伝説のパーティ!~王子アルベールとその仲間達は如何にして伝説と謳われる様になったか~

雨雲之水

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それは夜を統べるもの

それは暗夜に生きる者

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「えー、では先ずはクリスチアン殿の件からだが・・・」



 テーブルに着いたアルベール達は直ぐに話をすることにした。ウムルの話は後で良いと本人が言ったからだ。テーブルには紅茶にケーキ、他にも彼らが食べた事の無い様なものが席に着いた瞬間現れたが、空間に突如現れた扉に広大と言うにはあまりにも広大な図書館。驚くには驚いたが、これまでに比べればいささか些細な事であったため小さい驚きに留まった。無論、味の良さにも驚きはしたが。



「領地と領民の安全をある程度保証してさえくれるのならば、私も私の領民も、喜んであなたの国に忠誠を誓いましょう。200名の命を奪う手助けをしている以上、わがままを言える立場に無いのは分かっております。しかしながら寛大な処置を、どうかお願いいたしたい。」



 クリスチアンは努めて殊勝に言った。アルベールは姿こそ冒険者のそれであるが王の名代を仰せつかっている、いわば使者だ。礼を尽くさなければならないのは当然の事。アルベールがその事について多少のむずがゆさを感じてもそれは仕方のない事だ。



「その事だが、私は一連の事件の責任を全てあの黒き者共に押し付けてしまおうと考えている。」



 アルベールの言葉に皆が目を剥いた。それもそのはず。アルベールはクリスチアンの加担は全てなかったことにしてしまおうと考えているのだからだ。



「いえ、しかしそれは大丈夫なのでしょうか?私達としてはあまりに都合の良い御提案ですが、私のせいで家族を奪われた方々の事を考えればそれはあんまりなのでは・・・」



 自分の領民を大切にするからこそ、他国の領民にもその考えが向くのか。クリスチアンは自分達に都合のいい提案であるにもかかわらずその言葉を紡ぐ。



「クリスチアン殿のいう事はもっともだ。元来なら国王陛下に報告して賠償の差配にかからなければならない所だろう。しかし考えても見てくれ。貴方達は異界からの来訪者で、しかもあの場所は王国の中も中なのだ。貴方達に咎有りと周囲が知る所になれば、必然的に君たちも今後そういう目で見られるだろうし、また、忌避されるようになるだろう。」



 アルベールは一呼吸おいてなおも続ける。



「そうなれば、王国内に不和の種がまかれる事になる。ニーグルムのあの慌てようではことの真偽は分からないが、そうなる事すら彼らの策謀であるかもしれない。実際、程近くにあるベスラの街は未だ発展の只中にある。領民達がベスラの街に働きに出る事も考えれば、不安材料は出来るだけ取り除いておきたい。」



 口を挟めない政治的な話の中、ジョンを始めパーティの面々は冷や汗をかいていた。眼前の光景はまさに聞いてはいけない事、目にしてはいけない物だからだ。これを話しているのがアルベールではなく、またリッシュモン王国ではないどこか違う国であったなら口封じさえあったかもしれない。



 旅の仲間達は一同、努めて椅子と同化しようとしていた。



 いや、ジェラールだけはなにやら腕を組み、深く感じ入った様に頷いていた。



「我が領民の事までも気遣って頂き感謝の念に堪えません。死んでいった方々の事を思えば心苦しくはありますが、その提案、お受けさせて頂きたく。」



 深く頭を下げるクリスチアン。その目には涙もにじんでいる。



「今回の一件、クリスチアン殿の領民は恐らく知らぬことだと私は思っている。実際に麻痺の邪眼を使用したのはクリスチアン殿だけであるようだし。それに、麻痺の邪眼を用いずともニーグルムが200の兵を殺し尽くす事は出来たのではないだろうか?ニーグルムはマンドラゴラと言う植物の効果を用いて兵を殺したと言っていた、引き抜く時の絶叫が人を死に至らしめるとも。なのであれば、麻痺の邪眼はあくまでついで。ともすれば共犯意識を持たせるために、あえて使わせた側面もあるのではないかと思う。」



 第三王子と言えば、政治にあまり関連も無くただ王族の一員であると言う感覚も無くは無いだろう。

 しかし、実際には国の中枢に携わる人材であり、また王の補佐なども行うのが当然だ。どこかの領地を与えられて気ままに王弟暮らし、と言えば聞こえは大分悪くもなろう。だが領地を任されればその領地を発展させていかなければならないし、民の暮らしを守っても行かなければならない。



 当然長男のガエルや次男のマクシミリアンと同じく、アルベールも政治に関する教育は受けているのである。勿論国王のフィリップはアルベールが冒険者になる事を望んでいたが、それは胸に秘めたる事だ。アルベールがそれを望まなかったのならば、当然国の政治に関するポストに就くことになる。だからこそ、魔法が扱える、武器が扱えるだけではいけなかった。それと同じかあるいはそれ以上に、政治的教育は施されたのである。



 また、そんな毎日だったからこそ、アルベールが王宮を抜け出して街に息抜きに出かけるようになったとも言えるが。



「利用されたと言う点では被害者と言っても良いだろう。ならばこそ、良好な関係を築くためにもこの件はこれで良いと思う。」



 クリスチアンは黙って頭を下げ、ジョン達は唖然とそれを見ている。気安い王子様で成り行きもあってパーティメンバーとなったが、成程王子は王子。今までは主に魔術による強さに目が行っていたが、本来王族であれば政治がメインなのだ。冒険者であるならばそんな所を目にする機会も無かったろうが、今は使者だ。別に隠していた訳では無いが、アルベールのもう一つの顔が見えたと言った所だろう。



