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第二十九話「いきなり冒険者!?(後編)」

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「敵襲!!」

 俺が声をあげるとテントの中からフィルナとセルフィが飛び出してくる。

「……うそ」
「何これ」

 目の前には数十匹の魔物が群れを成していた。

「数が多いな」

 酸性の毒液を吐き、その牙に触れればたちまち鎧や武器が腐食する戦士の天敵アシッドウルフ。それが数十体。
 影から影へと転移する能力を持ち、戦場を縦横無尽に飛び回る魔術師の天敵シャドウウルフ。それが四体。
 炎を操る真紅の狐。カーネリアンフォックスが一体。
 風を操るみどりの狸。ネフライトラクーンが一体。
 どれも強敵ばかりだ。

「複数の種族が群れを成すなんて……ありえないです」
「そうなのか?」
「えぇ……これは――」

 ルティエラが何かを口にする前に、敵が襲い掛かってきた。

 迫り来るアシッドウルフの群れ。
 だが次の瞬間。

魔法の矢エネルギーボルト

 セルフィがその言葉を口にした瞬間、無数の紫炎揺らめく魔力の矢が飛来しアシッドウルフ達を貫いた。
 対象拡大で複数体を目標とした魔法の矢に射抜かれアシッドウルフは全滅する。
 さすがの魔力操作S、詠唱短縮Aと言ったところか。これだけの魔法を発動させるのに一秒程度しかからない。

 そしてこれは実に理にかなった采配なのだ。
 アシッドウルフの牙に触れればたちまち鎧は腐れ落ち、剣は即座に錆び落ちる。
 鎧や剣を破壊されれば当然戦士は何も出来なくなる。
 なので一番最初に厄介な敵から排除する。

 まるで歴戦の戦士を思わせる手腕だ。

 だがしかし。

 アシッドウルフと同時に襲い掛かってきたのは黒き獣。
 影から影へと転移するシャドウウルフ。一瞬の非物質化により魔法の矢を回避したのだ。
 それは足元の影より現れ出でて襲いかかって来た。

 俺は余裕で回避する。盾や武器を使うまでもない。
 飛び出た際の無防備な腹に剣を差し込むことさえ余裕だった。
 そのまま切り裂き一体を屠り去る。

 さて、みんなはどうだろう。
 フィルナも無駄の無い動きで攻撃をなんなく受け止める。
 ガキンと牙が鎧に当たるが怪我は負ってない様子。

 だが、後衛職である魔術師、フィルナとルティにもその魔の手は及んでいた。
 しかし、我がチームの連携も中々のものだ。
 その牙がセルフィへと届く寸前、フィルナの剣がウルフの口内へと叩き込まれる。
 フィルナが護衛をしてくれているならセルフィは大丈夫だろう。
 一方ルティエラは、自前のゴーレムの腕を盾にして負傷はしていない様子。

 そう、実はルティエラは使役魔法を駆使して護衛用のゴーレムを一体操作しているのだ。
 石より作られしストーンゴーレム。背丈は俺よりちょっと高いぐらい。だが全身が石でできているためかなり頑丈だ。

 ちなみに、あのワイバーン戦で時間を稼げたのもこのゴーレムのおかげであるらしい。
 白魔法による支援も行っていたようだが、このゴーレムの持つ前線維持能力が無ければあの時は持たなかっただろう、とのこと。
 ちょうど俺達が来る直前に破壊されてしまい、あの時はまさに絶体絶命だったらしい。
 まぁ、それくらい信頼できる助っ人君な訳ですよ。

 それはさておき、シャドウウルフと交戦している間にも敵は黙っていてくれる訳ではないわけで。
 魔法の射程外にいたおかげで魔力の矢を逃れた赤い狐と緑の狸が魔法による支援攻撃を行ってくるわけで。

 紅蓮の炎と突風が同時に襲い来る。

 俺とフィルナが前に出てそれを剣で受け流す。

 ルイスラン流武神剣闘術奥義朧流水ウォーターパリィ

 瞬間的に武器に魔力を纏い、炎と風、非物理的自然影響攻撃を受け流す。

 そして、奥義鏡華水月リフレクション
 受け流しと同時に無駄の無い動きで即座にカウンターを叩き込む。
 剣閃による飛翔する魔力の刃を叩き込まれ赤い狐と緑の狸が両断される。

 ゴーレムの豪腕がシャドウウルフをなぎ倒し、セルフィの魔力の矢が残る敵を殲滅する。

 ルティエラが支援魔法を使おうとしてくれていたようだが、発動する前に戦闘は終了した。
 最初はどうなるかと思ったけど、案外あっけないもんだったな。

「さてと、どうしたもんかね。これ」

 辺りにはゴロゴロと血の匂いを漂わせた死体達。

「とりあえず、討伐証明の部位を切り取りましょう」

 ルティエラの提案に賛成する。
 討伐の依頼は後出しで受けることも可能だからな。
 後で追加報酬としていただくとしよう。

 そんなこんなで討伐証明の証である両耳をわっさわっさと切り取る作業に入る。

「ごめん……ボク達は寝るね」
「むにゃぁ……」

 寝る寸前を起こされるはめになったフィルナとセルフィがテントへと戻っていく。

 せっせと作業する中、俺はあることを閃く。

「ねぇ。ルティエラさん」
「は、はいなんでしょう」
「この魔物達って素材として売れたりする?」
「そうですね……シャドウウルフは微妙ですが、他はわりと」

 ルティエラいわく。
 アシッドウルフの体毛は頑丈で割と良い値がつくらしい。
 そもそもアシッドウルフの唾液は酸性だ。というか酸そのものだ。
 そんな唾液で毛づくろいするアシッドウルフの毛が頑丈でないわけがない。
 耐酸性に優れ、毒にも強い防具が作れるのだとか。

「カーネリアンフォックスの毛皮は耐熱性に優れていますし、ネフライトラクーンともども額に魔石を持っています」
「ほう」

 よく見てみると額に宝石のようなものが付いている。

「様々な素材に使われるので、この魔石も重宝されると思います」

 なるほど……だが、問題は。

「ただし解体のスキルを持っていないと上手く剥ぎ取るのは難しいかと」
「なるほど」

 俺はその言葉を聞き、さらにあることを思いついたのだった。


 こうして俺達は無事、街へと帰還した。

 大量の素材と共に。

「ど、どうしたんだい? こりゃ」
「ちょっとね」

 冒険者ギルドの酒場のマスターもこれにはびっくりしてたね。

 実はあの後、俺はステータスをいじって解体を覚えたのだ。
 まずはクラスを野伏にする。野伏にクラスチェンジする条件は投擲Cか偽装Sかどちらかで満たしていたようですんなりとなれた。
 後はスキルポイントを消費して解体を覚えるだけ。
 そのクラスで得られるスキル自体はスキルポイントを消費すれば簡単に習得したりランクアップしたりできるらしい。
 俺は有り余るスキルポイントを消費し、解体をSランクで習得した。

 あの山盛りだった死体があっという間に毛皮に変わっていく様は圧巻だった。
 まぁ、肉は不味いらしいので捨てたけどね。骨とかもね。

 そんなこんなで。
 討伐証明による討伐依頼のクリア、薬草採集のクエストクリア報酬、そして素材を売ったお金で……。

「マジ?」

 なんか、けっこう凄い額になってしまうのだった。


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