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第3話「命の価値」
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現代社会において、世にも稀な病気にかかった者が度々メディアに取り上げられる。そこで寄付金が募られたまったお金で医者にかかる。尊い命が皆の協力の下救われる、大変喜ぶべきことであろう。最も、世の中には報道もされない所で失われていく命のほうが圧倒的に多いというのが事実だが。
命の価値というものはその時その場所で変わっていくといえる。少なくとも荒野では、命の値段はともすれば弾丸一発より安いのだ。
「・・・・・ん?」
目を開けると、天井が見えた。
体に包帯をグルグルに巻かれている男は、先ほどまで死に掛けていた不運なガンマン「スミス・カーター」である。傷口には適切な処置がなされているようで、どうやら誰かに助けてもらったらしかった。
誰が彼を助けたか、我々はそれを知っている。マリア・ダンウィッチだ。だが彼女のことなど露とも知らない(当然であるが)彼は、誰かが来るまで取りあえず待つことにした。
日は高い、時間は分からないが恐らく昼ごろであるらしかった。窓からの様子を察するに場所はレイゼムの宿屋のようだった。自分を殺そうとした者達のことがきにかかる。
「う~・・・・・む・・・・・・・。」
考えても答えなど出るわけが無い、実情はとんだ勘違いなのだから。しかし、彼は心当たりを探ってみる。
「いや、やっぱないわ」
このスミス・カーターという男、ガンマンになって結構経つが人から恨みを買うような依頼は決して受けてこなかった。護衛が依頼の殆どを占めたカーターのガンマン稼業で恨みを買えというのは難しい話であり、「相場は高いがヤバいヤマ」にも手を出すことはなかったのだ。
「まぁ、俺を殺したいんだったらまたくるだろ、それより・・・」
カーターは自分に巻き付けられた包帯をみやる。
「蜂の巣になったガンマンを助けるなんて、どこの物好きかねぇ。」
まさかガンマンが金を持っているだなんて思いはしないだろう。ガンマン等という人種は基本素寒貧で、だから安く使われるのだ。高く使ってもらえるガンマンなど、それこそ名うての者に限られる。
「あら、起きたの?もう少しかかると思ったけど、案外丈夫なのね。」
ガチャリと扉の開く音がして、女性が一人入ってきた。結構な美人だ。
「あんたが俺を?」
「えぇ、そうよMrスミス・カーター。私はマリア・ダンウィッチ、医者よ。」
一目見てカーターは彼女が医者とは思えなかった。姿はどうでもいいとして、まとわりつく雰囲気がどうにも娑婆からはずれているように見えたのだ。
「どうして俺の名を?」
取りあえずの質問をぶつけてみる。幾つか質問してみて、マリアの人となりを観察するはらづもりだった。
「宿帳みたわ、宿の親父さんが貴方を見て酷く慌てたものだからね。しかし貴方、運の悪い人ね;」
「?」
カーターにはなんの事だか分からない。
「ここいらにはスミス・カートンっていうゴロツキの親玉がいるのよ。子分を侍らせて良い様にやってるって訳ね。宿 帳の貴方の字、お世辞にも上手とは言えなかったわねぇ。」
「!・・・・・ま、まさか」
カーターは背筋が寒くなった、当然である。
「いやぁ、人違いで危うく死ぬところだったわねスミス・カー何とかさん?」
「・・・・・」
カーターは頭を抱えた。これまでそれなりに危険ではあったが順風満帆に過ごしてきたガンマン人生だったはずなのに、まさか人違いでしかも恐らくは街の人間に撃たれたのだ。
「まぁ、死なずに済んでラッキーだったじゃない。私がいなかったら今頃野犬の餌だったんだし。」
「そりゃ・・・そうだが。・・・・・なんだって俺を助けたんだ?」
当然の疑問を口にするカーター。荒野には人情はあまり転がっていない、あったとしてもそこには必ずといっていいほど裏があるものだ。しかもカーターは「見た感じで」ガンマンと分かる風体だ、助けても得にはならないことくらい直ぐ分かるはずだ。
「私は医者だし、目の前で人が死ぬのは余り見たくないもの。」
助けてもらっておいてなんだが、カーターはマリアのことを「とんだお人好し」だと思った。見返りを考える前に人助けをする人間なんて、子供向けのお話の中に出てくるくらいのものだ。つまりそのくらい「珍しい」のである。