「さて、これで思案のいる事は終わったとして。」



 アルベールは紅茶を一口飲み、クリスチアンに問いかける。



「これまでも異界より数多くの種族が来たが、ヴァンパイアと言うのは初めてだ。良かったらクリスチアン殿の種族であるヴァンパイアについて教えてはくれないか?」



 ようやく専門的な話が終わりホっとする面々。ジルベルタなどはお茶とお菓子を食べ終えて少ししたら席を立ち、少し離れた所に出現したソファに寝そべってしまった。



「ええ、喜んで。」



 クリスチアンも紅茶を一口飲み、答える。



「向こうの世界では、我々ヴァンパイアは生者の生き血をすすり主と人に仇為す悪魔の手先、あるいはそのものとして伝わっております。ともすればアンデッドの一員などとも言われておりまして、まぁ、化け物の類とされております。」



 ヴァンパイアの伝承などと言うものは人間から見れば恐ろしく、ヴァンパイアからすればろくでも無いものだ。そもそも主を信じなければそれは異端者であり、他の信仰を持っていれば邪教徒だ。ここでいう人間と言うのも、主を信じる信仰を持つ宗教の人々と言う意味で、全体的な人間と言う意味ではない。



「だが、実際は違うと。」



「ええ、全く。そのような者も中にはいたのでしょうが、我々は違います。遠い山野の間に領地を持ち、細々と暮らしていたただの人間でありました。しかし我々は十字架を持ちません。故に異端者と誹られ邪教徒と見なされ、いつの頃からか血をすすり生者を憎み、夜の暗闇に潜む化け物達と伝承に話されるようになったのです。」



 異界の宗教の闇から生まれたとも言えるヴァンパイア。しかし実際の彼らは元々普通の人間であったと言う。



「こ奴等の存在は物語と混然一体となっておる。語られた彼等で判断するのではなく、今ここにいる彼等を判断した方が良いぞ。」



 沈黙していたウムルが話し出す。



「分かっておるとは思うが、こ奴等は向こうの世界では既に幻想の存在なのだ。伝承の中にあった彼等も、改変に次ぐ改変で原型を保ち続けられなくなっておる。なればこそ、クリスチアンはニーグルムの言葉が甘言と半ば分かっておりながら、それを承諾したのだ。何、心配することは無い。クリスチアンの領民達は皆素直で実直な者達だ。リッシュモン王国にとって大いに助けになるであろう。国王フィリップには、それらを加味して伝えておくのが良い。」



 まるで知っているかのようにウムルは語る。ニーグルムは彼女が現れただけで慄いた。この図書館の事と言いただ者でない事は皆分かっていた事だが、それにしてもだ。



「隠れておった領民達はクリスチアンが部下に伝えて出て来させておるし、兵達の遺体も棺桶に収めさせておる。礼は尽くそうとしておるし、問題も無かろう。食料が心許ないようだから、それの支援をして親睦を深めても良いだろうな。」



 クリスチアンは確かに扉をくぐる前に部下に耳打ちをしていた。しかしウムルとの距離は空いていたので聞こえてはいなかったようにクリスチアンには思えた。

 しかし、彼女はあの時クリスチアンが言ったことを全て言い当てた。聞こえていなかったとしたら、どうやってそれを知ったのか。



 クリスチアン達の食糧事情にしたって、ウムルはこれ等について知る由もない筈だ。



「うむ、それが良いそれが良い。それで上手く行くだろう。国王もここについてはなるべく平和的な解決を望んでおるようだし、これで解決であろう?」



 実際には謁見やら相談やらで時間は使う事になるのだろうが、大まかなシナリオとしては確かにこれで問題はなさそうだった。

 まくしたてるように話すも、ウムルの言はどちらの要求も分かった上での言だった。推測にしては、余りに正確すぎる。



「そう、ですね。ウムル様のいう事で問題は無いかと。アルベール殿もそれでよろしければ。」



 クリスチアンが言う。ウムルに自然と様を付けて呼んだ事に、クリスチアンは言ってから気が付いた。



「え、えぇ。私としてもウムルの案で良いと思う。戻り次第国王陛下にはそう進言しよう。」



 アルベールはウムルをそのままウムルと呼んだ。初対面の冒険者相手に「殿」と付けるアルベールがだ。しかしそれはまるで当然の様に行われた。アルベールがウムルを呼び捨てにすることが、当然である事の様に。



「おぉ、良い良い。」



 ウムルは満更では無いように頷く。自分の提案が全て通った事にか、それともアルベールに名前を呼ばれた事になのかは分からないが。



「では、次の話なのだが、ウムル、君は一体。」



 アルベールはウムルに顔を向ける。ウムルは待ってましたとばかりに胸を張る。



「おぉ、やっと私の番であるな。長くなりそうなので口を挟んで正解であった。」



 ニッコリと朗らかな笑顔でウムルは話し出す。



「私はウムル・アト=タウィル。一つにして全てのもの、全てにして一つのものである。」



 難しい話が終わってやっと一息つけると思ったセリエやミリアム、マリオン。ジェラールやジルベルタ、はソファで寝てしまっているが。

 一同口を開けてポカンとした顔でウムルを見る。アルベールやクリスチアンも同様だ。



 しかしそれも当然だろう。自己紹介の一番最初の文言にしては、余りにもそれは強烈だったのだから。
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