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それは夜を統べるもの
最古なる者
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「え~っと、つまり、どういう事?」
ミリアムが聞き返す。突然一つにして全てのものと言われても、それがどういう事なのかにわかには分からない。勿論彼女が超常の力を有している事は皆が理解している。しかし、だからと言ってそんな事を言われても、ポカンとするのが関の山だ。
「おぉ、良い感じに砕けて来た様では無いか。突然に余りにも突拍子の無い事を言われると、人間と言うものは思考がリセットされる傾向にある。これで変な緊張感など持たずに私の話も聞けるであろう。」
敢えてあのような事を言ったというウムル。だが確かに扉をくぐる前にはあった皆のウムルに対する恐怖心は薄れている、若しくは無くなっている様に感じられた。
その恐怖の根源が何かはともかく、それが無くなればコミュニケーションが円滑に行く事は確かに間違い無い様に思える。
「あまりスケールの大きい事を言うと理解が追いつかないであろうから簡潔に述べるが、この図書館にはあらゆる情報が本として存在しておる。その中にはお主等の世界の、例えばアルベール、お主の人生が記された本もあるのだよ。まぁ、それはお主に限らず、ジョンやミリアム、セリエ、お主等の人生の物語もだ。」
「私たちの人生が記された、本?」
にわかには信じがたいと言う顔で皆がウムルを見る。しかしそれも当然だろう。自分の人生が記された本があるなど、信じろと言う方が無理というもの。しかし、ウムルが冗談で言ってる様にも見えない。頭をかしげるのが精一杯と言った所だった。
「そうだ。お主等に限らず、世界のあらゆることに関してそれらはここに本と言う形で存在しておる。このアカシャ大図書館にいる者達は、その本を読む事だけをしてここにおるのだ。先に言っておくが、それを知ってどうこうしようと言う訳ではないぞ?我らは本を読むだけなのだ。」
辺りをみやればウムルと同じ姿かたちをした者達が、黙々と本を読んでいる。声を発しているのはこのテーブルに座っている者だけ。しかし彼女らは、本を読むばかりで彼らを一瞥もしない。
「しかし、この世界に関する本が一部、ある時を境に読めなくなってしまった。そして読めない本の数がみるみる内に増えていき、しまいにはこの世界に関する全ての本が黒く塗りつぶされ、閲覧できぬようになってしまったのだ。」
ウムルの目が座っている。どうやら相当に頭に来ている様である。
「通常であるならば私達には本を読む以外の思考は無い。しかしその本が読めないと言う事は本来あり得ない事なのだ。この図書館の本には全ての事が書き記されている。読めない事などありえないのだ。」
「しかし、現実にそれは起こったと?」
「そうだ、だから原因を探った。我らはあらゆる世界に接する者。全ての私と情報のやり取りをして因果を探った。そしてその結果、お主等が異界と呼ぶ世界から繋がるドリームランドにある私の門が、何者かにこじ開けられていたことが分かったのだ。」
それが何者かなど今更の事だ、黒き者共である。
「そこからはお主等も知っておろうが、あ奴等が世界を渡って無茶苦茶しおったおかげで元のこの世界の因果律が見る影もなく狂ってしまった。しかもこのままではアザトースの顕現によってこの星ごと消え失せてしまうだろう。いやはや、怒った事など無かったから知らんかったが、怒りとはこの様な感情なのだな。黒き者どもを捻りつぶさずにはいられん。」
努めて冷静な声でウムルは言うが、内心憤懣やるかたないのは皆が皆分かっていた。薄れていた恐怖心がまたぞろ鎌首をもたげてきそうだった。
「この世界だけは現在進行形で時が進んでおる。本の読み手たる我らが本を読めぬという事はそう言う事だ。故に何が起こるか分からぬ。しかし本が無ければ我らは暇で仕方がない。黒き者共にも意趣返しをしなければならん。だからこそ、お主等に味方しようというのだよ。我らの力を存分に使ってな。」