「お代は?」
「え?」
「俺の治療費さ、タダってわけじゃないんだろ?」
少しの沈黙の後、カーターが切り出した。命の値段だ、かなり吹っかけられるのも覚悟して聞いたのである。「お人好し」ならたいそう安くしてくれるかも知れないとも思ったが、カーターとしては莫大な負債になったとしても正当な値段を提示して欲しかった。何より、妙な借りや何だかを作りたくなかった。
「あぁ、いいのよお代は。」
「(そらきた)そう言う訳にはいかない。俺の命の値段だ、俺が責任持って払うよ。」
「別に伊達や酔狂で言ってる訳じゃないの、もう貰ってあるから貴方からは採らないってだけよ。」
「・・・なに?」
貰ってあるとマリアは言った、だがカーターには分からない。天涯孤独というわけではないが、ここいらに知り合いなどいないし何よりそれらは全てガンマン仲間だ。とてもそんな金を払うような奴らじゃない。
「貴方を撃ったのはこの街の人間なのよね、カートンに煮え湯を呑まされた人たちってわけ。別に彼らも無法者って訳 じゃないし、全員からお代は頂いたわ。それに何より、貴方は被害者だしねぇ。」
「・・・なにも悪いことしてないのにただ酷い目にだけ遭うなんて理不尽だわ。」
「ここじゃそんな理不尽日常茶飯事だけどな・・・。」
この荒野では常に誰かが食い物にされている、弱肉強食の世界だ。ギャングに金どころか命まで奪われた奴、騙されて首の回らなくなった奴、土地を奪われて泣く泣く出て行った奴。そんな奴らはこの荒野にはそれこそ星の数ほどいるのだ。
「そういえば俺はどの位寝てたんだ?」
ふとカーターがマリアに聞いた。体の痛みが全くないし、ダルさも感じない。
「一昼夜ってところかしら、体は殆ど治ってると思うけど?」
「いや、おかしいだろ・・・」
常識的に考えておかしかった。包帯を取って見てみると、傷跡はあるものの傷自体は治っていた。あれだけ蜂の巣にされたのに一昼夜で治るとはとてもじゃないが考えられなかった。
「そういう薬を使ったからよ、どんな薬かは企業秘密だけど。」
「・・・あんた魔女かよ?」
「・・・・・フフ、私が魔女だったらお代は貴方の魂ね。」
カーターは諸手をあげる、お手上げだ。だが魔女といわれたときマリアが一瞬悲しそうな顔をしたのは見逃さなかった。
(悪ぃこと言ったかもな、こりゃ。)
ともあれ目覚めたスミス・カーター治療費はタダ。彼の命は結果的に弾丸一発よりも安くついたのであった。
命の価値というものはその時その場所で変わっていくといえる。少なくとも荒野では、命の値段はともすれば弾丸一発より安いのだ。
「・・・・・ん?」
目を開けると、天井が見えた。
体に包帯をグルグルに巻かれている男は、先ほどまで死に掛けていた不運なガンマン「スミス・カーター」である。傷口には適切な処置がなされているようで、どうやら誰かに助けてもらったらしかった。
誰が彼を助けたか、我々はそれを知っている。マリア・ダンウィッチだ。だが彼女のことなど露とも知らない(当然であるが)彼は、誰かが来るまで取りあえず待つことにした。
日は高い、時間は分からないが恐らく昼ごろであるらしかった。窓からの様子を察するに場所はレイゼムの宿屋のようだった。自分を殺そうとした者達のことがきにかかる。
「う~・・・・・む・・・・・・・。」
考えても答えなど出るわけが無い、実情はとんだ勘違いなのだから。しかし、彼は心当たりを探ってみる。
「いや、やっぱないわ」
このスミス・カーターという男、ガンマンになって結構経つが人から恨みを買うような依頼は決して受けてこなかった。護衛が依頼の殆どを占めたカーターのガンマン稼業で恨みを買えというのは難しい話であり、「相場は高いがヤバいヤマ」にも手を出すことはなかったのだ。
「まぁ、俺を殺したいんだったらまたくるだろ、それより・・・」
カーターは自分に巻き付けられた包帯をみやる。
「蜂の巣になったガンマンを助けるなんて、どこの物好きかねぇ。」
まさかガンマンが金を持っているだなんて思いはしないだろう。ガンマン等という人種は基本素寒貧で、だから安く使われるのだ。高く使ってもらえるガンマンなど、それこそ名うての者に限られる。
「あら、起きたの?もう少しかかると思ったけど、案外丈夫なのね。」
ガチャリと扉の開く音がして、女性が一人入ってきた。結構な美人だ。
「あんたが俺を?」
「えぇ、そうよMrスミス・カーター。私はマリア・ダンウィッチ、医者よ。」
