伝説のパーティ!~王子アルベールとその仲間達は如何にして伝説と謳われる様になったか~

雨雲之水

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それは夜を統べるもの

いざ開け魂の門、強き力をその胸に

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 ジェラール・ド・リドフォール、彼は既に正真正銘この世界の人間となっていた。



 誰もが認める一の騎士。それに口をさしはさむ余地があるだろうか?成程馬には乗っていない。しかしそれが何だと言うのか。彼は異界からやって来て、この世界のこの国の王に忠誠を誓った。それに伴い新設される騎馬隊、これも王軍の兵士ならば知る所だ。



 ニーグルムに今更何を言われようが、彼はとっくに騎士だった。



 そんな彼が改めて強い決意を胸に強敵に立ち向かう。鎧も盾も無く、剣は二つに折れている。しかし彼は信じている。自分自身を、そして自分を信じるマリオンを。



 魂の門がその扉を開く。その者が欲する力を与える為に。彼は何を欲する?魔力じゃない、膂力でも無い。彼は騎士だ。目の前の悪に打ち勝つ正義の剣、愛する女性を守る為の盾だ。



 第一質料が流れ込み、彼の望む姿に変化する。



 いや、第一質料だけではない。彼の魂の門に流れ込む力には、明らかに他の者の手が加わっている。それらが彼の武具を形作っていく。

 まるで鏡の様に映り込む円形の盾。魔力そのものを帯びた不思議な鉱石で出来た白銀の鎧兜。そして右手に持つ剣は、ガラティン。



 ジェラールは知りえないだろうが、彼の右手にある剣は円卓の騎士の一人ガラハッド卿の持つ剣だ。ランスロット卿の親友。そして最後の宿敵の。



「そんなバカな!何で君が、その武具を持っている。ありえないだろう!」



 ニーグルムは驚きを隠せない。それもそうだ。幻想となったアイテムを恐らく彼らは自在にできるのだ。アロンダイトがニーグルムの手にあるのもその所為。つまり向こうの世界の幻想の道具を彼らは確保している。当然ガラティンもそうだろう。

 それをジェラールが持っている。何故?ガラハッド卿についてジェラールが知っていたにせよ、彼の持っていた武器を正確にイメージして再現する事は不可能なはずだ。



 何故なら彼は、ガラティンを見た事が無いのだから。



「ふっ、ありえなかろうがありえようがそんな事はどうでもいい。重要なのは、ル・フェイに愛された騎士にとってこれ位の試練など些事だという事だ!」



「くぅっ!」



 ガラティンを振りぬくジェラール。ニーグルムは血相を変えて飛び退く。ニーグルムは勿論ガラティンの恐ろしさを知っているのだ。ガラティンを鍛えた妖精はあの聖剣エクスカリバーを鍛えた妖精と同じ。いわんやその切れ味は凄まじく、刃こぼれの一つもしないと言う。



「さぁマリオンよ、立ってくれ。例え妖精でなかろうと、例え魔法が使えずとも、君はル・フェイだ。私の愛するル・フェイなのだ。」



 背中越しにジェラールの声が聞こえる。一度は自己を確定したマリオンだが、ジェラールのこの言葉に魂を動かされる。たとえ自分が何者であろうとなかろうと、ジェラールにとってのル・フェイであればいいと。



「ジェラール・・・はい。」



 頷くマリオン。そして彼女の魂の門も開く。彼女は魔法使いなのか?そして妖精なのか?最早そんな事はどうでもいい事だった。



「これ・・・は?」



 魂の門を通って第一質量が流れ込む。そして同時に、他の力も。頭の中に知識が入り込んでくる。自分の知らない魔法の知識。第一質料とて、その姿を情報に変えられたりはしない。誰かがジェラールに、そしてマリオンに力を与えているのだ。



「麗しき癒しの力を風に乗せ、汝の体の穢れを払わん。キュアウインド!」



 見た目も完全に魔法使いのそれに変わったマリオンは、呪文を唱えて魔法を使う。その魔法によって生まれた風はアルベール達を撫でるように吹き抜け、その身にかかった麻痺の呪いを癒していく。



「体のしびれが、消えた?」



 今まで魔術を、いや魔法を使わなかったマリオンが放った魔法は一瞬にしてアルベール達の痺れを癒した。



「嘘だろ?何かの幻想が定着したからって、知識と共にある魔法がそう簡単に使えるようになるわけがない。クリスチアン、もう一度だ。もう一度あいつらに邪眼を・・・」



 ニーグルムは振り返りクリスチアンに命じる。しかしそのクリスチアンはと言えば、何処から現れたのかメイドに入れられたワインを飲んでいた。



「嫌だね。」



 クリスチアンは一言断る。ニーグルムの方を見もしない。



「大体ニーグルム、君は最初に私の邪眼のネタ晴らしをしてしまった。彼らはもう私の目を見はしないよ。それにだ、私の目からはどうも君の方が不利な様に映る。であればだ、何も君に従う必要なんかないんじゃぁないかな?」



 クリスチアンはニーグルムを裏切ると言うのだろうか?これにはアルベール達も戸惑ってしまった。この二人は結託していたのではないのだろうか?



「そもそも私が君たちに従っていたのはこの世界で安住の地を得る為だ。異教徒と誹られ主に反目する悪魔の手先と揶揄された我らヴァンパイアはあの世界ではもう生きてはいけない。」



 ワインのグラスを傾けクリスチアンは続ける。



「彼の王子を魔法の道具で操って私達をこの王国に送り込むと言う話だったが、それもどうもな。先だっての兵達、あれらを殺してわざわざアンデッドに仕立て上げたのも腑に落ちない。つまりだニーグルム。君、甘言を弄して私をいい様に使っていただけだろう?」



 そう言ってニーグルムを睨みつけるクリスチアン。成程甘い餌をちらつかせて言う事を聞かせていたのだろう。しかし目的に対して手段に腑に落ちない点が多く、怪しんでいたと言った所か。

 アルベールとしてはこのクリスチアンと言う男が直接兵に手を出していない事に安堵した。麻痺の邪眼は使っているようだが、それも安住の地を得るためにやむなくニーグルムに手を貸していたという事でどうにもならないことは無いだろう。



 今アルベールは王の名代。アルベールの言葉は王の言葉だ。



「クリスチアン殿。我が王国と手を結ばないか?色々と行き違いはあったようだが、貴方と私達は本来手を取り合える間柄になれたはずだ。それが黒き者共の奸計によって引き裂かれるなどこんな悲劇は無い。私は王の名代としてここに来たのだ。よければ是非、話し合いの場を設けようではないか。」



 安住の地を探していたとなれば、何処にいるのかは分からないが領民が何処かにいるはずだ。民を思う領主であるならば、きっと無駄な血が流れる様な選択はしないはず。アルベールはそう踏んだ。



「おぉ、そう言っていただけるのならばこれに勝る喜びはない。先だっての非礼をお許しいただきたい。このクリスチアン、アルベール殿の提案に従いましょう。」



 そう言ってクリスチアンはアルベールに深く頭を下げる。アルベールは内心でホっと胸を撫でおろす。何せ麻痺の邪眼などと言う術を扱うヴァンパイア、が何かはともかく、これと戦わなくて済むのならそれが最善だろう。



「君たちは私の頭の上で話を進めるんじゃないよ!」



 ニーグルムが我慢ならないと言った風に怒声を上げる。途中まではこれ以上なく上手く行っていたにもかかわらず、ジェラール達が立ち直るやこの惨状。

 アルベール達は体の自由を取り戻し、ジェラール達は伝説の武具を持ち魔法を身につけ、挙句クリスチアンが裏切ってしまっては最早なすすべも無いか。



「大体私が不利かどうかなんてまだ分からないだろうに。考えても見たまえよ?アロンダイトだなどと言う武器を颯爽と取り出した私だよ?当然他の武器も取り出せる、そうは考えないのかい?」



 不敵な笑みのニーグルム。彼はアロンダイトを最初から持っていた訳ではない。虚空から取り出したのだ。であれば、同じ方法で他の武器をも取り出せると言うのだろうか?



「もういい、全員殺す。王者の剣で皆殺しだよ。」



 ニーグルムが虚空に手を伸ばす。王者の剣、それは正にアーサー王の剣。聖剣エクスカリバーの事だろう。王者の剣に敗北は無い。彼の聖剣エクスカリバーはかつて一度に五百の敵を打ち倒し、刃こぼれの一つもしなかった魔力を持つ剣だ。



「おのれニーグルム。この期に及んでまだ。」



 ジェラールは飛び掛かろうかとも思ったが、それと同時に迷いもした。もし本当にニーグルムが聖剣エクスカリバーを出現させるのであるならば、見てみたいと思ってしまったのだ。

 騎士物語に傾倒するジェラールであるならば、それも無理からぬ話だろう。



 しかし、それはかなわない。



 ニーグルムが伸ばした手は虚空を彷徨うばかりで、肝心の剣はその手に握られなかったのだ。



「あ、あれ?何で?」



 ニーグルムは不思議そうに空中に手をさらす。しかし何度試みても、彼の手に聖剣が握られることは無い。ニーグルムの様子からも、それが嘘やはったりでは無かったように思えた。彼は実際聖剣をその手に出現させられたはずなのだろう。



「あぁもいい様に窮極の門で遊んでおいて、私が未だに気が付かないとでも思っていたのか?千の貌の化身よ。」



 不意に後ろから声がした。



 皆が一斉に振り返れば、そこには白の長髪に金の眼をした少女が居た。誰に気取られる事も無く。いつの間にかそこに。
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