ウムルはその力を使ってアルベール達に協力すると申し出た。願っても無い事だろう。黒き者共の動向はしれず、何時どんなことをするか分からない。常に後手に回るしかないのだ。しかもどれだけこの世界でアルベール達の力が強くとも、それは結局人の内なのだ。それ以上の力を有するであろう黒き者共に対抗するには常に不安が付きまとう。
それは死への恐怖でもあるが、先ほどウムルが述べたアザトースの顕現による星の消失。アルベール達が住むこの大地の消滅に対する恐怖だ。
現状アルベール達が黒き者共に対する最前線の位置にいる。彼らがもし敗れれば、あまつさえ命を失う事があれば、天秤は黒き者共の方に大きく傾き、挽回は非情に厳しいものになるだろう。
「ウムル、君が途轍もない力を持ち、そしてその力を以て我々に味方をしてくれると言うのは大変心強い。だが・・・」
アルベールが静かに言う・
「何故我々なのだ?この世界にはともすれば、我々よりも黒き者共に対抗し得る者がいるのではないだろうか?無論我々も弱いつもりはない。しかし、世界となると、我々よりも適任が、君の力を注ぐに足る者達がいるようにも思えるのだ。」
アルベール達は強いだろう。魔術と武器を同時に扱って戦える者などこの世界にはそうそういないし、その扱う魔術だって相当のものだ。更には凄まじい力と速さを兼ね備えたジルベルタ、伝説の剣に素晴らしい盾や鎧を身に着けるジェラール。更には異界の魔法を駆使する妖精の魔術師マリオン。
この世界の全体を知る者ならば、現状では彼らが適任と知り得る。しかしアルベールらはそうではないのだ。彼らは彼らが適任である事を知らないのだから。
勿論ウムルはそれを知っている。知ってはいるが口には出さない。彼等しかいないと口に出し、余計なプレッシャーを与えたくはないからだ。
明らかにあからさまに彼らを、いや、ウムルはアルベールをひいきにしているのだ。
ウムルは何処からか本を一冊取り出し、テーブルに置いた。
「タイトルを読んでみるがいい。黒き者共が邪魔をする直前まで、私が読んでいた本だ。」
タイトルの字は彼等には覚えのない文字だった。しかしどう言う訳か、その字を彼らは読むことが出来た。タイトルにはこう書いてある。
アルベール
ミリアムが聞き返す。突然一つにして全てのものと言われても、それがどういう事なのかにわかには分からない。勿論彼女が超常の力を有している事は皆が理解している。しかし、だからと言ってそんな事を言われても、ポカンとするのが関の山だ。
「おぉ、良い感じに砕けて来た様では無いか。突然に余りにも突拍子の無い事を言われると、人間と言うものは思考がリセットされる傾向にある。これで変な緊張感など持たずに私の話も聞けるであろう。」
敢えてあのような事を言ったというウムル。だが確かに扉をくぐる前にはあった皆のウムルに対する恐怖心は薄れている、若しくは無くなっている様に感じられた。
その恐怖の根源が何かはともかく、それが無くなればコミュニケーションが円滑に行く事は確かに間違い無い様に思える。
「あまりスケールの大きい事を言うと理解が追いつかないであろうから簡潔に述べるが、この図書館にはあらゆる情報が本として存在しておる。その中にはお主等の世界の、例えばアルベール、お主の人生が記された本もあるのだよ。まぁ、それはお主に限らず、ジョンやミリアム、セリエ、お主等の人生の物語もだ。」
「私たちの人生が記された、本?」
にわかには信じがたいと言う顔で皆がウムルを見る。しかしそれも当然だろう。自分の人生が記された本があるなど、信じろと言う方が無理というもの。しかし、ウムルが冗談で言ってる様にも見えない。頭をかしげるのが精一杯と言った所だった。
「そうだ。お主等に限らず、世界のあらゆることに関してそれらはここに本と言う形で存在しておる。このアカシャ大図書館にいる者達は、その本を読む事だけをしてここにおるのだ。先に言っておくが、それを知ってどうこうしようと言う訳ではないぞ?我らは本を読むだけなのだ。」
辺りをみやればウムルと同じ姿かたちをした者達が、黙々と本を読んでいる。声を発しているのはこのテーブルに座っている者だけ。しかし彼女らは、本を読むばかりで彼らを一瞥もしない。
