57 / 57
設定保管庫
リッシュモン王国・2
しおりを挟む
まずこの国には奴隷制は無い。昔はあったがそれ等は全て現国王フィリップが廃止した。
理由は単純。フィリップが嫌だったからだ。
若きフィリップは身分と名を伏せて冒険者をやっていた。国の中を色々見て回った訳だが、国の内にある奴隷制は彼の心を引き裂いた。
鉱山や農場で使われる奴隷たちは領主の持ち物だ。故に彼らに財は無い。彼らが誰かの財なのだ。
苦しい環境は彼らの人生を蝕み、当然短命で未来も無い。奴隷の子は当然奴隷。奴隷から身を起こす手段など無いのだから。
しかしそれを見てフィリップは思った。彼らの中に稀有な才能を持つ者がもしいたとしたら、それらの才能が奴隷のまま一生を終える事が果たしてこの国にどれほどの損失になるだろうか、と。
奴隷制を当然の者として考える者達にそんな考えを持つ者など当然いない。奴隷に対して優しい主はいただろうが、考えの根底は自らの持ち物を大事に扱うと言った所。持つ者と持たざる者との確固たる壁である。
フィリップはそれを良しとはしなかった。
農奴ならばまだマシと言った所であろうが、鉱山に充てられた奴隷の生活は生と死との激しいチキンレースであった。崩落や出水は即座に命を奪う。そして命を懸けて鉱石を掘っても、それらは主を通して国に入る。この巨大な搾取装置は国が主体の機関なのだとフィリップが気づいた時、フィリップの心には既に奴隷解放の波が巻き起こっていた。
奴隷を哀れに思って。勿論フィリップはそれだけで彼らの解放を目論んだわけではない。
物同然の扱いを受け、財も希望も持たない彼等奴隷。彼らがもし奴隷と言う立場から解放され、真っ当な国の民となって国の経済活動の輪の中に入ったとしたならば?
勿論貴族たちの反目はある。そして解放された奴隷たちに身の振り方を教える事も必要だ。しかしそれらを整える事が出来たならば?奴隷と呼ばれるモノではない、この国に住まう民が増えるという事だ。
フィリップは即位するとすぐさま奴隷解放を打ち出した。すると即座に貴族たちの反目にあった。しかしフィリップはそれを頑として強行した。税収に始まるあらゆる法令の改革。土地や財における取り決めなど目の回る様な忙しさがフィリップ達に襲い掛かったが、彼らはやり通した。
そしてその結果、リッシュモン王国から奴隷という存在は無くなり、代わりに王を慕う驚くべき数の国民が増えたのである。
新たな国民達も生活スタイル自体は以前とさほど変わりはしない。相も変わらず農業や鉱業に従事している。しかし身分が保証され、財を持つことが出来るようになった。彼らに支払われる金は国の中を巡り、経済活動を活発にしていく。
村々では金勘定の出来る者が上役となり、上役がごまかして懐に入れないように役人が付いた。何せ大規模な改革だ、人手が兎に角必要だった。
貴族の末弟達は自分達が付けるポストが出来た事に大いに喜んだ。そうでなければ実家で燻ぶっているのが関の山だったのだから、彼らは喜んで役場のポストに就いて行った。
また、魔術を扱える貴族の子弟たちも鉱物の採掘現場に従事していった。貴族の子弟は嗜みで魔術を学ぶ者がいはするが、それらを活用するかと言われればそうでもない。飽くまで勉学の一環として学んでいた。
しかし、使えるのであるならば大っぴらに使ってみたいというのが人情だった。
フィリップは彼等を王宮付きの魔術師として登用した。鉱山勤務の魔術師では箔が付かない為だ。端くれとは言え貴族は貴族。立場や名誉に関しては慮る必要があった。貴族位ではなくなるとは言え、元貴族の宮廷魔術師。彼らにしてみれば十分魅力的な職業だった。
そしてこれらを統括したのはエンゾだった。エンゾは彼らに更なる魔術を教え込み、事実上弟子とする事で宮廷魔術師の中でもトップの存在となったのだ。
理由は単純。フィリップが嫌だったからだ。
若きフィリップは身分と名を伏せて冒険者をやっていた。国の中を色々見て回った訳だが、国の内にある奴隷制は彼の心を引き裂いた。
鉱山や農場で使われる奴隷たちは領主の持ち物だ。故に彼らに財は無い。彼らが誰かの財なのだ。
苦しい環境は彼らの人生を蝕み、当然短命で未来も無い。奴隷の子は当然奴隷。奴隷から身を起こす手段など無いのだから。
しかしそれを見てフィリップは思った。彼らの中に稀有な才能を持つ者がもしいたとしたら、それらの才能が奴隷のまま一生を終える事が果たしてこの国にどれほどの損失になるだろうか、と。
奴隷制を当然の者として考える者達にそんな考えを持つ者など当然いない。奴隷に対して優しい主はいただろうが、考えの根底は自らの持ち物を大事に扱うと言った所。持つ者と持たざる者との確固たる壁である。
フィリップはそれを良しとはしなかった。
