伝説のパーティ!~王子アルベールとその仲間達は如何にして伝説と謳われる様になったか~

雨雲之水

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それは夜を統べるもの

戦う者たち

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「お、お前は・・・」



 ニーグルムが慄いている。ジェラールやアルベール達にではない。後方に突然現れた白髪の少女にだ。



「どうした、化身よ?いつものように笑って見せよ。余裕を見せて相手を小ばかにするのがそなたらの得意であろう?それがそんな余裕のない顔でどうする?」



 白髪の少女はニーグルムを煽って見せる。良く分からないがこちらの敵と言う訳では無いのか?アルベール達は考える。



「成程ね、干渉したのは君って訳だ。しかし遅かったねぇ?もう少し早くおいでになると思ったんだけど、寝坊が過ぎるんじゃぁないかなぁ?」



 いつもの調子に戻って見せるニーグルム。だが、動揺は隠しきれていない。お道化た態度や口調を崩さないこれら黒き者がこれほど動揺するとは、彼女は一体何者なのか。一同不思議で仕方なかった。



「抜かせ、戯けが。おい、アルベールとその共よ。こやつは既に逃げ道を封じられておる。とっとと仕留めよ。今ならばそれも可能であるぞ?」



 少女の口調はかなり変わっているが、今はそんな事を気にしている場合ではない。ニーグルムが逃げられない。何故そんな事を彼女が知っているのかはともかく、それが本当ならばこれは千載一遇のチャンスだ。



 二百の兵の命を奪ったこの男を、生かして帰す訳には行かない。



「くそっ!閉門済みって訳か。」



 慌てるニーグルム。それを受けて喜色満面の少女。



「冒険者達の武器ではこやつに傷は負わせられまい。後方で援護に徹し、ジェラールの武器でとどめを刺せ。ジェラールの武器であれば殺せる。」



 少女が指揮しだした。しかし不思議と嫌な感じはしない。何故かその通りだろうと言う感覚がアルベール達には働いた。



「ウインドアロー!」



 先手を打ってミリアムが魔術を放つ。



「ふん、こんな魔術くらいはアロンダイトでどうにかなるんだよ!」



 ミリアムが放った魔術をニーグルムが切り伏せる。切れ味の鋭い武器だと分かってはいたが、まさか魔術でさえ切って落とすとは。つくづく異界の幻想は性質が悪い。



「目に見えぬ魔力の茨で絡みとれ、掴んで離すな彼の者の足。バインド。」



 ジェラールの後方からマリオンが魔法を放つ。



「うっ、クソッ!不可視の拘束魔法か。」



 嫌な顔をするニーグルム。しかし一瞬動きを止めはしたものの、足を大きく蹴り出してすぐにまた動き出す。誰の眼にも見えないものだから効果が分かりにくかったが、足を止めることは出来たのだろう。ニーグルムが力づくで突破しただけで。



「おぉっ!」



 ジェラールがニーグルムに向けてガラティンを振りぬく。これをニーグルムは受けず、避ける。



「当たってあげないよ、騎士様!」



 アルベールやミリアム、セリエが魔術を放つ。しかしニーグルムはその事如くをアロンダイトで切り払い、ジェラールの剣戟を避け続ける。



 アスワドもそうだったが、やはりニーグルムも腕がたつのだ。しかもかなり。



「アイスロック!」



 ジョンが氷の塊を出現させる。しかしニーグルムに直接当てる訳では無く、少し離れた場所に置いただけだった。



 ニーグルムの技量は凄まじい。彼はアルベール達の魔術やジェラールの剣戟を、全て見てから対応している。場当たり的な攻撃では凌がれてしまうのだ。

 そしてこの大広間と言う場所。今は半包囲の形で戦っているが、それも一番前にジェラールが立っているだけで他の者は全員魔術で対応している。つまりは遠巻きだ。これではニーグルムは包囲されているとはいえ好きに動けてしまう。



 ニーグルムの機動力は大敵だ、どうにかしないといけない。



「アイスロック!」



 ジョンはひたすらニーグルムの周囲に氷の塊を置いて行く。最初はアルベール達の前方に、そして徐々にニーグルムの後ろに回り込んでいくように。



「アルベール、そなたらはアロンダイトを防ぐ術を持っておらんだろう?親切なジョンが壁を作っておるのだ。そなたも手伝え。なるべく厚い壁をな?」



 少女がアルベールに指示する。アルベールも不思議に思ってはいたが、ジョンが何も言わないのも合って意図を察しかねた。ジョンとしては、その意図をニーグルムに知られたくなかったのだろうが。



「なんで言っちゃうかね嬢ちゃんは。そうだよ坊主、あいつは身のこなしも良い。こっちに走ってこられちゃことだ。」



 今はジェラールが正面に立っているが、かわして振り切ろうと思えばできるはずだ。それほどにニーグルムの動きは素早いし、またジェラールの全身鎧は動きを制限する。



「ウォール!」



 分厚い土の壁をアルベールは氷の前に張っていく。こちらに対しての防御のみならず、壁はニーグルムの動きをも制限するだろう。アルベールも気付いたが、ジョンは初めからそのつもりだった。



 しかし、魔術はアロンダイトで切られてしまうしジェラールの剣は切れ味は鋭いのだろうがニーグルムを捉えられない。



 ジリ貧と言う訳でも無いだろうが、千日手だ。



「おい、ジルベルタ。」



 少女がジルベルタに呼びかける。



「そなたもそろそろ本気を出すが良い。今は夜。ライカンスロープの実力を見せるにはこれ以上ない好機であろう?」



 少女が微笑んで言う。



 ジルベルタは戦闘に参加していなかった。先ほどから手を握ったり離したり、腕を回してみたり足をバタバタさせてみたりと動きだけが忙しかったのだ。



 ジルベルタはにやりと笑って答える。



「おう!俺の本気を見せてやるぜ。」



 ジルベルタはそう言うと両腕を顔の前で交差させ動かなくなった、何やら気張っている様に見える。



「そこなヴァンパイアもそうだが、ライカンスロープは昼よりもむしろ夜にこそその本領を発揮させ得る。さて、本気を出したライカンスロープが加わればこの戦い、どうなるのかのう?」



 少女は不敵に笑って言った。



 ジルベルタは無意味に手足を動かしていたのではなかった。確かめていたのだ。夜にこそその本領を発揮するライカンスロープの準備運動だったのだ。



「いっくぜえぇぇぇ!」



 ジルベルタが吠える。そしてその瞬間空気の圧が変わり、ジルベルタもまた変わった。



 そこにいたのは正に人狼。狼の頭に人の体。そして爛々と赤く輝くその瞳は、間違いなくジルベルタのものだった。
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