「しかし、この世界に関する本が一部、ある時を境に読めなくなってしまった。そして読めない本の数がみるみる内に増えていき、しまいにはこの世界に関する全ての本が黒く塗りつぶされ、閲覧できぬようになってしまったのだ。」
ウムルの目が座っている。どうやら相当に頭に来ている様である。
「通常であるならば私達には本を読む以外の思考は無い。しかしその本が読めないと言う事は本来あり得ない事なのだ。この図書館の本には全ての事が書き記されている。読めない事などありえないのだ。」
「しかし、現実にそれは起こったと?」
「そうだ、だから原因を探った。我らはあらゆる世界に接する者。全ての私と情報のやり取りをして因果を探った。そしてその結果、お主等が異界と呼ぶ世界から繋がるドリームランドにある私の門が、何者かにこじ開けられていたことが分かったのだ。」
それが何者かなど今更の事だ、黒き者共である。
「そこからはお主等も知っておろうが、あ奴等が世界を渡って無茶苦茶しおったおかげで元のこの世界の因果律が見る影もなく狂ってしまった。しかもこのままではアザトースの顕現によってこの星ごと消え失せてしまうだろう。いやはや、怒った事など無かったから知らんかったが、怒りとはこの様な感情なのだな。黒き者どもを捻りつぶさずにはいられん。」
努めて冷静な声でウムルは言うが、内心憤懣やるかたないのは皆が皆分かっていた。薄れていた恐怖心がまたぞろ鎌首をもたげてきそうだった。
「この世界だけは現在進行形で時が進んでおる。本の読み手たる我らが本を読めぬという事はそう言う事だ。故に何が起こるか分からぬ。しかし本が無ければ我らは暇で仕方がない。黒き者共にも意趣返しをしなければならん。だからこそ、お主等に味方しようというのだよ。我らの力を存分に使ってな。」
ウムルはその力を使ってアルベール達に協力すると申し出た。願っても無い事だろう。黒き者共の動向はしれず、何時どんなことをするか分からない。常に後手に回るしかないのだ。しかもどれだけこの世界でアルベール達の力が強くとも、それは結局人の内なのだ。それ以上の力を有するであろう黒き者共に対抗するには常に不安が付きまとう。
それは死への恐怖でもあるが、先ほどウムルが述べたアザトースの顕現による星の消失。アルベール達が住むこの大地の消滅に対する恐怖だ。
現状アルベール達が黒き者共に対する最前線の位置にいる。彼らがもし敗れれば、あまつさえ命を失う事があれば、天秤は黒き者共の方に大きく傾き、挽回は非情に厳しいものになるだろう。
「ウムル、君が途轍もない力を持ち、そしてその力を以て我々に味方をしてくれると言うのは大変心強い。だが・・・」
アルベールが静かに言う・
「何故我々なのだ?この世界にはともすれば、我々よりも黒き者共に対抗し得る者がいるのではないだろうか?無論我々も弱いつもりはない。しかし、世界となると、我々よりも適任が、君の力を注ぐに足る者達がいるようにも思えるのだ。」
アルベール達は強いだろう。魔術と武器を同時に扱って戦える者などこの世界にはそうそういないし、その扱う魔術だって相当のものだ。更には凄まじい力と速さを兼ね備えたジルベルタ、伝説の剣に素晴らしい盾や鎧を身に着けるジェラール。更には異界の魔法を駆使する妖精の魔術師マリオン。
この世界の全体を知る者ならば、現状では彼らが適任と知り得る。しかしアルベールらはそうではないのだ。彼らは彼らが適任である事を知らないのだから。
勿論ウムルはそれを知っている。知ってはいるが口には出さない。彼等しかいないと口に出し、余計なプレッシャーを与えたくはないからだ。
明らかにあからさまに彼らを、いや、ウムルはアルベールをひいきにしているのだ。
ウムルは何処からか本を一冊取り出し、テーブルに置いた。
「タイトルを読んでみるがいい。黒き者共が邪魔をする直前まで、私が読んでいた本だ。」
タイトルの字は彼等には覚えのない文字だった。しかしどう言う訳か、その字を彼らは読むことが出来た。タイトルにはこう書いてある。
アルベール
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