農奴ならばまだマシと言った所であろうが、鉱山に充てられた奴隷の生活は生と死との激しいチキンレースであった。崩落や出水は即座に命を奪う。そして命を懸けて鉱石を掘っても、それらは主を通して国に入る。この巨大な搾取装置は国が主体の機関なのだとフィリップが気づいた時、フィリップの心には既に奴隷解放の波が巻き起こっていた。
奴隷を哀れに思って。勿論フィリップはそれだけで彼らの解放を目論んだわけではない。
物同然の扱いを受け、財も希望も持たない彼等奴隷。彼らがもし奴隷と言う立場から解放され、真っ当な国の民となって国の経済活動の輪の中に入ったとしたならば?
勿論貴族たちの反目はある。そして解放された奴隷たちに身の振り方を教える事も必要だ。しかしそれらを整える事が出来たならば?奴隷と呼ばれるモノではない、この国に住まう民が増えるという事だ。
フィリップは即位するとすぐさま奴隷解放を打ち出した。すると即座に貴族たちの反目にあった。しかしフィリップはそれを頑として強行した。税収に始まるあらゆる法令の改革。土地や財における取り決めなど目の回る様な忙しさがフィリップ達に襲い掛かったが、彼らはやり通した。
そしてその結果、リッシュモン王国から奴隷という存在は無くなり、代わりに王を慕う驚くべき数の国民が増えたのである。
新たな国民達も生活スタイル自体は以前とさほど変わりはしない。相も変わらず農業や鉱業に従事している。しかし身分が保証され、財を持つことが出来るようになった。彼らに支払われる金は国の中を巡り、経済活動を活発にしていく。
村々では金勘定の出来る者が上役となり、上役がごまかして懐に入れないように役人が付いた。何せ大規模な改革だ、人手が兎に角必要だった。
貴族の末弟達は自分達が付けるポストが出来た事に大いに喜んだ。そうでなければ実家で燻ぶっているのが関の山だったのだから、彼らは喜んで役場のポストに就いて行った。
また、魔術を扱える貴族の子弟たちも鉱物の採掘現場に従事していった。貴族の子弟は嗜みで魔術を学ぶ者がいはするが、それらを活用するかと言われればそうでもない。飽くまで勉学の一環として学んでいた。
しかし、使えるのであるならば大っぴらに使ってみたいというのが人情だった。
フィリップは彼等を王宮付きの魔術師として登用した。鉱山勤務の魔術師では箔が付かない為だ。端くれとは言え貴族は貴族。立場や名誉に関しては慮る必要があった。貴族位ではなくなるとは言え、元貴族の宮廷魔術師。彼らにしてみれば十分魅力的な職業だった。
そしてこれらを統括したのはエンゾだった。エンゾは彼らに更なる魔術を教え込み、事実上弟子とする事で宮廷魔術師の中でもトップの存在となったのだ。
0
お気に入りに追加
35
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説

【本編完結】異世界再建に召喚されたはずなのにいつのまにか溺愛ルートに入りそうです⁉︎
sutera
恋愛
仕事に疲れたボロボロアラサーOLの悠里。
遠くへ行きたい…ふと、現実逃避を口にしてみたら
自分の世界を建て直す人間を探していたという女神に
スカウトされて異世界召喚に応じる。
その結果、なぜか10歳の少女姿にされた上に
第二王子や護衛騎士、魔導士団長など周囲の人達に
かまい倒されながら癒し子任務をする話。
時々ほんのり色っぽい要素が入るのを目指してます。
初投稿、ゆるふわファンタジー設定で気のむくまま更新。
2023年8月、本編完結しました!以降はゆるゆると番外編を更新していきますのでよろしくお願いします。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり

異世界でお取り寄せ生活
マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。
突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。
貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。
意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。
貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!?
そんな感じの話です。
のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。
※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。
【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。

のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる