウ」
こうして各々紹介を終えた頃。
「ぅぅっ……」
ブルブルと両手で体を抱えて震えるフィルナ。
魔法による暖房状態でも下半身がタオル一丁じゃさすがにちょっと冷えるらしい。
リュックから服を探し着替えようとするフィルナを見て俺は思いついた。
「ちょうどいいし、風呂でも入るか?」
風呂という物がこの世界にあるのかどうか。
どの程度普及されているのかは知らんが。
そもそもこの屋敷にあるのかどうかもわからんが。
無ければ無いで策はある。
「あるの!?」
あるかどうかはわからん。
「無くても魔法でどうとでもなるだろ?」
無責任に言い放つ。
いや、実はスキルで脳内に入り込んだ使用可能な魔法のデータから実現可能そうな案はあるんだ。
後は、それを実行するだけ。
広めの部屋があれば理論上いける。
そんな俺の提案に。
「入るの!」
「入りますですっ」
「うん!」
やたら喰い気味の勢いで即答する嫁三人。
……あれ? もしかして、俺も一緒に入る流れになってない?
「もちろん、アルクも一緒に、なの」
ですよねー。
嫁達の表情が既にそれを物語っていた。
持つかなぁ……俺。
今日はけっこう魔力消耗する予定だったんだけど……。
まぁ、いっか。
魔力や体力が足りなくなったら翌日以降にも分割して活動すりゃあいい話だ。
そんな訳で、俺は性欲に負けてしまいそうな心を自制しつつ、屋敷の一階へと向かうこととなるのだった。
『……我は?』
寂しげな声音で、庭から思念が飛んで来る。
『お前は後でな。庭で洗ってやっから』
『うむ、わかった』
嬉しそうに思念を返してくる愛しの愛玩竜。
尻尾をぶんぶん振ってるのがなんとなくわかる。
可愛い奴め、
しかし、ちょうどいい大きさのデッキブラシというか、モップみたいの……あるかなぁ。
などと考えている内に、屋敷の一階へと辿り着くのであった。
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