一目見てカーターは彼女が医者とは思えなかった。姿はどうでもいいとして、まとわりつく雰囲気がどうにも娑婆からはずれているように見えたのだ。
「どうして俺の名を?」
取りあえずの質問をぶつけてみる。幾つか質問してみて、マリアの人となりを観察するはらづもりだった。
「宿帳みたわ、宿の親父さんが貴方を見て酷く慌てたものだからね。しかし貴方、運の悪い人ね;」
「?」
カーターにはなんの事だか分からない。
「ここいらにはスミス・カートンっていうゴロツキの親玉がいるのよ。子分を侍らせて良い様にやってるって訳ね。宿 帳の貴方の字、お世辞にも上手とは言えなかったわねぇ。」
「!・・・・・ま、まさか」
カーターは背筋が寒くなった、当然である。
「いやぁ、人違いで危うく死ぬところだったわねスミス・カー何とかさん?」
「・・・・・」
カーターは頭を抱えた。これまでそれなりに危険ではあったが順風満帆に過ごしてきたガンマン人生だったはずなのに、まさか人違いでしかも恐らくは街の人間に撃たれたのだ。
「まぁ、死なずに済んでラッキーだったじゃない。私がいなかったら今頃野犬の餌だったんだし。」
「そりゃ・・・そうだが。・・・・・なんだって俺を助けたんだ?」
当然の疑問を口にするカーター。荒野には人情はあまり転がっていない、あったとしてもそこには必ずといっていいほど裏があるものだ。しかもカーターは「見た感じで」ガンマンと分かる風体だ、助けても得にはならないことくらい直ぐ分かるはずだ。
「私は医者だし、目の前で人が死ぬのは余り見たくないもの。」
助けてもらっておいてなんだが、カーターはマリアのことを「とんだお人好し」だと思った。見返りを考える前に人助けをする人間なんて、子供向けのお話の中に出てくるくらいのものだ。つまりそのくらい「珍しい」のである。
「お代は?」
「え?」
「俺の治療費さ、タダってわけじゃないんだろ?」
少しの沈黙の後、カーターが切り出した。命の値段だ、かなり吹っかけられるのも覚悟して聞いたのである。「お人好し」ならたいそう安くしてくれるかも知れないとも思ったが、カーターとしては莫大な負債になったとしても正当な値段を提示して欲しかった。何より、妙な借りや何だかを作りたくなかった。
「あぁ、いいのよお代は。」
「(そらきた)そう言う訳にはいかない。俺の命の値段だ、俺が責任持って払うよ。」
「別に伊達や酔狂で言ってる訳じゃないの、もう貰ってあるから貴方からは採らないってだけよ。」
「・・・なに?」
貰ってあるとマリアは言った、だがカーターには分からない。天涯孤独というわけではないが、ここいらに知り合いなどいないし何よりそれらは全てガンマン仲間だ。とてもそんな金を払うような奴らじゃない。
「貴方を撃ったのはこの街の人間なのよね、カートンに煮え湯を呑まされた人たちってわけ。別に彼らも無法者って訳 じゃないし、全員からお代は頂いたわ。それに何より、貴方は被害者だしねぇ。」
「・・・なにも悪いことしてないのにただ酷い目にだけ遭うなんて理不尽だわ。」
「ここじゃそんな理不尽日常茶飯事だけどな・・・。」
この荒野では常に誰かが食い物にされている、弱肉強食の世界だ。ギャングに金どころか命まで奪われた奴、騙されて首の回らなくなった奴、土地を奪われて泣く泣く出て行った奴。そんな奴らはこの荒野にはそれこそ星の数ほどいるのだ。
「そういえば俺はどの位寝てたんだ?」
ふとカーターがマリアに聞いた。体の痛みが全くないし、ダルさも感じない。
「一昼夜ってところかしら、体は殆ど治ってると思うけど?」
「いや、おかしいだろ・・・」
常識的に考えておかしかった。包帯を取って見てみると、傷跡はあるものの傷自体は治っていた。あれだけ蜂の巣にされたのに一昼夜で治るとはとてもじゃないが考えられなかった。
「そういう薬を使ったからよ、どんな薬かは企業秘密だけど。」
「・・・あんた魔女かよ?」
「・・・・・フフ、私が魔女だったらお代は貴方の魂ね。」
カーターは諸手をあげる、お手上げだ。だが魔女といわれたときマリアが一瞬悲しそうな顔をしたのは見逃さなかった。
(悪ぃこと言ったかもな、こりゃ。)
ともあれ目覚めたスミス・カーター治療費はタダ。彼の命は結果的に弾丸一発よりも安くついたのであった。
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